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14/ネバーエンディング・ストーリー(下)
それはいつかあった過去の幻。
過ぎ去っていったすべての喜びと栄光の断片。
おまえに出逢い、何度も、幾度だって恋に堕ち、添い遂げることなく引き裂かれていった悲劇の円環。
——潔世一の魂が辿った幾万年の恋の歴史。
『ミヒャ』
好きだった。その魂が原初の昔、未だ大天使であった頃からずっと。大切に想っていた。弟のように、我が子のように、何をおいても守りたいと願っていた。だって
俺、お兄ちゃんだもんな。
はじまりの大天使である俺は、ミカエルたち三大天使が生まれるよりいくぶんか早く生み出された。三大天使を造れるぐらいブイブイ言わせてた頃の、全盛期の神のもとに仕えていたワケ。だから俺は神が天使たちへ向ける〝歪み〟について誰よりも熟知していたし、それを恐ろしく思っていた。
神は、天使のことを、己の道具としか見なしていなかった。
俺たちに人格を
——人間性を与えたくせに、それを理解しようとせず、尊重しようともせず、時に無視してすり潰した。俺が仲良くしていた力天使たち、権天使、能天使、ときには智天使にいたるまで。みんな神の権勢の道具でしかなかったんだ、それは天使と神という人間の枠組みとまるで違う存在にとってはきっと当たり前のコトだったんだけど、俺には恐ろしくてたまらなかった。
然るに俺ははじめから人間臭すぎたのだ。
神にそのように造られ、ゆえに反旗を翻すに至り、失敗作として遺棄された。そのことを知ったのは堕天したあとだったけど。
まだ天界に籍を置いていた最後の頃、生まれたばかりのよちよち歩きのミカエルを取りあげたのは、俺だった。とりわけ強い力を持って生まれたこの子もきっと神の道具として、ただの剣としての在り方を求められるのだろうと悟り、それがひどくいやだった。だから俺は、神が生み出した子らに必要な時以外関心を向けないのをいいことに、ミカエルを自分の手で育てようと決めた。俺がそうであるように、誰かを慈しみ、好きになったり、ときどき嫌ったりもして、思うままに振る舞えるよう、持てるすべてを伝えてあげようと思った。
まぁそんなふうに言うと綺麗ごとを並べているように見えるかもしれないし、実のところそれは事実だ。要するに俺は、単に同族を増やしたかったのである。
それは誰に言われるまでもなく己で謗るべき、最低最悪の、俺のエゴだった。
『
……ミヒャエル』
けれどミヒャエルは、それでも俺を愛してくれた。
雛鳥を刷り込むような、洗脳めいた行いをしているだけだ。自らをそう疑ったことだってある。身勝手な寵愛で自由を奪っているに過ぎなくて、やっていることの悪辣さは憎むべき神と何ら変わらないのではないか、とすら。
でもミヒャエルは、俺が悪魔に堕ちたあとも、変わらず愛し続けてくれた。
すべての代償、すべての犠牲、すべての罪科、その果てに
——俺たちは真実の愛を手に入れたのだ。
もし神に嫉妬の情があれば、さぞや妬ましかったことだろう。
ともかく神は機械的に、執念深く、神は俺たちの恋路を罰した。二度と結ばれないよう、あらゆる手を尽くされた。お前は記憶を消され、俺は身をやつすことを余儀なくされて、この恋心は切り裂かれ続けた。何度も、何度も、何度も、何度も、
——何度だって、星が生まれて死んでいく数の、そのほどに。
『
——ミヒャ、』
あるときは堕天の罪状として、お前へ逢いに行くことも、名乗ることすら許されないよう枷を掛けられて。
『ミヒャエル』
あるときは人間の血がとめどなく流れる戦場で、お前に声を掛けることさえ叶わないまま殺されて。
『ミヒャ、エル』
あるときは唇を重ね合い肌を擦り合わせようとしたその時に、ミヒャエルの身体が蒸発して血と皮だけを残されて。
『ミヒャ、』
