Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
trsmddd
2026-05-25 21:36:14
10469文字
Public
Clear cache
現パロ師アレ 夜に棲むもの5
これ→
https://privatter.me/page/69f743db94fcf
のつづき
師弟全く関係ないふたりです
社長クロスとバーテンダーアレンくん
アレンくんに危機感という概念はない
リナリーに激詰めされるアレンくんがかけて楽しかったです
アレンより一足先に家に着いた神田は、待ち構えていたラビにうんざりした顔を隠さず言った。
「あいつぁシロだ」
ラビはあんぐりと口を開けた。
「買収されたん?」
「なんでだよ」
「いやだって明らかにおかしかったさ?!」
「ウラも取ったぞ。クロス・マリアン。株式会社キャンベルの社長。医療機器メーカーだな。犯罪歴なし。知り合いだっつーからコムイとリナに聞いたらそこそこ良い人だとさ」
「はあ?!知り合いだったん?!」
「下心はあるかもしれねえがこっから先は警察の管轄じゃねえ。せいぜいモヤシに取って食われねえように注意しとけって言っとけ」
マジで休日を無駄にした、と神田はげんなりと言った。
「お前、マジで今度酒と飯奢れよ。クソ高えとこ予約すっからな」
「えええユウちゃんそりゃないさ!いやでもまあ今回は俺も悪かったけど
……
」
頭を掻きながらラビは渋い顔になって、けれどがっくりと肩を落とした。
「仕方ねえさ
……
あとで日取り送って
……
」
当然だとも言わんばかりに神田は鼻を鳴らす。そこにちょうどアレンが帰ってきて、がっくりしているラビとうんざりしている神田を見て、にこにこしていた顔を瞬時に引っ込めた。
「えっ?どうしたんですか?」
「テメェのせいだよバカ」
神田の一言にアレンは「なんで?」と首を傾げた。
神田は「マジ時間の無駄だった」と文句を言いながらさっさと撤退してしまったので、頭を抱えるラビと首を捻ったままのアレンが残された。それからアレンはちょっと得意そうな顔でラビを見た。ラビは死ぬほど深くため息をついた。
「それでね、そこのご飯がすごく美味しくて!」
そこから怒涛のように楽しげに今日の話をし続けるアレンに、ラビはだんだん面倒になってきて、適当に返事をしていた。アレンがとても楽しかったのならそれは喜ばしいことではあるのだが、いかんせん絵面が犯罪くさい。犯罪くさすぎるのに相手は社長で犯罪歴なしの立派な大人である。対してアレンはついこの間成人したばかりの思考がほとんどお子ちゃまなのである。頭が痛くなってきた。
「へえ」
「あ、ラビのまかないがおいしくないわけじゃないですよ、ただその、美味しかっただけですよ」
「うん」
「結局オムライスとハンバーグとスパゲッティ頼んだんですけど、全部!おいしかったんですよ、すごく!小さなお店でしたけどあれは穴場ですね。お店の名前教えてもらうの忘れちゃったから次はちゃんと聞こうと思って」
「おー。
……
ちょっと待て、次?」
「はい!今日は奢ってもらったので次は僕が奢りますって」
「待て待て待て待て待て待て待て。は?次?」
「だってプライベートの"友人"ならそういうの普通ってマリアンさん言ってましたよ」
不思議そうにするアレンに、本格的に頭痛を覚えたラビは隠そうともせずに頭を抱えて唸った。
「こんのおバカ
……
!」
「え、えっ、違うんですか?」
「それは!口実!です!」
「こうじつ」
きょとんとしたままアレンは繰り返した。ラビはがしりとアレンの肩を掴んだ。
「意味はわかりますか!」
「えっと
……
」
「要するに言い訳だ!そいつの目的はアレンと会うことなの!下心があるの!飯食うだけのお友達で済むわけないだろ!バカ!!」
ラビは肩で息をしながら、アレンが黙ってしまったことに気づいて顔を見てぎょっとした。泣いていた。声は我慢しようとしているのかきつく唇を噛んでいる。慌てて袖で頬を拭ってやった。
「ごめん、」
「
……
、ら、ラビのばか」
う、と嗚咽が漏れて、そこからはもうぼろぼろと涙が落ちていって、アレンは嗚咽の合間にラビの胸のあたりを何度も叩いた。
「ぼくがっ、らびの、し、しらない、ひとと、なかよく、なっちゃ、だめなん、ですかっ、と、ともだち、つくっちゃ、だめなんですか、なんで、だって、ぼく、ともだち、いない、のに、なんで、」
