※この二人です
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「~~~~っ悪魔くん
……! どういうことだよ、これ!」
「??? どういう、とは」
昼下がりの、淡いまどろみの中。
来客用のソファのうえで、文字をたどっていた視線がゆっくり持ち上がる。
ほんのりと、さっき食べたホットケーキの甘い匂いがまだ残っていた。
黄色いエプロン姿のまま、仁王立ちになっているメフィストを、一郎は大人しく見上げるだけ。
なんだ? って首を傾ける仕草にほださせそうになるけれど、ぎゅっと手を握って耐えた。
『まったくもって、身に覚えはありません』という顔をしている。分かってもらわなければ、ならない。
「お皿が
――」
「っ君が、気に入っていたあの、白い皿か?」
「ち、ちがう。それとはちがうけど、大事なヤツ」
ぐっと身体を乗り出して深刻そうな顔をするから、すぐに顔を横にふる。
そうだ。メフィストのだいじなものは、一郎にとっても『大事』になってしまった。
婚約というものを成立させてから、一郎はすごく過保護になった
……と思う。
目の座ったパパからは『違うぞ、3世。【より過保護になった】が正しい』と言われてしまうのだけれど。
そもそも、この千年王国研究所を立ち上げたばかりのころ、無頓着な一郎にあれこれと口も手も出してしまったメフィストは、あまり人のことが言えない。
いま思えばあれはやり過ぎだ。
「このまえ、シールあつめて、交換してもらった
――」
「ああ、あれか」
時期をずらしてもらった恒例の家族旅行は、先月だ。
メフィストは不在に備えて、研究所の冷凍庫にホットケーキをこれでもかと用意していたのだけれど。
早々にそのホットケーキのストックを食い尽くしたらしい一郎は、
『オレがいなくっても、ごはんちゃんと食べること!』
『この際、総菜パンとかでもいいからさ
……』
と言われていたことを律儀に思い出したらしく、コンビニでよく見かける食パンで具材を挟み、なおかつ手が汚れない王道の商品を買い占めてしまった。
メフィストとの約束を思い出したことも、守ってくれたことも、もちろんうれしい
――ただし、限度がある。
その結果が、集まったキャンペーンのシールだ。
「あのお皿、粉々になっちゃったんだけど」
「
――……ああ、なるほど」
なるほど、ではない。
こうなったらとことん一郎の言い分を聞いてやろうと、エプロン姿のままメフィストもソファに身体を沈める。
「防御魔法と、攻撃魔法をかけあわせたものだ。うまく発動したようだな」
「ぼうぎょと、こうげき」
「皿を落としでもしたんだろう? あの白い皿は特に
……強化ガラスだ。陶器よりもずっとタチが悪い。割れればなかなかの凶器だろう」
一郎は顎に手をあて、うんうん頷きながら、メフィストの左の薬指へと満足そうな視線を送っている。
そう。問題はこの指輪だ。
「この際だから説明する。君に贈った指輪は最初、君をよくないことから守る厄除け代わりの防御魔法を付与していた。だが君も知っての通り、ぼくは君にこの指輪を贈ることを再三にわたって失敗している
……その度に、どうせなら
……とバリエーションを増やしてしまった。そこいらの神器にも負ける気はしない」
「婚約ゆびわだよ!?」
「
――ああ、きみを生涯守る、という決意の表れだ」
一郎の言う通りだと、これ以外にもありそうだ。
そこは、おいおい聞いていくとして
――
「
……あくまくん。おれ、お皿割りそうになっちゃうたび、食器が消滅するのヤなんだけど?」
「だが、きみがケガするよりは
……まってくれ、その顔はダメだ。善処する。三日ほどかかるが、術式を書き換えよう」
そこは、『付与を無効にする』とかじゃないんだ。
そう思ったが、ぐっと飲みこんだ。
メフィストが守られているだけの相手じゃないってことを、一郎は知っている。
知っていてなお、守りたいと言っているのだ。
「それにしても
――」
「??」
「めずらしいな。君が皿を割りそうになるなんて」
「
…………うん」
「メフィスト?」
そう。一郎が言う通り、非常にめずらしい。自分でもそう思う。
一郎は、素直に婚約指輪のひみつをメフィストに教えてくれた。メフィストも、そうあるべきだろう。
「
……うれしくて」
「うれしい?」
「ゆびわ! 悪魔くんがくれた、これ!」
それはもう、洗い物の途中にも関わらず、
なんども、なんども見てしまうくらいに。
――メフィストの薬指で、ちいさく輝く銀色のまるいわっか。
――ともに闘うための、ポテスターテ・ディアボリ。
――たどたどしく誘った、まんまるのホットケーキ。
一郎と重ねていった思い出も、言葉も、気持ちも、その全てはまるい形をして、メフィストの心にころんとおさまっている。
ケンカしたり、言い合ったり
……トゲのある言葉をぶつけてしまうこともあったけれど、
それでもこうして隣で笑っていられるのは、
その全てを一郎といっしょに、まるい形にしてきたからだ。
だから、一郎がメフィストに与えてくれるものはみんな、
まるくてうれしい。
「
――……メフィスト」
同じソファに沈んだまま一郎に、ぜんぶぜんぶ告げてやる。
ぴんく色にそまる悪魔のほっぺに負けないくらい、耳のふちをそめた婚約者殿は、
観念するように『きみがいちばん、攻撃力がたかい
……』と、幸せなうめきをあげるのだった。
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