無窓居室
2026-04-20 02:45:08
2122文字
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春眠

春の夜に別れの夢を見る😈と👹。たぶん恋人になってる設定です。



 彼女と一緒に歩いている。少し遅れてついて来る。二人の進む方向は一致していて、たまに振り返るたび彼女が微笑んでくれる。
 そんな光景があまり永く続くので、これは夢だなと分かってしまう。アカネを夢に見ると大抵こうして終わる。
 
 目を開けると赤い髪がそばにあった。思わず触れようとしている自分に驚いて、そんな驚きも何度目かになる。
 愛情、と他の生き物なら迷いなく呼ぶのだろう執着は、悪魔の身にはいつまでたっても馴染まない。
 夜はまだ深い。

 アカネの透明な優しい魂がいつまでも悪魔のものでいないだろうことをブラックは知っていた。いずれ自分の手をすり抜けていくことを含めて彼女の可能性のすべてを肯定する。ブラックにとってアカネを愛するとはそういうことだ。
 彼女に惹かれた瞬間、その魂も命をも自分のものにしてしまう愛し方もできた。それを選択しなかった理由が、今はもう分からない。無邪気な寝顔をこうして見つめていることが、なにか当然の帰結のように思う。

 見ていると見るだけの方が良い気がして、髪に伸ばしかけた指を引こうとした。するとアカネが寝息に混じって呟く。

……ブラック……
……
 
 ここにいますよ、という意味を込めて、枕の上に投げ出されている手を握った瞬間だった。

「ッ!?」

 寝返りと共に飛んできた蹴りがまともに胴に入って息が止まる。アカネの寝相に対する警戒をうっかり忘れていた。いくら最強の悪魔とはいえ鬼の脚力を無防備に受けてはこうなるのだと、妙に冷静な判断力で思い知る。

「あれっ、ブラック……どうした?お腹痛いの!?」

 自分で当てた蹴りで目を覚ましてしまったようで、アカネは跳ね起き心配そうに覗き込んできた。まだしばらく、しっかりした返事はできそうにない。

「冷えちゃったのかな、湯たんぽ持って来る?」
「ぃえ……むしろ、冷やした方が……打撲、ですから……
「なに言ってんだ、風邪ひいちゃうよ!」

 やっとのことで返した言葉の後半は彼女が聞いていなかったのか、ブラックが音にできなかったのか。丸めた体を掛け布団の上から抱きしめられて、湯たんぽよりこちらの温かさの方が良いと思った。
 そのことは口に出さなくても伝わったらしく、柔らかい声が降ってくる。

「眠れそうなら、このまま寝ちゃいな……朝ごはんはおかゆを作るから」

 布団越しに撫でてくる繊細な手つきは、先ほどまでの寝相と同じ人物のものとは思えない。
 やがてやって来るのが別れでも、こうして予想を裏切られ続ける愉しみをもう握り潰せはしないのだと、ブラックは誰にも見せない笑い方をシーツの中へ隠した。


  2025/05/30