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2026-03-23 22:50:20
7347文字
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現パロ師アレ 夜に棲むもの2

これ→ https://privatter.me/page/69b184899cd10
のつづき
師弟全く関係ないふたりです
社長クロスとバーテンダーアレンくん
ラビがめちゃくちゃ過保護してますがラビアレではないです
師アレくっつくかわかりませんがくっついたらいいな〜と思ってかいています

目が覚めたらかかりつけの病院のベッドの上だった。いくらかはっきりした頭でそのことを把握したアレンは勢いよくがばりと体を起こして、貧血を起こして頭をおさえて唸った。ついでにこれまた勢いよく咳き込む。
「あ、アレンくん起きた?」
アレンの咳と唸り声で気づいたのか主治医のコムイがカーテンを開けて顔を覗かせる。アレンは唸りながらも小さく頷いた。点滴が右腕につながっていることに気づく。はっとして左腕を見たが、袖は捲られてもいなかったし手袋もきちんとついたままだった。安堵のため息と一緒にまた咳が出た。
「無理しないで横になってなさい」
「っ、は、い……
一旦呼吸が落ち着いたところで、今度は慎重に横になる。それからどうしてここにいるんだっけ、とようやくそこまで頭が回って、また起き上がりそうになるのを堪えて一旦引っ込んだコムイを呼んだ。にゅ、と生えるようにしてカーテンから頭を覗かせたコムイに少し驚きつつアレンは掠れた声で言った。
「あの、僕なんで……
「ああ、コンビニで動けなくなってたとこを運び込んでくれた方がいてね。今呼んでくるからちょっと待っててね」
「え、あ、はい……
「一応ラビくんにも連絡入れといたから」
「あっ、はい、すみません」
点滴は解熱剤か水分補給かそんなところだろう。右腕を勢いよく動かしてしまったせいで少し痛みがあった。左手で荷物を探って、コンビニで買ったアイスはもうどろどろに溶けてるだろうなと思い出して少しだけがっかりする。携帯電話をようやく探り当ててロックを解除したら、ずらっとラビのメッセージが入っていて思わず「うわ」と声が出た。
「大丈夫か」「病院あとでいく」「目ぇ覚めても待ってろよ」「迷子になるから絶対ひとりで帰るな」「ひとりで帰るなよ」「迎えいくから」「とりあえず気づいたら返事しといて」「てか病人はおとなしくしてろ」「なんでコンビニ行ったん??」「いくなばか」「気づいたら返事だかんな」「絶対返事しろ」……とそこまで読んでアレンは面倒になって全て読み飛ばすと「目さめました病院です」とのろのろ入力して送信した。せめて一通にまとめてくれればいいのに、と恐ろしい数字だった未読の通知がなくなったのを確認する。
「あーもー……
ラビは時々ものすごく過保護になる。過保護というか心配してくれているのはわかるので、無碍にはできないのだけれど、病人にこの量のメッセージを読めというのもひどい気がしたし、そこまで心配するなら昨日の皿洗いをちゃんとして欲しかった、と脳内のラビに向かって八つ当たりをする。
と、そこでカーテンが音を立てて開けられて、コムイとその後ろに見知った顔を発見して、アレンは顔から音を立てて血が引いていくのがわかった。
「あ、こ、こんにちは……
「あーこちらアレンくんを連れてきてくれたマリアンさんです。心配してラビくんが来るまで待っててくれてます。ついでに今の薬代も払ってくれたからお金は気にしないでね」
「えっ、お金……そんな、すみません」
「アレンっつーんだなお前」
コムイとアレンの言葉を全部無視して、クロスはにやっと笑ってそう言った。アレンは血の気の引いた顔でなんとか営業スマイルを作ろうとして、咳き込んで失敗した。

とりあえず点滴が終わるまでは寝てなさいと厳命を受けて、アレンは横になったままクロスと目があわないようにまぶたを落としていた。クロスはなぜか近くの椅子を引っ張ってきてすぐ横に座っている。非常に気まずい。
「悪いが財布漁らせてもらった。診察券見てここに運んだが間違ってはなかったみたいだな」
「あは……ありがとうございます……その、お金は、あとでちゃんと返すので……あとその、うつすの嫌なんで……その、待合室の方に……
「こっちにいたほうが感染経路がわかりやすいからこっちでいい」
「うつる前提じゃないですか……
なんだかもう全てがどうでもよくなってきて、クロスも別に喋るわけでもなく黙っているので、アレンはもう寝てしまおうと頭の中で羊を数え始めた。意識がぼやけてきた時に薄く目を開けてクロス見たら、ただ腕を組んだままアレンを見ていた。見なきゃよかった、とアレンはまた目を閉じてそのままとろとろ眠りに落ちていった。

