jerry-fish
2026-04-18 16:34:36
5552文字
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モグラくんと真木くん

モグ→真木
この話(https://privatter.me/page/69c8f1a6edde2) の続き。
灯の使い過ぎで小さくなったモグラさん、ようやく中学生くらいになりました。
まだまだごめんなさいされ続けています。
この話がどこに向かうのか私もわからない。助けてほしい。
これだから見切り発車暴走鈍行はの気持ちで書き続けている。

モグラが小さくなって一ヶ月がたったその日、モグラの身長が八重子を超えた。二人を出迎えたモグラが、真木といつものやり取りをするのを待ってから八重子が口を開いた。
「とうとう抜かされちゃいましたか」
「八重ちゃんと同じ目線で話せたのは新鮮だったよ」
 穏やかに笑う八重子に、モグラも微笑んだ。
「真木くんよりはまだ小さいね」
 八重子はそう言うと二人を並んで立たせる。真木よりも頭一つ分小さい八重子より、少しだけ大きいモグラを見て、真木は小さく眉を寄せた。
「徐々に近づいてくる感じが、仕方ないとはいえちょっと嫌だ……
「なんでだよっ! せっかくここまで近くなったのに!」
「モグラが悪いわけじゃないんだ。ただ……クソな弟に、身長を抜かれた時を……思い出して」
 ショックを受けた様子のモグラに、真木は申し訳なさそうに眉間にしわを寄せてそう小さく言った。真木の心情を理解した八重子とモグラが「あー」と声を出した。脳裏をよぎるチャラい弟に、真木はさらに眉間の皺を深くする。
「アイツが悪いわけでも、ましてモグラが悪いわけでもないんだけど……それはそれとして複雑な気持ちになるのは許してほしい……
「いや、うん。そりゃしょうがねぇよ。元気出せ、な?」
「大丈夫だよ真木くん。真木くんは梅ちゃんより器が大きいんだから」
 俯く真木の背中をモグラと八重子は両側から優しくさすった。しょんぼりとした真木を慰めながら、モグラは眉を下げる。
「でも、それならしばらくは来れないか?」
「それは……別に、こうやって並ばなきゃ気にならないし……。なによりモグラの成長を倍速で見てるみたいで結構面白いから来るけど……
「会いに来てくれるのは嬉しいが理由がそれって……。好奇心が旺盛すぎやしないか? 真木ちゃんよぉ」
 呆れ顔でわしわしと頭を掻くモグラに、私もその気持ちわかるなぁと八重子が同意した。
「いや、実際面白いんですよね。数日会わないだけで大きくなってるモグラさん、なかなか会わない親戚の子の成長見てるみたいで」
「八重ちゃんまで……
 眉を下げてしょっぱい顔をするモグラに、二人は悪びれずにごめんと笑った。そのまま三人車座で腰を下ろす。
「まあ、二人が来てくれるのは嬉しいから理由なんざなんだっていいけどな」
 にかっと笑うモグラに、できる限り来てるだろうよと真木は困ったように眉を下げた。
「本当なら真木には泊まってってほしいくらいなんだぜ、俺は」
「自宅じゃないのにそう言うことを言うなよ」
 モグラの言葉に、真木は呆れたようにそう返した。そんな真木に、後ろから声が掛かった。
「いや、本当に真木くんには泊まってほしいと思うくらいだ」
 慌てて振り返ると、そこにいたのは藤史郎だった。
「教授! お邪魔してます」
「お邪魔してます」
 真木と八重子が二人で頭を下げると、いやいい頭を上げなさいと言って藤史郎もそのまま部屋に入り、モグラから少し離れた位置に座った。
「良いのか藤史郎。真木泊めても」
「ああ。というか、真木君が泊まってくれると私としても助かる」
 目を丸くして改めて言うモグラに、藤史郎はため息をつきながらそう言った。
「本当なら桐原さんにも泊ってほしいところだが、学生とはいえ女性を我が家に泊め続けるのは外聞が悪い。桐原さんの評価に傷がついても良くないだろう。どうだ、真木くん。君だけでも泊まっていかないか?」
 ややげんなりした様子の藤史郎に、真木は困惑を目いっぱい顔に浮かべて「えぇ」と小さく言った。
「その、なんで俺に泊まるように言うんすか? モグラが俺に言うならまだしも、教授に言われる理由が全然思い浮かばなくて」
「このアホが原因だ。真木くんと桐原さんがいるとコイツの好意も関心も全面的に二人にいくから実に快適だ。二人がいない間アホの駄弁に付き合わされて非常に疲れる」
 真木の疑問に、大きくため息をつきながら藤史郎が答えた。それにモグラは眉をわずかに寄せて「言い方……」とぼやく。モグラはほかにも言いたいことはあるが、自分が世話になっている自覚があるだけに何も言えないという顔をしていた。
