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燈 ともしび
2026-05-31 21:34:06
4888文字
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ぎゆさね【宣戦布告】【戦闘開始】
現役軸。どちらも負けたくない
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【宣戦布告】
水柱として実力があるのは認めている。けれど、親しくできるかと言えば無理だと思う。冨岡義勇という男は俺にとってそんな存在だった。
言葉選びが悉く悪いので話すと苛つく。表情筋が死んでいるのか滅多に動かないから何を考えているのか分からない。そもそも弟弟子の竈門のことも気に入らない。あと俺の好きな犬が苦手。
ぱっと思いついただけでもこれだけすらすらと出てくるのだから根本的な所で無理な相手なのだろう。同じ柱同士、柱合会議ではどうしても顔を合わすが、それ以外では互いに多忙故ほとんど会うこともない。なら気にしなければ良い。そう結論付けて冨岡とは距離を置いていた。それで何も問題なかった。今までは。
それが変わったのはとある任務に合同で行くことになってからだ。
市井の人間ではなくわざわざ鬼殺隊隊員を狙って食う鬼が廃山寺に出るようになり、二回ほど隊員を送って食われたところで、ここは柱を送って早期に決着を付けようということになったらしい。
「二回も軟弱下級隊士を送ったことがまず間違いだろ」
そう言ったところで『だから不死川が行って鬼を斬ってきてくれ』と悲鳴嶼さんから命じられたので二つ返事で応える。俺ならさっさと斬って退治できる自信もあった。
「ああ、今回は冨岡と行って欲しい」
「はァ?」
んなの聞いてねえ。苛ついたが、それがお館様からの直々の任務だと言われたら黙り込むしかなかった。
そうして任務の日が来て、相変わらず無表情な冨岡と待ち合わせて廃山寺のある山を目指す。道中も冨岡は何も話さない。まあ、話しかけられたとしても苛つくだけだろう。冨岡以外の柱ならここまで苛つくこともなかったのに、なんでよりによってこいつなんだ。
道中はずっとそんな感じでいたけれど、気に食わない奴でも柱は柱。下級隊士が束になっても敵わなかったという鬼はあっさりと首を斬られた。強い幻覚の血気術が多少厄介ではあったが柱二人相手ではたいしたこともない。最後まで呪詛のような言葉を吐いていたが、すぐに灰になって消えていった。
はっきり言って冨岡はとても強い。こちらがなにも言わなくても作戦を理解し、言葉を交わさずとも動く。太刀筋も呼吸そのまま水のように自在に動き、滑らかで綺麗だ。これが稽古ならば呑気に見惚れていたかもしれない。なのに己に自信がないのか自虐的な発言が多い。
使う人数の多い水の呼吸の頂点に立っている。それが水柱だ。水柱は現在冨岡ひとりだけ。そこを誇りこそすれ、己を卑下するのは同じ水の呼吸を使う隊士にも失礼でしかない。
きっと今だって俺がいたから勝てたとか思っているかもしれねぇ。
そんなところが一番苛つくのだとこの任務でより実感した。
やがて隠が現れて後片付けをしていく。お怪我は? と声をかけられたが、柱があの程度の鬼に傷なんてつけられるはずもない。鎹烏からの報告によればそのまま休んで良いとのことだったので風柱邸に戻るべく山を降りる。
「てめえも帰んのか」
「
……
ああ」
「そうかよォ」
山からの降り道は一本だけ。だから降りるまではまた同行するしかない。気に入らないが仕方ない。ここら辺りは鬼がいたからかあまり動物も寄り付かないらしく、陽が登ってもとても静かだった。しばらく無言で山道を歩く。
俺は基本的に身体を動かすほうが楽しいし楽だ。作戦を立てる時は別だが、深く考え込むのは得意じゃねェ。
だから、この時もあまり考えていなかった。たいした鬼ではなくとも夜中じゅう駆けずり回らされていたら多少の疲れも出る。ほんの悪戯心。
