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2026-03-12 00:04:41
7959文字
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現パロ師アレ 夜に棲むもの1

どっかの社長のクロスとバーテンダーのアレンくんという師弟全く関係ない師アレをかいてみたかった。
ブックマンが経営してるバーのバーテンダーやってるアレンくんと一応オーナー(仮)のラビくん。ラビとアレンは仲良し兄弟みたいなかんじになっています。距離が近い。
酒の知識が皆無なのでそのへんは薄目で見てもらえると幸い。
ほんとうにクロスとアレンくんがくっつくかはちょっとわからないけどそこ目指していきたいです。

薄暗いバーカウンターの一番奥に座る。すぐにバーテンダーがやってきて「いつものでいいですか?」と尋ねるので、クロスは「ああ」とだけ答えた。バーテンダーは慣れた手つきでウイスキーのロックを作ってコースターと共にクロスの前に置く。置かれたそばからグラスを手にして一気に煽ると、強いアルコールの香りにのどが焼ける感覚がした。そのままグラスをバーテンダーに突き出す。
「もう一杯」
「早いですね。今日は何かあったんですか」
バーテンダーはクロスより一回りは小さな手でグラスを受け取り、またウイスキーを注ぐ。同じ酒ならグラスは洗わなくていいからすぐに次が欲しい、と以前言ったことをきちんと覚えているようだった。次はコースターに置かれる前に奪うように差し出されたグラスをとって、また一口あおる。やっと人心地ついて、クロスはグラスを置いた。
バーテンダーの男はいつも微笑んでいる。銀色の美しい髪は背中の真ん中ほどまで伸ばされていて、きれいにひとくくりにされていた。初めてこのバーに入った時から彼はずっとバーテンダーをしていた。クロスは酒好きだ。酒に使う金に糸目はつけない。それが信条だったし、ついでにちやほやされるから酒はほとんどキャバクラで飲むのが常だった。ここを見つけたのは、どこだったかのキャバクラにいた女の一人が「穴場みたいないいところがある」と教えてくれたからだった。仕事で部下の尻拭いをさせられて、ひどく苛立った帰り道にふと思い出して足を向けた。どうせ大したことはないだろう、とたかを括って店に入った途端、なぜだかわからないがひどく落ち着く場所だと思ったのを覚えている。照明は少なくて薄暗かった。カウンター席は3席しかなく、テーブル席も奥にふたつしかない。そしてとりあえずと座ったバーカウンターに、足音もなくやってきたのがこのバーテンダーだった。はじめはぎょっとした。顔が明らかに若かったからだ。どう見ても未成年にしか見えなかった。そしてその左頬から額にかけて、痛々しさを通り越して美しいと思えるほどの傷が走っていた。こんな顔して実は裏社会の奴なのかとも思ったがそうではないらしい、とは後で知った。「ご注文は?」と尋ねられて、クロスはとりあえずウイスキーのロックを頼んだ。彼は種類を尋ねたが、おまかせでいいと答えた。すぐに迷うことなく酒は選ばれ、コースターと共に目の前に置かれたそれを飲んで、クロスは深い感嘆の息を吐いた。美味かったのだ。その時のクロスのささくれた気分に寄り添うような、そんな香りのウイスキーだった。
「またダメな奴の尻拭いでもしたんですか」
バーテンダーがそう言って、クロスは意識を戻す。
「そうだ。もうあいつはクビにしたほうがいいがこっちからクビにできねえからとっととくたばって欲しい」
「大変ですねえ、社長さんって」
