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Kaori
2025-06-17 21:35:36
8400文字
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ウルトラマンアーク
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共に走る未来
ギルアークの記憶を取り戻して再び変身するシュウさんと、それを受け入れるユウマのお話。
※これを書いた時点では、Blu-ray BOX特典とザライブ横浜(ギルアーク登場なし)まで見てます。
ザライブ大阪以降(ギルアーク登場)と劇場版Blu-ray特典を見る前、という前提でお願いします。
手早く荷物を整理して外出の準備をするシュウに、宇宙科学局の同僚が声を掛けた。
「常駐任務から戻ってきて一ヶ月は経つのに、また今日も星元市に行くんだな」
「今日はサンプルの受け渡しがあるので」
「石堂がわざわざ行くほどのことか?」
「顔見知りの私が行った方がスムーズですから」
「お前、ほんとにSKIPに行くの好きだなあ」
「ええ、好きですよ」
あっさりと返されて同僚は続ける言葉を見失っていた。
「では行ってきます」とその場を離れるシュウの背後で、同僚たちが(あいつ、あんなに衒いなく好きとか言うタイプだったか
……
!?)(そんなヤツじゃなかったはず
……
!)とざわついていることなど気にした様子もない。
執務室のドアロックを解除し廊下に出る。エレベーターに向かって歩き出そうとして、シュウの足が止まった。
「
……
こちらに何かご用ですか?」
廊下の真ん中に小柄な年配の男性が立っていた。
仕立ての良さそうなスーツ、蝶ネクタイにソフトハット、手にはステッキと芝居掛かった姿は宇宙科学局の中では見慣れない。誰かの客か参考人だろうか。
「君に用事があってね、石堂シュウ」
「私に、ですか? 失礼ですがあなたは」
「私の名はサスカル。遠いディグル星から来た賢者だ」
その瞬間、周囲のざわめきが途絶えた。
空気の変化にシュウははっと見回す。廊下に人影がないだけでなく、執務室の向こう側の人の気配も感じられなくなっている。
普通ではない事態にシュウの全身に緊張が走る。
「さすがだな。君は勘が鋭い」
「
……
何をした」
「他人には聞かれない方が良いだろうと思ってね。
……
飛世ユウマとウルトラマンアーク」
その二つの名前を出されて、シュウの手がスーツの内側に入る。
「意外と直情的だ。安心したまえ、彼らにも君にも危害を加えるつもりはない。ただ、私は確かめに来ただけだ」
「何を」
「石堂シュウ、君が彼らの“友”である資格があるかどうか、を」
勿体ぶった言い回しに、シュウの眉根が寄る。
「私とユウマくんが友人であることを、誰かに判定されるいわれはありません」
訝しげながらもはっきり言い切ったシュウに、サスカルと名乗った男は軽やかに笑った。
「はは
……
っ。なるほど。確かに、普通の友人関係ならその通りだ。だが、飛世ユウマとウルトラマンアークという強大な力を持つ者と関わるには、君にもそれなりの覚悟を持ってもらう必要があるのだ」
「どういうことですか? まさかユウマくんに何か」
「今の彼らには何も問題はない。ただ、いくつもの時の流れの中のどれかが滞らないように、手を打たないとならない」
スーツ内側のエレマガンにずっと掛けていた手を下ろし、シュウは険しい視線でサスカルを見返す。
「それに私の覚悟とやらが必要だと。どんな覚悟が求められるのですか?」
「君にはこれからいくつかの試練を受けてもらう。それを乗り越えられれば合格だ」
「拒否する選択肢はなさそうですね」
「話が早いな。では、さっそく始めようか」
どこから取り出したのか、サスカルの手に金色のハンドベルが現れる。
リーン、と軽やかな音が響いたのが始まりの合図だった。
◇◇◇
「サスカーーーーーッチ!!」