声がする。何かを言い争うような声だ。名前を呼ばれた気がした。ゆっくりと薄くまぶたをあげると、すぐに気がついたのか馴染みの声が聞こえた。
「アレン!起きたか」
……ラビ」
「点滴終わってるからもう帰れるかんな」
ゆっくり頷く。頭を撫でられて、また目が閉じかける。ラビの後ろから低い声がした。
「礼ぐらい言えよ」
「言いましたけど?うちについてくるのは困ります」
「お前病人歩かせて帰るのか?」
「うるせえ、アレンをここに運んでくれたことは感謝してますけど、知らねえ男に家バラすほど馬鹿じゃないんで」
「らび、」
重たい手でアレンはラビの服を引っ張った。ラビがこちらを見たのを確かめてから、アレンは掠れた声で言った。
「どしたアレン」
「おきゃくさん」
「え?」
「そのひと、おみせの、おきゃくさん」
……ナンパ野郎か?」
「へんな、ひとじゃな、いから、だいじょぶ、たぶん」
「多分ってなんだよ」
口をへの字にしてクロスがぼやく。カウンターの向こう側にいる時とあまり変わらない態度にアレンはなんだか笑ってしまった。ラビは驚いたように少し眉を上げたけれど、やっぱり渋い顔になった。
「それじゃ余計家まで着いてこられるのは困ります」
クロスの方を向いたラビがどんな顔をしているのか分からなかったが、アレンはもはやこの場はラビに任せようとしか考えていなかった。頭が割れそうに痛かった。点滴は入れてもらったものの、それだけで体調が回復するわけではないというのはわかっていたので、もうはやく家に帰って寝たい以外の選択肢が思いつかなかったのだ。
「じゃあ店まで車で送ってやる。病人抱えて歩いて帰れるなら別だが」
……じゃあそれでお願いします」
ラビの声は依然として固かった。クロスのことを警戒しているのだろう。そりゃそうか、と痛む頭でアレンは思った。コンビニで動けなくなっていた緊急事態とはいえ、救急車を呼ぶでもなく勝手に財布を漁ってかかりつけの病院を特定して運び込んだのだ。しかも点滴の金まで払ったときたら、何かしら裏があるのではと考えるのが普通だろう。これをネタに強請られるとか、脅迫されるとか、強引に関係を持たされるとか。ともかく普通の感覚なら怖いと思ってしかるべきだ。けれどアレンはクロスことをそんなふうに怖いとは思わなかった。カウンターを挟んだ間柄でしかなかったが、クロスがそういうことを嫌う人なのだろうなということは日々の仕事の愚痴からなんとなく分かっていたし、口は悪いし態度も横柄なこともあるが根は優しい人なのだろうなとも感じていたからだ。さすがに先日ナンパされた時は困ったけれど、それでもアレンのやんわりとした拒絶に対して怒るでもなくさっぱり引いたのには好感が持てた。だからこの一連の行為は、おそらく善意100%ではないにしろ、加害の意思は持っていないはずだと思えた。変な人だなあ、とアレンはまたぼやけてきた頭で思う。今までナンパしてきた人たちはもっとなんというか、怖い目をしていたのに、クロスはそんな目をしていなかった。それなのにこんな大胆なことはしてしまう。眠りに落ちる直前に見えたクロスの目は、ただただ静かで、見守られているように思えたのだ。
「アレン、起こすぞ」
ラビに言われて、アレンは意識を戻す。言われた通りに腕をラビに回した。支えてくれる手が冷たくて気持ちいいと思える程度にはまた熱がぶり返しているみたいだった。体が鉛のように重たい。
「裏から出る。駐車場はそっちのが近い」
……アリガトウゴザイマス」
「最初から素直に言っとけよな」
「あんたが怪しすぎるんだから仕方ねえだろ」
「客になんつーこと言ってんだ」
「今は客じゃない」
ラビとクロスの会話はとげとげしいのに、なんだか聞いていたらおかしくなってきて、笑いそうになったところで咳が出る。止められなくて咳き込んだ。支えてくれているラビが「だいじょぶかアレン」と言ったところで、クロスが近づいてきてアレンをひょいと抱え上げた。
「おいアンタ!」
「いいからさっさと帰って寝かせてやれよ。それともお前が抱えてくか?」
「そういう問題じゃねえだろ」
げんなりとした口調なのに、アレンの背中をさする大きな手は優しかった。顔の真横でインフルエンザの患者に咳き込まれるなんて嫌だろうに、クロスはラビに向けためんどくせえ、という表情を崩すことはなかった。変な人だ。アレンはもう一度そう思った。
「さっさと行くぞ」
ラビがイラついたような悔しそうな顔をして、けれど言われた通りにクロスの後ろについてくるのを見て、やっぱりなんだかおかしくて、アレンは落ち着いてきた咳がまたぶり返さないように頭の中だけで笑った。