のんびりとバーテンダーは言って、ふふふ、と笑う。笑うと幼い顔立ちがさらに幼く見える。あれからクロスは何かあるたびにこのバーに通うようになり、バーテンダーの彼とも話をするようになった。仕事の愚痴を丁寧に、時々適当に聞いてくれるし、深く突っ込んでこないし、なにより話していてとても落ち着く奴だった。名前は知らない。なぜこんな小さなバーで働いているかも知らない。けれど彼はいつだってそのバーで働いていて、クロスが訪れれば気分に合う酒を出してくれる。もうひとり働いている赤毛で眼帯の男がいたが、そっちは女性客に愛想を振り撒くことに徹していて男性客は彼に任せている節があった。不満はないのかと尋ねても、彼は「ああいう人なんですよ」としか言わなかった。
気付けばクロスは常連さんになっていて、定位置の席まで決まっていた。その席に座るのは、話していなくても働いている彼が見えるからだった。認めたくなかったが、クロスにとってその男が働いている姿は非常に癒やされるものになっていた。
「まあ僕はあなたのチップで助かってるので、その方には悪いですけど、別の会社に転職していただけるといいですね」
……たいした額じゃねえだろ」
「ちりもつもればってやつですよ」
店の制服はかなりしっかりしていて、ワイシャツにベスト、スラックスから靴まで支給されているらしい。なぜか彼はリボンタイをしていて、新人はリボンタイなんです、と教えてもらってからもう二年ほど経つが、まだ同じものをつけている。おそらくオーナーの意向なのだろうな、というのはなんとなく察せられた。彼はリボンタイではなくネクタイをしていても似合うだろうが、中性的できれいさが目立つ顔にはリボンタイの方が合っている。彼は常に白い手袋をしていて、素手は見たことがなかった。なんでか聞いていいものなのかわからなかったので、クロスはとりあえずその謎は棚上げしている。そのうち聞く機会もあるだろうし、触れられたくない話題かもしれない。相手は店員で、自分はただの客なのだ。気安い関係ではない。
ただ、クロスはそろそろこの男の名前を知りたいと思っていた。店にいるのは彼ひとりのことが多く、もうひとりが入るのは混んできた時だけだ。ふたりともそれなりに固定客がいるようで、相手の固定客が来た時にひとりだとバックヤードに呼びに行くことが時たまあった。その時ですら名前を呼ばない。徹底して名前を明かさない営業スタイルはどういうことなのか、クロスにも理解はできなかったが、何かしらの事情があるのは間違いなかった。面倒だから源氏名でもつければいいのにと言ったことはあったけれど、「多くても二人だから困らないし」と言われた。確かにカウンターの中はふたり入れば狭苦しいほどのスペースしかなかった。
「なあ、お前、酒飲めんのか」
三杯目のウイスキーを流し込みながらクロスは言った。彼は驚いた顔をして、そっと水の入ったグラスをウイスキーの隣に置いた。
「私的な話はあんまり」
「いいじゃねえか飲めるか飲めないかくらい」
「今日は酔うの早くないですか?」
「酔ってねえ」
「酔っ払いはみんなそう言うんですよ」
「酒、飲めんのかよ」
重ねて尋ねてじっと顔を見ると、彼は少し呆れた顔をして、それからやっぱり笑った。
「僕、下戸なんで飲めません」
「へえ、よく採用されたな」
「ちょっとしたツテです」
「ふうん」
「あなたこそよくそんなにがぶがぶ飲めますね」
「ザルだからな」
「知ってますよ。ショットで負けたことないっておっしゃってましたもんね」
他の客がカウンター席について、彼は軽い会釈をしてからそちらへ向かった。新規の客だろう。見たことがない顔だ。なにがしかを話して、彼はカクテルを作り始める。もはや芸術的ともいえるなにひとつ無駄のない動きで作られたカクテルを、音も立てずに客の前に置く。彼は微笑んで、それからその客と話をはじめた。クロスはどこか面白くない気分でそれを見ていた。俺の方が先に来ていたのに、とも思うけれど、仕事の邪魔をするつもりもなかったし、彼の横顔を堪能できる機会でもあるので、黙っていた。ウイスキーを飲み干して、ついでに水も飲み干す。彼が気がついてこちらを見たので、会計を頼むジェスチャーをする。銀灰色のやわらかな目が頷いて、客に断りを入れてこちらに向かってくる。少しだけ気分が浮き足立つ。
「またな」
「ええ。ありがとうございました」
