kanaco
2026-03-29 20:08:20
1473文字
Public
 

【十二信】リベンジ

《十二信》


十二信 『リベンジ』
 
 絶体絶命の危機であることは、疑いようがなかった。

 十二は床に転がっていた。体が重く、指先すらピクリとも動かせない。荒く息を吸うのは、油断をすれば呼吸すら止まってしまうからだ。血が流れ過ぎている。視界が定期的に歪んでいるが、最悪の事態であることは把握できていた。

 敵は、目に映る範囲で4人。本当は周りにもいる。
 
 十二の真正面にいる男は、連中のトップだ。
 男は十二の番である、信一を捕えていた。

 男は信一を後ろから抱きしめ、わざとらしくうなじにキスをしたり、卑しく舌を這わせ、十二への挑発を繰り返していた。虚ろな目をした信一が、男のなすがままにイタズラをされている。何をされても、信一の表情は動かなかった。十二だけを真っすぐに見つめる。
その瞳に応えるように、十二は意識を保つ努力をした。

 外したら、意識を手放してしまう。
 命をつなぐ、細い糸のようなものだった。

「安心しろ。お前が死んだら、すぐに噛んでやる」
 
 男は勝ち誇っていた。十二は自分が何の怨みを買ったのか、覚えていない。所詮は黒社会だ。恨み辛みなどいくらでも転がっている。

「お前の大切なΩは、俺が可愛がってやるよ」
……させねぇ」

 そう、口に出したつもりなのに、空気だけが抜けていった。


 死にかけだ。分かっている。
 
 十二が死ねば、番の契約が解除される。
 死にゆく十二の目の前で信一を奪う。
 それが連中の復讐計画だった。
 敵は楽しそうに十二の死を待っていた。
 そして直前に、信一のうなじを噛むのだ。
 十二が死ねば、信一も壊れてしまうだろう。
 まるで公開処刑だ。
 十二は歯を食いしばった……が、力は入らなかった。

 呼吸がひっかかった。どうにか、息を深く吸う。
 

 死ねない。

 
 今や、十二にとって一番の敵は迫りくる「死」だった。
 生死をかけた、持久戦。
 あまりにも分が悪い。
 四肢の感覚は、ずっと前からない。
 でも、もたない、など言ってはいられない。
 
「おいおい、まだかよ」
 誰かが退屈そうに言った。
「時間の問題だろ」
 間延びしたような声で男が言った。
 拷問の時間は長いほど意味がある、とでも言いたげに信一を揺らしていた。
 
 信一は相変わらず言葉を発さず、強い視線で十二を見ている。十二は意識が飛びそうになり、呼吸が浅くなっても、その信一が目に入れば、意識を取り戻した。何度も繰り返した。正気を取り戻すまでの感覚が、長くなってきていることを、十二は自覚していた。

 起死回生の一手は、何も浮かばない。
 やがて。
 
 
 十二は動かなくなった。

 
 わっと、一同が湧いた。
 
 歓喜の瞬間だと言わんばかりに、笑う男が信一のうなじへと噛みついた。牙はさっくりと皮膚に刺さり、そのままたっぷり5秒ほどかけてズブズブと沈んでいく。首に赤い血が筋となって流れる。


「十二」


 信一が初めて言葉を発した。
 短いが凛として、横たわる十二に真っすぐ響いた。
 
 周りの男たちは異変に気がついた。
 契約が成立しない。

「まさか……
「まだ、生きてるのか?」

 動揺は、隙を生んだ。

 信一が突然、体を素早く動かし、自分を捕らえていた男を吹き飛ばす。それから、迷いもなく十二の方へ駆けていった。
 
 静かに横たわる十二へ飛びつく。
 「十二」
 もう一度、名前を呼ぶ。

 応えるように、十二が息を吹き返した。