シュウが自宅マンションの扉を開けたときにはもう深夜を回っていた。
アタッシェケースを置き、スーツの上着を手近な椅子の背に乱雑に掛けたところで動きが止まる。
部屋の電気を点けなければと思うものの足が動かない。暗い室内のどこを見るでもなく、ただそこに立ち尽くしていた。
ふいに、小さな電子音が鳴る。
ピピッ、ピピッ、と3回ほど繰り返されて、シュウがその発生源に目を向けたときには静かになっていた。
シュウは浅く息を吐いてから、壁際の棚に近付く。レザートレイの上に置いていた黄色い腕時計をそっと取り上げた。
友人から預かったこの時計にはアラームはセットされていないはずなのに、時おり今のように電子音を鳴らす。
そのたびにシュウはこの時計を確認せずにはいられなかった。
わずかな電子音が、遠く離れた友と自分をつなぐただひとつのよすがに感じられていたから。
時計の盤面はいつもと変わらず今の時刻を表示しているだけだ。
その変わらなさにシュウは小さく口許を緩める。
時計を持ったまま、カーテンが開けっぱなしだった窓を開ける。
まだ春になりきらない冷たさを残す空気がシュウの頬を撫でる。
星がまたたく夜空に向かって、シュウはそっと囁いた。
「つらい思いや苦しい思いをしていませんか
……でもきっと、君はまっすぐに走り続けているんでしょう」
この時計が音を鳴らしてくれているあいだは彼は大丈夫。
空に広がる星のどのあたりに彼がいるのかすら、シュウにはわからない。でも向ける視線の先にきっと、かけがえのない友人と彼を支える大きな存在がいるはずと願ってシュウは窓を閉めた。
カーテンも閉じようとして、窓ガラスに映る自分の姿が目に入る。
「
……情けない顔をしてますね」
暗い部屋の中で、何をしたらいいのかも、どこに向かいたいのかもわからなくなっている、迷子のような表情。
友人を遥か遠くの宇宙へ送り出したときには、納得していたつもりだった。
走り続けていくのが彼の有りようで。
自分は、彼から預かったこの大切な時計を守るのと同じように、彼が戻ってくる場所も守っておくのだと。
それが自分の役割だと思って
……けれども。
「
…………っ!!!」
喉の奥底を焦がし尽くすようなもどかしさが駆け上がってきて、その勢いのまま窓に拳を打ち付ける。
拳に握っていた時計に額を寄せて、瞼を強く閉じる。
「
……っなぜ、私は
……いつも、引き止められないっ
……なぜ、いつも一人で行かせて
……っ」
強く噛み締めた唇が、ふるふると震える。
「なぜ
……っ、私には、君を追いかけて、助けられるだけの力がないのか
…………!!」
唇の隙間からこぼれ落ちる、ほとんど音にならない掠れた声。
その焦燥は、シュウ自身も常には胸の奥底に押し込めて目を逸らしている渦巻いた感情で。
その夜もただ暗がりの中にひっそりと沈み落ちていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
ユウマとユピーが蘇ったヘルナラクを追って別次元の地球へ向かうのを見送った後、シュウはすぐにSKIP星元市分所へ戻っていた。
待っていたヒロシやリンとともに、分所のモニターを注視する。ユピーから送られてくる映像は次元越しだからか粗く途切れがちだが、音声は比較的クリアで状況は把握できる。
「あぁ! 銀色のアークが
……!」
モニターの中、銀一色の姿が劣勢になる様子にリンが堪らず悲鳴のような声を上げる。
ヒロシも心配そうに腕を組み、シュウは身を乗り出して推移をひとつも漏らすまいとモニターを凝視する。
いつもの赤と銀色のアークとは違う、柔らかな銀色の姿を見るのは初めてだったが、彼がアークと同じ存在だということは感じられた。ただ、赤と銀の姿と比べると力が足りないように見える。やはりユウマと一時的に離れているため、本来の力を出し切れないのだろうか。
厳しい状況だというのはわかるが、画面のこちら側からは何もできない。その歯痒さにシュウの手に力がこもる。
「あちらの次元のウルトラマンも姿を消してしまったし、ユウマが戻ってくるまで銀色のアークが保ち堪えてくれるといいんだが」
「所長! こっちの次元の防衛隊に、アークを助けに行ってもらうわけにはいきませんか!?」
「無茶言うな、リン。さすがに普通の人間が次元を超えるわけには
……」
二人のやりとりが、シュウの思考を刺激する。
(助けを送る
……次元を超えられる存在
……)
(考えろ、石堂シュウ! この場で私ができる最善のことを。ユウマくんを助けるために
……!!)
