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榎本奏江
2026-03-29 07:53:24
2408文字
Public
実さに
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【実さに】僕だけの特権
さにごて弐、新作展示作品です。
Twitterに掲載していたものを加筆修正しました。
今後、本編に取り組むかどうか悩んでいるため、ぷらいべったーでの投稿になります。
「君が泰げる場所(
https://privatter.me/page/69c8468edbbe3
)」の続きです
僕だけの特権
きっかけは些細なことだった。
実休光忠が顕現して約半年が過ぎた頃、午後の休憩時間にお茶を振る舞っている間の会話の中で、審神者
――
桔梗は、実休に言われた一言で羞恥により顔を耳まで赤くした。
「なっ、なんで
……
それを?」
「うーん、何となくかな? 大体、顕現して三ヶ月ぐらい経った頃から違和感は抱いていたよ」
「そ、そうなんだ
……
」
「飲みたいものや、求めるものもこの時期になると一定だからね。だから、何となく」
「そんなにわかりやすかったかな?」
「どうかな? でも、君の顔色が悪く、貧血気味なのは分かったよ」
「そうかぁ
……
」
桔梗は実休の言葉に気まずさを誤魔化すようにお茶を一口飲んだ。
彼から言われた言葉は「今は、月経の時期かな?」だった。
思わずお茶を吹き出しそうになるのを堪えて飲み込むと、実休は続けて「前も、その前も同じ時期に来ていたから、安定していそうだね」と、穏やかに言われ、周期をほぼ完璧に把握されていることに、桔梗は動揺を隠せずに言ったのが先程の会話である。
「今日もあまり顔色良くなさそうだね」
「うん、ちょっと貧血気味かな? さっきまで身体は冷えてたけど、今は実休さんがお茶を淹れてくれたおかげで落ち着いているよ」
「それはよかった。ホッカイロも毛布もあるから使っていいからね」
「ありがとう。凄く助かるよ」
桔梗は少し瞼の落ちた表情で答えた。
目を擦り、こめかみの辺りを抑えて無理やり眠気を飛ばそうとする。
「少し眠いのかな?」
「眠いというか、少しボーっとする感じ
……
かな?」
「次の作業時間まで少し時間はあるだろうから、仮眠を取った方がいいんじゃないかな? 僕が起こしてあげる」
「うーん、そうしようかな? お言葉に甘えて少し休むね」
「以前のように、僕のここ、使うかい?」
実休は以前、頭痛で辛かった桔梗が自分の膝の上で寝ていたことを思い出し、手を広げて招き入れるように提案した。
あの時はあまりにも頭痛と疲労が酷く、頭が回らなかったため、思わず甘えてしまったが、改めてこういう風に誘われると少し恥ずかしさで戸惑いを抱く。
「どうしようかな
……
。さすがに実休さん、疲れるんじゃない? 大丈夫だよ」
「机に突っ伏して寝るよりは楽だと思うのだけれど。それに、身体も少し温まるんじゃないかな?」
小首を傾げ、桔梗が来るのを待つ実休を見て、その誘惑に負けてしまいそうになる。
「ほら、おいで?」
「あっ
……
」
考えあぐねていると、実休は桔梗の手を握り、優しく誘導するように引き寄せた。
バランスを崩し、前のめりになる身体を軽々と持ち上げ、膝の上に乗せる。
その上から毛布を掛けられ、実休の身体の体温と毛布の温かさに桔梗は、お茶でも満たされきれなかった身体の冷えが一瞬にして全身が巡るように温かくなる。
実休から香る、あの時感じた薬草やハーブの爽やかさと優しい甘い匂いに、自然と心の重さも軽くなるような感覚を抱いた。
――
ああ、これは本当にダメだ。癖になりそう。
桔梗は優しく背中や頭を撫でられ、包まれる優しさと安心感に自然と瞼が落ちてしまう。
「どうかな?」
「
……
落ち着く」
「良かった。休んでいいからね」
「ありがとう
……
」
数分も経たないうちに桔梗はあっという間に深い眠りに落ちてしまった。
熟睡する彼女の体勢を少し直し、少し強く抱きしめると、実休は髪に唇を一つ落とす。
無意識に出た行動に、自分自身も驚いたが、そのぐらい実休の中で彼女の存在が愛おしいものだと自覚していた。
ただ、そこに「言葉」で表現する術は無いとしても。
この些細な出来事がきっかけに、桔梗の中で実休に対する態度が少しずつ変わってきていた。
しっかりと月経の周期の把握や完璧な対応だけではなく、それ以外の体調不良の変化に敏感な実休の前では我慢して隠したところで、そういう時に限ってタイミングよく現れ、心配した面持ちで薬草茶や薬を振舞ってくれる姿に余計な心配をかけてしまうことから、桔梗は素直に頼るようになった。
「実休さん
……
」
「どうしたのかな、主?」
「少し、休んでいい?」
「ああ、もちろんだよ。おいで?」
「ありがとう」
桔梗から実休の膝元を求めるようになった。
自らその胸の中に入り、実休の身体の温もりや匂い、静かな雰囲気に安心感で心が安らぐことを自覚する。
そして何より、実休の元で寝ているときは他の男士が来ることもなく、誰にも気を使わずに気を休めることが多かった。
きっと、桔梗が寝ている間に実休が気を使ってくれているのであろう。周りも桔梗が実休と一緒に居るときは大体、体調が優れないときと理解し、彼から許可があるまでは近づかないようになっていた。
その間は、実休と桔梗はふたりだけの時間になり、誰にも邪魔されない静かな空間に実休はいつの間にか、無意識に優越感を抱いていた。
君の体調が優れないとき、君が僕を頼ってくれるのがとても嬉しいんだ。
君に頼られる、求められていることが”僕”としての存在意義の一つになり、大切な役割の一つだと思えるようになったんだ。
それに、君が僕の中で眠っている間は、君の時間を独り占めできるのが嬉しいんだ。
眠っている君を抱きしめて、君に触れ、君の温もりを感じて、君の寝顔を僕だけが見ることができる。
周りも君の調子が悪いと気を使って、むやみに様子を見ようと近づかないで離れていることがあるから、この時間は確かに僕だけのものだと実感する。
だけど、やっぱり、僕も元気な主と一緒に居たいな。
だから早く元気になって僕にその笑顔を見せてくれると嬉しいのだけれど。
そしたらまた、一緒に散歩をしながら薬草を探しに行こうか。君の話がたくさん聞きたいな。
終
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