突然の大声にシュウは耳を塞ぎかけた。
「
……
何ですか、それは?」
「ディグル星の言葉で“合格”という意味だ」
それを聞いて、安堵の息がシュウからこぼれる。
「では私の覚悟は十分だということですね」
「ああ、君には彼らの“友”である資格がある」
「それで、それを確かめて私に何をさせたいのですか?」
それは先ほどまでサスカルに与えられていた試練に対峙していたときから浮かんでいた疑問だ。
シュウに選択や行動を迫るいくつかのシチュエーション。それらがひと段落すると、何事もなかったかのように宇宙科学局の廊下に戻ってくることを繰り返した。
シュウの内面に問いかけられるような状況もあったものの、その程度のことを確かめるために、賢者を名乗る男がわざわざ手間を掛けるとは思えない。
「君は察しが良いから助かる。そう、ここからが本題だ」
サスカルはステッキを振りながら歩き始める。シュウもそれに従って足を踏み出し、2歩目で宇宙科学局の建物の外に出ていた。
「
……
!」
「建物の中ではいささか狭いだろうから」
建物外も常なら複数の人々が行き交っているはずが、今は誰の姿もない。これもサスカルの能力なのだろう。
「では改めて。石堂シュウ、これから君にある記憶を返す。試練に合格した君なら受け入れられるはずだ」
「記憶
……
?」
記憶の欠落に思い当たるところはある。
だが、シュウがそれを掘り下げるよりもサスカルの動作の方が早かった。
「
……
#&%*!#&%$?!#$%%&#
……
!」
歌うような滑らかさの聞き取れない言葉とともに、サスカルの指先からシュウに向かって何かが広がる。
避ける間もなく、透明なそれはシュウを包む。
それがシュウの中に溶け込むにしたがって、脳裏にいくつもの光景が溢れてくる。
――――――
暗い絵の具を塗りたくったような、歪んだ空間。
尖った嘴が目立つ宇宙人の影。
赤と黒色のキューブと菱形の装置。
それをむりやり握らされて、禍々しく現れたアークに似た黒色の何か。
暗く響く苦悶の声。
衝撃に跳ね上がる戦闘車両。
立ち向かってくるアークに向けて放った赤い光線。
青い光線とぶつかって眩く染まる視界。
そして感じる、虹色の涙
――――――
押し寄せてきた記憶の波の衝撃に、シュウの片膝が崩れる。
こぼれ落ちそうな記憶を、両手を頭に押し当てて留める。
どれくらい時間が経ったのか。そろりと手をはずし、大きく息を吐き出す。それからゆっくりと身を起こした。
「受け止め切れたか?」
「
……
なんとか」
過去の自分の弱さがきっかけとなって、もう一度犯してしまった間違い。
そして、それを必死で止めようとしてくれた大切な友の想い。
この記憶自体にも、そしてこれを記憶から消してしまっていたことにも、大きなもどかしさと苛立たしさを覚える。
けれど今はその感情に身を任せるときではない。
左手で眼鏡を上げて、シュウはサスカルを見据える。
「サスカルさん。貴方がわざわざ私に試練を課してまでこの記憶を戻してくれたことの目的がわかりました。あの黒いアークの力が必要なのですね。おそらくどこかの時間軸のユウマくんとアークが、助けが必要な状態に陥っている。私にそれを助けに行け、と。ユウマくんがあのとき過去に戻って手伝ったのと同じように」
サスカルはにやりと笑った。
「君は本当に話が早い。あの記憶も短時間で受け止めたようだし、さすがユウマが友に選んだだけある」
サスカルは再び手を前に掲げる。今度は短く何かを呟いた。
「
……
これは
……
!」
シュウの目の前に浮かび上がったのは、赤と黒のキューブと、黒い菱形の装置。
「消えてなくなったはずでは」
「ちょいと時間を遡ってな。キューブが消えかけたところにお邪魔して、その要素を回収して再構築しておいた。アライザーの方は正規の手段で複製してあるものだ」
「正規の手段?」
「それはそのうちわかるだろうから気にするな。それより、君はこのキューブとアライザーを再び手にする覚悟があるか?」