知っている限りの防衛隊の装備と活動状況、最新の防衛理論、そしてアークのこれまでの戦闘記録。頭の中で膨大な情報を精査し、繋ぎ合わせ、アイデアを掘り起こす。
「
……そうか!」
「? シュウさん?」
リンの問い掛けに応える余裕もなく、シュウは自分の机に戻り慌ただしくノートPCのキーを叩く。手早くテキストを打ち込みながら、片手でスマホを操作して電話を掛ける。
「
……宇宙科学局航宙通信班ですか? 特別調査班の石堂です。今お送りした申請書の件で
……ええ、無理をお願いしているのは承知の上です。お叱りがあれば全て私が対応しますので
……ええ、そうです。これは、ギヴァスが飛翔していった方角の座標です」
馴染みのある名前に、様子を見守っていたリンとヒロシが息を飲む。二人に一瞬だけ目線を送り頷いてみせて、シュウは再び通話に戻る。
「その座標に向かってこのメッセージを送ってください。『君の
ギヴァスに助けが必要だ』と」
電話を終えたとたん、待ち構えていたリンとヒロシも動き始めた。
「わかったよ、シュウさん! わたしはあけぼの荘のヌマタさんに連絡する!」
「俺はレッドキングをモニタリングしてる分所に声を掛ける! あそこの所長は俺と同期なんだ」
「二人ともありがとうございます! 私は他に、バルキー星人の軍団を継続監視している班に依頼します。あとは、ユウマくんの幼馴染みのリョウトさんにも連絡を取ってみます」
それぞれの連絡を終えて、改めて三人はモニターに意識を戻す。
画面の向こうでは、まだ銀色のアークを苛む雨が降り続いている。膝をつく銀の姿にシュウの中の焦りがいっそう煽られる。
(何かもっとできることは
……どうしたらアークを、ユウマくんを助けられる
……!?)
「
……くそっ!」
思わず悪態が口から漏れて、ぎりっと唇を噛み締める。
「石堂さん。少し、落ち着きましょう。我々がこちらの次元でできることは、石堂さんは良くやってくれている」
いつの間にか隣に来ていたヒロシが、シュウの肩に優しく手を掛けた。
その手の重みに、頬の強張りが少しだけほどける。
「ええ。ですが
……まだ、他にも何かできることがある気がしていて」
「
……あっ!」
「リン?」
「もう一人、アークを助けてくれる存在がいた! 黒いアーク!!」
どくんっ! とシュウの内側が大きく跳ねる。
「そういえば彼もアークを助けてくれていたな。ただ、あのとき一回現れただけで詳しいことは何もわかっていないから
……」
「SKIP本部や防衛隊の方にも情報はないんですか
……」
「
……少なくとも本部には
……」
リンとヒロシが話す声が遠くなる。
それと相反するように、シュウの中の鼓動は大きくなってくる。
『このままで、いいのか?』
ふいに、低く重い声が身体のどこか深いところから響いてきた。
シュウは目を見開いて、耳に手を当てる。
空耳ではないというように、もう一度その声が響く。
『このまま、待っているだけでいいのか? それが本当にシュウが望んでいることか?』
その声の出所を探るよりも、その声が伝えてきた内容にシュウは眉を寄せる。
(
……このまま。私は、この場で、私ができることを
……)
(
……この場で
……本当に? ただ待っているしかできないのに
……?)