少し多めにチップを払って、クロスは席を立った。そしてふと思いついて彼に言った。
「何時に終わる?」
「え?」
「仕事」
「あ、あの、そういうのはちょっと……
……だよな。悪い。忘れてくれ。……また来る」
「はい。お気をつけて」
彼は微笑んで、それから少しだけ手を振った。初めてされたその仕草に、クロスも片手を軽く上げるだけでこたえて店を出た。だらだらと過ごしていたせいか、もう零時を回っている。ひとつあくびをして、タクシーを適当に捕まえると自宅の住所を告げた。


「またナンパされました」
クローズの札を下げてバックヤードに戻り、与えられたロッカーで着替えながら、くたくたのソファに寝転んで本を読んでいるラビにアレンはぼやいた。
「モテるねえアレンさん」
「男性ばっかりですけど」
「いいじゃんアレンはどっちもいけるんだし」
「正確には初手ではどなたもお断り、ですけどね」
「難儀さね」
寝転ぶラビの足を雑に退けて、アレンは隙間に無理矢理座った。そのまま後ろに背を預ける。
「ラビももっとおもて出てくださいよ……僕だけで回すの結構大変なんですよ……
「誰かさんが料理できないからな〜裏で料理作るしかねえんだよな〜」
「うぐ……
「いいじゃん、どうせたいして繁盛してないし」
「僕はそれじゃ困るんです!」
ウーッと唸って、アレンはラビの背中に寝転がった。ぐえっと何か聞こえたが聞こえなかったことにする。
「こんななりで普通の就職先なんか見つかるわけないでしょ」
「それはまあそうさね」
ラビがもぞりと動いて背中にくっついているアレンの頭をぽんぽんと撫でた。ラビはこのバーのオーナーであるブックマンの孫だ。つまり未来のオーナーである。きちんと経営学を学んだらしいが、本人にはあまりやる気がなく、料理と皿洗い以外のおもての仕事を全部アレンに押し付けていた。料理も皿洗いも営業時間中にアレンができない事だったので、その点で文句はないのだが、それにしたってアレンがおもてでせっせと接客をしている間、ラビは皿洗いをクローズ後のアレンに任せる気満々で本を読んだりゲームをしたり映画を観たりと忙しくしているのだ。要するにサボっている。アレンは先程ちらりとのぞいたら見えた、雑に水につけられたグラスの山にげんなりしていた。人前で手袋を外したくないアレンにとっては融通を利かせてくれるのはありがたかったが、それにしたって職務放棄もいいところである。これで給料はしっかり貰っているのだから雇われの身のアレンとて怒ってもいい気はした。
「アレーン、もう朝になっちゃうさ」
「洗い物でしょ、わかってますうう
「まかない飯は冷蔵庫」
「やった!ありがとうございますラビ!食べたらやります!」
一瞬で跳ね起きて元気になったアレンに、ラビは単純でかわいいなあと思いながら、少しだけ心配になった。食事に関してアレンはちょろすぎる。ナンパされてもアレンにその気は一切ないから大丈夫だとは思うが、食事に誘われたらちょっと、いやかなり揺らいでしまいそうではあったので。
冷蔵庫からまかないには多すぎる量の皿を嬉々として取り出して、レンジにかけているアレンの後ろ姿はとても成人男性に見えない。というか今年ようやく成人したばかりである。ラビは本当に難儀な奴、と思ってまた手にした本に目を落とした。
アレンがここにやってきたのは、アレンの両親が亡くなってからしばらくしてからだった。十五歳だった。ほとんど絶縁状態だった父方の祖父、つまりはラビのじいさんでもあるのだが、その人がバーを経営していると知って働かせてくださいと頼み込みにきたのだ。その頃のアレンはもっと痩せていてかわいそうになるくらいに憔悴していた。交通事故で両親を失い、自分だけ生き残ってしまったことに酷い罪悪感を抱えてしばらく病院に押し込まれていたらしい。アレンの左頬の傷は事故の時についたものだったが、焼け爛れたような醜い左腕は生まれつきのものだった。両親はそんなアレンを、それでも本当に愛してくれたのだと言った。