「お前が少しでもおとなしくしてくれるならここまで言わない。言わせたのはお前だ、モグラ」
「教授バチ切れじゃないすか……。え、でも俺が泊まったところで落ち着くのはその間だけなんですよね?」
「そうだな。だからコイツが抽斗に戻っても問題ないくらいに成長したら早めに帰宅させたい。だが、現状ではまだ厳しいだろう。まだ中学生程度だ。だから、コイツが真木くんと同じくらいになるまで我が家に泊まってほしい。その間の生活環境については我が家で保証しよう」
 藤史郎はいつも通りの無表情だが、妙な圧が感じられて真木は少しだけ身を引いた。別にイケブクロさんが威嚇しているわけでもないのになぜと思うも、居心地が悪くなった真木は顔を俯かせる。
「藤史郎、真木をビビらせんなよ。可哀相に」
 真木の隣ににじり寄ると、真木を抱きしめてその肩に頬を寄せた。その頭を真木はぐいっと手で押して離す。
「いや誰が原因だよ。お前が教授を追い詰めたせいだろ」
「そうだぞモグラ。お前は黙っていろ。で、どうだ真木くん。今からであればおそらくは長くとも二週間。その間の食費は保証するし、水道代だって浮くだろう。二週間分となればそこそこ大きい金額になるはずだ。ついでに、毎食後に林檎をつけよう」
 リンゴと聞いて真木の頭の後ろに隠れていたマギー君がひょこりと顔をのぞかせた。真木はわずかに眉間にしわを寄せる。食費や水道代が二週間浮くうえに林檎までつくのは魅力的だが、あまりにも世話になりすぎて申し訳ないと思ってしまう。
「それでだめならバイト代を出そう。一日につき一万円。もちろん先ほど言った通り食費水道代は別でこちらもちだ」
「条件好過ぎて怖いです……。あとバイトもあるから毎日泊まりは無理です……
「そこをなんとか!」
 冷や汗をかきながら首を横に振る真木に、モグラが拝むように両手を合わせた。
「君の働きに見合う報酬を用意する準備がある。頼めないだろうか」
 藤史郎は有無を言わせぬ表情で真木をじいっと見つめてそう言った。
……あの、じゃあ、顔は毎日出すので……泊りはバイトが遅番の時だけじゃダメですかね……?」
「わかった。それで手を打とう。真木くん、振込先口座を教えなさい」
「いいいいりません! 食費が浮くだけで充分ですっ!」
 藤史郎の言葉に真木は勢い良く首を横に振った。
「もらえるもんはもらっとけよ、真木。それで買い食いでもしようぜ、学生らしく!」
「お前は学生じゃねぇし顔見られたらまずいから引き籠ってんだろうがっ!」
 モグラが肩を組んで真木に言えば、真木がそう叫ぶように返した。
「ああ、そうか。君はまだ扶養範囲内か。年収の壁を超えるわけにはいかないということだな。よろしい、こちらで君の働きに対する正当な報酬として預かっておこう」
「あずかられても困るんすけど……。本当に食費が浮くだけで助かるので……。あ、じゃあその分はモグラに渡してください」
「それはだめだ。こちらで預かっておくので飲み会の時の費用にするといい。それと、君はモグラを甘やかしすぎるきらいがあるから気をつけなさい」
 話は以上だ、今日も夕食を食べていきなさいと言うと藤史郎は部屋をあとにした。
……ねえ、俺そんなにモグラを甘やかしてる?」
「真木くん……?」
「嘘だろ……?」
 藤史郎の言葉に、真木は眉を下げて訝し気に八重子とモグラに問う。そんな真木に、二人は目を丸くして信じられないという表情を浮かべた。
「八重ちゃんが言うならまだしも、お前も言うのかよ」
「悪い。でも、確かに結構いろいろ融通利かせてくれるなぁとは思ってたんだよ。ちょっと人が良すぎねぇか? って」
「なら自制しろよ……
 お前が困ってると思ってできることはしてやってるけどと表情を歪める真木に、モグラは気を付けると小さく謝った。
「俺も気を付けるから。八重ちゃんも、俺がまたやってたら教えてくれる?」
「もちろんだよ」
 にこりと微笑む八重子に、真木は安堵の笑みを浮かべた。モグラの表情が少しだけ引きつっていたのを、真木は気づかなかったことにした。

 *   *   *

「お疲れさまっしたー」
「はーい、気を付けて帰ってねー」
 店長にそう言われながらバイト先から出て、本当に行っていいのかななんて思っていたところで「真木!」と声が掛かった。そちらを見ればガードレールに寄りかかったパーカーを深く被った子供がいた。モグラだ。
「モグラ? なんで?」
 目を丸くして真木が問えば、モグラはにこりと笑って「お前が逃げないように」と語尾にハートマークでも付いてるんじゃないだろうかという甘い声で言った。そのままガードレールからその身を離すと真木に近づく。