(本当は、私は
……私は
……)
焦燥感ともどかしさが熱量を伴って胸の奥で渦巻いている。それを掴み取るように、胸許で拳を握る。
「
……私も、あちらに行って、ユウマくんを守りたい!!」
ついにこぼれ出た気持ちが引き金になって、押し留めていたものが堰を切って迸る。
そして。
シュウの胸許が、赤い光を発する。
シュウの中で疼き溢れる熱量がそのまま表されたような、紫がかった鮮やかな赤い光。
「シュウさん!?」
「石堂さん!?」
リンたちの声はまだ遠い。
身体の裡を鼓動が熱く脈打ちながら駆け巡る。
その流れが胸許に集中して、ひときわ光が強く輝き。
その眩しさに目を細め、瞬きして開いた視界には、漆黒に縁取られた赤いキューブと黒と銀色の菱形の装置が、淡い赤光をまとってふわりと浮いていた。
「
……これは」
それらの正体はわからなくても、それらが自分の身体の中から出てきたものだ、ということは感じられた。そのせいかどうか、その二つが害を成すものには思えない。
シュウはそっと両手を伸ばす。
右手にキューブが、左手に菱形の装置が吸い付くように収まる。
その途端、それらからシュウの中に怒涛のごとく流れ込んでくるものがあった。
――――――黒と赤の歪な彫刻。
暗い絵の具を塗りたくったような、歪んだ空間。
尖った嘴が目立つ宇宙人の影。
もっと昏い気配が立ち昇るキューブと菱形の装置。
暗く響く苦悶の声。
そして禍々しく現れたアークに似た黒色の何か
――――――
脳裏に溢れる重々しい光景に、シュウは膝をつきそうになる。
だが。
『闘う力は、シュウにもある』
先ほど聞こえた声が、もう一度響く。
その声に支えられて耐えるシュウに、さらなる波が押し寄せる。
――――――向かってくるアークに放った、赤い光線。
青い光線とぶつかって眩く染まる視界。
ふいに感じる、虹色の涙。
黄色に光る瞳の奥に見えた、大切な友人。
やがて二人で並び立ち、共に敵に立ち向かう。
闘い終えて飛び立った空に架かる、二本の虹
――――――
そこまでの光景を受け止めて、そしてシュウは理解した。
これは、自分の中に閉じ込めていた、自分自身の記憶だと。
(なぜ、こんな大切なことを私は忘れて
…………いや)
黒い歪な姿を生み出した過去の己の弱さも。
忘れていなければ、もっと手助けできたかもしれないという苛立ちも。
今はその感情に身を任せるよりも、やらなければならないことがある。
右手のキューブを見つめると、赤い輝きの中に、黒いアークの姿が煌めいて浮かび上がった。
その光には初めてこのキューブが現れたときのような禍々しさはない。
(君が、背中を押してくれたのですね)
先ほどの声はもう聞こえない。だが、応えるようにもう一度キューブが赤く光を放った気がして、シュウはぐっと右手に力を込める。
「シュウさん
……あの黒いアークは、やっぱり」
掠れたリンの声に、ここが星元市分所の中だったことを思い出す。
両手にキューブと菱形の装置を持ったまま、シュウはリンとヒロシを見返した。
「石堂さんも、行くんですね」
「ええ。行ってきます」
「
……っぜったい、ぜったいに戻ってきてくださいね! ユピーとユウマを連れて。シュウさんも一緒に、三人でここに帰ってきてください!」
「はい。もちろんです!」
リンとヒロシに向かって力強く頷く。
二人が頷き返してくれたのを確認してから、シュウは身を翻して駆けだしていった。
◇◇◇◇◇◇
『僕は、負けられない! これまで力を貸してくれた人たちのためにも、絶対に立ち止まるわけにはいかないんだ!』
その力強い叫びに引き寄せられるように、シュウはその地に降り立っていた。
両隣には、シュウたちが呼び集めた者たちも並んでいる。
赤と銀色の見慣れた姿を取り戻した友人が、突然現れた存在に戸惑って目を見開いている。
『ユウマ、君が今、想像したからさ』
優しく強靭な声に、シュウは大きく頷いた。
(そう。ユウマくんが、ウルトラマンアークが、いつも私たちのことを想って、守ってくれているから。私たちもユウマくんのその想いに応えたいのです)
襲いかかってくる敵に、並んだ仲間たちがいっせいに反撃を始める。
シュウもエレマガンを構えて冷静に引き金を引く。
入り乱れて戦っているうちに、敵の司令塔らしき存在と相対していた。
「人間ごときに何ができる!」
シュウを侮り、挑発する台詞。
(私が人間としてできるかぎりのこととして、ユウマくんの力になりたい仲間たちを呼んだ)
(そしてここからは、私の持てる全てでユウマくんを助ける
……!)
