jerry-fish
2025-10-04 01:44:33
3939文字
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やさしくてかっこいいきみ

モグ真木(にょた)「全身全霊のかわいいをきみに(https://privatter.me/page/69c4c8ddcfc1f)」の続き。
森君にとって、真木とモグラはヒーローみたいなもんだよなって思ってます。

「真木さん!」
 頭にレッサーパンダを乗せた女性を見つけて、森は思わず声をかけた。彼女が振り返る。今日もいつもの黒いパーカーにジーンズだ。
「こんばんは、今バイト終わったとこ?」
「うん。森君も?」
「そう。さっき終わったところ。八重ちゃんはもうとっくに上がってるよ」
「そっか、良かった。もう夜遅いからね。森君は大丈夫? 送っていこうか?」
 バイト終わりの森は可愛らしい女の子の装いをしている。真木はそれが気にかかった。
「そんな、むしろ僕が真木さんを送るほうじゃない? こんな格好だけど男だし」
「男の子でも、そんな可愛かったら危ないよ。私のほうが年上だし。何より、八重ちゃんの友達を危険な目に合わせたくないから」
 年下の子は守らなきゃと真木が呟いた。
「あ、それともどこか寄るところがあるとか? それだと私邪魔だよね、ごめん気づかなくて」
 慌てたように謝る真木に、そんな予定はないことを森が伝えると良かったとホッとしたように笑った。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「うん。行こうか」
 森と真木は並んで歩きだした。主にゲームのことを話しながら森の住むアパートへと向かう。 
「でさ、今度一緒にゲームしたいなって思ってるんだけど」
「FPSくらいしかうまくないから……。それでもよければ」
「いいの? やった! 僕マロさんのプレイ好きなんだよ!」
「その名前で呼ばないで! 黒歴史っ!」
 ひぃっと小さく悲鳴を上げる真木に森は思わず笑ってしまう。そんなとき、どんと肩に衝撃が走った。見れば、目の前で小太りの中年が尻餅をついていた。
「おい! どこ見て歩いてやがる!」
 そう怒鳴る男の顔は赤く染まっており、酒に酔っていることが分かった。
「ああ。ごめんなさい」
 森はそう言って小さく会釈して真木を連れて立ち去ろうとした。男は立ち上がると森の腕をぎゅっと掴む。
「ごめんで済むと思ってんのかお前! ガキがこんな時間にぶらぶらしてっからめーわくなんだよ!」
 ぎゃんぎゃんと叫ぶ男に、森は面倒くさいなと内心苛立つ。真木とはまだあまり仲良くなれていないが、友達になりたいと思って今日ようやくゲームの約束を取り付けることができたのだ。そんな楽しい時間を台無しにされて腹が立たないほど、森はできた人間ではない。
「ぶつかってきたの、あなたですよね。なにより、謝ったじゃないですか」
 言い返そうとした森を庇うように真木が前に出た。
「んだてめぇはよぉ! ぶすは引っ込んでろ!」
「今見た目の話は関係ないですよね。こちらが謝罪した以上、これ以上言うべきことはないはずです」
 グァッグァッと特徴的な鳴き声がする。真木の上のマギー君が万歳をしている。自分を背に庇う真木の手が小さく震えているのも見える。
「だからそれじゃ足りねーって言ってんだよこっちはよぉ!!」
「うわっ」
 酔っ払いの声がさらに大きくなる。さらには真木の肩を押してきた。転びそうになった真木を森が支える。その軽さに森は目を丸くした。
 こんなに軽い女の子が、あの時に、そして今も自分を助けようとしてくれている。
「痛た……。ごめん森君」
「大丈夫だよ、真木さん。それに、あとは任せて」
 森はにこりと笑うと、真木を背に庇った。その手にはスマホが握られている。
「はい、こんばんは! 僕は今、話題のぶつかりおじさんにぶつかられて怒鳴られてまーす! せっかくなのでこのままインタビューしてみましょう! いい年してなんでこんなことしてるんですかぁ? あ、しっかり顔も映しますね! 配信デビューです!」
 スマホのカメラを向けられた男はわなわなと震えたかと思うと「くそがっ」と叫んでふらふらと走って逃げていった。
 ぽかんとした真木に、森は「大丈夫?」と声をかける。
「え、森君、それ」
「ああ、本当に配信したわけじゃないよ。ただ、ああ言えば効果はあるかなって。でも写真は撮ったから、いざという時はネットの海に放流しようね」
 にこりと笑う森は愛らしいが、同時に怖いと真木は思ってしまった。
「すごいね、森君は。助けてくれてありがとう」
「先に助けてくれたのは真木さんだから! 庇ってくれてありがとう! 真木さんはやっぱりかっこいいね」
「でも、結局森君に助けてもらってるし」
 キラキラした笑顔で真木を褒める森に、真木は戸惑いが隠せない。助けたくても何もできなかった。
「森君のほうがかっこいいよ」
「そんなことないよ! だってさ、僕は男だよ? ああいうおじさんに怒鳴られるのはやっぱり怖いけど、でもいざとなったら力づくで対抗だってできるんだ。でも、真木さんは女の子で、どうしたって対抗するのは難しい。なのに! 真木さんはまず僕を庇ってくれた。助けてくれた! こんなの、かっこよくないはずがないよ! 真木さんはかっこいいよ!」

 ――アンタはかっこいい!