シュウは眼前のそれらを見つめる。戻された記憶の中にあったものよりも、禍々しさは薄れ、身近さが増しているように感じられる。
「もちろんです。もう一度あの力を宿しても、今度は飲み込まれないように制御してみせます。そしてあの力を必要としているユウマくんを助けに行く!」
腕を伸ばしてキューブと装置をそれぞれ掴む。
キューブの側面に浮かぶ黒いアークの姿を確認し、シュウは頷く。
キューブを握り締めるとともに広がる赤い光。
記憶の中では抗えない力によってむりやり持たされた装置。
今はそれを自らの意志で持ち、自らの意志で回す。
「
……
ぅ、ああああ
……
っっ!!!」
身体の中を何かが駆け巡る強烈な感覚。
苦しみではなく、その強大な力を従えようとするための叫び。
暴れる力を制して、両腕を大きく前に突き出す。
一面に迸る赤い光。
背後から迫る、大きな存在。
(今度は、最初から心を合わせて向かいましょう)
背中に感じる存在に、声に出さず語りかける。
赤い光が、一瞬だけ戸惑ったように瞬く。
そして両側から現れる大きな黒い腕。シュウを抱きしめてくるその腕は、まだぎこちないながらも、記憶の中よりもずいぶんと優しい。
その腕に身を委ねて、シュウは黒銀のそれと一つになる
――――――
◇◇◇
降り立ったのは、荒涼とした大地。
照らす陽光も頭上の空も馴染みのない色合いのその地は、抉れたり崩れたりと激しい戦闘の気配が濃い。
その地の真ん中に、今まさに突き倒された赤と銀の身体。
舞い上がる土煙越しに胸元が赤く点滅しているのが見える。消耗が激しいのか、アークは即座には起き上がってこられない。
けれど彼を地に沈めた相手は上空にいて、次の攻撃をしようと構えている。
(間に合わない
……
!!)
転移したとたんにそんな光景を突きつけられて、変身後のシュウは周囲の状況を確かめる暇もなかった。
首を傾げてすぐに戻す。
両腕を広げて矩形を描きバリアを張る。現れた赤いバリアを片手に持ち、水平に滑らせるように投げる。
それはアークと敵の間に滑り込み、降り注ぐ敵の光線を弾き返す。
跳ね返った光線の一部が敵をかすめて後退させる。
その隙にシュウはアークの元まで駆け寄った。
《アーク
……
! ユウマくん
……
っ!!》
《黒い、アーク
……
シュウ、さん
……
? え、どうして
……
?》
片肘をついて上半身だけ起こしたアーク越しに浮かぶ、困惑したユウマの姿。
《サスカルさんが力を貸してくれました》
《サスカルさん!?》
《詳しい話は後ほど。立てますか?》
シュウが差し出した片手をユウマが取る。握り返された力があることに安堵して、シュウはユウマの身を引き起こす。以前にも同じようなことがあったと思いながら。
《
……
シュウさん、その姿は
……
》
《ゼ・ズーの一派にレポ星人も関与しているのでしょう? 私にも浅からぬ因縁があります》
《
……
でも》
《何より、この姿なら君に守られているだけではなくなる。私も君を助け、君とともに闘うことができます、ユウマくん》
《シュウさん
……
》
そこに、いったん後退していた敵の攻撃が再び向かってきた。
《とにかく、まずはこの場を切り抜けましょう!》
ユウマもそれ以上は言葉を飲み込んで、頷いた。
それを確認して、シュウはユウマと並んで敵に向き直る。
決戦の幕が上がろうとしていた。
◇◇◇
視界が歪んだ、と一瞬だけ目を閉じて再び開けたら、そこは見慣れたSKIP星元市分所が入るビルの前だった。
(せっかち過ぎではないですか、サスカルさん)
闘いが終わって、お互いの無事を確かめあって、さあ状況を話し合おう、と思っていたところだった。
「あまり時間に干渉しすぎるのも良くないのでな」という声は聞いた。そして気付いたら今だ。
シュウはいつものスーツ姿で、手には自分のアタッシェケース。過酷な闘いの痕跡は何も残っておらず、宇宙科学局の執務室を出てそのまま真っ直ぐ分所に来たようなテイだ。
だが執務室を出たときとは異なることがひとつあった。
