声はせで身をのみ焦がす蛍こそ

『夢の語り部』設定。
少なからず憂鬱なテスト勉強。
それでも好きな人とならば心は軽く──

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
『夢の語り部』設定
高校生時代両片思いの土近が、定期テスト前試験勉強デートする話。
図書館でテスト勉強デートし、その後ファストフード店で食事をしてほしい。

『夢の語り部』( https://privatter.me/page/69566231a7634 )設定
現代転生パロ。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、1臨・黒の剣士の外見。
土方さんには記憶がありますが近藤さんには記憶無し。

 定期テスト。
 学生にとっては避けて通れない道で、憂鬱な生徒も多いだろうけれど、俺には嬉しい時期に変わっている。
 何故かというと、いつもは部活で帰りの遅い歳と一緒に帰ることができるし、勉強を教えてもらうという名目で傍にいることもできるのだから。
 俺は今高校一年。
 そうできるとわかったのは中学に入って最初にやってきた中間テストだった。
 初めてでその範囲にもげんなりしていたテスト週間初日の帰り、いつもなら部活に打ち込んでいるはずの歳が俺を待っていてくれた。
 特に部活に入らなかった俺は、テスト週間に部活が休みになることまで考えが及んでいなかった。
 目を丸くしてどうしたんだ? と問えば、テスト週間で部活が休みだからあんたと一緒に帰れればいいと思って待っていた、と微笑まれた。
 そして勉強でわからないところがあれば一応年上だから聞いてくれ、と言ってくれたのだ。
 俺はもうその頃には歳のことが好きだったから、二つ返事で頷いてテスト週間は歳にひっついて回り、同じ目的を持っていたと思われる女子に睨まれたくらいだ。
 実は一度だけそれで女子に呼び出されたことがある。
『土方君のお姫様なんて言われて調子に乗ってるんじゃない? ○○ちゃんが土方君のこと好きなのよ、協力してあげなさいよ』と。
 俺は一言『いやだ』と答えた。
 オヒメサマ呼びは顔も知らない連中が勝手に言っている事だし、それでどうやって調子に乗るのかわからなかったし、そうやって裏で俺を呼び出してこそこそするくらいなら、堂々と歳に告白すればいいじゃないか、と思ったから。
 そうした上で歳が向こうを選んだというのなら、俺は納得をする。
 相手は言葉に詰まった上に泣き出してその場から走り去っていった。
 建前上友人の名を出したが、本当はその女子自身が歳のことを好きだったらしいと、後から知った。
〝土方のオヒメサマな近藤が女の子を泣かせた〟
 うわべだけ聞くととんでもないその噂はやがて歳の耳にも入ったようで、女子に絡まれたようだけれど大丈夫か? と心配をしてくれた。
 けれど俺にはやましいことなんか何もないから正直に起こった出来事を話した。
『そりゃ女子のが悪い──あんたが俺の特別なのは本当のことだしな』
 歳はそう言って優しく笑った後、『俺のことであんたを煩わせてすまん』と謝った。
 向こうが勝手に暴走しただけのことだから、歳が謝る必要はないとそうなって初めて焦った。
 そして『迷惑なんて思ってないから、これで距離を置こうとか考えないで欲しい』と縋りついてしまった。
 ただの友人だった歳に、ちょっとやり過ぎたと今では思うけど、俺の混じりけのない本音だったのだから仕方ない。
 歳は驚いた顔はしたものの、『そんなこと一切考えていないぜ、ありがとな』と俺の頭を撫でた。
 結局その女子の行動は、俺の歳に対する気持ちを一層はっきりとさせた事だけは確かだ。
 中学の時でそれだから、歳が高校に行っても俺はテスト週間になると歳にくっついていた。
 進路は歳と同じ高校と決めていたから、在校生に教えてもらうという立派な理由付きだ。

