すだ
2026-04-04 15:58:40
16478文字
Public 主スバカグ
 

現パロ スバカグ

関係:幼馴染/ 文字数:16,479
エイプリルフール企画の現パロです。舞手スバルと嫁カグヤ風味。公式の学パロとは別時空です。
術師の家系に生まれた大学生スバルとカグヤが、神殺しを目的とするクラリスと戦った挙げ句、同じ学校で再会するお話。
あくまでエイプリルフールネタなので、何でも許せて興味のある方はどうぞ。




 イカルガが乗ってきた運転手付きの車に同乗し、自宅へ着く頃にはとっぷりと日が暮れていた。
 リビングへ向かうとソファの上で仰向けに寝転ぶ。
「つかれたー!」
「同じく……
 ぺしゃりとスバルの上でうつ伏せになるモコロンをよしよしと撫でてやる。
「ちょっと休憩させて……。そしたらご飯食べよう」
「頼むぜえ……。オイラもう腹がペコペコで動けない……
 ポケットから鱗の入ったポーチを取り出すと、中身を開けた。
 白と黒に輝く竜の鱗と一緒に白いものが転がり落ちる。
 白詰草の指輪。幼い頃、カグヤがスバルに贈ってくれたものだ。
 壊れものをあつかうように優しく拾い上げると、頭上に掲げる。
『カグヤは、大きくなったらあにさまと結婚します! これはこんやくゆびわです!』
 彼女にとっては大人の真似事をしたかっただけなのかもしれない。だが、スバルにとっては大事おおごとだった。
 満面に笑みをうかべ渡してくれたときのカグヤがあまりにも可愛らしくていじらしくて、初めての贈り物が嬉しくて、ヒスイに枯れないまじないを教えてもらい施した。
 きっとあの瞬間、スバルは恋に落ちてしまったのだろう。
「取り戻せて良かったな」
 モコロンの気の抜けた声に口元が緩む。
「うん」
 指輪を見ているだけで、カグヤが笑いかけてくれているような気がした。
 修業が辛いとき、カグヤと会えなくて耐えられないとき、取り出しては約束を思い出し心を慰めた。
 彼女は覚えていないかもしれないけれど、拒まれない限り、いつか約束を果たすのだと、とうの昔に誓っている。
 しばらく指輪を眺めた後、ポーチにしまったスバルは体を起こした。
「ご飯にしようか、モコロン」
「よっしゃー、飯だ飯!」


*****


「おかえり、カグヤちゃん、ヌバタン!」
 隣の家に住むいろはが、家の前で出迎えてくれた。待っていてくれたことにカグヤの顔が綻ぶ。
「いろはさん! お久しぶりです、ただいま帰りました」
「ただいまですわ、いろは」
「ツバメさんから聞いたけど、何だか大変だったんだって?」
 心配そうにこちらを見上げる友人に笑顔を向ける。
「スバルがいてくれたので、大丈夫でしたよ」
「そっか。久しぶりに会ったスバルくんはどうだった?」
 スバルのことを聞かれ、頬に熱が集まる。赤くなったカグヤを見て目を丸くするいろはの手を取った。
「どうしましょう、いろはさん」
「ん? 何が?」
「しばらく会わないうちに、スバルがすごく格好良くなっていたんです! 正面から顔が見られないくらいドキドキしてしまいました!」
「そ、そうなんだ?」
「しかも私が危ないときに何度も助けてくれて……手首にキス……まで」
「えええ!? どういうことかもっと教えてー!」
「アタクシも聞きたいですわ。あの男、遠くでアタクシが見えないことをいいことにそんないかがわしいことを……
 瞳を輝かせながら前のめりになるいろはと、どす黒い瘴気を発するヌバタン。
「ええ!? むりです!」
「こっちこそむり! そんな気になる言い方されちゃったら聞かずにはいられないよ! まずはうちでご飯食べよう! 食後にお団子出すから、お話し聞かせて?」
 いろはとヌバタンに両側から腕をつかまれ、逃げようにも逃げられない。
「アタクシはおはぎを所望しますわ!」
「了解!」
 手を引かれるまま、いろは家のリビングへ通される。ソファにちょこんと座りテレビを見ていた妹のすずが手を振った。
「あ、カグヤちゃんとヌバタン、おかえりー!」
「すずちゃん、ただいま戻りました」
「ただいますず。相変わらず愛らしいですわね」
「えへへ〜、ありがと!」
「ご飯の後、女子会をするのですけど、すずも一緒にいかがかしら?」
「ええー、ぜったい参加するー!」
 この後、帰宅したツバメを加え、盛大に女子会が行われた。あまりに盛り上がったため、結局パジャマパーティになり、カグヤとヌバタンはいろは宅で姉妹と一緒に眠った。
 いろはに詰め寄られ、始めは何があったか話すのを渋っていたカグヤだったが、一度白状してしまえば三年近く会えなかったスバルへの想いがあふれ出て、気がつけば皆(ヌバタン以外)に温かく見守られていた。
 ヌバタンは、スバルへの対抗心を一層強めたらしく、「負けませんわ!」と意気込んでいた。