……教授とも約束したし、逃げねえよ。それより、こんな時間にこんなとこいたら補導されるぞ」
 呆れながら、少しの心配をにじませて真木が言えば、モグラはにたりと笑う。
「この時間、ここら辺は安全なんだ。巡回ルートから外れてる」
「なんで知ってんだよっ!」
「まあ、なんだ。俺のような風体の男ってのは、職質の対象ってこった。知らなきゃ落ち着いて灯集めもできやしねえ」
 諦念と自嘲をないまぜにしたようなモグラの物言いに、真木はぐっと言葉に詰まる。
「さて、行こうぜ真木! 猫附までデートだ!」
 先ほどとは一転して弾むようなその声に、真木は呆れてため息をついた。そのまま二人並んで歩きながら会話を続ける。
「デートじゃねえだろ、付き合ってないんだから」
 苦笑するような物言いに、モグラはとととと真木の前に回るとにぱりと笑った。
「じゃあ、俺と付き合ってくれ! んで、あの世に往ったら結婚しよう!」
「ごめんなさい」
「だめかぁ」
 飽きないなと真木が言えば、飽きるわけねえだろとモグラが返す。また二人でいつものように横に並んで歩きだす。
「真木こそ、ずいぶん意固地だな」
「俺は中学生とお付き合いするつもりはねえよ」
「あー! 早く真木と同い年くらいにならねえかなぁ!」
 モグラはそう言うと頭の後ろで手を組んだ。やや不貞腐れたような顔に、真木は思わず小さく笑う。それからふと気づいた。
「そういや、言ってたよりもちょっと成長が遅くないか? 今頃には高校生くらいにはなってるはずって言ってただろ」
「いや、あんまり真木が成長痛で脅すもんだから……ちょっとゆっくりになるように意識してる」
 真木の言葉に、モグラは少しばつが悪そうに小さくそう言った。そんなモグラに、真木は目を丸くする。
「そんなことでできんの!? 便利だな」
「成長痛に苦しんでももう少し早めに成長すればよかったって、今は思うぜ」
 苦々し気にぼやくモグラに、真木は小さく首を傾げた。
「なんで? おかげで今成長痛ないんだろ」
「ないな。けど、真木が泊まるってのに何もできやしねえ」
「事案っ! 俺を犯罪者にするつもりかっ!」
 モグラの言葉に、真木は時間も忘れて叫ぶように言った。
「真木ッ! シーっ!」
「うわ、悪い!」
 慌てるモグラに、真木は思わず自らの口を手で覆った。二人はきょろきょろとあたりを見渡すも、しんと静まり返ったままだ。それに二人同時にホッと胸をなでおろす。
「お前が変なこと言うからだぞ」
 むすりと唇を尖らせる真木に、モグラはフードの上から頭を掻いた。
「悪い、そこまで過敏に反応するとは思わなくて」
「するだろ。俺は絶対にショタコンだと思われたくない」
 まったくと言いながら真木は猫附へ向けて歩き出す。モグラもそれに続いた。真木はモグラの様子を見ながら少しだけ歩調を緩めている。モグラはそれに気づくと、一瞬目を丸くしてその頬をほわりと染めた。
「合わせてくれてんの?」
「そりゃそうだろ。今はお前の方が小さいんだから。早かったか? それとも遅すぎた?」
「や、歩きやすい。でも、そうか。合わせることはあっても合わせてもらうことって少なくてな。いやなに、ちょっと……うん、嬉しいもんだな」
 真木の気配りに、モグラはもにょもにょと嬉しそうに口元を歪める。そんなモグラに、真木はだよな、わかるとふっと表情を緩めた。
「だって、モグラもいつもそうしてくれてるもんな」
「まあ、な」
「俺もさ、こうやってモグラと並んで歩きながら話すの、楽しいと思ってるよ」
 街灯に照らされた真木の顔が柔らかく笑っていて、モグラは思わず見惚れてしまう。
「マジで? 楽しいって、思ってくれてんの?」
「うん。というか、お前の話聞くの好きだよ、俺。知らないこといっぱい知ってるし、お前声もいいだろ? 聞いてて飽きないんだよな」
 何でもないことのように告げられて、モグラはぶわりと頬に熱が集まるのを感じた。
「それは……口説き文句が過ぎるだろ……。え、ここまで言ってくれてるのにダメなの? 付き合ってくれねえの?」
「それとこれとは話が別だろ」
 ショタコンじゃないと、真木は何度目かわからない言葉を口にした。
「なあ、真木。それさ、そんなに言うってことは、俺の年齢が上がればって、思っていいのか?」
 モグラはおずおずと、ためらいがちにそう口にした。そんなモグラに、真木はにやりと笑って見せる。
「さあ、どうだろうな」
 真木の表情と言葉ににモグラがぱっと表情を明るくしたのが、夜の道でもよくわかって真木は思わず破顔した。