スーツの内ポケットにあるキューブが熱を発した。
それを取り出し、キューブに浮かぶ姿をわざわざ確認することもなく、顔の横で強く握り締める。
「私もユウマくんの力になる! 彼の、友として!」
胸許が赤く輝いて、再び
菱形の装置が浮き出てくる。
真っ直ぐに伸ばした腕で、アライザーを掴む。
前回は、抗えない力によってむりやり持たされたもの。
今はそれを自らの意志で持ち、自らキューブを込めて、自らの意志で回す。
「
……ああぁっ
……!!」
身体の中を駆け巡る強烈な感覚を従えるために、声が漏れる。
暴れる力を制したとき、あたり一面に迸る赤紫の煌めき。
それに重なるように、背後から迫ってくる大きな存在。
ふいに、その存在の本質がシュウの中に浮かび上がった。
自分に寄り添ってくれる存在をより深く掴めた気がして、嬉しさにシュウは唇の両端を引き上げる。
(今度は、最初から心を合わせて向かいましょう、“ギルアーク”)
背中に感じる存在に語りかける。
赤い光が、戸惑ったかのようにわずかに瞬く。
そして両側から現れる大きな黒い腕。
シュウを抱きしめてくるその腕は、まだぎこちないながらも、記憶の中よりもずいぶんと優しい。
その腕に身を委ねて、シュウは黒銀のそれと一つになる
――――――
◇◇◇◇◇◇
きらきらした光の粒の中から飛び出したシュウたちが足を付けたのは、見慣れたニュー星元ビルの屋上だった。
「ようやく戻ってこれたね!」
真っ先に着地したユピーが水色の身体に陽光を反射させながら大きく伸び上がる。
「
……うん、戻ってきたなぁ」
次に続いたユウマは、立ち止まってゆっくりと周囲を見回している。
春の柔らかな心地の風がそんなユウマの髪やSKIPジャケットを揺らす。
その光景にシュウは瞳を細めた。
透けるような冬の青空だった三ヶ月前の屋上。抱き締めていた腕の中から、いつの間にか消えていた友。
その彼が、春の霞むような暖かい空の下、確かにそこにいる。
これが夢ではないと実感したくて、シュウは腕を伸ばしかけ。
「さあて! ユピーは鍋奉行だからね! 早く分所に戻って鍋パーティの準備を手伝わなきゃ。ほっとくとリンは順番めちゃくちゃに具を入れちゃうんだよね〜」
ユピーがぴっと指を立てて、明るい声を上げる。
「ユピーは先行くね! あ、ユウマはゆっくりでいいよ。帰ってきたばっかりで疲れてるでしょ。階段気を付けてね! じゃあ先行ってるねー」
勢いよく言い切って、ユピーは独特な足音を立てながら先に階段を降りていった。
取り残されたシュウとユウマは顔を見合わせる。
「相変わらずだなあ、ユピーは」
「みんなで一緒に戻ってこられて嬉しいんですよ」
「
……そうか。そうですね」
噛み締めるようにそう言って笑ったユウマの表情には、三ヶ月前のように消えてしまいそうな気配はなかった。この三ヶ月の間に様々なことがあったのだろう。そう思わせられる力強さと落ち着きが加わっていた。
それを感じて、シュウは伸ばしかけていた腕を下ろした。
「私たちも行きましょう。お土産話をたくさん聞かせてください」
できるだけ軽くなるよう意識して声を掛ける。
歩き出そうとしたシュウを、けれどユウマが引き留めた。
「シュウさん
……みんなのところに戻る前に、ひとつ聞いてもいいですか」
はい? と足を止めて振り返る。そこにあったのは、探るような、不安と期待が入り混じったユウマの顔。
「あの
……シュウさんは、黒いアークのこと
……」
風に流されそうな掠れた声に、ユウマが何を懸念しているのか思い当たった。そんな不安を抱かせてしまっている原因が自分にあることにも気付いて、シュウは唇を引き結ぶ。
「大丈夫です。今度はちゃんと覚えています。私が黒いアークになったことも。共に闘ったことも」
明らかにほっとしたユウマの様子に、シュウは過去の己の不甲斐なさが腹立たしかった。
「以前のことも思い出しました。
……忘れてしまっていてすみませんでした」
「いつから思い出していたんですか?」
「つい先ほど。ユウマくんたちの元に行く前です」
「リンさんや所長も知ってるんですか?」
「ええ。お二人もいるところでこれが現れて、記憶が戻ってきたので」
スーツの内ポケットから赤いキューブを取り出す。今は静かなキューブの表面だが、うっすらと黒い巨人の姿が見える。
「ユピーが送ってくれる映像を見ながら、ユウマくんを助けに行きたいと願っていたら、取り戻すことができました」
シュウの手のひらに乗るキューブを見つめて、ユウマの目許が翳った。
「