叩きながらもアレンはラビにひっついてうわあんと本格的に泣きじゃくり始める。これは大変繊細なところをぶち抜いてしまったかもしれない。ラビは思ってアレンの頭をよしよしと撫でながら「ごめんて
……
」と途方に暮れつつ呟く。アレンの言うことはもっともだったので、強く出ることもできない。
別にアレンが他所で友人を作ることを制限できる権限をラビが持っているわけではない。ただ今回は明らかに下心を持って近づいた相手だったから、危機感を覚えないアレンに腹が立ったのもある。恋愛に関しては非常に複雑な価値観を持っているアレンが、ごく一般的な恋愛観を持った人間に傷つけられてしまうのはなんとしてでも阻止しなければと意地になった。神田の話が本当ならば「今日は楽しめてよかったな」で済ませてしまえばよかったのだ。それでも口を出してしまったのは、明らかな年齢差がある相手だったからだ。遊ばれて傷つくアレンを見たくなかった。そうでなくとも人間関係初心者のアレンが相手の怪しい挙動に気がつけないのだから、目を光らせておかなければならないと躍起になってしまった。
アレンの交友関係は狭い。普段は店と自宅の往復くらいしかしないので、知り合って親しくなるとしたら店の客くらいしかいない。けれどアレンは仕事とプライベートは完全に分ける方針を貫いていたから、客と懇意になるのを嫌がった。そうなるとアレンが今後同じような生活を続けるのであれば、交友関係が広がる可能性は皆無だった。友達が欲しいと思っていたのなら、それを否定するべきではなかった。
だけどなあ、相手の年齢がなあ。とラビは思ってしまう。年齢差のある友人、ならまあある程度理解はできる。今時顔さえ知らない人とSNSやらなにやらで親しくなれる時代だ。ただ、相手が下心を持っていることが問題だった。やはりどうしても違和感が勝ってしまう。
「アレン、ごめんさ」
「う、うう、ばからび
…
」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、アレンはもう一回ゆるくラビのことを叩いた。
「うん
……
でもな、その
……
相手がアレンをそういう目で見てるってことは、覚えときな?」
「ど、どういう、目、ですか」
「え、えー
……
えーと、あわよくばアレンの恋人になりたいって目」
「マリアンさん、そんな、ひとじゃな、いです」
「お前にはそう見えても俺からは下心丸見えだったけど」
「ちがったもん」
アレンが顔を上げた。涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を服の袖で拭ってラビを睨む。全く怖くはなかったが、なんだかかわいそうになってしまって、ラビはまたアレンの頭を撫でた。
「そっか」
「や、やさしかった。きもちわ、わるいって、言わなかった。僕がいっぱい食べても、怒んなかった」
「うーんそれは
……
普通じゃねえかな
……
」
「僕が普通じゃないからみんなそういうこと言うんです!」
アレンが声を荒げて、ラビはしくった、とアレンの頭をもう一度撫でた。言葉選びを間違えたのを悟って黙る。アレンは唇を震わせた。
「なんでそんな髪なのとか、その傷どうしたのとか、なんで手袋とらないのとか、がっついて貧乏くさいとか、みんな言うんです、みんなそうなんです、でもマリアンさんは違ったんです」
泣きながら言うアレンに、ラビはとうとう降参して両手を上げた。
「わかった。わかった、ごめん」
「だから、だから、」
「わかったから。もういい。もう悪く言わない。アレン」
「だから、」
しゃくりあげて言葉を出せなくなってしまったアレンの肩をさすって、ラビは静かに言った。
「だけどな、もし強引に迫られてもちゃんと断れ。嫌だって言え。流されて良いって言うな。怖くても嫌だって、ちゃんと言え。それだけは約束して」
アレンがうう、と唸りながらも頷いたのを見て、ラビはようやくいつもの笑顔を浮かべた。
「泣いたから腹減っただろ。ちょっと早いけど晩飯食お」
「
……
いまたべたら寝る前におなかへります」
「そしたら夜食も食えばいいさ」
用意しちゃる、と続けたラビに、ぐずぐずしていたアレンもようやく泣き止んで少しだけ笑った。