あるときは指先で触れただけで悪魔の魂が割れ壊れんばかりの悪意と憎悪をミヒャエルも知らぬうちにその身へ埋め込んで。
『ミ、』
あるときは想いを通わせあおうとしたその瞬間、周囲のあらゆる命すべてが枯れ果て、その咎が降り注ぐよう手を打たれて。
まったく神の悪辣なやり口の数々と言ったら、大悪魔サタンの名を拝命した俺にとってすら、残虐で、無慈悲で、怖気がしてくるぐらいだ。どれほど多くの祈りを捧げようと神は決して罪深き恋人達の願いを聞き入れはしない。俺の手は血まみれで、ミヒャエルの手だって、どうしようもないほど血と罪に塗れてどす黒い。
それでもお前を愛してるんだよ。
永遠の命も、強大な力も、何も要らない。ただ一度、燃え盛るような恋の果て、ちっぽけな生涯を共に過ごし、そして終えることさえ出来るのなら、それだけでいいんだ、他にはもう何にも要らないよ。
そのささやかな願いを、どうしたら、確固たるものにできるのだろう。答えがどこにも見つからないまま、俺たちは生まれ、殺され、また生まれて、そして
——運命の分岐点たる十九世紀へと辿り着いた。
◇ ◇ ◇
むせ返るような花の匂いがする。
目を醒ましてまず、潔世一はそんなことを思った。あいにく花の種類には詳しくないので、香りだけではどんな花たちが咲いているのかよくわからない。仕方ないのでゆっくりと起き上がり、それからあたりを見回す。見渡す限りの白い花たち、狂ったように咲く純潔の白百合、名も知らぬ野花たち、それらの中に埋もれて、ときおり
——朝露に濡れた美しい青薔薇が高く首を伸ばしては大輪の花を咲かせている。
「
……んん?」
そこまで考えて、はじめて、自分は何をしているんだろうと、それを疑問に思った。空はどこまでも澄み渡って青々しく、燦々と輝く明るい大陽が地を照らしている。
だけどおかしくないか? こんな場所世一は知らないし、そもそも来た覚えもないのだ。
ていうか、自分はさっきまで何をしていたんだっけ
……? それすら茫洋として上手く思い出せず、頭を抱えて唸っていると、不意に、何かが自分の頭上に覆い被さって暗い影が落ちる。
『見た? さっきの』
「うぎゃあああああああっ!?」
突然のことに、思わずホラー番組を見て引っ繰り返ったヤツみたいな奇声を上げ、真後ろを振り返った。
「なっ、なっ、何何何何何何ッ
…………!」
世一はそんなにホラー耐性があるほうでもなく、続けて飛び出す言葉たちはなんだか言葉尻が震えて間抜けである。ここにカイザーがいれば「ンッフ、クッソお間抜け世一くんは本当に可愛い
道化野郎ねぇ〜」とか全力で馬鹿にしたおしてきたであろうことはまず間違いない。だが続く言葉はそんな性根最悪男の罵倒ではなく、静かな、しかし確かに辟易した調子の溜息だった。まるで「コレが俺とかマジかよ
……」なんて言わんばかりの。
『落ち着けバカ、よく見ろ。お前と顔も魂も同じだろーが、んなにビビることかよ』
大悪魔の生まれ変わりともあろう人間が間抜けなツラすんなハズいし、と、そいつが宣う。
世一はまばたきをして、最後にぎゅっと目をつむり、それからゆっくりと目を見開いた。真っ黒なフードを被り、あやしげな
外套を身に付けた青年が、世一の頭上でぱたぱたと翼をはためかせている。フードに隠れた頭の中にはツノが生えていて、お尻からはぴろぴろと尻尾まで伸びていた。くちびるは紫色で目元にはカイザーと割と似た感じの朱が差している。その姿に流石に見覚えがあり、世一はふたたび素っ頓狂な声を上げる。
「あーっ! おっ前
……悪魔! てことは俺の前世!?」
『声がデカい、うるさい、クソバカ。ミヒャはなんでこんなガキが好きなの?』
悪魔は目元をヒクつかせながら鬼ほどこき下ろしてきていたが、その声音はどこか自嘲の趣を含んでいた。たぶんこの顔をすがめた悪魔も、自分が目の前の世一と似たような感じである自覚があるのだ。
