とむぢ
2026-04-17 23:02:25
14843文字
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グッドモーニング・スイートハート/G▲▽

朝の風景シリーズ G▲▽ver.
本編ノータッチの双子がどこかでプラズマ団の事を知ってたらいいなという願望のようなもの
※捏造過多(幼少期など)
※双子で恋人(パートナー)な▲▽(できてる)
世界で一番大切な人となんで結ばれちゃダメなの?って素で思ってるタイプのG▲▽



 今月の料理担当はノボリだ。ちなみに1ヶ月前はクダリ。来月にはまた食事を作る担当をチェンジすることになっている。ギアステーションに泊まり込む日は当然だが料理が出来ず、お湯を入れて3分で出来るインスタント麺やエネルギー補給ゼリーなどで流し込むように食事をするのだが、二人で家に帰れる日はなるべく自炊するようにしていた。パジャマを着替えたノボリがキッチンに立つ。そして熱くなったフライパンにラッキーのたまごを落とした。これはクダリの分の目玉焼きだ。ノボリはゆで卵派なので、同時進行でゆで卵を作る準備もする。ちなみにラッキーのたまごはライモンシティ内のスーパーに並んでいるものを、安くなっているときに買い込んでいる。たまごは特に高いので、セール中に狙うのが吉だ。目玉焼きとゆで卵を準備しながら、ノボリは慣れた手つきでポップアップトースターに二人分のパンを差し込み、カチカチとダイアルを回した。次第にパンが焼ける香ばしい良い匂いがしてくることだろう。
 ノボリが食べ物を用意しているすぐ近くでは、同じく着替えたクダリが二人分のインスタントコーヒーをつくっていた。モーニングルーティンをそつなくこなすには、役割分担が重要だった。攻撃担当のポケモンをサポートするわざを繰り出して、有利な戦況に持っていく、クダリが得意とするダブルバトルと同じ要領だ。協力し合うことが朝の時短に繋がる。他にも日常生活を送ったり他人と接したりする中で、気を付けるべきことがポケモン勝負とほぼ同じなのだと二人が理解したのは、サブウェイマスターになってからだ。日常生活で起こるあれこれをポケモン勝負に置き換えることで、二人は“常識”と呼ばれるルールが蔓延る社会に違和感なく溶け込めるようになった。と言うのも、自分たち双子は他の人たちとはどこか違うと感じながら、これまでノボリとクダリは生きてきたからである。
 
 二人はエレメンタリースクールに通っていた頃からポケモン勝負中心の生活を送っていた。実際に彼らにはポケモン勝負の才能があった。ただひとたびバトルから離れると、二人の言動は途端にぎこちなくなった。人に合わせるということも知らないので、周囲に馴染めるはずもない。常に何を考えているのか分からない無表情の兄と、常にたどたどしい口調で話す笑顔の弟。そんなバトル好きの双子に対して同年代の子供たちは、関わりたがらなかったり面白がったり不気味がったりと多種多様な反応を見せた。とにかく近寄り難い印象だったのは言うまでもない。友達もろくに作らず、二人がポケモン勝負ばかりに夢中になるものだから、両親にさえ心配されたくらいだ。そしてこの頃からノボリにとってクダリが、クダリにとってノボリが唯一無二の理解者であった。魂を分けた鏡写しのような片割れがいたから、孤独感に襲われることはただの一度もなかった。

「♪♪♪」