アレンはお店に休日を作るようになった。労基も真っ青の毎日営業していた店には定休日ができて、毎日店と家の往復しかしていなかったアレンは休日に少しずつ出かけるようになった。クロスと食事に行く時もあったし、ひとりでは迷子が不安だからとラビやリナリーを誘って買い物に出たりした。それはすごい変化だったので、事情を知らなかったリナリーには大層驚かれることになったのだが、ラビから話を聞いたリナリーは納得しておかしそうに笑ったのだった。
「アレンくんに私のこと友達だと思ってなかったの?って言ったら慌てさせちゃった」
「マジ?あー、でもそうさね、友達いないって言ってたな」
「『お姉さんみたいって思ってたから友達って言われても思いつかなかった』って言われたの。かわいいよねえ」
遊びに来ていたリナリーが笑いながら言って、ラビも「そっか〜」と笑う。ついでに神田はどうなのか聞いたら一瞬で「論外です」とものすごく嫌そうな顔で言われたらしい。さもありなん。
クロスは今のところ本当にただの友人としてアレンに接しているらしく、アレンは毎回帰ってくるとラビに楽しそうにその日の話をしていた。ラビとしてはあまり聞きたくない話題ではあったのだが、アレンの様子が完全に今日の出来事を一生懸命報告する幼稚園児みたいだったのでそのうち微笑ましさが勝ってしまった。絆されている気がするがそれはそれである。
「最初神田を尾行させたって聞いた時はちょっとびっくりしたけど、ラビの心配ももっともよね」
「だろ?あいつ本当に危機感ないしさ。それにその、絵面がちょっと
……
」
「年齢差はね、どうしようもないからなあ」
リナリーはマグカップに口をつけながら唇をとがらせた。
「悪い人ではないけどね、まあまあ遊んできてはいる人っぽいし。まあ、兄さんから聞いただけだけど
……
」
「やっぱそうだよなあ
……
」
「兄さんが院生の頃知り合ったらしいんだけど、女遊びがあんなに酷い人は初めて見たって言ってたのね。だから正直私も心配はしてるの。アレンくんから聞けた限りでは向こうも結構本気っぽい気はするけど、マリアンさんは女性が好きなんだと思ってたから」
「だよな〜
……
なんでよりによってアレンなんだろ
……
」
「まあアレンくん、中性的できれいだから、守備範囲なのかも」
「だけどさ、そうするとやっぱし遊ばれてる感は拭えねえんだよなあ
……
」
うーんと腕を組んで渋い顔をするラビに、リナリーも困ったように笑う。
「私からもそれとなく気をつけなねとは言ったけど、あんまり自分事に考えてる感じじゃなかったからなあ。アレンくんて恋愛経験ないのかな」
「あー、わかんね」
「そっか」
リナリーはお土産で買ってきて皿に並べておいたドーナツをひとつ手に取って口にした。
「ラビは食べないの?」
「残しとかないとアレン怒りそうだし」
「半分あればいいと思うけど。少なかったかな」
「アレンはあればあるだけ食うさ」
「そっか
……
そうね、確かに」
でもひとつくらい、と皿を押しやられたので、ラビは適当にひとつ取ってぱくりとくわえる。有名チェーン店のドーナツだけあって美味しかった。久々に食べた気がした。ラビもラビで大学の知り合いの誘いは主に店のせいで断ることが多いので、外食は少なめだ。行くなら騒いでも平気な安いファミレスだし、スイーツ系のお店はほとんど行かない。
「うまいね」
「ね。変わらないから安心よね。時々期間限定あるけどそれも美味しいし」
「うん」
「あーあ、どうせなら神田も連れてくればよかったな。アレンくんはマリアンさんとお出かけでしょ。
……
やっぱりみんなと遊べる日ってなかなかとれないねえ」
「ユウ今日非番なん?」
「わかんないけど言えば割と融通きかせてくれるよ」
それは相手がリナリーだからではないか、とラビは思ったが、黙っていることにした。神田は幼馴染のリナリーにとても弱い。あの仏頂面が情けない顔をするのはたいていというかほとんどリナリー関係の話である。ラビは「そっか」とだけ言った。何か言ったら後が怖い。
だらだらと雑談を続けていると、玄関の開閉音と共に「ただいま帰りました」とアレンの声がした。その声がなんだか少しかたかったので、ラビとリナリーは顔を見合わせて同時に席を立つ。二人して玄関を覗くと、アレンが途方に暮れた顔で紙袋を手にして立ちすくんでいた。
「おかえり、どしたん?」
「えっと
……
あ、リナリー来てたんですね。こんにちは」
「おかえりアレンくん。その袋、もしかしてお洋服?」