*****


 入学式が終わり、オリエンテーション期間に突入した。
……どうしてスバルがついてくるのですか」
 つかず離れずついてくるスバルを不服そうに見たカグヤが話しかけてくる。虫除けのため、とは言えず適当に誤魔化すことにした。
「カグヤは入学したばかりだから、教室の場所とかよくわからないだろ。迷ったら大変だし」
「迷子になんかなりません!」
「わかってるよ。念のため、ね」
 幼馴染に迷う、とか迷子、とかは禁句だった。どうどうと宥めると、「やはり暴れ馬だと思っていませんか?」と更に不機嫌になる。これはご機嫌とりが必要みたいだ。
「思ってないってば。カグヤと会うのは久しぶりだから、世話を焼きたいだけだよ。嫌なら離れるけど」
……嫌じゃないです」
 拒まれなくて安心した。平静を装っているが、心の中で「良かったあああぁ!」と絶叫している。
「オリエンテーションの後、空いてる? もし暇で何かやりたいことがあれば付き合うよ」
 一緒に過ごす権利が欲しくて、ご機嫌とりを兼ね、さり気なく誘ってみると、「本当ですか?」とカグヤが振り返る。瞳が輝いている。
「うん、どこか行きたい所があれば連れて行くし、食べたいものとかあれば」
「一緒に稽古して欲しいです!」
 色気より食い気より稽古ときたか。
「稽古……?」
「はい、剣術の稽古を」
……うん、わかった」
「ありがとうございます!」
 できればデートっぽいものがしたかったが、こんなに喜んでくれるなら細かいことは気にしない。会えなかった分、一緒にいられるだけで充分幸せだ。
 珍しくはしゃいだ様子のカグヤがふわふわと飛び跳ねる。スバルが止める間もなく、前方にいる人へぶつかってしまった。
「あ、申し訳ありません」
「いえ……
 淑やかに返事をし、振り返った人物に目を疑った。
「うわ」
「あなたは……
「貴様ら、何故ここに!?」
 金髪の女も、驚愕の眼差しでこちらを見る。まさか、先日戦った相手と大学で会うことになろうとは。
「どうしたクラリス、知り合いか?」
「な、何でもないんですピリカさん。すみません、少し失礼しますね、先に行っていてください。来い」
 小柄な女性に断りを入れた後、女がカグヤを引きずって行く。カグヤが連れて行かれるのなら、ふたりきりにしたくないスバルがついて行くのは当然のことだ。
 人気のない学舎外れに連れこまれると、女がこちらを睨みつけた。
「何故ここにいるのか聞いている」
「言っておくけど、あなたが入学する前からオレはここの学生だから」
「なん……だと……
「こっちだってびっくりしてるよ。何でこんな所にいるんですか?」
「それは……。ベイロンが、勉強はきちんとした方がいいと言うから……
「ベイロン?」
「貴様らも会ったことがあるだろう。私と一緒にいた男だ」
「ああ、あの人」
 事情は大体察した。納得がいくかと言われれば否定するけれど。
「神殺しを公言する人間が、アズマの大学で勉強ねえ……
 うさんくさそうに女を見ると、白い顔がさっと朱に染まった。
「仕方ないだろう! ベイロンの言う通りにしないとうるさいんだ! 昼夜を問わず、くどくどとお小言を言われるわ、泣かれるわ。大変なんだぞ!」
「悪役なのにしまらない……
「誰が悪役だ! こちらからしたらお前達が悪者だ」
 いつの間にか口喧嘩みたいになっていたふたりを、カグヤがやんわりと制する。