 上機嫌に鼻歌を唄うクダリは、ノボリ専用のマグカップにティースプーン山盛り1杯入れて、そこに沸かしたお湯を加える。コーヒー特有の苦味を感じる香りが広がった。甘党なクダリはコーヒーよりミルク多めのカフェオレの方を好むので、電子レンジで湯気が出るほどアツアツに温めたモーモーミルクに、インスタントコーヒーの粉をティースプーン1杯分入れて、ぐるぐると掻き混ぜる。昔は力加減を間違えてよく掻き混ぜる際に中身を零していたが、今はそんなヘマはしない。出来上がったカフェオレの中に、スティックシュガーを贅沢に3本入れて今度こそ完成だ。クダリが朝の飲み物を用意し終えた頃、先程セットしたポップアップトースターから綺麗に焼きあがったトーストが元気よく飛び出てきた。手が空いたクダリは、キッチンの一番端にある棚からポケモンフードを取り出す。遠く離れたカントー地方の有名な大企業・シルフカンパニーが手掛けた、どんなポケモンでも栄養が偏らずに摂れるポケモン用のご飯だ。味も色々あって、今日あげるのはサラダ味だ。ポケモンたちへのご飯は、どちらか先に手が空いた方がやると決めていた。
「ノボリ、みんな出していい?」
「勿論です! きっとお腹を空かせて待っていることでしょう」
 二人で共有して手持ちとしてカウントしているポケモンたちも含め、とある一体を除いた全てのモンスターボールを、左手でふわりと宙に浮かせるように軽く投げて繰り出す。光と共にリビングに現れた頼れる相棒たちの目の前に器を一つ一つ用意して、そこにポケモンフードを入れていく。すると腰に下げたモンスターボールから視線を感じて、クダリがボール越しに謝る。一体だけ残されたのはダストダスだ。
「おなかすいた? ごめんね。あともうちょっと我慢できる?」 
 ダストダスには家庭内とギアステーション内で出た生ゴミをまとめて食べてもらっている為、申し訳ないがいつもみんなより食事の時間が遅くなる。一日一食だが、そのぶん量も多い。ダストダスは自分が入っているモンスターボールを小さく震わせて、クダリからの問いかけに肯定の返事を返したようだった。
「いいこ」
 目を細めて優しく笑ったクダリが、日頃の感謝の気持ちを込めてモンスターボールを撫でた。その足元では、ポケモンフードを床に撒き散らして豪快に食べるアーケオスやシビルドン、フードをとにかく細かく刻んで食べるアイアントやイワパレス、ほんの数粒で満腹になって既に毛繕いをしているデンチュラがいる。するとさっきまでクダリの手から直接フードを与えてもらっていたシャンデラが、全身の炎を激しく燃やし始めた。美味しくてテンションが上がっちゃったのだろう。紫色した綺麗なシャンデラの炎が、クダリの目の前でゆらゆらと怪しく燃え上がる。あ、まずい、とクダリが思ったときには既に遅い。催眠術だ。一度これを間近で見てしまったら、是が非でも催眠術にかかってしまう。クダリの視界が一瞬だけガクンと暗くなるが、立ち眩みがしても鍛え抜かれた体幹でフラつくことはなかった。ポケモン勝負が好きな人は勿論、バランス感覚や体幹を鍛えたい人も是非バトルサブウェイに挑戦してほしい。
「ぼく、生気すっごい吸われてる」
 絶対に笑っている場合ではないクダリが、自分の身に起きている現象をノボリに実況する。ゴーストタイプのシャンデラには人間の生気を吸い取ってしまう特性があった。しかしそれはシャンデラがシャンデラとして生きる上で仕方がないことで、ダストダスが生ゴミからしか栄養を取り入れられない体をしていることと同じだ。叱ってやめさせるなんてストレスを与えるような可哀想なことは出来ない。シャンデラもといゴーストタイプのポケモンを手持ちに加え、彼らから力を借りるのならば、相応の覚悟が必要である。
「なんと! お待ちくださいシャンデラ、吸うならわたくしとクダリの半々にしてくださいまし! そちらの方がよりブラボーです!!」
 未だに生気を吸われながらふわふわと笑っているクダリのところへ、どこかズレたことをハキハキと言いながらノボリが早足で突っ込んできた。朝食を皿に盛り付ける手は一旦止めたらしい。声はよく通るのに足音は立てないせいで、いきなりクダリの隣まで瞬間移動したように見えるノボリにシャンデラは驚いたらしい。ついうっかりクダリへ掛けてしまっていた催眠術を止めて、燭台みたいな腕をあたふた動かし始める。それが何やらノボリに言い訳しているようにも見えた。まるで人間みたいなシャンデラの仕草にクダリが笑い、その横でノボリが不思議そうに小首を傾げる。
