保科
2026-04-13 21:07:12
3390文字
Public 超かぐや姫!
 

いろP争奪戦、優勝はいろP!

いろかぐ ツイート加筆まとめ

――そのコメントが流れたのは、SETSUNAのトレモ配信が1時間に差し掛かったあたりだった。
「んー、何々ィ?
SETSUNAの報酬にいろPとケコーン……?あは、かぐやちゃんでなくていろPってお前な〜!ま〜随分不埒なリスナーじゃんか、相手の人となりを知ってからプロポーズって、現代人の常識よ?」
からから笑うかぐやは、復帰してからというもの、10年前よりもずっと大人びたと専らの評判だ。理知的なコメントが増えて、昔よりも勢いまかせの発言や行動は控えめになっていた(それは決して彼女の破天荒さが失われたわけではないので、あしからず!)。
だからこそ、そういう戯言は流されるものだとリスナーの誰もが思い、
――まーいっか!」あっけらかんと覆される。「10年のブランクを経て、月からはるばる舞い戻ったニューかぐやちゃん!
もち自分のことも、大事な大事な翁さんだって守れるって事を――ついでにそのコメント二度とできないよーに叩き込んであげちゃうから覚悟しな。
はい、部屋番号DMしたよ〜」
そんな、あまりに気負いないかぐやの挑発をきっかけとして始まった、突発のいろP争奪戦は――それは異様な盛り上がりを見せた。もとより『かぐや争奪戦』はファンの間では伝説と化した企画だ、その再来とも言える企画に、武器をかるのはいろPではなくかぐやで、何より――
『>おお!』
『>うわえぐ間合いどうなってんだ』
『>1f回避!?』
『>これ本当に昔ハンマー空振りまくってたかぐや?』
『>かぐや△』
『>かぐやちゃんこれ若干キレてね?』
『>上手すぎるってかヤチヨみたいな見切りしてる。どうなってんだ?』
『>ゲージもう溜まってんぞ!』
『>うおおお!!』
『>パーフェクトKO!!!!』
――強い。かつてのいろPを凌駕するほどに、かぐやは強かった。
コメント欄の喝采に応えるように、画面向こう、コントローラーを放り投げるかぐやが吠える――

『おらーっ!次の相手は、誰だーーーっ!』
職場からの帰宅途中のスマホの中から迸る叫びは、イヤホンすら貫通しそうな程にうるさい。思わず顔をしかめ、彩葉は音量を下げに下げた。カチカチカチ、そりゃもう操作も雑にもなる。
真面目に仕事して退勤したら、自分の婚約がSETSUNAの勝ち抜き戦の褒賞にされてるのは悪夢の類いだ。引き攣った顔を隠せないままマンションのエレベーターから降りつつ、彩葉は飛ばし飛ばしアーカイブ内の経緯を流し見る。不安はあれど、まあ、ヤチヨに相当する8000年のスキルを積み重ねているかぐやである。正直に言って、そこらのルーキーとは格が違う。
シークバーが右端についた段階のコメントを伺う限り、危うげなく全戦全勝でここまで来ているらしい。そして、まあ、なんというか随分調子に乗っているようで。
玄関扉を開け、自室へ向かうよりも先に、かぐやがいるだろう配信部屋の前まで向かってみる。どうたしなめたものかと、ノブに手をかけようとして――――っだらしゃあ見たかぁ!彩葉は!お前らのもんじゃなくかぐやのもんだもんねぇ!!」
……などと、防音を貫通する声が、イヤホンと目の前の両方から聞こえてきた。
聞こえた、ものだから。
……へえ、と、彩葉は思わず口元を歪めた。随分と――随分と、デカく出たな、かぐやのくせに。
確かに?私はかぐやのものではあるけれどさ、でも、あんたの配信のトロフィーになった覚えはないよ、かぐや。知ってる?
……知らなそーだねお姫様?」
そうして。彩葉は、扉の前でひとしきり声もなく笑った後――その足で即自室に引き返す。鞄も羽織っていたスーツもを適当に放り投げると、ヤチヨに貰ったサブアカ用のスマコンを目にはめ、ツクヨミにログインする。
ろくにいじってもないデフォルトアバターで、暗唱できるかぐやのユーザーコードを手早く入力すると『対戦希望です』とメッセを送りつけた。
現実、流しっぱなしの配信から、『お?また命知らずが来おったわ……ツクヨミじゃ負け知らずのかぐやに勝てるかなぁ?』とウキウキではしゃぐ声が聞こえる。
……さぁてね」と。呟く彩葉の瞳は、さて、獲物を狩る猛禽の目だ。