「ひとつ確認させてください。今日は襲いかかってきませんね。大学にいる間は戦わないということですか?」
 カグヤからの問いを受け、苦々しげに女が答えた。
「それはそうだろう。こんな場所で始めてしまったら、どれ程被害が出るかわからない」
「想像と違ってまとも」
「喧嘩を売っているのか?」
 意外そうに呟くスバルを女が睨めつける。
「そうですか。完全に納得したわけではないですが、あなたがここで戦わないと聞いて安心しました。私達も無用な戦いは避けたいです。大学にいる間は休戦するということでよろしいですね?」
 カグヤの言葉に、女も頷いた。
「異論はない」
 何だか憎めないんだよなあ、とスバルは毒気を抜かれる。先日戦った相手なのにおかしなものだ。神以外に危害を加えない、と言っていたことがどうも引っかかっていた。元来争いごとが苦手な性質たちなので、せめて大学で戦わなくて済むのなら助かる。
「神竜どもは連れていないのか?」
「一緒ですよ、家族であり相棒ですから。竜の姿では動きづらいので、いつもは小さくなっているんです。ふたりとも、出ておいで」
「ちょっとカグヤ」
 そんなにあっけらかんと手の内を明かしていいものだろうか。スバルに呼びかけられても、カグヤは平然としている。
「元々私達だけでは敵わない相手です。隠していてもいつかはわかることですし。危害を加えられそうになったら、変身して逃げればいいんですよ」
 幼馴染は、繊細な見た目とは裏腹に豪快で大雑把なときがある。思い切りが良くて、いっそ羨ましい。
 反対に敵を欺く行為は最も苦手な分野だ。そういう芸当はスバルの得意分野なので、うまくバランスが取れているのだろう。
「仕方ねぇなあ……
「カグヤの頼みであれば断れませんわね」
 モコロンとヌバタンが姿を現す。金髪の女は驚愕に目を見開いた。
「なっ…………
 言葉をなくし、ふるふると体を震わせる。神竜のときとかけ離れた姿形をしていることに衝撃を受けているのだろうか。
 自分も初めて見たときはふざけた見た目だなあ、と変貌ぶりに驚いたものだ。
「か…………
「か?」
「可愛い……!」
 女の口から今までの冷徹な様子からは考えられない絶叫が飛び出した。
 大声にびっくりして少しの間固まった後、モコロンは自身の考える「最高にかわいいポーズ」をお披露目した。
「はわわ……
 口に手を当て、声をもらす女。
「ふふん、可愛いだろお〜? オイラの可愛さはアズマいちといってもいいからなあ。この愛くるしさを崇め奉れ、人間!」
「はあ……。己の容姿を自慢するなんて下品な。アタクシの品位も落ちるようで嫌ですわ」
「何だとー!」
 ムキー! と涙目でヌバタンを睨むモコロンの姿を目にして、女はとうとう悶絶した。
「くっ……卑怯な!」
「ただ可愛いだけで、何もしてないんだよなあ」
 モコロン達が可愛いのは罠でもなんでもない。ただの事実だ。
「わかります」
 引き留める暇もなく、カグヤがずい、と女との距離を詰めた。
「この子達の可愛らしさを前にして、心を乱される気持ち、よくわかります。竜の姿も凛々しくて好きですが、小さいときのヌバタンとモコロンは、この世のものとは思えないような愛らしさですよね! フワフワモコモコな毛の手触りが最高なんですよ」
「そ、そんな……
