壁とまではいかなくとも已然隔たりを感じる大半の理由は一目瞭然、初対面で舞い上がった拍子にしたスキンシップ以外なく、それを本人直々に指摘されようものならぐうの音も出ない。
自分自身と近しい生い立ちを匂わす存在に出会えるなんて考えにも及ばなかったからこそ鮮烈な彼女に好奇心を抱く。自分の置かれた立場や実力を知らないゆえの愚直で勝気な宣言が初々しくいっそ愛おしい。
目を掛けたその若き才能が芽吹くか否か。こちらを脅かすほどの急成長を遂げるならば御の字、そうでなければ見限るだけ。が、彼女は突き付けられた無理難題を余すことなく糧にして追い掛けてくる。
一歩一歩確実に刻み近付いてくる高揚感に思わず顔が綻び、昂る感情のまま好意的に接するもあからさまに顔を顰め距離を取られてしまったのはご愛嬌。
しかし、斯くも時の流れは不思議なもので低くなった壁越しにこちらの思惑や意図を健気に探りだす。
いやはや兄弟子として実力と威厳を保ちつつ全幅の信頼を勝ち得るまで中々手強そうだ、なんて考えていた頃が懐かしい。
事の発端と云うべきか毎年11月23日に催される一生會昼の部を共に任された。突如として突き付けられた弟子でもない一門の一門会出席。預かりの身である彼女の中で渦巻く複雑な心中は察するに余りある。
されど因縁相手の一挙手一投足に心掻き乱されようが、仕事として前向きに“私達らしさ”が出る会を模索する強かな振る舞いにより一層深く彼女を知りたくなった。嗚呼、彼女に対しての知的好奇心が溢れ出して止まらない。
近々正明師匠の付き添いで遠出する彼女に『相互理解の場をもう少し設けない?』と些か強引に申し出れば、これ幸いに双方の休日がたまたま一日だけ重なった。
背えたかのっぽな建築物に遮られる事なく聳え立つ入道雲が果てしない青い空に映える実に夏めいた日。
約束の時間より早めに着いた待ち合わせ場所にて待ち人を待つ間もなく、行き交う人々の喧騒にまぎれ聞こえるあかねちゃんの声を頼りに目で追う。小走りで駆け寄る姿を視界に収めた瞬間、表情筋が緩むのを自覚した。
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