冨岡の無表情を崩してみたい。
ただ、そんなことを思いついてしまっただけ。
あと少しで麓に出る。
そんな時に冨岡の袖を後ろから思いっきり引っ張ってやった。
今回広範囲に技を繰り出していたのはあいつのほうだから冨岡も疲れているだろう。そして今は陽も上り鬼が出ない時間帯でもある。同じ柱である俺も近くにいる。油断するにしては最高の瞬間だった。
案の定、袖を引かれた冨岡は体勢を崩す。流石に柱だから地面には倒れ込まなかったけれど、慌てた表情や踏ん張った体勢はちょっと、いやかなり面白かった。
「ふはッ」
思わず吹き出せば、体勢を立て直した冨岡がこちらに視線を寄越す。その顔はいつもの無表情ではなく、怨みがましい、そんな顔だったから俺は大笑いした。
そうそう。そんな顔が見たかったんだわァ、いっつも澄ました顔した水柱さんよォ。
俺が腹を抱えて笑っているからか、冨岡はなにも言わない。きっと憮然としているのだろう。想像が付く。眠さと疲れ。あと鬼を斬った後の高揚感。それら全てが俺のことをおかしくしていた。
そして、冨岡のことも。
だから、油断していた。俺はあくまで仕掛けた側だったから。
不意をついて冨岡が俺のことを近くの幹へと押し付ける。しくじった。冗談程度のつもりだったが、話の通じない男を本気で怒らせてしまったか。
「悪い、悪い」
そこまで怒るなっての、堅物め。
簡単に謝って適当にあしらって。それでまたなァと別れて帰れば良い。どうせ相手は冨岡だ。それ以上関わるつもりは向こうも無いだろうと。
けれど、それは己の唇に熱を感じた時に霧散した。
なに。なんだ。冨岡は、なにをして。
お互い目を開けているから、俺の視界いっぱいに澄んだ青色の瞳が映る。その瞳に熱を感じたのは何故だろう。
やめろ、そう跳ね除けようとして、でも意外に力の強い冨岡に更に押さえ込まれてしまう。
ふざけんな。
これは冗談では済まないことだろう。
そう反論したい。なのに怒鳴ろうと口を開けたらそこへ更に冨岡の舌が潜り込んできて俺の舌を絡め取ろうとする。
これは、口吸いだろ。女相手にする。
なのに、なんで冨岡は俺なんかに、してるんだ。
「ん、ふぅ、ふ」
苦しそうな、でも甘ったれた猫のようなそんな声が己の喉から漏れる。そんな訳がない。そんな声を俺が出すはずが。もがいてももがいても、冨岡の腕も唇も離れない。
やがて酸欠に頭がくらっとする頃、冨岡はようやく唇を離した。俺の口の中を散々舐めまわした舌も引き抜かれる。
でもそれはほんの僅か。少し寄ればまた唇を塞がれてしまう。そんな距離でしかなく。
「不死川」
「
……
や、めろ」
酸欠と慣れない行為を受けた衝撃。あと何故かわからない恐れ。それらが俺を動けなくしていた。
この男は、誰だ。
こんなやつ、俺は知らない。
「あんまり可愛いことをしてくれるな」
「はァ、あ?」
「
……
どうにかしてやりたくて堪らなくなるだろう」
は?
なに言ってんだ
……
こいつは。
そう反論したかったのに、言葉を紡ぐ前にまた冨岡に唇を塞がれてしまった。腕の力も相変わらず弛まなくて、幹から抱き寄せられても俺は動けない。
馬鹿力。離せ馬鹿。
心の中で叫んだが、冨岡は目を閉じてしまった。それはまるで俺の言葉を聞きたくないというように。
ばかばかばかばか。
それしか罵る言葉を知らないように俺は必死で叫ぶ。でも、また全て冨岡の唇に吸い取られてしまう。
なんだこれ。
なんなんだ、これ。
まるで宣戦布告だ。
そう思って。でもその時、冨岡と俺は全く別な意味での宣戦布告だと思っていて。
また酸欠でくらくらするから無様に座り込まないように冨岡の胸元を掴んだ。
冨岡はそれをちらりと見て
「
……
やっぱり不死川は可愛いな」
とだけ呟くと、また俺を貪ることに夢中になっていった。
俺はなす術もなく、ただ流されるままに冨岡と唇を重ねる。泣くつもりはなかったのに、片側から涙が一粒こぼれ落ちていった。
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