 捲し立てるように褒める森の言葉に、小さいころ神社で言われた言葉が重なった。あの時も結局、弟を助けることができなくて泣かされた。それでも、あのぼろぼろの服を着た飴職人のおじさんは「かっこいい」と褒めてくれたのだ。
「そう、かな。そうだといいな」
 はにかむ真木に森は念を押すように「かっこいいよ!」と言った。

「あれ? 森君と真木? 何やってんだよこんな時間に」
 突然耳慣れた声がして、森と真木はそちらへ顔を向けた。
「モグラ?」
「モグラさん!」
「何? 二人で何してんの? まさかデートとか言わんよな?」
「森君に失礼だよ。たまたまバイト帰りにあって、助けてもらっただけだよ」
 真木はモグラの言葉にむっと眉を寄せた。自分が相手なんて、冗談にしてもあまりにも失礼だと思う。マギー君も「ぴい」と鳴いて、おそらく遺憾の意を表明してくれた。
「違うよ、僕が助けてもらったんだよ!」
「いや、でも」
 森が言えば真木はそれを否定する。
「待て待て! 詳しいことは気になるが、もう遅いんだから今日は帰れ。つーか二人とも送ってく。いいな、特に真木!」
 ワシワシと頭を掻きながら言うモグラに、真木はぐっと言葉を詰まらせる。
「うん。それはそうだ。こんな時間に一人歩きはだめだよね。真木さんもモグラさんに送ってもらおうよ。ここからだと僕の家のほうが近いから、そうしてもらっていい?」
 森は一息でそう言うと、じゃあ行こうかと歩き出した。真木とモグラはお互いを見て、真木がわかったというように小さく頷いた。道すがら、森君が先ほどの出来事をモグラに語って聞かせる。事のあらましはざっくりとだが、森の主観として真木という人物がいかにかっこいいかが主題になっていた。
「へぇ、やるじゃねえか。かっこいいな。でも、気をつけろよ。いざという時は周りに助けてもらえ」
「うっ。それはわかってるんだけど……。どうも年下は助けなきゃって思っちゃうんだよなぁ」
 もごもごと言う真木に、そこがかっこいいと森はさらに絶賛する。
「島で助けてくれた時も思ったけど、やっぱり真木さんはかっこいいよ! あ、もちろんモグラさんもかっこいいよ!」
「そりゃどうも」
「じゃあ、僕はここだから! おやすみ、真木さん、モグラさん!」
 ぶんぶんと手を振りアパートへ向かう森に、真木とモグラも手を振り返す。部屋へ入る前に、森はハッとしたようにちょいちょいと手招きした。モグラが「俺?」というように指をさせば森は大きく頷く。
「ここで待ってろよ。絶対だぞ!」
「わかったわかった。早く行ってこい」
 モグラが念を押せば、真木はあきれたように溜息をついた。
「どうした、森君。なんかあったか?」
「いや、一応言っておこうかなって思っただけなんだけど」
 森はちらりと真木を見た。真木は不思議そうにしている。声は届いていないようだ。
「僕は真木さんをかっこいいなーとは思うけど、恋人にしようなんて企んでないから安心してね」
……は? はぁ!?」
「というか、二人の間に入るのは無理なのもわかってるし。好きは好きでも友達のそれだし、推しに近いのかも。だから、本当にデートとかじゃないから安心して! 僕は応援してるよ、モグラさん!」
「ちょ、森君!」
 慌てるモグラを置いて、お休みと言って森君は部屋に入っていった。
「~~!! 最近も若者ってのはみんなこうなのか? いや、森君が特殊なのかもしれん」
 モグラは片手で顔を覆いぶつぶつと言いながら真木の元に戻る。
「どうした? アケさん以外の霊がいたとか?」
「あー、そういうのじゃねえよ。まあ、あれだ。応援されただけだ。真木は気にすんな。ほら、早く帰るぞ」
「そうだね。もうだいぶ遅いや」
 マギー君もすっかりおねむだねと、頭上の相棒を思う。いつの間にやら静かになったと思えば、寝ているのかもしれない。
「そうだな。頭に突っ伏してる。こりゃ完全に寝てるな」
「モグラが来て安心したら眠気が来ちゃったんだろうなぁ。悪いことしたな」
 明日林檎買うかと真木は柔らかく言った。

 俺が来たら、そばにいたら、安心すんの?

 のどまで出かかった言葉を、モグラは飲み込んだ。
「じゃあ、悪いけど家まで送ってって。お礼はまた今度するから」
「礼なんかいらねーよ。いつも食材持ってきてもらってるしな。だから遠慮なく送られてくれ」
「うん。助かる。ありがとう、モグラ」
 真木の家に向かい並んで歩く。

 二人の間に入るのは無理なのわかってるし。

 森の言葉が脳裏をよぎる。ほんの少し、手を伸ばせば届く真木の手が、どうしても気になって仕方なかった。