保科
2026-03-22 22:36:19
3737文字
Public 超かぐや姫!
 

制服だって選べる!

初回ログインしたかぐやの選べる衣装のなかに、rayの衣装とか制服とか入ってるってやつみてなるほど〜となった

ワ゛ーッ゛!学パロ……のハズがなんか違う!

「前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「ん〜?なんじゃらほいさ?
彩葉の質問なら何だって受け付けるよ〜!好きな食べ物好きな曲、誕生日から今ハマってるものまでどんどこいなのだ!」
「それは配信で言ってるから知ってるって。そういうのじゃなくて――衣装プリセットの中にある『セーラー服C』のデザインのことだけどさ。
あれって、うちの制服に限りなく寄せてるよね。わざとなの?」
……………………
すっかり馴染みの天守閣にて。
受験勉強の息抜きに、とログインしていた私の、何気ない問いかけに。着物の裾から足を伸ばしながらくつろぐヤチヨは、ニコニコ笑顔で突然黙り込んだ後、「………………さあ?」と、あからさまにすっとぼけた。こら。
……ヤーチーヨーさーんー?」
明らか私情込み込みじゃないスかこれ、という私のジト目に、ヨヨヨ〜!とわざとらしく泣きエフェクトを表示しながら崩れ落ちるヤチヨである。悲壮感ゼロだ。ぺしゃんこのヤチヨをじっと見下ろす。
「お、オタスケ〜!他意はないのです!」
「へー、本当?」
「た、多分……きっと……ずっと……そっと……?」
「あ、ダメそう」
質問した内容自体は、うちの学校では結構有名な話だ。誰でも着られる無料枠の衣装なことも相まって、制服ツクヨミできちゃう!なんて冗談は度々聞くところ。
特段奇をてらったデザインでもないため、偶然の産物だろう――と思っていたのも今は昔。ヤチヨの正体を知ってしまっては必然性を見出さざるを得ない。そして、問いただせば案の定だ。
「そのー……ね?衣装案を出す時、セーラー服入れておこうと思って、色々デザイン考えて……うっかり?
気づいた時にはもう公開しちゃってたから……
てへぺろ!と、どこかの製菓キャラクターみたいなとぼけ顔に、流石に呆れを隠せない。
「うっかりて、あんたね……
「だ、だってだって〜!彩葉の学校の制服、いとかわゆしだもん!インスピレーションもそりゃ受けちゃうよ!
スカートヒラヒラで素敵だし、襟元の意匠もかわいいし、彩葉が着てるのも似合ってるし、……ヤッチョもまた着たいし……
可愛い……そうかな?首を傾げる。うちは制服を売りにしている学校ではないから、デザインはかなりシンプルな方だと思う。芦花や真美など、お洒落な人は皆めいめいにカーディガンやセーターを羽織ったりするので、制服だけを着用している人はそう多くない――私のように頓着しない人間が主に該当するが。
そんな訳で、ヤチヨの言葉には同意しづらい所はあれど、……?待った、今の言葉には引っかかる点がある。
――ヤチヨ、着たいの?」
「え、あ」
言葉尻を拾い上げた私の指摘に、彼女はあからさまにフリーズした。反応を見るにどうやら、言うつもりはなかったようだ。はぐらかすような苦笑いを浮かべ、斜め上に視線をそらす。
……な、無かったことに……?」
「なんでよ。
あー、でも、かぐやの時も、私の制服着たい着たい駄々こねて大変だったもんね。まだ好きなんだ?」
「わ、若気の至りすぎるエピで顔面茹でダコだよ〜!
……うう、彩葉、あの時は本当にごめんねぇ……現代における学舎のセキュリティを知る今ならば、あれがどれほどの綱渡りか、よく分かるのです……
ヤチヨカップにチャレンジしていた時、かぐやが『彩葉の行ってる学校、かぐやも行きたい!ついでに彩葉の制服も着てみた〜い!』等と言いだし、夏休みに学校に潜入した時の話だ。随分懐かしい。
それをしんみりと健気に謝られたとて、まあ、既に過ぎたことである以上何も言えない――というか、既にあの日々は、全て私の中で額縁に入れて飾りたい思い出でしかない。頬をかきながら、いいって、ととりなす。
「まあ……そりゃ、あの時は大変だったけど。
芦花も真美もかぐやと遊べて楽しかったって言ってたし、私もあんたが楽しそうでよかったなって思ったし。今は気にしてないから」
「うう、彩葉が優しくてヤッチョの目にも涙……
「はいはい、おだてても何も出ませんよ〜。
で、話逸れたけど」
「ん?」
「ヤチヨ、制服着たいの?」
あからさまな誘導に誤魔化されはしない。軌道修正して、再度投げかけた質問に。
ヤチヨは、さっきと同じようにフリーズした後、そろりと視線を逸らす。今度は下向き。
