そらごとに隠れ咲く

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
嘘をついてもいい日だからこそ。



「愛弟子よ……! 我が最愛の、愛しい人よ」

全てを包み込むように、ウツシが改めて娘を優しく抱きしめる。

彼の体温は、娘をてつかせていた全ての不安も嘘も、誤魔化しも、またたく間に溶かしていった。

風がふわりと優しく吹いて、花びらが、緩やかに流れていく。

「俺は、キミとずっと一緒だ。キミは独りでなんか散れないよ。だって、隣で俺がずっと咲いているからね」
……ずっと? 本当に、ずっと?」
「もちろん! キミが元気で居てくれるなら、俺はずーっと、元気いっぱぁい! キミと一緒に咲き続けられる。昔から、ずっと……今も、もちろんこの先も、それは変わらないよ」
……ウツシ、教官」

また吹いた柔らかな風は娘とウツシの髪を揺らし、花びらを水面みなもに浮かぶが如く、月明かりにふわふわと漂わせた。

……変なこと言って、ごめん、なさい。……えへへ、嬉しいです」

ようやく少しずつ不安からほどかれ始めた娘を両腕に捕らえ、真っ直ぐ見つめたまま、ウツシは「嘘じゃないからね」と微笑む。

誓うように語る言葉にしてはあまりにも真っ直ぐとして、幻想を帯び過ぎている──が、通常は叶わぬであろうことも、ウツシという人物が語ればもしかしたら、彼ならば、と妙に確かな期待と希望が見える。

「──ああ……でもね、愛弟子」

ふと思い出したように口を開いたウツシを、娘が首を傾げて見つめた。
彼の目が少しだけ、先ほどの娘よりも悪戯っぽく、だが、どこか意味深に甘く細められて。

「この先、夫婦めおとちぎりを交わした後は……キミという花を、俺だけがでられる時間もできる、よね?」
「! そ……れ、って」

不変の深愛しんあいを込めながらウツシが紡いだ『花』という言葉の意味。

それが先ほどとは全く別の形に変わった瞬間を的確に察した娘は、とても無垢に、たちまち顔を沸騰させた。

照れ隠しをしたいが、彼女はウツシの天満月よりも輝く金色こんじき双眸そうぼうから目を逸らせず、両腕に包まれたまま。

そんな状態で彼を見つめながら素直に胸を高鳴らせるうち、娘は幸せそうに口角を上げていた。


──わたしは、あなたじゃないとだめ

──この身も、この心も、すっかりそうなってしまった

──咲くことも散ることも、どちらも、何度でも、あなたとなら


ウツシが甘く告げたことは長年、幼い頃から切に彼を想い続けてきた娘の夢。
彼だからこそ叶えてくれる、彼でなくては実現しない幸せ。

ゆっくりとウツシの腰に両腕を回しながら、娘が吐息混じりに、悪戯っぽく微笑む。

……そういう時間、本当にとってくれますか? 嘘じゃ、ないですよね?」
「ふふっ……キミこそ。ずっと、キミを大切に愛でさせてくれるかい? 今度は、嘘じゃない、よね?」
「はい、もちろん。あなたじゃなきゃ、いや……これは嘘じゃないです、絶対に」

互いに顔を見合わせたまま「ふふふっ!」と、娘とウツシが声を重ねて笑い合う。

直後に幾度目か、月明かりに彩られた花風が吹き抜けた。明澄めいちょうな光を帯びた花吹雪が2人を包み込む中、ウツシが大きく、温もりと慈愛に溢れた片手で優しく娘の頭を撫でていく。

「ねえ……愛弟子。大丈夫だよ、何も心配しないで。俺は……キミと一緒だ」
……はい」
「俺の傍で、見ててよ。里長やゴコクさまもびっくりの、カムラの里のご長寿教官、ご長寿ハンターになるからね?」
「ん、ふふふふっ……ゆっくり見守らせて頂きますね。嘘でも、嬉しいです」
「嘘じゃないってばぁ! 今日は嘘をついても良い特別な日ではあるけど! 絶対に嘘じゃない! 絶対、絶対に実現してみせるよ!」
「ふふふふっ。ありがとうございます……

すっかり安堵した様子で目尻を和らげた娘に、ウツシも同じ様子で微笑む。

彼の胸の中に宿るのは、咲き続けている時はもちろん、散った後であっても変わらない、最愛の人へ捧ぐ誓いと偽りなき想い。

(何があっても、どうなっても……キミが望んでくれる限り、俺はキミと共にある。これは……決して嘘じゃない。だけど、今日は……)

よりによってこの日にそれを告げるのは少々が悪い気がして、娘の頭を撫でながら、ウツシが気取られない程度に苦笑しながら「大好きだよ」と小さく囁く。

その声も掬い上げた娘が「わたしもです」と躊躇ためらいなく答え、ようやく迷いのない花散らしの笑顔を浮かべた。

そのまま、どちらからともなく、月華の中で唇を重ねる。

せいを感じる柔らかな感触に、目を閉じた娘が嬉しそうに「んん」と声を溢れさせ、ウツシがそれも含めた全てを喰らい尽くすように、熱く湿った分厚い熱を深く、深く絡め合わせた。

風が流れて雲が動き、天満月が口付け合う2人と共に、夜闇の中へ隠れ始める。

夜も深まり、相変わらず人気ひとけは全くなく、2人の耳には風の音と、互いの胸の鼓動だけが聞こえた。

喜びに満ち、熱く、甘く激しく跳ねる、至福の脈動。

互いの命が爛漫らんまんと咲き誇る活力と温もりを刻みつけるように、2人は抱き合い、普段以上に長く口付け合ったまま。

言葉ではない形で、ただ、互いの想いを分かち合った。

それは、今日だけは嘘をとがめられない互いの口を、優しく封じるようにも見えた。




@acadine