リナリーが言うと、アレンは困りきった顔のまま頷く。ラビは顔を引き攣らせた。
「マジ?」
「
……
マジです」
「それ、オーダーメイドの高級テイラーのお店よね」
「
……
みたい、です」
「リナリー知ってるん?」
「うん、結構有名よ。
……
どっちかというとブライダル関係が強いお店ね」
アレンは本当に困った顔で、リナリーとラビを交互に見る。
「もしかしてだけど」
「
……
マリアンさんが、次はこれ、着てこいって」
ラビはリナリーに視線をやった。リナリーもラビに目配せする。これは大変な事態になっている気がする。アレンが泣きそうな顔で言った。
「僕内臓でも取られるんでしょうか
……
?」
リナリーがアレンの肩に手を置いた。ラビも反対の肩に手を置いた。
「ちょっとお話ししましょう。ね、アレンくん」
にっこりと笑ったリナリーの顔がめちゃくちゃ怖かったと後にラビは神田にこぼした。
腕組みをしたラビとリナリーの前にしょぼくれた顔で座っているアレンは、いつもの食欲はどこへやらでドーナツに手すらつけなかった。
「どうしましょう
……
」
「どうもこうも、受け取っちゃったんだから対策を考えなくちゃ」
「ていうかなんで受け取ったん?」
「帰り際にぽんて渡されて
……
思わず
……
」
「中は見なかったの?」
「ダメですって言う前にマリアンさん帰っちゃった
……
」
完全に確信犯である。伊達に女と遊んできているわけではない、ということか。ラビはうーんと唸った。
「次行くお店のドレスコードなのかなとは思うんですけど」
椅子の横に置いた紙袋をちらりと見て、アレンは小さな声で続ける。
「ドレスコードぉ?」
「多分、ですけど」
「そんな高級なところ行くの?」
「いや、それもよくわからないんですよ。ただ次はこれ着てこいしか言われてないから」
「そんなことあるんだ?」
「マリアンさんいつもそんなです。行くお店教えてくれないし、ここのとこずっと安くて小さいお店しか行ってないし」
リナリーは少しだけ眉をよせた。
「アレンくん聞かないの?」
「え、何をですか?」
「次の約束で行くお店の詳細」
「えっと、いつも
…
あ、いや、僕が体調悪くなければたいていマリアンさんが車に乗せてくれるので、」
「いつもどこ行くかわかってないってこと?」
「
……
そう、ですね」
「それって怖くないの?」
「
……
こわい
……
?」
アレンが眉を寄せて首を捻る。リナリーは唖然としていた。初めて見るかもしれない表情である。ラビは顔を覆った。
「
……
迷子になる方が怖くないですか
…
?」
「アレンくん。アレンくんは自分のこともう少し大事にしなさい」
「
……
ええと」
リナリーは厳しい顔になって人差し指をアレンに突きつけた。アレンはぴしりと固まる。
「まず一つ目の問題。移動はマリアンさんの車。この時点で走行中は自分の意思で逃げ出せないの。わかる?」
「
……
えっと」
「二つ目。連れてかれるところがわからない。自分が今どこにいるかわからないってことよ。これもわかる?」
「
……
はい
…
」
「三つ目。アレンくんは方向音痴よね。つまり連れて行かれた先で逃げようとしても土地勘のある相手に分がある」
「
……
」
「四つ目。これが一番問題だけど、マリアンさんはアレンくんをドレスコードの必要な店に連れて行こうとしている」
「
……
一番問題、なんですか?」
「気のある相手が何度もお出かけの誘いに応じてくれて、仲も深まったと思えた。次は何すると思う?」
「
……
ええと、その
……
」
「告白よ」
「こくはく
……
?」
今度はアレンのほうが唖然とした顔をする。それから突きつけられた四本の指とリナリーを交互に見て、心底困惑したように眉を下げた。
「あの、待ってください。リナリーもマリアンさんが僕のことをえっと、つまり、そういう対象として見てるって言いたいんですか?」
「そうね。話を聞いた限りじゃそうとしか思えないけど」
「それはラビが誇張してるわけじゃなくて?」
ラビはなんでだよと口を挟みたくなったが我慢して黙っていた。口を挟んだらリナリーの方が怖そうだったので。
「私はアレンくんの話を聞いてそう思ったの。ラビは関係ないよ」
「えっ、僕の話にそんなとこありました?」
