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takisaka
2026-05-28 14:58:51
2192文字
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ネハムゲ
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熱について
概念的にえっちなかんじのネハムゲ
汗を感じるのが好かなかった。いつでも、冷たく乾いていたかった。できれば、軽く、かそけく、すでに散るばかりの灰のように。
◇◇◇
なのにこうしてムゲンとふれあうときばかり、この体躯にはいつでも自分自身のじっとりと籠もった吐息の熱と、魘されたようにかすかに震える指がある
――
ネハンには、それがどうにも、頭の一部で納得いかない。羽織っただけのシャツの襟足にも、湿った熱っぽい感覚がある。不自由な指どころか息ひとつ、熱ひとつ、彼が頭で考えるようではない。
「
……
ネハン。だいじょぶ? ぐあい、わるい?」
「
……
いや、大丈夫だ」
すこし苦しげで、気遣わしげな深いその声は、彼の耳のあいだのつむじに降ってくるのと同時に、その頬をひたと押しあてた胸郭そのものの震えとして感じられる。張りのある肌と骨、頑強で分厚い筋と肉。金剛ともいうべきそれはすっかりと力を抜いているいま、彼の少しの動きにもなめらかに形を変えて、しっとりと撓んだ。不自由な手を添えて身動きしようとすると、痩せて骨張った指がやわらかく沈み込んでいく。眩暈がするようだ。他人事のように、まるで頭の芯がどうにかしてしまいそうな熱量のなにかを、彼は己のうちに自覚する。
「そう?」
ムゲンは、稚いしぐさでくちびるをちょっと尖らせる
――
そんな動作の端々は、かれの外見の成熟した齢つきにふつりあいだ。それでいて、その無邪気さ自体は全体としてまるで違和感がない。彼にはそう、愛らしいとさえ思える。およそ彼がかつて見知っていた世間では、頭の沸騰した愚かな男の妄言にすぎないのだろうが。
巨大なてのひらが彼の肉薄い頬を挟み込み、こわばった表情を直接和らげようと、やさしく揉み込むように動いた。力加減がうまくなったムゲンは、かつての星屑の街で暮らし始めたころにしていたように、他者とふれあうことを闇雲に恐れる様子を見せない。
「ムゲン、ネハンと、こうする、たのしい
……
ネハンも、ネハンの、たのしい、ある? おしえるほしい!」
「
……
あまり、そういうことをたやすく言うものじゃない。特に、こういうときには、だ
――
」
ひどいことをしたくなる。
そう続けたがる自分の口を、かわりにもっと直接的な衝動のために動かす。
無防備な言いように、巨大な腕のうちからそろりと伸び上がる彼の、牙のつけねが疼く。生え替わりの時期の、むずかる、幼い歯のように。分別ぶって諫めるような物言いとは裏腹に、ゆっくりと起き直ったネハンの口は、目の前のムゲンの鼻筋をかぷりと噛んだ。びっくりして肩をはねさせるかれに覆い被さり、それはからだごと戯れかかり、押さえ込んだ相手のマズルごと咥え込む若犬のしぐさだった。くすくすと笑って、くすぐったさにこどものように身をよじる巨躯の首もとに、幾つもの歯形が刻まれていく。
その数を数える手つきのまま、彼は右の手をそっと上方にすべらせて筋をぎゅっと抱え込み、熱をはらんだ静かな声で囁きかける。その耳朶に噛みつきたくてしかたない牙が、しくしくと疼く。
「大丈夫か。やめにするか」
「うぅ
……
いじわる、ない? なら、やめるない
……
ネハンがする、したい。ムゲンもしたい
……
」
でも、ゆっくり。おねがい、よい?
ごつい指先がつまんだシャツの裾が、ごくそっと引っ張られる。規格外の力ゆえに我を忘れるのを怖がる
――
そんなかれの遠慮がちなしぐさに、頭がどうにかなりそうな気持ちになる。多分、もう、ずっとなっている。かつて環境に摩耗し切った感情の底から沸く、この気持ちをうまく伝えることばを、ネハンはまだ。ずっと思いついていない。
そうだというのに、まるで幼子同士の内緒のうちあけ話のように、ムゲンは彼の獣の耳もとにこしょこしょ囁く。彼よりひとあし先に。その声もまた、自分と同じく熱に浮かされて、深く醸した酒のような甘さなのだ。
「どきどき、する。ネハンは?」
「ああ
――
」
どきどきする。
そう言ったかれのことばどおり、ぎゅっと抱き込められてぴったりと寄り添った互いの胸郭越しに、かれと自分の鼓動とを同時に感じる。熱く、強く、確かに、生きている。どちらも。どうしようもなく。
ふいに目の奥が血が滲むように熱くなってきて、なぜか痛んだ。ムゲンがそっとおおきな手を伸ばし、彼の曇り空めいた毛並みをゆっくりと撫でる。
「ネハン。こわい、ない
……
ムゲン、ここ、いる」
「そう、か。
……
いい子だ」
声は思わず、ままならぬ熱が滲んで掠れた。
お前がそう言うのなら、そうなのだろう。ならばもう、俺にできることなど、ひとつしかない。
優しくするのだ。でたらめでも、名前が思いつかなくても、やりかたがわからないままでも、これからずっと、優しくする。
(やさしくする。やさしくする。絶対にやさしくする。)
お前が、俺と、いっしょで、こわくないのなら、なんでもいい。
いい子だ。お前は。
そして俺は、お前の、なんにでもなれるだろう。
そう、あの島ではじめてであった最初から、そもそも、なんでもかまわなかったのだ
――
ずっと乾いた、灰になるばかりの生と死の熱量ばかりではない。
これからふたりのあいだでどうとでも名前がつけられる。たっぷりと濃い情愛の熱が、いまこの俺とお前の皮膚のはざまにはある。
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