幸希(ユキ)
2026-04-05 19:47:07
3609文字
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紡ぐ言ノ葉、重ねる心

それが何よりも幸せ。

やや灯りの落とされた室内。胡座をかいて本に視線を落とすむっちゃん。

(背中大きいなぁ。)

前から大きなとは感じてはいたけど、いつからかそこに男らしさを見るようになってしまってる。本当にいつからこんな見方をするようになったんだか。

(かっこいい。好き。)

見慣れてるはずなのに。劇的な変化があった訳じゃないのに。常と変わらぬそれがひどくかっこよく見えて仕方ない。好きだ好きだと心が鳴く。

(大好き。)

抑えられない。溢れる。お風呂上がりの髪を拭くのもそこそこに、その広い背中に飛びついた。

「むーっちゃんっ。」
「!」

呼び掛ける声が自然と甘えたものになる。首に腕を回して抱きつけば、本に向かっていた視線がこちらに向く。

「どういた?」

優しく下がる目尻。穏やかな声。好き。全部好き。

「むっちゃん。」
「んー?」

ああもう。何でそんな優しい声で、可愛い仕草してこっち見るの。好き過ぎて頭おかしくなりそう。

「まだ髪濡れちゅうやか。おいで。」

そっと前に来るように誘導されて、そのままドライヤーで髪を乾かされる。時々うなじに当たる指がくすぐったい。

「濡れたままやと風邪引くがよ。」
「その前にむっちゃんがこうやってお世話してくるじゃん。」
「そりゃあ大事な嫁さんに風邪引かす訳にいかんきね。」
「んふふ。」

嬉しい。幸せ。大好き。ほわほわ、ふわふわ。言いようのない多幸感で満たされる。ドライヤーの音が止んで、くるりと振り返れば優しく抱き締められる。

「ん、えい匂い。」
「何の匂いするの?」
「んー

すんすんと首筋を嗅がれる。ぴょこぴょこと跳ねるむっちゃんの髪が当たるのがくすぐったくて身をよじるけど、「こら、動きなや」と尤もらしく咎める声がする。

「だって髪が当たってくすぐったいんだもん。」
「んー?」
「あ、ちょっ、くすぐったい!」

わざとぐりぐりしてくるむっちゃん。それに便乗するように脇腹や太ももに手が伸ばされてくすぐられる。

「あははは!だめ!むっちゃんやめてー!」
「んはは!」
「やだあ!んひゃっ、や゛ーっ!」
「おまさん。」

パッと手を離されてくすぐりが止む。でもまだくすぐられてる感覚が残って脇腹がむずむずする。

「はー
「まだくすぐったいがか。」
「ちょっと。感覚残るんだよね。休憩してたら治るから大丈夫。」

そう答えるとまたぎゅっと抱き締められる。大好きな相手に抱き締められるのって、本当に幸せで、嬉しくて、この身全部委ねたくなる。

(嬉しい。大好きむっちゃん。)

大好き。大好き。むっちゃんを象る全てが好き。

「大好き。」

ほろりと言葉がこぼれ落ちる。もう、止まらなかった。

「むっちゃん、だぁいすき。」
「おん。」

好き。大好き。好きで好きで堪らない。何回言っても足りなくて、どれだけ口にしても留まることを知らない。好き。大好きだよ。誰よりも大好き。

「何でこんなに好きなんだろ。」
……。」

ぎゅうっと抱き締め返しながらそう思わず呟いたら、すぐ横で「はぁ~~~~」と長いため息を吐かれた。

「なーに?」
そりゃあわしのセリフやき。」
「え?」
「どういてこがに好きになってしもうたがやろ。可愛うて可愛うてならん。誰よりも一番に頼って欲しいち思うし、何よりも真っ先に甘やかいたくなる。」

琥珀が熱っぽくこっちを見つめる。

「始まりがああやったのが悔やまれてならんがよ。おまさんがこがに可愛いらあて、もっと早うに知っちょったらこじゃんと愛しちゃれたに。」
「思ってた倍想われてる。」

こつ、と額が合う。

「好きじゃ。大好きじゃ。おまさんが一等大切ながよ。」
「んふふ、むっちゃん熱烈だ。」
「好き過ぎて潰いてしまう。」
「潰されるのは嫌だな。」
「んは、冗談じゃ。」

むっちゃんの鼻筋に自分のをすり寄せれば、同じようにすりっと寄ってくる。可愛い。大好き。こういう時わんこみ出るのがずるいと思うんだ。かっこいいけど可愛い。可愛いけどかっこいい。

(好きだなぁ)

胸の内を満たす“好き”がため息としてこぼれる。今のこの幸せをなんて言えばいいのか。

……おまさんは、言葉もそうやけんど、その顔が何よりも雄弁じゃな。」
「顔に出てた?」
「“好きだなぁ”ち顔しゆう。」
「せいかーい。でもむっちゃんもだよ。」
「出ゆう?」
「“可愛いにゃあ”って顔してる。」
「よう見ゆうの。」
「そりゃむっちゃんの事大好きなので。」

真面目くさって言えば「ふは」と笑うむっちゃん。それ!それかっこいいからやめて!

