katakuruten
2026-05-10 03:06:59
2429文字
Public 短編まとめ
 

無題

ラヴァンド。ナナシマ前日譚後~本編開始前の間の話と本編後の話。2026年5月15日追記



 アルマディン、という青年は基本的に連絡がつかないことで図鑑所有者の中では有名だった。一年の大半は消息不明であると言い換えてもいい。
 一時期はマシになったのに、とラヴァンドはスマホをテーブルに伏せ置きながらため息をつく。

 オーキド研究所の一角、自分に割り振られたデスクで、ラヴァンドは座ったままうんと背伸びをした。ばきばきと、若干の不健康を示す音が身体から鳴る。
 溜まった書類を処理している間に、コーヒーはいつの間にか冷めていたらしい。思い出して口を付けたが、すっかりぬるくなった苦味がのどを通り抜けた。

 アルマディンは、基本的に気まぐれでひとところに留まることが非常にまれであった。
 ホウエンの危機の最中もまったく連絡がつかないと思ったら、唐突に現れてホウエンを救った英雄となって、騒動の後はしばらくはミシロに留まっていたらしいが、最近はまたあちこちふらふらするようになったらしい。
 それも、今回はミシロの、オダマキ研究所——すなわち彼の生家だ——の特別研究員として雇われてフィールドワークに出ていると言うからタチが悪い。彼の仕事といってしまえば仕方がないが、それはそれとして公に立場を得た上で人が立ち入らない秘境にフィールドワークに行くのだから、これは誰も止めようがない。

 何かの立場に縛られることを嫌っていた彼が、オダマキ研究所に籍を置いたのにはわけがある。
 ホウエンの大災害の危機を救った英雄として数えられるようになった彼は、同時に過去に現ホウエンチャンピオンを降す一歩手前までいった天才バトルトレーナーでもある。
 それはまあ、大災害の騒動が落ち着きを見せ始めると、マスコミに追い回されたらしい。ついでに、いくつかの企業からはバトルトレーナーとしてのスカウトも来たのだとか。競技バトルトレーナーに戻るつもりはないという彼は、各スポンサーからのスカウトを体よく断るために自分の実家を盾にしたというのだから、まぁ相当辟易としていたのだろう。
 名義上研究員になったところで、やってることは相変わらず秘境の踏破なのだからおかしな話だが。
 
 申し訳程度に更新される、絶景だとかキャンプ飯だとか見知らぬポケモンだとかが写った写真の上がるポケスタグラムと、返信どころかほとんど既読もつかないメッセージアプリ。それによって、かろうじて彼の生存を確認されているのが現状だ。

 ラヴァンドが一週間ほど前に送ったメッセージには一向に既読はつかないし、SNSもしばらく更新していない。
 あんな化け物がそう簡単にくたばるわけないから心配する方が無駄でしょ、というのがミカヅキの言で、あいつの厭世癖なんて今に始まったことじゃないだろ、というのがモンデンキントの言だ。

 伏せて置いたスマホをもう一回確認してみても、やっぱり返信はない。
 期待したところで、忘れたころにしか返信は返ってこない。
 ラヴァンドは、もう一度スマホの画面をオフにした。その暗い画面に窓の外の空が映り込んでいるのが目に入った。
 振り返ってみれば、雲一つない快晴だった。
 この空の先のどこかに、彼もいるのだろうか。
 
「ほんとに、君は今、どこにいるのかな」