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kanaco
2026-04-04 20:31:01
2897文字
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【十二信】許されないはずのこと
《十二信》信一に男の恋人ができたことで、十二が自分の想いに踏み込むことを決めたはなし。1ページ目は縦書きver、2ページ目は横書きverです。
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十二信 『許されないはずのこと』
藍信一のことが好きだ。
十二がそう自覚したのは、ずっと前だった。
想いは変わらなかった。でも告げたこともなかった。
十二だけではない。最初は信一の見目に惹かれる。知っていくうちに、恋に落ちる者も少なくなかった。中にはアピールする者もいた。信一はそれを知ってか知らずか、時に無邪気に、時に悪意を持って自分による虫を払っていた。
十二は”幼馴染”という、何をしたって怒られない安全圏で大人しくしていた。嘆き、恥じ、怒る他の男たちが、憐れにも散る姿を横目に見てきた。当たり前だった。
藍信一は誰のものにもならない。
それだって、誰も疑いようがなかった。信一のことをあまりよく知らない連中は、龍捲風のイロだと言った。信一と親しい人たちであれば、信一は龍捲風に恋していると察した。十二は、信一と龍兄貴の間に恋愛感情はないだろうと思っていた。イロとか恋とか、そういう問題ではないのだ。
藍信一は龍捲風のものである。
その愛は一つに定義できるものではない。
そして、唯一確かであることは、信一における決定権は、龍捲風が握っているという事実なのだ。
十二が三日ぶりに城砦を訪れると、信一の姿がなかった。道中でバッタリ会った洛軍に尋ねれば、午前中は仕事をする姿を見たが、午後は見ていないという。
洛軍は神妙な顔をしていた。信一は何も言わなかったが、顔色が優れないようだったから休んでいるのでは、と言った。
「体調不良?」
「いや
……
そんな風には見えなかったし、いつも通りだったが」
洛軍は、気にかかるというように眉間に皺を寄せる。
「ただなんとなく、違和感があった。気のせいかもしれない」
でも、四仔のところに行ってくれるといいんだが、と洛軍は言う。誰も気がつかない繊細な変化を読み取る男だ。洛軍がそう感じ取るのであれば、そうなのだろうと十二は思った。そして、信一は四仔のところには行かないだろう、とも。
十二はもう少し世間話をしてから、洛軍と別れた。真っすぐに信一の部屋に向かう。ノックすらせずにドアノブを回すと、部屋をのぞきこむ。布団には入らず、ベッドの上で転がっている信一がいた。
「なんだ、来てたのか」
十二を見て、信一が体を起こした。
なるほど、と十二は思う。緩慢な動きと、気だるそうな表情。十二と二人きりの空間では、信一は取り繕う必要がない。十二は静かにドアを閉めると、目を細めた。
「ずいぶん、かったるそうな顔してるな」
「帰ってきたのが、明け方でさ」
「そりゃ、お盛んなことで」
ここ三ヶ月、信一の周りで大きな変化があった。
信一が、恋人を作り始めたのだ。
龍捲風に「恋人の一人や二人、いないのか」と言われたことがきっかけだった、と信一は言った。
最初の男を作った時、十二は内心、眉を顰めた。思いにもよらなくて、様子を伺う。そして二ヶ月後、気がつけば破局していた。すぐに第二の男が現れた。
それは三週間ももたなかった。信一が話す分には、どちらも信一に対する依存が高く、信一にとって息苦しくなる恋仲だったらしい。
ところがある日から人が変わったようになって、自分の方がフラれたのだと言う。態度に出ていたのかな、と信一は苦笑していた。そうだろう、と十二は思った。ただし態度を正しく読み取ったのは、元彼氏ではない。おそらく龍捲風の方だ。何の気まぐれだろうか。恋人を作れと言っておいて、信一ではなく龍捲風が相手を選別している。
「今度は、うまくいってんの?」
「そうだな」
信一は薄っすらと笑って、わずかに掠れた声で同意した。
「朝まで放してくれなくて、つき合うけど、少し困る」
信一の鎖骨にキスマークが見えた。男に抱かれたばかりの余韻が残っている。表情や仕草、特に瞳に、気だるそうな色気が滲んでいた。
「体が、キツい。ナイフ持って暴れるよりも、堪えるな」
「そんなまで、させんなよ」
「言っても、止まらないからさ」
「熱烈だな」
「俺、案外、尽くすタイプらしい」
「案外?そのまんまだろ。世話焼き、お節介、いらねぇ依存を引き出しちまう」
「酷い言いようじゃんか。恋人ってヤツをやってるんだから、そう言うなよ」
「龍兄貴に、言われたんだろ」
「そう。恋人がいたら安心するって言うから」
「何を突然」
「さぁ、分かんねぇけど
……
なんか心配、してんのかな」
十二は黙った。龍捲風という男は多くを語らない。
語らずに物事を決めて、それで周りを動かしてしまう。行動が無意味であることは、ほとんどなかった。信一に恋人が必要である、と言い始めたのは本当にそう思ったからだろう。その原因が十二には分からなかった。信一への親心?それならいいが、十二の印象からはズレる。
近いうち
……
例えば数年のうちに、信一と離れるようなことでもあるのだろうか。
そんなことは誰も望んでない、と十二は思った。誰よりも信一が望んでいない。自分よりも龍兄貴を知る信一は、どのように解釈をしたのだろうか。言われたとおりに、脈絡なく恋人を作りながら。
……
考えても仕方がなかった。
龍捲風の真意は分からない。
でも、確かなことは一つ。
龍捲風は、信一に恋人を作れと言った。
じゃぁ信一は、その通りにするだけ。
十二はベッドに向かい、信一の隣に座った。
信一は何を考えているのか、静かに十二と向かい合う。
「お前、そいつのこと好きなの?」
「さぁ
……
」
「
…………
」
「でも。あの人は、俺のことを愛してるって言う」
「それだけ?」
「そう」
信一は冷ややかに感じるほど短く返事をした。十二は無感情を隠さない瞳を見つめながら、そっと息をついた。
温度が、ない。
正直、見ていられなかった。
第一。
それなら。
誰だって同じことだ。
しばらく沈黙が部屋を包んだ。やがて。
十二はゆっくりとした仕草で、手を信一の肩にかけた。力はほとんどいらなかった。軽く押しただけで、信一が無抵抗に押し倒される。上から覆いかぶさると、信一の両手首を握ってシーツに圧しつけた。ベッドがギシリと、静かに音を出す。
「じゃぁさ」
信一は逃げない。
十二は真正面から、見下ろす。
信一の無感情だった瞳が、わずかに見開く。
その瞳には、真剣な表情の十二が映っていた。
「いいよな」
言葉が響いた。信一の感情が無かった瞳の奥に、光差す色が渦巻き、大きくなっていく。
好奇、心配
…………
安堵。
信一は否定も肯定も口にしない。
十二の顔を静かに見つめ続けた。
その信一の奥に、十二は龍捲風を感じる。
「信一」
名前を呼んだ。一歩を踏み出す。
それができると、十二は知っている。
そして──熱を帯びたキスが、そっと重なる。
信一が、柔らかく微笑んだのが見えた。
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