mohu09
2026-03-25 22:14:10
3353文字
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愛してると言って

愛してると言って怒られるジェなジェマク?


「それ何回目だ?」
 酷く不機嫌そうに顔を歪めたマークにそう問われて、ジェイクは「は?」と短く声を漏らした。何の話だかわからず困惑する。首を傾げてみても、マークは眉を顰めたままだ。
 回数の話だよな、と自身の中で今一度整理してみる。そんな回数を数えていなければならない話、今していただろうか。多分、していない。
「何のことだ?」
 自問自答しても答えが出なくて、ジェイクはついに声に出して聞いてしまった。思い当たるものがどうしてもなかったのだ。
 すると、マークは仕方ないといった風に読んでいた本を閉じ、ジェイクに向き直った。改めて真っ直ぐに見つめられると、少し居住いを正してしまいたくなる。
「その"愛してる"とか態々言ってくるやつだ。何回目だ、それは」
「はぁ?」
 そんなもの数えているはずがないだろう。だってジェイクとマークは恋人同士で、当たり前だけれどジェイクはマークを愛していて、それを伝えたいから「愛してる」と言う訳で。そんな当然の愛情表現を数えている方がおかしい。今だって、マークが静かに本を読んでいる姿が妙に様になっていたから「愛してる」と言って髪の毛にキスをしただけだ。それの何が駄目だと言うのだろう。さっぱりわからなくて、ジェイクは思わず瞠目する。
「そんなの数えるかよ。何が言いたい?」
「やめて欲しい」
「何を?」
「その"愛してる"って言ってくるのをだ」
 そう言ったマークは、まだ不機嫌そうに表情を歪めている。
 今度は絶句するしかなかった。恋人同士だと言うのに、何故愛情表現をやめなければならないのか。理解ができない。ジェイクは今までも何度もマークに愛情表現をしてきたつもりだし、彼だってそれを黙って受け入れていたはずだ。まあ、確かにマークからそれが返ってくることはなかったけれど、てっきりちゃんと愛情を受け止められているのだと思っていた。まさか一方通行の感情だったなんて。流石のジェイクもショックだ。
「何でやめなきゃならないんだよ」
「しつこい。朝から晩まで愛してる愛してるって何度も言われたら、食傷気味にもなる」
「だってしょうがないだろ。お前のこと愛してるんだから」
「だからやめろ、それ」
 マークは心底嫌そうにして、ジェイクの口を手で塞いだ。まさか食傷気味と言われる程にまで思われていたとは。想像もしていなかった。
 ジェイクは、思ったことはすぐに口にしたいタイプだ。それが愛情だろうと憎悪だろうと。好きな相手にはきちんと口と行動で伝える。嫌いな相手にだってそうだ。そこに違いなどない。感情を口にしない行動で示さないということは、思っていないのと同義だ。だからジェイクはきちんと感情を伝える。相手にわかって欲しいから。
 だがそれがマークにとっては煩わしかったようだ。こんな風に顔を歪めるくらいには。何とも悲しい話である。
「お前、俺のこと好きじゃないの?」
……そうとは言ってない」
「じゃあどう思ってる?」
「そんなこと言う必要はない」
 ふい、とマークが顔を逸らした。ジェイクは違和感を覚える。マークは別に、ジェイクのことが好きではないという訳じゃないらしい。むしろ、マーク的な表現から察するに好きだと思われている。まあ、恋人同士なのだから当然だが。
 では何故愛情表現をしてはならないし、マークも愛情表現をしないのか。それが疑問だったのだけれど、何となく今の反応でわかってしまった気がする。その答えをマークの口から言わせたい、という欲求が湧いて出てしまった。ジェイクの悪い癖だ。
「言う必要はないって言うけどさ、俺たち恋人同士だろ。たまにはお互い愛情を伝え合うのも大事だと思うんだよな」
「お前はいつも伝えてきてるだろう。だからしつこいと……
「"俺は"な。マークは?」