──そして今回、俺が高校に上がって最初の中間テスト。
 休日の今日は歳と待ち合わせをして郊外にある大きめの図書館で勉強をしようということになっている。
「近藤さん、お待たせ」
 待ち合わせの図書館に最寄りの駅にいれば、歳の声が聞こえた。
 いつもの制服とは違った大人びた服装に惚れ惚れとしてしまう。
「待ってない。今日はありがとう、歳」
「ならよかった。あんたがいれば俺も勉強に身が入るからな、礼を言うのはこちらだ」
 俺にとってこれは建前は勉強でも、デートみたいなものだ。
 歳は大学受験もあるだろうに、その大事な時間を俺と過ごすことに充ててくれて嬉しかった。
 隣同士に並んだ席を確保して数冊の参考書を書架から選ぶ。
 静かな館内だから、声も密かに近づいて聞ける。
「歳、ここなんだけど」
「あぁ、ここは……ノートのここに」
 中学の時とは違う専門性もある教科もあるから、度々歳に聞く。
 歳は自分が高一の時のノートを持ってきてくれている。
 とてもわかりやすく、同級生から見たら宝の山だろう。
 その上それに詳細な解説がつくのだから、本当に俺は恵まれている。
 図を書きながら俺に説明をしてくれる歳の横顔をじっと見つめる。
 長く生えそろった綺麗なまつげが瞬きに合わせて揺れて、余りにも魅力的だ。
「近藤さん? わからないとこがあったか?」
 視線が図ではなく自分の顔なのに気付いたか、歳がこちらを向く。
「あ、ごめん」
 慌てて俺は視線を図に戻した。
 少し前までの疑問に全て答えた完璧な図がそこにあった。
「大丈夫。歳の教え方が上手いから」
「それほどでもないけどな」
 照れ臭そうに微笑む歳の顔が眩しくて、俺は目を細める。
 窓の外からの陽光を受けてるからじゃない。
 歳の顔は本当に輝いて見えた。



『高校も大学も、歳と同じところに行きたい』
 そう言われた時、俺はそこまで踏み込んでしまったかと思った。
 高校も大学も人生に及ぼす影響は少なくない。
 俺が傍にいすぎたせいで余り友人を作らず、影で〝土方のオヒメサマ〟なんてあだ名をつけられ、俺はこの人の人生を歪めてしまったのだと思い知った。
 だが──密かにそれを喜ぶ自分もいた。
 自分だけを頼り、自分がいなくては生きていけないようになってくれれば……いや、なってしまえと鬼のような事を考える身勝手な自分。
 本当に近藤さんのことを想うなら、そこからでもいくらでもやり直しはできたはずだ。
 俺はそれをしなかった。
 愚かで救いようがなくて、前世から何も変わってない俺自身。
 今でも毎年夢に見る、あの日の記憶。
 己の所業で喪うことになったというのに、己の手で喪ったというのに。
 それでも、純粋に俺を慕ってくる近藤さんが狂おしいほど愛しくて──彼からの想いに気付かないふりをしている。
 ただの友人、のふりをしている。
 本当なら、今すぐにでも抱きしめ、想いを告げて俺の事だけしか考えられなくしてしまいたい。
 それをしないのは……俺にも一欠片の良心というものが残っているからなのかもしれない。
 まだ、近藤さんに別の人間を選ぶ余地があるのは、確かなのだから。
「近藤さん? わからないとこがあったか?」
 ノートを取る手が止まり、視線が俺の描く図ではなく顔に注がれているのに気付き声をかける。
「あ、ごめん」
 昔の俺が近藤さんを見ている時のような、うっとりとした瞳で俺を見ていた近藤さんは慌てて視線を図に戻した。
 あぁ、近藤さんは俺に恋をしている。
 でも、あんたにはまだ、俺の呪縛から抜け出す権利はある。
──あるはず、なんだ。
 そうなっても、俺は祝福する。
 いや、むしろそうなった方が俺は──



