「悪いな、俺の“婚姻相手”とそっくりだから間違えてしまった。俺は西風騎士団大団長にして、北風騎士のファルカだ。そっくりさん、名前を教えてくれないか?」
「
………ちっ」
いちいち腹の立つ言い回しをするなこの男。そういえばそういう名前だったか。嫌いすぎて忘れてた。苛立ちのあまり舌打ちをしてしまったが、男は楽しそうだ。
「
………キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズです。フリンズとお呼びください。しがないライトキーパーです」
「フリンズはライトキーパーだったか。丁度よかった」
「何がですか」
「マスターライトキーパーに用があってな、取り次いで貰いたい」
「へぇ、西風騎士団大団長ともあろうお方が、ライトキーパーになんのご用で?」
「なに、同盟を組みたいと考えているだけだ」
…同盟。分の悪い話ではないかもしれない。ちらりと男の顔を見る。そういえばあまり顔を見てなかった。こういう顔をしていたのか。武人の顔、だ。婚姻相手でなければ、好意を抱くタイプの人間だったかもしれない。
僕を弄る所は殺したくなるくらい嫌いだが、同盟については取り次いでもいいかもしれない。なにより、ライトキーパーの利益になることなら、悪い話ではないのだ。僕は平々凡々のライトキーパーだから、この男に取り次ぐのは最初で最後だろう。なにより、断ったらライトキーパーの印象が悪くなるかもしれない。この男でなければ、大手を振って喜ぶところなのに、非常に残念だ。本当に。
「
………わかりました」
「ありがとな! ところで、フリンズには兄弟はいるのか?」
「やっぱりやめましょう」
「冗談だって! 悪かった!!」
やっぱり殺してやりたい。殺意を込めた目で睨むと、慌てて謝られた。
─────────
面白くもない冗談を言う男と、冷気を放つ僕は、人目から見て珍しいようだった。道中、何度もチラ見された。やっぱこの男、殺した方がいいかもしれない。
そんなこんなでピラミダに連れていき、ニキータに男をさっさと渡す。ニキータは男が名乗るなり物凄く驚いた表情で僕と男を交互に見ていた。そういえばニキータだけ事情を知っていたし、僕の態度を見て驚いたのかもしれない。
ニキータと男は話し合いに入った。これで仕事は終わった。さっさと帰ろう。もし、ライトキーパーの分が悪くなるようなことがあったら暗殺しよう。あのくそ女の意図などもう知らん。
夜明かしの墓に引きこもり、骨董品を眺める。今日はストレスがかなり溜まったから、趣味に興じて発散するに限る。
それから暫くして、ライトキーパーと西風騎士団は同盟を組むことになったと知らされた。
ワイルドハント討伐も、積極的に対応しているそうだ。万年人手不足なライトキーパーにとって、とてもありがたいことである。大団長があの男でなければ好感度爆上がりだっただろう。少しだけ見直したが。
「フリンズさん、物資を届けに来ました!」
「ありがとうございます」
イルーガが夜明かしの墓へ物資を届けに来てくれた。
受け取ると、見慣れない樽がある。これはなんだろうか。
「そちらは、西風騎士団大団長から、養父さんへ取り次いでくれたお礼、だそうです。モンド名物の蒲公英酒らしいですよ。フリンズさんがお酒好きって聞いて、用意してくれたみたいです」
「
………そうですか」
「ファルカさんが同盟を組んでからは、ワイルドハントの討伐にも協力してくれて、ライトキーパーも少し余裕が出てきたんです! 養父さんも大喜びでして、僕も嬉しいです!」
「
………よかったですね」
「
…フリンズさん、どうかされましたか?」
「なんでもないですよ」
ニキータも、イルーガも喜んでいる。ライトキーパーに大きな利益をもたらしている。蒲公英酒も飲んでみたが、酒造業が盛んな国なだけあって、大変美味だった。
嫌いだが、ほんの、ほんの少しだけ、見直してもいいかもしれない。
…仕方がないので暗殺は止めよう。本当に残念だが。不倫は大歓迎だ。いつでもしてくれ。
ライトキーパーの中でも西風騎士団を称賛する声が聞こえてくる。正直言って、腹が立つ。あんなくそ男なのに。
こういう時は飲むに限る。フラグシップへ行こう。
「フリンズさん、丁度よかった! 西風騎士の方が酔いつぶれて、体格が大きいので運べなくて
…」
「
…………し」
「
…フリンズさん?」
「失礼しました。わかりました。何処へ運べばいいですか?」
危ない。デミアンさんの前で死ね!と言いそうになってしまった。少しだけ漏れてしまったが。
部屋を取っていたらしいので、運ぶ。本当にでかすぎて重くて死んでほしい。
なんとか部屋に運ぶと、うめき声をあげている。このまま殺したいが、そしたら怪しまれるのは僕だ。今は耐えろ。
殺気をなんとかして抑え、殺してしまう前に去ろうとすると、腕を捕まれる。
「
………スヴェーチ」
「
………ちっ!」
「ぐっ!」
やっぱり殺してやりたい。腹いせに殴って気絶させた。
────────
一晩くらいでは怒りは収まらなかった。なのにノコノコと現れた。殺してやりたい。
「いやあ、悪かったなフリンズ! あ、これお詫びとお礼だ」
「
………品だけは受け取ります」
「謝罪と感謝も受け取ってくれ」
「返品させてください」
酒に罪はない。懐も寂しいので大人しく受け取る。だから帰れ、と殺気を出しているのに、男は楽しげだ。
「そうか、これがお前の素か。面白いやつだな」
「なに楽しんでいるんですか。僕は全く面白くもないです」
「いやこれは俺の勘だが、気が合うぞ俺たち」
「
……………馬鹿じゃありませんか?」
「つれないなあ。そんな所も面白いが。他に礼になること、何かできないか?」
そんなことあるわけないだろう。寝言は寝て言え。
会いたくはなかったが、聞きたいこともあったのは事実だ。
「
………貴方は何故、ライトキーパーと同盟を組んだのですか?」
遠征に出て、ナドクライにたどり着いて、やっているのはライトキーパーと同盟を組んでワイルドハントの討伐だ。情報収集もしているが、ワイルドハント討伐に手を抜いている様子はない。何が目的なんだ。
「そんなの、災厄を阻止するために、俺はナドクライに来たんだ。本職ではないが、ワイルドハント討伐も一人でも多くの命を救うために必要な事だろ」
さらりと言ってのけた言葉に、思考が止まる。
男の、ファルカの顔を見つめてしまう。わざわざ、ワイルドハントを討伐するために、ナドクライまで来た、と。
そんな事を言わないでほしい。嫌いなのに、嫌いになれなくなってしまう。
「これからも仲良くしてくれよな、スヴェーチ」
「早く死んでください」
やっぱり嫌いだこの男!!
出会いかたを間違えた③
https://privatter.me/page/69c204e83f88c
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