「触りたいですか?」
 浮かんでいるヌバタンを抱くと、目を細めたカグヤが見せつけるように黒い毛並みを撫でた。ぐう、と女の喉が鳴る。
「さ、触りたくなど……
「本当ですか? 正直になった方がいいと思いますよ」
 モコロンまで抱きしめ、白と黒の頭を往復する白魚のような指。断じて撫でられて羨ましいとか思っていない。
……今日のところは引き下がるが、私は諦めていないからな! 必ずアズマの神々を滅ぼしてみせる!」
「あ、待ってください」
 捨て台詞を残し去ろうとした女をカグヤが呼び止めた。
「何だ!」
「名前、教えてくださいませんか? こうして知り合ってしまった以上、互いに名を知らないのは不便でしょう。私は、カグヤと申します」
 虚をつかれた女は絶句した後、小さな声で名乗った。
……クラリスだ」
「スバルです」
 何だこのやりとり、と思いながらもこの流れでは名乗らないわけにいかず、渋々スバルも自己紹介した。
「それでは失礼する」
 何とも締まらない感じでクラリスが金髪をなびかせながら立ち去るのを見届ける。
「変わった人だね」
「そうですね。ですが、もしかすると本来は心優しい人なのかもしれません」
 クラリスの背中を見ながらカグヤが呟く。確かにモコロン達の姿を目にして殺すことをためらっているようだった。
「可愛いから殺すのをためらうっていうのも調子良くない?」
「確かに。どうしてあれ程までにアズマの神を恨むのか気になりますが……。きっと答えてはくれないのでしょう」
 彼女達が神々を害そうとする理由。戦っているうち、いずれ知る機会が訪れるのだろうか。
「わからないことを気にしても仕方ないか。次の場所はどこ?」
「ええと、ここです」
 スマホを差し出され、確認すると頷いた。
「わかった。行こう」
 歩き出すスバルの袖をカグヤが引く。振り返ると、物言いたげな幼馴染と目が合った。三年離れていても、何を望んでいるのか何となくわかる。
「えっと……。手、繋ぐ?」
「はい!」
 差し出した手を嬉しそうにきゅ、と握られる。突然どうしたんだろうと不思議に思いながらも、にやけそうになるのを必死でこらえた。
「クラリスさんと会っても、ふたりきりにはならないでくださいね」
「ならないよ。特に話すことないし……。敵と馴れ合うのはちょっと。カグヤこそ、あの人のことを随分と気にしていたみたいだけど」
「悲しそうな瞳が気になってしまって。ですが神様達を殺そうとする限り、彼女は私の敵です。そのあたりは弁えています」
「そっか」
……クラリスさん、美人ですよね」
「そう? 全然気にしてなかった」
 繋いだ手を引かれ、少し身を寄せてきたカグヤから甘い香りがしてどぎまぎしてしまう。
「オリエンテーションが終わったら、連絡ください。稽古の後はいろはさんのお店に寄りたいです」
「うん」
 ようやく再会できた想い人に甘えられて浮ついている。ヒスイの修行のことを考えると気が重いけれど、カグヤを守ることに繋がるなら望むところだ。浮かれついでに相棒達にも声をかける。
「モコロンとヌバタンも、この間たくさん頑張ってくれたから、好きなもの食べてね」
「やったー!」
「何がいいかしら。迷ってしまいますわ」
 何があっても、カグヤと二対の竜がいれば何でも乗り越えられる。乗り越えてみせる。
 固く心に決め、握る手に力をこめた。