 沈黙が走った。マークはまだ顔を逸らしたままだ。言いたくない、という意味だろう。わかりやすくて大変助かる。
「お前ってほんと自分の感情口にしないよな。そんなんでよく爆発しないな」
「余計なお世話だ。何も困ってない」
「よく言うよ。本当は言いたいくせに」
「何をだ」
「俺を好きだって」
 マークがバッとジェイクの方を向いた。また顔を顰めている。漸くこちらを向いてくれたな、と思った。
 恋人関係を破棄していないのだから、本当はマークだってジェイクを好きなのだ。そこはジェイクも確信を持っている。ずっとマークを見てきたからわかる感情だ。だが、彼はそれを口にしようとはしない。何でも一人で内側に抱え込む性格だからだ。それはわかっているけれど、今はどうしても彼に「好きだ」または「愛してる」と吐かせてみたかった。ジェイクのわがままだ。
「別に言いたいなんて思ってない」
「それはショックだな。お前は俺を好きじゃないと?」
「だからそうじゃないとさっきも……
「言わないなら、思ってないのと同義だ。だったら別れた方がいい」
 そう残酷に告げると、マークは目を溢れ落ちそうなほどに見開いた。その反応がより確かな確証となって、ジェイクは笑いを堪えるのに必死だった。マークはきちんとジェイクを想っている。確認行動なんてしなくてもわかっていたことだが、こうしてみるとマークは意外とわかりやすいなと思った。
 マークが見開いた目でふるふると虹彩を震わせたと思ったら、顔を伏せて小刻みに震え出した。それは怒りなのか悲しみなのかわからないが、相当に堪えているのは確かだろう。
……お前の愛情は、そんなものだったのか」
 絞り出すように吐き出されたマークの言葉は、小さくて風の音にでも掻き消えてしまいそうなほどだった。こういう反応が返ってくるのは目に見えていた。だからわざと言ったのだけれど、この恋人はわかりやすくて本当に助かる。
「俺は何度も言っただろ。愛してるって。それを返さなかったのはお前だよ、マーク」
……だから別れるって?」
「お前が俺を好きじゃないならそれでもいい。この後は簡単な話だ。わかるだろ?」
 わざと意地悪な表現をすると、マークが低い声で唸った。何かを言いたそうにしている。さぁほら、言ってみろよ、とジェイクは心の中でマークを煽った。
……じゃない」
「ん?」
「そうじゃ、ない」
「何が?」
 意味なんてわかっていて聞いた。でないと、マークは意地でも次の言葉を口にしないだろうと思ったから。
……好きじゃないわけない。俺は、お前をあい……愛してるから、恋人になったんだ。今更別れるなんて許さない」
 マークは涙目で精一杯ジェイクを睨みつけて、震えた声で告げた。思った以上の言葉が返ってきたので、ジェイクは感動に口笛を吹いてしまいたいくらいだった。
 好きどころか愛してるときた。想像以上の出来だ。マークにしたら一世一代の告白にも近いものだったのではなかろうか。ジェイクの告白に「そうか」と冷静な反応を返してきた奴と同じ人物とは思えない。
「良くできました」
 ジェイクは満足気に呟いて、震えているマークを強く抱きしめた。するとマークは涙をポロポロと溢しながら抵抗してきて、力一杯ジェイクの背中を叩いてくる。少し痛い。
「おま、おまえ、試したな!」
「ごめんなぁ? お前が俺を泣くほど愛してるとは思わなくてさ」
「愛してない! 嫌いだ! 大嫌いだ!」
「はいはい」
 先程とは全く逆のことを叫ぶマークの瞳からは、まだ雫が溢れている。別れると言ったことが相当にショックだったらしい。少し意地悪しすぎたかなと思ったが、こうでもしないとマークは思っていることを口にはしなかっただろう。本当に、手のかかる恋人だ。
「俺は愛してるぜ、マーク」
「だからやめろと言ってる!」
「素直じゃないな、お前も」
 ジェイクは仕方がないなといった風に呟いて、マークの唇にキスを落とした。すると途端に黙り込むマークがどうにも愛おしくて、ジェイクはふはっと息を漏らして破顔したのだった。