 大分日が傾いてきた。
「そろそろ帰ろうか」
 いい時間だ、と歳が腕時計を見ながら言う。
「うん、お腹も空いたし帰ろう」
 本を書架に戻し、荷物をまとめる。
「なんか食って帰ろう」
 図書館の最寄りから地元の駅に着いた時点で歳がそう言った。
「あそこの新作のハンバーガーが食べたいな」
 この時期はコンビニでもファミレスでもファストフード店でも新作が山盛りだし、人気のあったメニューの復刻も多い。
 俺が提案したのは有名ハンバーガーチェーン店の新作だ。
「いいな、そうしよう」
 賑わう店内は歳や俺の同級生もいそうだが、まぁ俺たちがしょっちゅう一緒にいることくらい誰もが知っていることなので、見られても痛くも痒くもない。
 俺は目当ての新作だけでなく通常メニューも単品で追加してバーガー二個にフライドポテトと飲み物、そして二人で分けようとチキンナゲットの五個入りを一つオーダーした。
 歳は新作とポテトと飲み物のセットだ。
 席がカウンターしか空いてなかったので隣り合わせで座る。
「俺ってやっぱり大食いなのかな」
「頭使ったから、身体が求めてるんだろう。大した量じゃないさ」
 歳のトレイを見て俺が呟けば歳は微かに笑った。
「ナゲット、三つ食べていいからな」
 それでもちょっと気になって、歳に多く譲った。
「恩に着る」
「大袈裟だよ」
 通常メニューもソースたっぷりで有名なこの店の新作は噂に違わず美味で、あっという間に食べ終えてしまうくらいだった。
「近藤さん、ソース」
「ん?」
 歳に声をかけられそちらを向くと、紙ナプキンで頬を拭われた。
「ついてた」
 悪戯っぽく笑われてソースのついた紙ナプキンを見せられる。
「ありがと……
 見ようによっては恋人同士のような歳の行動に頬がほんのり熱くなる。
 歳にしてみれば手のかかる弟みたいなものなんだろうけれど、今はそれでいい。
 今度は気をつけて通常メニューのバーガーを頬張る。
 歳はその俺を優しく見守ってくれた。
「そういえば、行きたい大学には行けそうなのか?」
 もぐもぐと咀嚼しながら聞く。
 歳の目指す大学は俺にとっても志望校になるのだから、その動向は気になるところだ。
「あぁ、成績も内申も問題ないと言われているし、余程のことがない限り大丈夫だろうと言われた」
「そこまで行けるかな、俺」
「近藤さん、俺についてこなくても、あんたが行きたい大学があればそっちに行けばいいんだぜ?」
「やだ。俺は歳と同じところに行きたい」
 俺は食い気味に答えた。
 歳と離れるなんて考えられない。
 例え学部は違っても、同じ大学に行きたい。
「そうか」
 歳はふと目を伏せたが、すぐにいつもの顔になって微笑んだ。
「迷惑か?」
 その影のある仕草に、俺は不安になった。
「とんでもない。あんたなら大歓迎だ」
「なら、追いかけさせて」
 縋りつきたいのをぐっと堪えて俺は歳を見つめた。
「ありがとな、近藤さん」
「?」
 ぼそりと歳が呟いた言葉に俺は疑問を浮かべる。
「同じところに行けるように、しっかり見てやるよ」
 はぐらかされたと思ったけど、勉強を見てくれるということは、それだけ一緒にいる時間が増えるということだ。
「お願いします」
 食べ終わったバーガーの包装紙を綺麗に畳んでから、俺は歳に頭を下げた。
「任せておけ」
 歳は真面目な顔をして俺の肩を叩いた。
 歳が高校を卒業するまで一年もないけれど、それまで──いや、歳が大学に行ってからも俺はこうしてくっついて回るだろう。
 叶わぬ想いでも離れたくない。
 我儘だと思いつつ、歳がそれを許してくれるのなら傍にいたい。
──あぁ、俺は歳が好きだ。
 俺は間違いなく、歳に恋してる。
 改めてそう思って胸が苦しくなった。
 でもまだ、想いを伝える勇気はない。
 いつになれば伝えられるのか、それはわからない。
 だって、受け入れてもらえなければ友人としての仲も壊れてしまうだろうから。
 歳が想う、特別な人。

──俺は、それになりたい。