「シャンデラ、どうしました? わたくし吸うのを止めろとは一言も言っておりませんのに」
「ノボリ、たまにゴーストポケモンよりゴーストポケモンみたいなときある。怖がらせるの上手」
「まさか……!? ギアステーションで目が合ったお子様を高確率で泣かせてしまうのはそのせいですか? 笑いかけているつもりなのですが……。わたくし、流石に人間の魂を吸ったことはございませんよ?」
 悲しそうな様子だが、ノボリの表情は依然として無表情のままだ。喜怒哀楽の感情が激しい割に、それらが表情には全くと言って良いほど出ないノボリは、初対面の子供に怖がられることが多い。逆にクダリは初対面の大人に警戒心を抱かれやすい傾向にある。とは言え幼少期から成人期に至るまで、周囲から色んな意味で不気味だと言われ慣れた双子の兄弟だ。今更他人にどう思われようが本気で傷付くことはないし、本当に怖いものなど互いを失うこと以外に何もない。

 トレーナーより先に腹ごしらえを終えたポケモンたちをボールに戻したクダリは、リモコンのボタンを押してテレビの電源をつけた。テレビの液晶画面に映し出されたのは、いつもこの時間帯から放送しているニュース番組だ。ほんの数年前までは外の出来事に興味を持てなかった二人だが、駅員からサブウェイマスターに昇進し、多くの部下を持つようになったことで、それなりに世間話をする機会も増えた。今までみたいに双子だけの世界に閉じこもっていては、人の上に立つ立場の人間として示しがつかない。そこで少しずつ外の世界のことも知っていこうと双子会議を開き、意見を出し合った結果、クダリが思い付いた案が朝のニュース番組を見ることだった。その為だけにわざわざ家電量販店まで二人で行ってテレビを買ったくらいだ。そういった経緯があり、今日もニュース番組を流しながら朝食をとり始める。家を出る時間まであと残り1時間もない。しかし食べること自体にそこまで時間は掛からないので、今のところ遅刻する心配はない。
「それではいただきます!」
「いただきます」
 ノボリはこんがり焼きあがったトーストにバターだけを塗り、クダリはバターを塗った上から甘い木苺のジャムを塗り込んだ。甘いものが好きなクダリの為に、他にもピーナッツバターや蜂蜜、チョコレートやマーマレードなどもテーブルの上に用意している。中身の減ったジャムの瓶に一瞬視線をやってから、ノボリがクダリに話し掛ける。
「クダリは本当にそのジャムが好きですね」
「うん。チョコもはちみつも好き。毎回同じ味じゃつまらないから、前の日と被らないようにしてる」
「存じ上げておりますとも。では次の休日にでもまた買い足しに行きましょうか。ついでにクダリの口に合う新しい味のジャムも探しすといたしましょう!」
「うん、行く! あとね、洗剤とバスボムも買わなきゃ」
 休日の約束をして、上機嫌な笑顔で甘いトーストを頬張る。ノボリはクダリの笑顔を、手を伸ばせば簡単に触れることの出来る特等席で見つめながら、湯気の出ているブラックコーヒーに口をつけた。甘味の良さは一生分かる気がしないが、甘味を食べて嬉しそうにふにゃりと破顔するクダリの愛らしさは、きっとこの世の誰よりも分かっている自信がある。クダリの笑顔は今日もスーパーブラボーだ。ノボリはこの世界に存在するありとあらゆる甘味に感謝しながら、バターが程良く溶けたトーストを頬張った。その時だった。
『──それでは次のニュースです。イッシュ地方の各地でポケモンを解放すべきだという声が上がっています』