「食事中に顔を上げると目が合う。いつもお店のドアを先に開けて待っててくれる。電車に乗る時自分につかまってろって言って混雑していてもできるだけスペースを確保してくれる。大抵車道側を歩いてる。人混みを歩きやすいように誘導してくれる。アレンくんが話してる間は黙ってアレンくんのことずっと見てる。最近帰り際にハグするようになった」
「ちょっと待てハグ?!聞いてないさ?!」
「ま、まだ三回くらいですよ」
「まだあるけど聞く?」
「てか会う頻度おかしくねえ?」
「そう!それも問題」
学生じゃないんだから、とリナリーが続けてアレンは困りきって髪をくしゃりとまぜる。ラビが把握しているアレンの予定よりも明らかに会っている頻度が多い気がする。アレンが後ろめたくて言っていないのならいいのだが(それはそれで良くはないのだが)、これがクロスの方から口止めされていたとしたらかなり問題だ。ラビがじとりとアレンを見ると、アレンは怯んだように体をこわばらせた。
「
……
ええと、全部親切だと思ってたんですけど」
「ただの友人に対してそこまで親切にする?」
「
……
ともだちいないから
……
」
わかんない、と言った声はかわいそうなくらいに小さかった。リナリーはまた腕を組んだ。
「じゃあアレンくん、同じこと私にする?」
「え
……
うーん、半分くらいは
……
?」
「ラビには?」
「しません」
即答だったのでラビは少しだけショックを受けたが、内容を考えたら別にして欲しい事でもなかったので天井を見て息を吐くにとどめた。アレンは少しだけバツの悪そうな顔でラビを見た。
「つまりね、アレンくんがされてるのってほぼエスコートなのよ」
「え、えすこーと
……
」
「ただの友人にエスコートなんかしないでしょ」
「それは、
……
そう、ですね
……
」
ようやくクロスの一連の行動が少しおかしいと気づいたのか、アレンは眉を寄せた。
「
……
ちなみにハグはいつからしてたん?」
ラビはアレンの表情を観察しつつ尋ねる。アレンはあー、と唸った。
「
……
前回出かけた帰りに
……
」
「三回くらいってのは?」
「
…………
あの
……
閉店後に
……
」
「アレン、仕事とプライベートは分けるって言ってたよな?」
「閉店したらいいだろって
……
」
「嫌だって言わなかったん?」
「
……
まあいっかって
…
思っちゃって
……
」
アレンが俯いてしまって、ラビは盛大にため息をついた。これは既にだいぶクロスのペースに乗せられている。手際が良すぎる。ラビは目頭を揉んだ。クロスとアレンでは駆け引きの経験値が違いすぎるのだ。
「あのね、アレンくん。あんまりこういうこと言いたくないんだけどね、マリアンさんと兄さんは結構前から知り合いなの」
「そうなんですか?」
「そう。それでね、兄さんはね、あんなに女遊びが酷い人は初めて見たって言ってるの」
「女遊び」
「つまり恋愛経験が豊富ってことね」
リナリーはかなり婉曲した表現をした。はっきり言うのも憚られたのだろう。ラビもラビで恋愛経験は豊富な方だと思うが、女遊びをしているわけではないと自負している。二股をかけたこともないし、別れる時はあとぐされないように関係はきちんと精算してきたつもりだ。コムイの評からすると、おそらくクロスはそのあたりがめちゃくちゃだったのだと思われた。キャバクラ通いもしていたと聞いたから、本当に遊んでいたのだ。
アレンはぽかんとした顔をしてリナリーを見て首をかしげた。
「えっと、マリアンさんは女性との恋愛経験が豊富ってことですか?」
「多分ね」
「マリアンさんの恋愛対象が女性なら、僕はやっぱりただの友人だって方がしっくりきませんか?」
この期に及んでそんなことを言い始めたアレンに、リナリーは本気で困った顔をした。ラビを見たので、ラビは渋い顔で首を振った。リナリーは口をへの字にして、一度深く息を吐いて吸った。それから笑ってアレンを見た。隣にいるラビはその笑顔が寒気がするほど怖かったのだが、アレンには全く効いていないようだった。鈍感にも程があるだろ、と心の中でツッコむ。声に出して言う勇気は残念ながらなかった。
「じゃあなんでマリアンさんはアレンくんに服をくれたんだと思う?」
振り出しに戻った問いをリナリーがして、アレンは自信が無さそうに肩をすくめた。
「僕の手持ちじゃ入れない店に行くから
…
?」
「どうしてそんなお店に行くの?今まで通り安くて小さいお店でもいいじゃない」
「あー
…
そう、ですね
…