クロスの乗っている車は想像していたより全然地味で、けれどクラシカルな感じもあったのでそこそこ値の張る高級車なのだろうな、とアレンはなんとなく思った。車は全く詳しくないので本当のところはよく分からなかったが。クロスはラビとアレンを後部座席に押し込むと、ナビも出さずに車を出した。病人を乗せているせいか元々なのか、運転は上手くて酔わずにすみそうだった。意識があるようなないような状態で、アレンはラビにもたれかかって目を閉じていた。ラビは何も言わずに肩や背中をさすってくれていた。車内では皆ずっと無言で、ときおりアレンが小さく咳き込む以外静かなものだった。教習所で百点をもらえるのではないかと思うほどの安全運転で車は店の前で止まった。
「ついたぞ」
ありがとうございました」
……あり、が、ます」
「喉痛いんなら喋んな」
アレンは目を瞬かせながら頷く。
「絶対についてくんなよ」
「うっせえな、分かってるから早く帰れ」
ラビはクロスをひと睨みしてから、アレンを支えつつ車を降りた。ラビが車の扉を閉めて、距離を取ったのを確認してからクロスは車を出した。アレンは重たい腕を少しだけあげて、ゆるく振った。クロスが気づいたかどうかはわからなかった。ラビは車が完全に見えなくなったのを確認してから、盛大にため息をつく。
「ああ〜〜!マジなんなんさあいつ!!」
「おきゃ、くさん」
「喋んなくていい、くそっ、アレン、お前財布に住所載ってるのいれて……るよな、保険証………くそ、絶対に見てるだろ……
……だい、じょぶ、らび」
「独り言!返事せんでいい。ああもう、ごめんな、はやく帰って寝ような」
「ん、」
店から歩いてほんの数分の自宅につくころにはアレンの足元はだいぶおぼつかなくなっていて、自室のベッドにたどり着いた時には服を脱ぐのすら億劫になっていた。ラビは甲斐甲斐しくアレンに薬を飲ませ、寝巻きに着替えさせてやるとそのまま布団に押し込んだ。
「じじいにうつるとやべえから部屋からあんま出ないでな。じじいにも言っとくさ。まあじじいの方がずっと部屋にいるけど……
「ごめ、なさ」
「謝んなって。俺も悪かった。最初からついてきゃよかった……あっ、アイスは後で買い込んどくから心配すんな」
……ん」
「とりあえず寝な。……そういやアレン、薬いつもらった?」
………え?」
……………あんのヤロ……てことは薬局もバレてる……
「あ、……あー、そ、です、ね」
ラビが頭を抱えてばたばたしているのを見て、アレンは少しだけ笑った。くそ、と毒づいているラビの手をぽんぽんとたたいて、頷いてみせる。ラビはアレンの手を握った。アレンもラビの手を握って、小さな声で名前を呼んだ。
「だ、いじょぶ、です」
……ごめん」
「らび、は、わる、くない」
「いや……いや、うん、……ありがと、うん、……もう寝な」
「ん」
「おやすみ」
アレンはゆるりと頷いて、ようやく目を閉じた。アレンが寝息をたてるまで、ラビは手を握ったままじっとしていた。

熱が出た時の夢は悪夢だと相場が決まっている。例に漏れずアレンは悪夢の中にいて、何度も何度もひしゃげた車と血まみれの両親とガソリンのにおいと、少しずつ大きくなる火の熱と、泣き叫んで手を伸ばしてもひきずられて遠ざかるだけの自分を見ていた。一緒に死にたかった。えぐれて血まみれになって半分視界がなくなって、それでも生きていて、どうしてそうなってしまったのだろう。視界がくるくると切り替わる。ぼんやりとその光景を見ている自分と、泣き叫びながら燃える車を見ているしかできなかった自分と、目が回りそうになる。一緒に死にたかった。追突してきたワゴン車も燃えていた。運転手は助かったのか死んだのかもう忘れてしまった。どうでもよかったから。両親が燃えているのにどうして自分の手は届かないんだろう。一緒に死にたかった。なにも悪いことなんてしてなかったのに。ただいつものように三人で買い物に出かけた。それだけだったのに。一緒に死にたかった。どうしてふたりはしななきゃいけなかったんだろう。一緒に死にたかった。どうして僕は生きているんだろう。一緒に死にたかった。一緒に死にたかった。一緒に死にたかった。一緒に