スーツの内ポケットにある四角い感触。スーツの上からそこに手を当てるとわずかに熱を感じる気がする。
それは、これまでのことが夢や幻覚ではないという証し。
(この記憶は、もう絶対に手放しません)
上着越しにキューブを握ってから、シュウはビルの階段に足を掛ける。
「あ、シュウさん! お疲れ様です。わざわざありがとうございます!」
「
……
ユウマくん」
分所の扉を開けるといつも通りの爽やかな声が迎えてくれる。ユウマの明るい笑顔に、強張っていた肩の力が抜けていく気がした。
そうだ。つい先ほどまでシュウが一緒に闘っていたのは、数ヶ月前のユウマとアーク。
彼らはあの闘いを終えて、無事にアークの故郷の問題を解決して、そしてこの星元市に戻ってきているのだ。
「すみません、遅くなりました」
「そんなことないですよ。聞いてた時間どおりです」
「
……
ああ、なるほど、そうですね」
腕時計を確認して理解した。シュウがサスカルと出会って試練に費やした時間も、欠落していた記憶を取り戻した時間も、そして過去のユウマたちを助けにいっていた時間も、時計の上ではすべてなかったことになっている。
「シュウさん
……
?」
「ユウマくん。少し話したいことがあるのですが、良いでしょうか?」
「
……
はい?」
サンプルの受け渡しを終わらせてから、シュウはユウマを屋上に誘った。
オレンジ色の柵に手を掛け、遠くの景色を見る。かつては視界に必ず入っていたモノホーンがなくなっていることが、改めて大きな変化に思えた。
ユウマが隣に立ったのを確認して、シュウは口を開く。
「実は、さきほど分所に来る前まで、アークの故郷の銀河にいました」
「
……
っ!?」
ユウマの目が大きく開かれる。
話す順番を間違ったかもしれないとシュウが次の言葉を迷っている間に、ユウマは状況を理解したようだった。
「
……
あのときの黒いアークは、今日のシュウさんだったんですね」
「はい。結局あの場では詳しい話をする余裕もなかったのですが。今日、宇宙科学局を出たところでサスカルさんとお会いして、キューブとアライザーを受け取り、過去のユウマくんとアークのところまで連れて行ってもらいました」
「いろいろひと段落した後にサスカルさんに頼まれたんです。何かあったときのためにアライザーをもう一つ作れないかって。アークと相談したら二つに分けられたんですが、それがシュウさんに渡されたんですね」
サスカルが正規の手段と言っていたのはそういうことか、と腑に落ちる。
「
……
あのときはサスカルさんがただシュウさんを連れてきてくれたんだと思っていました。でも、僕が地球に戻ってきたとき、シュウさんは黒いアークのことを覚えていない様子だった。だから、また記憶が消えてしまったんだと
……
」
柵に乗っていたユウマの手が、柵を握り込むのが目に入った。
シュウの記憶がなくなっていると思ったユウマの気持ちを想像して、シュウも手に力がこもる。
初めて黒いアークになった後と、ユウマが地球に帰ってきたときと。二度もそんな想いをさせてしまっていた己の不甲斐なさが腹立たしい。
「サスカルさんのおかげで、消えていた記憶を取り戻すことができました」
「やっぱり、サスカルさんにはお世話になりっぱなしだなあ。僕が過去の僕を助けに行ったのと同じように、シュウさんも過去の僕を助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「いいえ、どちらかというと思い出すのがとても遅くなってしまったことを、私が謝らないと」
(もっと早く思い出していたら。そもそも忘れていなければ。ユウマくんを独りで旅立たせることもなかったかもしれないのに)
いまさら言ってもしょうがないこととはいえ、そんな考えも過ってしまう。
「いえ、そんな。シュウさんがあのとき来てくれなかったら、あの闘いに勝てなかったかもしれないですし」
「少しでもユウマくんとアークの役に立てていたなら何よりです」
「少しどころじゃないですよ! とっても助かりました!
