Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
遊悟
2026-05-04 12:29:58
3657文字
Public
Clear cache
明けと宵の明星が交わる時
出会いはこんな感じだろうか、という
1
2
「
―――
天使さん」
「怖い怖い。そんな顔すんなって」
なぜ死刑囚を放免するのかと陽が睨みをきかせれば、夜宵は軽く肩をすくめてみせる。
「あの男は死刑囚でしょう!? 俺でも知ってます!」
「まあ、それなら話は早いな」
ついてこいと言いながら、夜宵は気だるげに歩き出す。
「アイツが元人殺しなのを知ってる、と」
「はい。たまたま怪異犯罪に巻き込まれたために、その件の調査中だった捜査官に見つかって、捕まって、最終的に死刑判決を受けたと」
警視庁の超常現象関連特別対策室には、膨大な量の事件データが存在する。その量は、人ひとりの頭にたたき込めるものではない。
それは、陽とて例外ではなく、彼が知らない事件も存在する。
それでも「夜宵と一緒に歩いていた、眼鏡の男」にまつわるデータを憶えていたのは、その特異性からだった。
「せっかく被害者を怪異から守り抜いたのに、その中身が連続殺人犯だっ
……
」
連続殺人犯。その単語を口にした瞬間、陽の脳裏を別の人物の姿が過った。
長く艶めく射干玉の髪。蜂蜜を煮詰めたような甘い瞳。薄い唇に刻まれているのは、一見優しく、それでいて底知れぬ笑みの
……
。
一瞬、呼吸を忘れて。それでもすぐ、陽は首を横に振り、浮かんだ幻影を振り払った。
「
……
重犯罪者だったため、死刑の判決が下った、と。
担当した捜査官は、さぞ空しい思いをしただろうと思って」
だから、憶えているんです。陽がそう口にすれば、夜宵は曖昧に笑いながら資料室のドアを開けた。
そうして、慣れた様子で書庫から一冊のファイルを持ってきた。
一見なんてことはない資料。しかし、その実、固く閉ざされた
―――
認識阻害と封の術式が施された、極秘のファイル。
夜宵が左の手をかざすと、まるで生体認証でも働いたかのように、その術式が解かれてページが自動的に開いていく。
「これは
……
?」
夜宵が無言で差し出してきたファイルを受け取り、陽はその中身にザッと目を走らせる。
それは、「神崎・翠」という連続殺人犯が、刑死したという書類。
そして、「五百住・遊悟」という男が、警視庁の超常現象関連特別対策室に配属された時の関連書類。
そのふたつに貼られた写真は、どちらも同じ顔をしていた。
黒縁の眼鏡をかけ、左の目の下に印象的な泣きぼくろのある
……
。
だいぶん印象は変わってしまったが、その瞳と泣きぼくろが、先ほどの男と同一人物であることを如実に語っていた。
「
……
捜査官?」
「そ。元死刑囚、現捜査官」
口先では「タバコ吸っていいか?」と陽に尋ねつつも、夜宵は既にポケットからシガレットケースを引っ張り出していた。
「
……
知りませんでした」
「そりゃそうだろ。俺だって、最初は知らんかった」
あいつ自分からは語らないし。
紙煙草を口の端にくわえながら、夜宵はぼやく。
「
―――
√能力者は殺してもしなない。
何度刑に処しても、蘇ってくる。
殺してもしなないから、教育を施して、捜査官として雇った」
毒をもって毒を制すってヤツだな、と半ば投げやりに言いながら、夜宵は煙草に火をつけた。
「上層部は何を考えてるんでしょう
……
」
陽の白い指先が、書類の文字をなぞる。この判断を下した上層部の意図を掴もうとしているかのように。
「さぁな。俺だって知りたいわ、そんなん」
疲労と愚痴を煙に溶かし、夜宵は肺から吐き出した。
「それでも、捜査官になってから一度も反旗を翻す素振りはない」
ああ、いや、と夜宵は眉を顰めた。
「そうじゃないな。
……
反旗を翻すほど、賢くない」
単純なんだよ、アイツ。まるで、ガキみたいに。
至極面倒くさそうに夜宵は頭を掻く。
「一度「良いヤツ」認定くらうと、滅茶苦茶懐いてくる」
「
……
何人も殺めてきた、人殺しなのに?」
「何人も殺めてきた、人殺しなのに」
陽の問いかけに、夜宵はオウム返しのように答える。
「ちょーっと甘いモンくれてやったら、やたら懐かれてな
……
ビビるぞ? お前はガキか、はたまた、生まれたてのヒヨコか、ってくらい」
「
……
振り払えばいいのでは?」
「お前がそれを言う?」
夜宵は苦笑めいた笑みを唇の端に刻む。
「言っただろ? 賢くない、簡単に懐くって」
「はい」
いま聞きましたが、それが何か?
陽が首を傾げると、夜宵は目を伏せた。
「
―――
もし、簒奪者に懐いちまったら、どうなる?」
伏せられた紫の瞳に、暗い影が落ちる。
「人殺しだっただけあって、アイツの善悪の判断はガバガバだ。
もし、殺人犯と意気投合しちまったら
―――
とんでもなく厄介な敵が生まれるぞ?」
お前ならよく分かるだろ、と夜宵は付け足した。
「
……
ああ」
そこまで説明されて、ようやく本質が見えた。
つまるところ、「あの男」にでも誑かされたら。意気投合されたら。手駒にされたら。
なるほど、それは厄介かも知れない、と思った。
「殺人犯同士がつるまれたら、たしかに厄介ですね
……
」
自分にとっての「あの男」の
―――
月代・皐月という殺人犯のように。
きっと夜宵は、その脳裏に実の弟を
―――
天使・陽羽を思い浮かべているのだろう。
彼らのような存在の手駒になったら。
それは確かに、厄介かもしれない。
「
……
ひとりでも手一杯なのに、これ以上は御免被りたいですね」
「だろ?」
敵勢力が
―――
簒奪者が増強されるくらいなら、手の内で飼い殺すほうが何倍もマシだろう。
「敵に惹かれる前に、こっちに懐かせて置いた方が楽だってこった。
……
さて」
夜宵はポケット灰皿を引っ張り出すと、煙草を押しつけて火を消した。
「その問題児がそろそろ痺れを切らす頃だろう。行くぞ」
好きなモンを目の前にして、いつまでも「待て」ができるとは思えねぇからな。
夜宵はファイルを閉じると、陽に戻しておいてくれと指示を出したのであった。
1
2
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color