……その、良かったんですか?」
「え?」
「だって、黒いアークになることは
……シュウさんにとって、辛いことも思い出さないといけないでしょう。それは、苦しかったんじゃないかな、って」
「
……ユウマくん
……」
シュウが黒いアークの記憶を再び失っていなかったことに、あんなに安堵していたのに。
きっとユウマにとって、黒いアークは貴重な心強い存在なのだろうに。
それでも。
(相手の胸の裡を思い遣る。出会った時からずっと、変わらないんですね)
ユウマの憂いを取り除いてあげたくて、シュウは胸の奥に込み上げてきた湿りを飲み込み、優しく微笑んでみせる。
「確かに、黒いアークの姿は私のかつての苦悩が元になっています。私の過去の弱さのせいで、人々を、ユウマくんまで傷付けてしまった。これは私の抱えていくべき罪です
……けれども。この罪があるから、よりいっそうユウマくんや皆のことを大切に思えます」
シュウの言葉に、ユウマの目が大きく開かれる。
「さっきユウマくんが言ってくれたことです。誰にでも傷はあるけれど、そのおかげで優しくできると。私も同じです。私も、守りたい。みんなを守ろうとしてくれるユウマくんの力になりたい」
「シュウさん
……」
手に握ったキューブが淡く熱を発する。シュウの気持ちに同調してくれた気がして、シュウはキューブに向かって目を細めた。
「ギルアークも、アークの力になりたいという気持ちは同じようです」
「
……ギル、って」
眉をしかめたユウマに、シュウは軽く首を振る。
「言ったでしょう。傷があるからこそ、だと。もう私はこの記憶を絶対に手放しません。あの闇に飲み込まれるつもりもありません。宿したこの力の本質を忘れず、明るい未来に向かっていくための道標として、私は私の半身の名前を呼びます」
言葉にしきれない想いもすべて眼差しに込めて、ユウマを静かに見つめる。
やがて、ユウマの瞳の中から揺らぎが消えていった。
「
……わかりました。あなたがそう決めたのなら」
ユウマもポケットから青いキューブを取り出すと、シュウの持つ赤いキューブの隣に差し出す。
「シュウさんと、僕と。黒いアークと、アークと。かけがえのない友と一緒に、走っていきましょう。どこまでも」
シュウとユウマは顔を見合わせて、どちらからともなく深く頷く。
キューブを持った腕を前に掲げて打ち付ける。
クロスされた腕の先で、それぞれのキューブが、赤く/青く煌めいた。
◇◇◇◇◇◇
労いのパーティを終えて、遠慮するユウマをなかば無理やり自宅まで送り届けて、シュウが帰宅したときには、もう深夜に近かった。
電気を点けて荷物を置き、スーツの上着をハンガーに掛ける。
内ポケットから取り出した赤いキューブをしばらく手のひらで転がし、壁際の棚にあるレザートレイの上にそっと乗せた。
今朝まではここに、友人から預かった大切な黄色い時計を置いていた。
その時計はようやく持ち主に返すことができた。乗せるものがなくなったこの場所に、赤いキューブを乗せるのはちょうど良い気がする。
カーテンを閉めようとして、窓ガラスに映った姿に目がいった。
いつかの夜とは違うすっきりとした表情の自分と、そしてその背後に静かに佇む黒銀のシルエット。
シュウは眼鏡の奥の瞳を柔らかく細める。
置いたばかりのキューブを持ち上げて、窓を開けてベランダに出た。
「君は、ずっと私のすぐそばにいてくれてたんですね」
両手でそっとキューブを包み込んで、胸許に押し当てる。
シュウが記憶を閉じ込めて忘れてしまっていたときも、ただじっとシュウを見守り続けてくれていたのだろう。
そのことに改めて深い安らぎを感じる。
しばらくして、穏やかに晴れて星がまたたく夜空の方向へ、キューブの側面を向ける。二人で並んで星空を見上げるように。
「いつか、ユウマくんとアークに連れて行ってもらいましょう。あの星々のどこかにある、アークの故郷へ。今度は、私たちも一緒に」
同意するかのように、キューブがかすかに熱を持ち、淡く光を発し続ける。
その赤い光に照らされながら、シュウは広がる星々を見つめ続けていた。
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ザライブの流れをメインにした、シュウさんの再変身ストーリーでした。
劇場版の流れをメインにした話も以前に書いているので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。
『
共に走る未来 』(この話と繋がりはありません)