遊悟
2026-05-04 12:29:58
3657文字
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明けと宵の明星が交わる時

出会いはこんな感じだろうか、という

 春の気だるい昼下がり。ちょっと遅めのランチから帰庁した史記守・陽が職場の―――警視庁の廊下を歩いてたところ、偶然見知った赤い髪を見つけた。
 あれは、警視庁超常現象関連特別対策室災厄係の天使・夜宵ではないか。
 薔薇のように艶やかな赤い髪を揺らし、その隣を歩く男と談笑を交わしている。
 呆れたような、困ったような―――しょうがないなとでも言いたげな、ため息交じりに零された笑顔。
 ―――ああ、あんな顔もするのか、と。
 そこまで知った仲でもないが、もっと表情に乏しそうに思っていた男の、複雑な感情の乗った笑顔に意外性を憶えて。
 さて、そんな顔を引き出したのは一体どこの誰かと、ついでのように隣を歩く男に視線を転じて―――陽は反射的にジャケットの内側に手を伸ばした。
 背筋に走った悪寒。そのおぞましい気配に、陽は覚えがあった。
「待った待った! 陽、ステイ!」
 ホルスターに収めていた拳銃に陽の指先が触れるのよりも早く、夜宵が慌てた様子で陽に駆け寄り、その手首を掴んだ。
 血の通った、あたたかい夜宵の左手。その感触が、逸った陽の気持ちを優しく落ち着かせる。
「バカ、庁内で発砲する気か!?」
「治安のために必要であれば」
 一点の曇りもない澄んだ青い瞳で、陽は夜宵の隣にいた男を射貫く。
「だって、その男―――死刑囚じゃないですか!」
 夜宵の隣にいた男。身長と筋肉に恵まれた逞しい身体に、迫力のある―――悪く言うならば、悪そうな人相をした。黒縁の眼鏡をかけ、左の目の下に印象的な泣きぼくろのある……
「神ざ……
「遊悟」
 陽が名を口にしようとすると、夜宵が鋭く遮った。
「お前も、銃口向けられたんなら、おとなしく手を挙げておけ。撃たれても庇わんぞ?」
「うーん……でも、そいつも警官なんだろ? なら、俺を撃つのは間違っちゃいないなって」
 撃たれてもしょうがないなんて、眼鏡の男は当然のことのように口にする。
「おま……あー、まあ、説教は後だ。コレでコーヒーでも買ってこい」
 陽の手首を離すと、夜宵はポケットからコーヒーショップのプリペイドカードを引き抜いた。そうしてそのまま、眼鏡の男に差し出す。
「コーヒー?」
「ブラックのコーヒー2杯。お前は好きなフラッペでも頼んでいいぞ」
 カスタマイズも好きにしろ、駄賃代わりだ。
 夜宵が気前の良いことを言うと、眼鏡の男は目を輝かせた。
「えっ、じゃあ、シロップ増量クリーム増し増しでも……?」
「好きにしろ。ただし、俺らのコーヒーはブラックだからな」
「OK、OK! やった~! 夜宵って良いヤツだなぁ!」
 強面のその顔が、子供のような純粋な笑みで満たされる。夜宵は「さっさと行ってこい」と手で追い払う仕草をする。
「買い終わったら、先に部屋行ってろ。俺らはちょっと資料室に寄ってから行く」
「へいへい、了解」
 行ってきますと軽く答え、眼鏡の男は庁外へと出て行った。