 朝食の風景を彩るBGMでしかなかった、テレビから流れるニュースキャスターの声に、ノボリとクダリが同時にテレビの方へ視線を向ける。スタジオを映していた画面が切り替わり、見覚えのある街並みの映像が画面越しに二人の視界に飛び込んできた。ソウリュウシティだ。大きなソウリュウシティの街中で多くの人が集まり、その中心でよく目立つローブを着た緑髪の大柄の男が、身振り手振りを交えて何かを力説している。そしてそのリーダー格の男を取り囲むように、特徴的な頭巾を被った同じ服装の部下らしき集団がズラッと整列していた。
『われわれプラズマ団と共に新しい国を! ポケモンも人も自由になれる新しい国を作るため、みなさんポケモンを解き放ってください!』
 今テレビで流れている映像は、どうやらソウリュウシティに住む市民の誰かが人混みに紛れて撮った動画をニュース番組に提供したものらしい。映像はやがて戸惑う街の人々へのインタビューへと変わり、画面の右上には大きな字で『ポケモンの解放に賛成か? 反対か?』と書かれたテロップが表示されている。インタビュアーにマイクを向けられている人は皆、不安そうな悲しそうな顔をして質問に答えていた。中にはチラーミィを大事そうに抱き締めて答えている少女もいた。
……ノボリ」
「ええクダリ、どうやら地上で不穏なことが起きているようですね」
 相変わらず笑顔を浮かべているように見えるが、今のクダリの表情が曇っていることにノボリは気付いている。日々の生活のほとんどの時間をライモンシティの地下にある巨大な駅内で過ごしている為、テレビに映っていたプラズマ団とやらを実際にノボリとクダリは見たことがない。もしかすると彼らはライモンシティにも居たのだろうか。テレビ画面の奥では、少女が今にも泣き出しそうな瞳で必死に悲しみを訴える。
『バトルが下手で負けっぱなしの私と一緒にいるより、野生のポケモンとして暮らす方がこの子も幸せなのかもしれない。でも、もう二度と会えないなんて、そんなの嫌だよ』
 せっかく私たち家族になれたのに。とうとう少女の涙が零れ落ちたとき、腕の中のチラーミィは少女の顔を心配そうに見上げていた。そこにはバトルで何度負けても諦めずに立ち向かい、何度もポケモンセンターへ走ったトレーナーの少女とチラーミィが築き上げてきた絆が垣間見えた。画面越しでもそう見えるのは、人間のエゴかもしれない。実際は突然頭に落ちてきた涙にビックリして見上げただけかもしれないし、本当に少女を心配して見上げたのかもしれない。実際のところはあの少女の腕に抱かれているチラーミィ本人にしか分からない。そう、分からないのだ。人間同士の意思の疎通さえ上手くいかないことが多いのに、どうして喋ることが出来ないポケモンの気持ちが正しく分かるというのだろう。正解がないものを白だの黒だのと、どうして赤の他人が決めつけることが出来るのだろうか。
『ポケモンを道具のようにこき使っているというプラズマ団の主張については、どう思いますか?』
『そうですね。まず我々人間とポケモンの歴史を一から振り返ってみれば──』
 再びスタジオの映像に切り替わったテレビの画面では、名前もよく知らないコメンテーターたちが議論を繰り広げている。それを聞き流しながら、クダリが甘いカフェオレを飲み干して呟く。
「ぼくらが思ってるよりも、自由ってもっとずっと難しい」
 ダストダスがみんなと一緒にご飯を食べられないのも、人の勝手な都合。かつては野生のポケモンだった彼らをモンスターボールで捕まえて、強く育てて進化させて、バトル施設で戦わせているのも人の勝手。それが可哀想で見ていられないと糾弾するのも、或いはそれこそが本来ポケモンの在るべき姿だと主張するのも、全部人の勝手だ。けれども、ポケモンたちと毎日共に過ごしているからこそ、断言出来ることが一つだけある。ポケモンはいつだって、トレーナーの気持ちに全力で応えてくれる。だからこそトレーナーも、どんなときもポケモンと真剣に向き合わなきゃならない。そこに嘘があってはならない。そうやって信頼関係を築いていき、同じ時間を過ごし、やがて同じ目的地を目指してひた走る、かけがえのないパートナーになる。