………無かったことに?」
「だからどうして。
恥ずかしがることじゃないでしょうが、別に」
――は、恥ずかしいよ!
考えてみてよ、もうコスプレ極まれりだよ!ヤッチョをおいくつだとお思いか!?」
「?」
もー!と怒りながらぶんぶん手を振られる態度の意図をつかめず、首を傾げざるを得ない。何を言っているんだろう、この子は。
「歳とか関係なくて、ヤチヨは可愛いんだから何着ても絶対似合うでしょ。
なのに、何が恥ずかしいの?」
―――――――
はくはく、と。息を吸うにしたって大げさな口の動きで私をガン見した後。ヤチヨは何故か、それはそれは深い溜息をついて顔を覆う。
……こーゆーとき、彩葉の将来が、げに限りなく心配になるのです……
「何の話よ」
「べー、何でもないですよーっ。
……そうだねぇ、いつでも着れるけど何とな〜く、今の私には縁遠いかなぁって、敬遠してたかも。……よーし、折角だし着てみちゃおうかな?」
「!」
言ってることは納得しがたかったけれど、その、いたずらっ子のような言葉は確かに聞き取った。コンマ5秒、即座にカメラ機能を起動した私もサムズアップで応える。「――いいと思う!私も見たい!」絶対撮り逃がせないヤチヨの制服姿!貴重である!
……む、と、何故か頬を膨らませたヤチヨが、ずびしと人差し指で私を指す。瞬間、カメラ機能強制停止。殺生な。
……他人事みたいなこと言ってるけども、彩葉も着てね?
一人はやだもん」
「え、何で?」
「なーんでも!」
なんだそりゃ、と戸惑う私をさておき、そぉれ!とヤチヨが威勢よく手を鳴らす。ぱん。
途端、管理者権限で、私のアバターの衣装が件の制服――『セーラー服C』に切り替わる。ついでに姿も現実に似たアバターに変更されているのがシステム通知で分かったため、おお、と顔を上げて――
「ま、ヤチヨはともかく、彩葉は毎日着てる服だから、思うところはないかもだけどね〜。
……えへへ、お揃い」
正面で微笑む、私と同じ、ありふれた制服を着たヤチヨの姿に。纏う神聖な雰囲気とはちぐはぐで、けれど身近に感じる、彼女のもしもに――思わず、見惚れた。
じっと無言の視線を交わして数秒、先に動揺をあらわにしたのはヤチヨだった。困り顔に笑みを浮かべながら、そろそろと私の袖を引く。
……い、彩葉〜……
えっと。……何も言ってもらえないと、……さしものヤッチョも、やって後悔だったかなーとか、思わずには」
――あ、ごめん。可愛すぎて見入ってた」
……う、うん。そっか。言葉、強い。そ、うなのですね?」
「もうすっごい可愛い。似合ってる。素敵だよ。本当に可愛い。ヤチヨと学校通ってたらどんな感じだったんだろうなぁって考えちゃった。ヤチヨはやっぱり先輩かな?ふふ、毎日楽しそうだけどきっと人気者だから大変そうだね、もしかしたら学業と並行して配信活動とかも――
「わ、わー、彩葉の早口がとどまるところ知らず……
――はっ」
慌てて口元を押さえる。1を見て10を考えるオタクの悪いところ、出まくってた。いやオタク言うな。そんな私の不躾な語りに機嫌を損ねることはなかったのか、すっかりウキウキのヤチヨは、そうしてくるん、と一回り。スカートの裾がふわりと綺麗に上がる。思わず拍手。ツクヨミの演算もヤチヨの可愛すぎる仕草もすごい。
「そっかそっか。そっかあ。えっへへ、似合ってるかな?」
「うん」
それはもうたいへんとても。コクコク何度も頷く私の所に、口元に手を添えたヤチヨがゆっくり歩み寄ってくる。
「んふふ〜」
「な、何です……?」
――なんか、距離が、近い。いつもと一味違う雰囲気に、ドギマギと顔を背ける私の耳元へ。ヤチヨは、そっと顔を寄せると。
――なら。『センパイ』って、呼んで?」
――さっきまであんなに渋ってたうだうだヤチヨはどこに?
私の言葉を踏まえてだろう、脳をとろかすような甘ったるい囁きに、VR上でも崩れ落ちそうになる体をどうにか気合で持たせた。危なかった、ヤチヨがかぐやだったから耐えられた。いえーい彩葉ァー!というお気楽な幻聴に若干の寂寥。
そうやって意識を保つ間にも、じーっと、こちらへ注がれる期待のまなざしに応えるべく。私はゔゔ、と眉間にしわを寄せながら、その言葉を口にする。
…………ヤチヨ、センパイ………
…………えへへ。へへへへ」
途端。ふにゃふにゃと顔を緩めたヤチヨが、声を出して笑いながら、その場にズルズルとへたり込む。
……ちょ、ちょっと。ヤチヨ……?」
「彩葉、あのね。わたし、すっごい幸せ……
―――
そんな嬉しそうに言われてしまっては、文句の一つとて返せないというか。……いやまあ、ヤチヨがいいなら、私はなんだっていいんだけど。