「好き過ぎて困るくらいだよ。」
「どればあ好き?」
「どれぐらいって……うーん

難しい事聞くなあ。概念を大きさで言えって割りと無茶難題だと思うのよ。

(あ、いいこと思いついた)

脳内でピコーン!と効果音を浮かべて、思いついたままむっちゃんに抱きついて、油断しきってる頬に唇を寄せた。
ちゅ、と可愛らしいリップ音がしてむっちゃんが一瞬目を見張る。

「このくらい♡」
……。」
「むっちゃん?」
……こん、わりことしぃ。」
「へぁ!?んぅ!」

押し倒されてがぶと口付けられた。あむあむ食べるみたいにされて、追い付くのに精一杯。

「んっ、んぅっ!」
「んむ。」
「ぁう、ん、ぇ……

ちょっと前までなら、されるがままに蹂躙されて息も絶え絶えだったのに、慣れてきているのか追いつけてしまってる。いやむっちゃんが手加減してるのかもしれないけれど。

(仕込まれてるみたいなのがちょっと腹立つ。)

そんな事を考えてたのを読まれたみたいで、わざと音を立てて舌を吸われた。集中しろってか。

「ん、ぁ……むつ
「あるじ

舌先を銀の糸が繋ぐ。うわえっちぃやつだこれ。

「どういて墓穴掘るような真似するがやろう。」
「むっちゃんがどれくらいって聞くから応えただけなのに。」
おまさん、わしがどれほどおまさんが好きか、分かっちゅう?」

大きな厚い手でする、と撫でられる頬。熱いと思う程の体温に思わず心臓が跳ねた。

「キスだけで済ませられるような、そがな軽い想いやない。おまさんが欲しい。けんどがいにもしとうない。心で愛したい。そう思っちょっても、わしの心は葛藤だらけじゃ。どっちも本音やき、優しゅうしたいのと、欲をぶつけて泣かせたいとで、いーっつも揺らいじゅう。」
「いつもなんだ。」
「自分でも手に合わん。」

むー、と不服そうにするむっちゃん。真面目な話してるの分かってるのに、不服そうにしてる顔が可愛くて仕方ない。
それが顔に出てたんだと思う。むっちゃんの顔はますます拗ねたような顔になっていく。

「笑いなやー!」
「ごめんって。真面目なのは伝わってるし、むっちゃんの想いだって理解してるつもりだよ?」
ほんまやろうか。」
「本当だって。」

うりうりと撫でればちょっと拗ねたくらいの顔に戻っていく。面白いなこれ。数秒前までシリアスっぽい空気させてた男前が、子どもっぽい顔していじけてる。

「ただ傍にいてくれたらいいって思う気持ちと、絶対一緒じゃなきゃ嫌だっていう気持ち。私がそれを抱いてるのと近いよね、きっと。」

どれだけ言葉を尽くしても心の中に積もり続けるこの恋心が満足する事はないし、どれだけ優しい思いを持ってたとしても心の奥底にある独占欲や激情は胸の内を食い荒らす。
だとしても、私はむっちゃんを愛していて、むっちゃんも私を愛してる。

「主。」
「なぁに。」
「好きじゃ。」
「嬉しい。」
「どうにもならん程愛しちゅう。」
「うん。」
「主は?」
「大好きだよ。」
「おん。」
「愛しさでいつもおかしくなる。」
「ほうか。」
「でも、それがどうしようもなく幸せなの。」

ちゅ、とまたキスをする。今度はお互いに唇を甘噛みしたり撫でたり、軽く吸ったり、ふざけてじゃれるみたいなやつ。

……幸せ、か。」
「ん?」
「こういておまさんと唇を合わせて」
「んぅ」
「目を見て」
……。」
「言葉を交わせる。些細なこれが一番幸せなのかもしれんのう。」
「同じ気持ちでいられることも、ね?」

くすくす、と笑い合う。他愛もない事。変哲のない毎日。言葉を紡いで、想いを注ぐ。何て事のないようなこれがどれだけ愛しいか。

「むっちゃん。」
「どういた?」
「抱き締めて。」

甘えた声でねだれば、起き上がらせてから向かい合うように抱き締めてくれた。

「にゃあ、ゆき。」
「なぁに?」
「口づけとうせ。」

甘えた声でねだられて、目の前の唇にちゅ、と自分のを重ねる。

「むっちゃん。」
「ゆき。」








「大好き」がまた1つ積み重なる。