 同時にテレビから視線を逸らすと二人の目が合った。その目を見てすぐに分かった。ノボリとクダリのポケモンに対する気持ちや考えは一緒だ。容姿も似ていれば、考えていることだって似ている。だから二人は何の確認もせず交互に言葉を発した。
「ノボリは苦いコーヒーが好き。ぼくは甘いコーヒーが好き。テレビのあの子はポケモンを家族と思ってる。プラズマ団はポケモンを解放すべきって言ってる。たぶんどっちも正しくて間違ってる」
「わたくしとクダリはポケモン勝負が大好きです。しかし中にはポケモン勝負を嫌う方もいる。色々な意見、様々な視点、対立するどちらかを完全に排除することなく、共に存在できる世界の方が……
「「面白い!」」
 最後は見事に声がハモった。クダリには目の前のノボリが自分とよく似た笑顔を浮かべているように見えた。ノボリもブラックコーヒーを飲み干して、空になったマグカップをテーブルに置く。
「無論、人やポケモンに危害を加える困った方は性根を叩き直す必要があります。自由と混沌は一見似ているようで全く違いますからね」
「プラズマ団、バトルサブウェイに来てくれないかな。ぼく待ってる。ダブルバトルが強いと嬉しい」
「ブラボーです、クダリ! わたくしもたった今同じことを考えておりました!! あれだけ大勢の人々の前で演説するほど強い志をお持ちの方です。己が向かうべき目的地も理解しておられるはず。きっと手に汗を握る最高のポケモン勝負となるでしょう!」
「ノボリ、本当はただ強い人と戦いたいだけ。目がそう言ってる」
「そのお言葉、そっくりそのままあなたにお返しいたしますよ、クダリ」
 リモコンでテレビの電源を消し、一瞬で静かになったリビングに、ほぼ同じタイミングで立ち上がる二人分の影。空っぽになったマグカップと皿をキッチンのシンクまで持って行って、軽く水洗いをしたあと食器洗浄機にセットしていく。テレビを買ったところと同じ家電量販店で買った食器洗浄機だ。こいつがよく働いてくれる。電気も消して暗くなったリビングを後にして、玄関へ向かう。同じ白いシャツに同じ色のネクタイを締めて、黒いズボンに白いズボン。外出用の帽子を被ったら、外出用の外套を羽織った。手持ちのポケモンたちも全員揃っているかどうか確かめると、いざ勤務先のギアステーションまで出発進行である。
 
 イッシュ地方全域の様々な方面への電車が行き交うギアステーションに立ち、サブウェイマスターの制帽とコートを身に纏い“地下鉄最強”の肩書きを背負う。そうすることで初めてノボリとクダリの二人は、未知の可能性を秘める挑戦者と戦う権利を得るのだ。遠くから見てもすぐに分かる、白と黒のサブウェイマスターの制服は誇りだ。ここでのポケモン勝負は生き甲斐だ。
「ボス! 挑戦者がマルチトレイン14戦目をたった今突破しました! これから駅に戻り、次の15戦目以降の車両へ乗り換え予定です!」
「ここまで辿り着く時間も最高記録を更新してます! すごい強さです!!」
 部下にあたる職員の数名に直接連絡を受けたのと、駅構内の放送による案内で、現在マルチトレインに乗車中の挑戦者が爆速で連勝中との事実を確かめる。先程まで自分たちの持ち場であるシングルトレイン、ダブルトレインに乗車していた片割れと移動中に再会し、二人は一緒に次のマルチトレインが出発するホームまで早足で向かう。
「朝話してたプラズマ団かな」
 クダリは既にワクワクが隠しきれない様子でノボリに訊ねる。対するノボリも昂る気持ちが抑えきれないようだった。