優しい思い出しかないからつらい、と、話ができるようになってからこっそり教えてくれた。左腕を人目に晒すのをパニックになるほど嫌がっていた。それでもアレンは、働かせてください、と頭を地面にすりつけて懇願した。ラビのじいさんはほとんど喧嘩別れしたようになった息子の子どもを哀れに思ったのか、一緒に住むことを許して、さすがにバレたらこちらもまずいから、とバーのバックヤードで仕事を与えた。ラビはその時十八歳で、突然あらわれた謎のいとこに驚いたけれど、ラビ自身も両親を亡くしていたからか、少しだけ親近感があったことは覚えている。アレンははじめは人と目を合わせて話すことができなかった。病院内の学校に行ってはいたけれど、その頃のアレンは勉強どころではなくて、要するに学もなかった。勉強を教えたり一緒に遊んだりして、ラビはアレンと少しずつ打ち解けていった。アレンはラビのことをラビと呼ぶのをためらうような仕草を時折見せた。後で父親の名前もラビだったことを知った。
幽霊みたいだったアレンは、じょじょに人間らしくなって、ついでにとてもきれいになった。ヘテロのラビでもアレンはきれいだと断言できるほどには。ラビが大学に行っている間、アレンはせっせとバーの裏方として働いた。料理はどうしても上手くならなかった。かわりに酒の種類と様々なカクテルを作ることを覚えた。アレンは酒が飲めなかったので、試飲はだいたいラビがやった。時々じいさんも飲んだ。店のおもてに立ってもいいだろうと言われたのは、アレンが十七歳の時だった。年齢は適当に偽って、自分で適当に切っていた髪をきちんと手入れさせて、手袋をしているから皿洗いは裏に任せられる体制をつくって、アレンは店のおもてに立つようになった。じいさんはアレンをおもてに立たせたと思ったら、さっさと引退して経営をラビに投げた。一応仮のオーナーではあるのだが、ラビはもう少し大学生活を謳歌したかったので喧嘩になった。とりあえずオーナーはじいさんが続けることにはなったものの、結局はラビも経験がてら経営をこなすことになってしまった。
これまでは年嵩の人が多かった店は、若い人が訪れるようになった。謎の美人がやっているバーだと噂が広まるのが早かったのだ。とはいえ、店が繁盛しているかといえばそういうわけでもない。基本的に撮影だのSNSだのはお断りだし、そもそも宣伝もしていないし、ラビが開けたい時に開けて閉めたい時に閉めるから不定期営業だし、なにより薄暗くて狭い店内に多くの人は入れなかった。ラビにやる気がないので、アレンは客単価を上げる作戦に出て、ひとりひとりに丁寧に接した。そうすると回転は良くないから、やっぱりお客さんは増えるわけでもなかった。ラビの気まぐれ営業に業を煮やしたアレンは、働き口がなくなることと入院していた間の借金が返済できなくなることを恐れて、ラビが面倒くさがる日を食事なし営業日にした。これならなんとかアレンひとりで回せるし、おつまみは仕入れたものを出すだけでいいものでどうとでもなる。そういうわけで、アレンは毎日バーに立っているし、体調が思わしくない時以外はほぼ毎日営業している。労働基準法など知ったことではない。アレンには金が必要だったのだ。じいさんはアレンの方が商才はあったかもしれんなとラビのことをじろりと見るだけで止めることはなかった。ラビもラビで「好きにしていーよ」とけらけらと笑っていた。
ラビはアレンのことをもう弟みたいなものだと思っているし、アレンもラビのことをお兄さんみたいだと思っていた。二人の相性が良かったのは不幸中の幸いだった。お互いにお互いを尊重しつつも適度に雑に扱っても平気だとわかっているから、気ままに(アレンは気ままにとはいかないわけだが)あのバーの仕事を回せている。
まかないを食べ終えたアレンはようやく手袋をとって洗い物を始めた。丁寧に、けれども素早く食器を洗っていく。もう五年目にもなれば手つきはプロだ。多分ラビより正確で速い。
「アレーン」