―――2-0。チャレンジャーの勝ち。かぐやの負け。

「や゛た゛ーー!!!い゛ろ゛は゛は゛か゛ぐ゛や゛の゛ぉ゛ーー!!!」
『>うはwww完封www』
『>つっっっっよ!!』
『>草 手も足も出てねえ』
『>えじゃあいろPこの『ゑひも』にNTRされるん?』
「やだーっ!やだやだやだやだ!」
『>小並感』
『>つーても負けは負けじゃん』
『>これいろPにどう説明すんの?』
『>二度とこんなことするなアホ 頼まれた食パンキッチンにあるから 168ふじゅ〜』
『>ゑひもさん、なんかスパチャで言ってるぞ』
『>パン?』
『>何だこのコメ お使いかよ』
……え?あれ、もしや彩葉……?」
『>え、これいろPなん!?』
『>嘘だろwww』
『>やっぱいろP強すぎワロタ』


――さて、すったもんだの配信終了後。酒寄家リビングにて。
正座、と一言床を指されたかぐやは、かれこれ30分座ったままだ。
……い、彩葉、いろはさんやー?あの、正座、足痺れてきたんだけど……え、なんで痺れてくんの……?」
PCを叩きながらだんまりを決め込んでいたソファーに座る彩葉が、不意に顔を上げてしれっと答える。
――え?血流不順による不具合も起きるようにしてるから」
……変態技術者……
彩葉の前。ぶすくれたまま床に正座するかぐやが毒づくのに、彩葉が呆れ顔で肩をすくめた。
「こだわりって言いな失礼な。
……ま、そろそろいいか。
――いい、かぐや。取り敢えず本人不在で将来賭けるのやめて」
いい加減、反省もした頃合いだろうと。至極真っ当な彩葉の指摘に、けれどかぐやは口をとがらせたままだ。
……かぐやが」
「何」
「かぐやが絶対勝つし、それで、か、かぐやのだって言いたかった……だけで」
「へー。負けたのに?」
「違っ、てかあれ彩葉じゃん!ノーカンじゃん!」
そうでなければ、と叫ぶかぐやに、彩葉は嫌味な笑顔でひらひら手を振る。
「そーだね。でもあんたは負けた。つまり私と結婚できる権利は私のものでーす。
かぐやのじゃありませーん」
「ぬぐ、ぐぐぐ、ぐーーーっ!」
煽られ、たまらずかぐやがぶんぶん、と腕を振るものの、足を崩さないので届く訳もない。間抜けな光景に、彩葉は思わず笑いながら「あは、そっからじゃ当たんないよ。――でもさ、かぐやはそもそもそれでよかったの?」と問いかける。
「んぇ?何が」
「そうやってトロフィーみたいに私ゲットして。満足?」
――ぱちり。目を丸くしたかぐやが大きく瞬いて、それから息を吸って――
いや良かないな!」
「気づくの遅」
いいわけがなかった。わなわな、震える手でかぐやは顔を覆ってムンクの叫びだ。
「り、リスナーに煽られて頭に血が登ってたかも……!?え、血、登るの?」
「あー、感情変化バロメーターに応じて血流がいやそれはいいや。
……で。反省した?」
彩葉の柔らかな声に、かぐやはブンブンと首を縦に振りまくった。
「いやもう、したしためっちゃしてるびっくりしてる」
「本当?」
「本当でーす。うん、ごめん、彩葉」
呆けた様子で呟いた後。
少しだけ間を空けて、かぐやはへらりと笑う。
……酷いことしちゃった。許さなくていーよ」
――その表情に、僅かに鼻白んだ彩葉は、そういう割り切りは好きじゃないんだよな、と嘆息する。
「あ、……そ。じゃ、手出して」
「こう?」
「はい」
ぽん。差し出されたかぐやの手のひらに、彩葉の手が載せられて離される。載せられただけ。まじまじ見ても、そこには何もない。
えーと。これはなに?夢と希望?」
権利。返したから、あんたの好きにしな」
―――
――かぐやは、その言葉の意味が最初、わからなかった。でも、彩葉の耳の先っぽがやけに赤いのは、分かった。分かって、だから、ここまでの会話を振り返れば、彼女が得た権利って、
………………えと、……え?」
「っ、はいこの話終わり。――じゃ、私部屋戻るから」
「え!?え!まっ、彩葉ちょい待っ……うわ足痺れて立てねー!?」