……
ただ」
慌てて手を振っていたユウマの顔が、ふいに翳った。
柵の向こうに身体を向けてシュウから視線をそらす。
「ただ、もう一度シュウさんを黒いアークに変身させてしまったな、と」
ユウマの声に後悔が滲む理由がわからなくて、シュウはユウマの横顔を見つめる。
「ユウマくんは黒いアークの存在が許せませんか?」
「
……
いいえ! そんなことないです!」
シュウの方に向き直ったユウマの瞳は、いくつもの感情に揺らいでいた。
「シュウさんが黒いアークになってくれたことは嬉しかった。本当です。一緒に闘って、みんなを守って。僕とアークだけじゃない。ともに走れる人がいるっていうのがとても心強くて
…………
でも。シュウさんは、またあの黒いアークの姿になって、苦しかったんじゃないかって。シュウさんが苦しんでしまうのなら、僕はシュウさんに黒いアークになってほしくない」
掠れて消えてしまいそうなユウマの声音に、返す言葉がすぐには出てこない。
「
……
君は、本当に
……
」
シュウは微笑んだつもりだったが、眉根によけいな力がかかってうまくいかなかった。
(相手の胸の裡を思い遣る。出会った時からずっと、変わらないんですね)
深く息を吸って、声の湿りを逃す。
「確かに、黒いアークになることに苦悩がないわけじゃありません。あの姿は私の過去の弱さが元になっていますし、あの姿で、人々を、そしてユウマくんまで傷付けてしまった。それは私の罪として抱えていくものです。けれども、変身することに苦悩があるのは、ユウマくんだって同じではないですか?」
ユウマが目を見開き息をのむ様子に、シュウは目を細める。
「アークになったユウマくんにも苦しいことはあっただろうし、ユウマくんの変身を見守るアークにも悩むことはあったでしょう。それでも君たちはみんなを守るためにアークになって闘ってくれた。私もそれと同じです。あの姿になって、みんなを守るユウマくんを守れるのであれば、私は変身することを選びます」
「
……
シュウさん」
ふと、何か大きなものにそっと包まれた気がした。
見上げたときには、既に消えていた感覚。
ほんの一瞬だったけれども、それはかつてあの屋上で同じように感じたもので。
「
……
アーク
……
?」
ユウマが同じように空を見上げて呟いた名に、自分だけの気のせいではなかったと知る。
ふたりを優しく抱きしめてくれた大きな存在に、シュウは気持ちを受け止めてもらったと思った。
そして自分を不器用に抱え込むもうひとつの存在に想いが至る。
胸元に入っているキューブを片手で押さえる。
「
……
ギルアーク」
「え?」
「そういえば黒いアークにはまだ名前がありませんでした。“ギルアーク”、と呼ぼうと思います」
「ギルっ、て」
眉をしかめたユウマに、シュウは安心させるように笑顔を向ける。
「あの姿は私の犯した罪の結果です。でも、私はもうあの闇に飲み込まれるつもりはありません。そしてこの記憶も絶対に手放しません。もう二度と、ユウマくんを傷付けないためにも」
「シュウさん」
「過去の行いを残すための名前ではありません。この気持ちを忘れず、先に進んでいくための道標として、私は私の半身の名前を呼びます」
シュウとユウマの視線が交わる。
静かな、だが力強いシュウの眼差しを受けて、ユウマの瞳からも揺らぎが消える。
「
……
わかりました。あなたがそう決めたのなら、僕はその想いを受け入れます」
仕方ない、というように頬を緩めたユウマの顔が、いつもより大人っぽく見える。もしかしたら彼の中にいる存在の心も重なっていたのかもしれない。
「一緒に、走っていきましょう。みんなで、先に向かって」
ひとりで苦しみを抱え込まないように。ともに分かちあって。
言葉にはされなかったけれども、その想いはシュウに伝わってきた。
お互いにゆっくりと頷きあう。
「ありがとうございます、ユウマくん」
ユウマは照れたように笑って、オレンジの柵に両手を置くと、ぐんと身体を伸ばした。
「でも、無茶だけはしないでください。シュウさん意外と突っ走るから」
「ユウマくんに言われたくありません。
……
大丈夫ですよ。これでもサスカルさんの試練に合格してますから」
「え!? サスカルさん、シュウさんと黒いアークを連れてきてくれただけじゃなく、シュウさんにも試練を受けさせてたんですか!?」
「ええ。ギルアークの記憶を取り戻すために」
「サスカッチ! っていう、アレですよね」
「賑やかな方でしたね」
「賑やかだし、強引だし、せっかちだし」
「同意しかありません」
「ですよね! いろいろとお世話になってるけど、もうちょっとこっちの都合も
……
」
話しながら、二人はその場を離れていく。
誰もいなくなった屋上を、初夏の明るい風が吹き上げていった。
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