「なんですか忙しいんですこれ洗ったらおつまみの在庫確認しなくちゃ……
「いや、俺やっとくからそれ終わったら寝な?」
「えっ、どうしたんですかラビ、熱でもあるんですか?」
「違えよ。熱あるのはアレンのほうさ」
「え?」
「さっき背中くっついてた時めちゃくちゃ熱かったけど」
「ええ、じゃあ洗い物もかわってくださいよ」
「それはヤダ」
「なんでですか……病人をこき使いやがって……くそ……労基に訴えてやる……
「アレンもひっかかるけど」
「うう……うー、熱あるかなあ、全然わかんないけどな……
「基礎体温低いからなあ、ほれ、こっち向いて」
アレンが顔を向けると体温計が差し出されて、口の中に突っ込まれる。くわえたまま皿洗いを続けて、電子音がしたところでまたラビに顔を向けた。ラビは体温計を見て眉を寄せた。
「アレンこれ病院行った方がよさそうさ」
「うそ、そんなに?」
「インフル貰ったんじゃね?薬もらってこい」
向けられた体温計には39度7分と表示されていた。


アレンは病院が嫌いだ。今は服の上から聴診器を当ててもらえるが、昔は服を脱がなくてはならなかったからだ。左腕を他人に見られたくないアレンにとっては拷問に近かった。待っている時間も嫌いだった。たくさんの人の中にいると息が詰まりそうになる。
近所のかかりつけ医のところに急患で入れてもらって訪ねたら、めでたくインフルエンザの称号をもらった。咳も鼻水もあまりなかったから気が付かなかっただけで、もしかしたらお客さんにうつしてしまっているかもしれないと思うとアレンの頭はさらに重くなる。すぐ隣の薬局に処方箋を出して、時間がかかりそうだからと言われたのでワンブロック先のコンビニに当面の食料を買い込みに行った。病名をもらったらわかりやすく体はだるくなって、熱の自覚も出てきて、ついでに喉が痛くて咳まで出始めた。知らなきゃよかった、とアレンは思ったけれど、そのままインフルエンザを各方面に感染させても良くないのはわかっていたので、咳き込みながらため息をつくだけにとどめた。マスクの中は蒸し暑くて、冬なのに取ってしまいたくなる。コンビニのカゴの中に目についた10秒メシやらプリンやらアイスやら、とにかく喉が痛くても食べられそうなものを片っ端から放り込んでいく。レジに置いたそれを自前のトートバッグに詰めている時点でアレンの視界はかなり歪み始めていた。まずい、と思いながら支払いをして、支払いをしたかったのに自分がいくら出しているのかもよくわからなくなっていて、もたもたしているところで店員に舌打ちされた。もう嫌だ、早く帰りたい。泣きそうになりながらアレンはやっとこさコンビニを出て、そこから薬局がどの方向だったのか、回らなくなった頭ではわからなくなってしまっていた。そもそも方向音痴のきらいがあるのに、いつもの道なのに、どっちに向かえばいいのかわからなくて、アレンはコンビニのはしに移動して座り込んでしまう。一度座り込んだら体が思うように動かなくて、寒気までしてきて、頭の中では薬局に戻らなくちゃと家に帰らなくちゃと薬飲まなくちゃと迷子になったときはどうすればいいんだっけとが全部ぐちゃぐちゃになっていた。携帯電話。携帯電話だ。ラビに連絡をすればいい。ラビって大学だったっけ。今日休みだっけ、お店開けなきゃ、いやしばらくはクローズになっちゃうから貼り紙を、貼り紙を作って、その前に家に。帰るってなんだっけ、帰る場所なんかあったっけ、あれ。ここどこだ。薬局。病院、は行ったんだっけ? アレンがぐるぐると静かにパニックになっているところにぬっと影が落ちた。ぼんやりしたまま顔を上げるとでかい男が逆光で立っていた。
「お前、バーの……
アレンはもはやなにもかもわからなくなって、咳き込みながらその影に言った。
「やっきょくてどこですか」
男が何かを言ったけれど、アレンの意識はそこですとんと途切れた。

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