「さて、どうでしょう? だとしたら非常にタイムリーですが、どなたが来られても関係ございません。わたくしどもはただ全力でお相手し、目指すべき目的地へとお連れするだけです!」
「そうだね。ぼくたちサブウェイマスター。やるこということ、いつでもおんなじ」
 ノボリとクダリが挑戦者を待ち構えるのは7両編成の一番後ろだ。ちょうど7両目に乗れる停車位置の黄色い線の内側に立ち、あと2分もしないうちに到着する電車を待つ。ここのところマルチトレインでサブウェイマスターまで辿り着く挑戦者はいなかったので、今日は久しぶりにクダリはノボリと協力してダブルバトルが出来る。元々ダブルトレインのボスを担当するだけあってダブルバトルが得意なクダリだが、そこに大好きなノボリも加わることで更にパワーアップした力を発揮出来るというわけだ。ワクワクとドキドキで胸が高鳴るクダリに、隣のノボリが何やらまた違う意味でもソワソワと落ち着かない様子で、突然話題を変えて切り出した。
「ところで、クダリ」
 暗いトンネルの向こうから電車がやって来る。まもなく到着する。ノボリは隣にいるクダリの方は見ずに、ただ真っ直ぐ前だけを見据えていた。
「今夜……わたくし、とても楽しみにしておりますので。どうぞよろしくお願いいたします」
 スピードを落としつつホームに電車が到着する際に起こる風が、二人の白黒のコートを揺らす。1ミリも停車位置がズレることなく、目の前で開いたドアがサブウェイマスターの乗車を待っていた。たった今のノボリの言葉で今朝交わしたやり取りを思い出し、息を飲んだクダリの喉からキュッと変な音が鳴った。そうだ、約束したんだった、夜のこと。具体的なことは何も言わずに、ノボリは制帽のツバを指で下げて目元を隠すと、クダリより先に電車へ乗り込んだ。見慣れた黒い背中を目で追いながら、クダリは色々想像する。
 朝も夜も関係なく、いつもよく通る声で、しっかりハキハキと喋るノボリにしては珍しく、声が小さかった。それになんだか、話しながら言葉を探して選んでいるようにも聞こえた。もしかしてちょっと照れてる? ノボリも恥ずかしいとか、照れることとかあるんだ。
 ただ仲の良い双子の兄弟だけではなくなった今の新しい関係になって、初めて知ったノボリの一面。まだ自我が確立しきっていなかった昔のように、片割れであるノボリの考えていること全てを、完璧に読み取ることが難しくなったのを寂しいとクダリは今でも思うけれど、それだけではない。今までの関係だけでは絶対に知ることが出来なかったノボリの一面を知れるのは、とっても嬉しい。
 こんがらがっていた思考がまとまると、クダリも黄色い点字ブロックを飛び越えて乗車した。いつまでもモタモタしていると乗り遅れてしまう。電車には余裕を持って乗車すべきだ。駆け込み乗車がどれだけ危ないのかは職業柄よく知っている。ノボリはクダリが乗車したことを確認すると、二人で座席に腰掛けた。挑戦者が勝ち進んで7両目にやって来るまで、こうして座って待つことにしている。
「ノボリ」
 クダリがノボリの名前を口にした丁度そのとき、二人が乗り込んだ乗車口のドアが閉まり、マルチトレインが発車する。ガタンゴトン、電車が線路を走る心地良いリズムに耳を傾ける。1両目ではもうバトルが始まっている頃だろう。挑戦者はきっとここまで辿り着く、そんな素晴らしい予感がしている。そして次はもっと本気の戦いができる。ああ、楽しみでたまらない! クダリは隣に座るノボリの顔を覗き込んだ。ノボリの視線を独り占めすることに成功したクダリが、子供のような無邪気さと大人っぽい艶を兼ね揃えた、なんとも魔性的な笑みを湛えて言い放つ。
「夜、すっごいの期待してて!」
 今度はノボリの喉からギュッと変な音が鳴った。