。でもあの人、気分屋なところあるし
……
」
「気分屋だったら事前に服を渡す意味ある?」
「
………
」
黙ったアレンに、リナリーはなるべく冷静に言う。
「アレンくん、多分だけどね、次の食事の席で告白されるよ」
「ええ
……
?」
「ここまでお膳立てして何もないのは絶対に無い」
「な、なにもって」
「全員ってわけじゃ無いけどね、女の子なら憧れるシチュエーションではあるの。気になってる相手と高級レストランで一緒に食事していい雰囲気になって」
「ストップストップ!リナリー!それ以上言ったら俺がコムイに怒られる!!俺が怒られる!!」
ラビはとうとう口を挟んだ。コムイに怒られるのは本当に怖いから嫌だ。アレンは困惑した顔をしていた。こいつマジでなんも分かってねえ、とラビは絶望的な気持ちになる。遮られたリナリーは笑顔のまま言い放った。
「アレンくんと一緒に怒られなよ」
「俺完全に巻き込まれ事故じゃん!嫌だ!」
「僕も怒られるんですか?」
「アレンくんはラビより怒られるよ」
「なんで?!」
「危機感がなさすぎるから。服が勿体無いからってどうせ行くんでしょ」
「え、え、いや、
……
い、行くなって言うならら、断ります
……
」
ようやく怯えを滲ませたアレンに、リナリーは少しだけ表情を緩めた。
「行くなとは言わないけど、アレンくん、マリアンさんのことどう思ってるか、ちゃんと考えなよ」
「どう思ってるか
……
?」
「正直に言って、ありなの?なしなの?」
「あ、あー、リナリー、その、」
リナリーはアレンの恋愛指向を知らなかったはずだと気付いてラビは咄嗟に口を出した。が、自分が言ってもいいことなのかわからなかったので、ちらりとアレンに視線をやる。アレンは固い顔をしていた。何度か口を開いたり閉じたりして、視線を落としたままつぶやくように言う。
「
……
ありとか、なしとか、は、わかんない、ですけど、」
「うん」
「
…………
一緒にいるのは楽しい、です」
「それは友達として?」
「リナリー」
「ラビ、いいんです。あの、すみません、リナリー。僕、ふつうの恋愛ってよくわからないんです」
アレンは顔をあげて、眉を下げてへらりと笑った。今度はリナリーの方が驚いた顔をした。
「危機感とか、いい雰囲気とか、その、よくわからなくて。好きだって気持ちは、もちろんありますよ。リナリーのことも、ラビのことも、大好きだし。その理屈で言うなら、僕はマリアンさんのことは好きだと思います。でもそれって恋愛ではない、ですよね?」
なんとか言葉を探すアレンに、リナリーは言わんとしようとしていることを察したのか組んでいた腕をほどく。
「
……
ごめんなさい、私」
「いいんです、いいんです。僕もうまく説明できないから。ただその、今まで恋愛ぽく好きになった人って今までその
……
ひとりしかいなくて、」
アレンは下がっていた眉を一層下げた。
「入院してたとこのスタッフの人でした。だから、その、多分、ものすごく年上だったし、結局その時はそれどころじゃなかったから、なにもなくて終わっちゃったんですけど」
はじめて聞く話だったので、ラビは驚いた。ずっと言いたくなさそうにしていたから放っておいたし、墓まで持ってくつもりなのかなと思っていたからだ。隣のリナリーをちらりと見ると、いつもの顔でアレンを見ていた。一応一旦は怒りはおさまったらしい。というよりアレンの話に削がれたように見える。アレンは本当は話したくなかったかもしれないと考えたら、もう少しはやめに制しておいたほうが良かったかも、とラビは思ったけれどもはや後の祭りだった。
「そっか」
「
……
怒られちゃうかもしれないけど、服、お返しするのに次の約束はやっぱり行きます。それで、ちゃんと言います。今は今の関係が一番
……
ええと、安心するって」
アレンがゆっくりとそう言うと、リナリーはしばらくじっとアレンを見て、短く息を吐いた。
「本当にちゃんといいなね」
「
…
はい」
「約束だよ」
「うん。ごめん、リナリー」
リナリーが小指をアレンに差し出して、アレンも小指を絡めた。軽く振って離す。
「心配してくれてありがとう」
言った後、アレンは少しだけ恥ずかしそうに目の前のドーナツを指差した。
「あの、これ食べてもいいですか?」
...
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内