自分の叫び声で目が覚めた。息が荒くなっていて、熱くて、あの日の熱を思い出して、半ばパニックになりそうになって枕に顔を押し付けた。咳が出た。合間に叫んだ。くぐもった声が耳に届いて、また叫びながら咳き込んだ。頭を掻きむしって髪をきつく引っ張って、痛みで少し落ち着いてきたところで意識してゆっくり呼吸をする。それからようやく顔をゆっくりとあげた。ベッドサイドに置かれていたペットボトルの水をつかんでうまく力の入らない手でなんとかキャップを外して、喉を鳴らしながら一気に三分の二ほど飲み込む。ペットボトルをベッドサイドに乱暴に置くと、アレンは俯いたまま長く息を吐いた。手が震えてうまくペットボトルをはなせなくて、そのままぐしゃりと握りつぶす。水がこぼれたが気にしている余裕はなかった。
部屋の扉をノックする音がして、アレンはゆるりと顔をそちらに向けた。
「アレン?大丈夫?」
扉の向こうからラビの声がした。ゆっくりと扉が開いて、ラビの顔がのぞく。アレンは無理矢理口角をあげた。
「だいじょうぶ、です、ラビ」
……また悪夢?」
……うん」
……俺、いようか?」
……うつすの、やだから、いい」
「そ。……水、かわりの持ってくるさ」
……ありがと」
ラビもかすかに口角をあげてから扉を閉めた。薬を飲んだせいか汗だくになったからか少しだけ頭がはっきりしてくる。
一緒に死にたかった。
考えを振り払うようにアレンは頭をゆるく振った。あれは夢だ。夢だった。現実だったけど、もう夢だ。今じゃない。昔のことだ。今起きていることじゃない。ああでもほんとうに、
……いっしょに……
死にたかった、まで声にならなかった。かわりに涙がぼろぼろ落ちていって、アレンはしゃくりあげながらベッドの中でうずくまる。生きてしまった、と今でも思う。どうして生きてしまったんだろうと思う。でもこたえをアレンは知っていた。血まみれになっていた両親が自分を生かしてくれたことを、アレンは知っていた。わかっていた。まだ幼かったアレンだけは、ひしゃげて割れた車の窓から逃すことができた。行け、と言われた。行くんだアレン、はやく、行くんだ。耳にこびりついているその声を、アレンはまだ覚えている。両親は嫌がる自分を窓から押し出して、知らない男の人が暴れる自分を引きずって車から離してくれた。直後に追突してきた方の車から火が燃え移ったことを、アレンはまだちゃんと覚えている。泣き叫んで手を伸ばした自分に向かって、少しだけほっとしたような顔を見せた両親のことを、アレンはちゃんと覚えている。
泣きじゃくりながらそのまま眠ってしまったのか、気がついた時にはベッドサイドのペットボトルの水は新しいものになっていて、ついでにこぼした水も拭かれていた。いつもは洗面所に置いている安定剤が小皿に一錠だけ乗っていた。ラビは本当に気がきくから、その優しさにアレンは時々とても怖くなる。さっき握り潰してしまったペットボトルも、きっと一度キャップを外してくれていたのだろう。そうじゃなかったらアレンはおそらくキャップを開けることすらできなかったはずだ。
アレンはあとでしっかりお礼を言おうと頭のすみにメモをした。落ち着いてペットボトルのキャップを外して、安定剤を水と共に流し込む。インフルエンザの薬と併用してよかったのか聞き忘れたな、と思って、けれどまた眠くなってきたから布団に潜り込んだ。悪夢をみるかもしれないのは怖かった。でも寝ないと治るものも治らないと分かっていたから、アレンは目を閉じた。それからふと、病院でずっと隣に座っていたクロスのことを思い出した。あの目。静かに見守るようだった、あの目。
クロス・マリアン。あのひとの名前。口の中で声に出さずに呟く。そういえば、病院では悪夢をみなかった気がする。忘れているだけかもしれないけれど。でもあのひとは何も言わなかった。うなされていたら何か言いそうなのに。アレンのことをただ見ていた。静かに。
お礼を言わなくちゃ。アレンは落ちそうな意識のふちで思った。ちゃんとおれいをいわなくちゃ。びょうきをうつしてしまっていたらどうしよう。そしたらごめんなさいもいわなくちゃいけない。でもあのひとはもうおみせにこないかもしれない。らびにきつくおこられてたし。こなくなってしまうかもしれない。もうあえないかもしれない。それは。それはなんだか、とても。とても……なんだろう。とても……
はやくお店を再開したいな、と、アレンは思った。あのひとが来てくれたらいいな、と思った。それからとろりとろりと眠りについた。

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