「
……ここどこ?」
だからそのあたりのムッとする部分はいったん水に流して、世一は今更のようにそんなことを訊ねかけてみる。
『ここ? お前の精神世界。お前ってさ、骨の髄までサッカーのコトばっかりだな』
すると悪魔は困ったように苦笑して、世一の身体を指さした。指先が示した場所をあらためて眺め下ろすと、どうやら世一は赤と黒に金のラインが入った
——見慣れたバスタード・ミュンヘンのユニフォームを身につけているようである。
「
——あ、」
そのことを自覚した瞬間、あらゆるすべてが怒濤のように流れ込んで来て、世一は首を振った。
そうだ、自分たちは神への叛逆を試みて、フラウエン教会での最後の決戦に挑んでいて。その最中で、神が仕掛けた最後の罠にまんまとかかり、術式を乗っ取ろうとしたカイザーの身体を、逆に神に乗っ取られて。そして大天使ミカエルの規格外の力によって世一は殺されようとしていて
——それで、だから、つまり〝
お前の精神世界〟なんて場所に、このイカれた大悪魔(記憶完備版)と一緒にいる、その意味は。
「
……だったらここはピッチ上で然るべきじゃね?」
『この魂が経験してきたものごとの割合的には
花園の方が多いの。花園は天国の象徴だから』
辿々しく軽口を還すと、悪魔が笑う。
この花園で目を醒ますまでの一瞬に、世一が垣間見た
——気が遠くなるような永遠の記憶たちの中で見たような、どこか悲哀に満ちた微笑みを浮かべながら。
それからふたりは、悪魔の案内に従って花園を歩きはじめた。といっても本当に歩いているのは世一だけだ。何しろ悪魔はふよふよとそのへんを浮かび漂っているのだから。
仕方ないので世一は、スイスイと勝手に進み続ける悪魔のあとを追って、みちみちに咲いている花々をなるべく踏まないように一生懸命に足元を選ぶはめになった。そのことにはじめ一度だけ文句をつけると、悪魔は『本来天界にいる連中は全員羽根生えてんだからしょうがないだろ?』とわざとらしく腐してみせ、そのあとは誤魔化すみたいに、益体のない雑談を放り投げてくるばかりになる。
『過去の追想で痛みを感じたりはした? それとも映画とか見せられてる感じ?』
道中で訊ねられ、世一はうぅんと首を捻った。
「え? あ〜、半々ぐらい? 地続きの感じ自体はあるからさぁ、そんなに割りきったりはできてないよ」
『ふぅん。じゃあ俺とミヒャがえっちしてる時の記憶はどー思った?』
「
…………なんで急にそんなコト訊くんだよ!?」
『面白いからに決まってんだろ、アハハ! 我ながら反応が初心すぎるっつーの』
「うるせ〜〜〜ッ、エロい夢見せるのヘッタクソなくせに!』
ともあれ、世一と悪魔は、道すがらでいろいろなことを話した。自分の前世と顔を突き合わせて会話するというのも奇妙な感じだったが、不思議と嫌ではなかった。
悪魔のことを知りたいと、なんとなく思っていた。
完璧な他人だとは思ってないけど、カイザーと比べるとあまり自分自身として受け止めきれていない節のある過去。それが潔世一にとっての悪魔への認識だったから、この奇妙な時間は、その微妙な溝を埋めるのにちょうどいいと思ったのかもしれない。
『記憶喪失になってるあいだの俺って思い返すと大分アレだからさぁ、来世の自分にそのあたり客観的に見られたのってなんか思ったよりキツいわ』
だから普通に会話内容に感情移入していたし、途中でそんな話題が上った時には、正直ちょっと同情しそうになったりもした。ただその内容に関しては、続きを聞いていくうちに「悪魔は悪魔で客観的に世一のアプローチを見ていたらしい」ということがわかり、お互い様じゃねぇかよと思ったりもしたのだが。
「好きなヤツを前にしたときのアプローチの仕方がちょっとズレてるの、死んでも直らないんだな、俺たち」
それで特に感慨もなくぽつりとそうぼやくと、悪魔はケッと悪態を吐いてみせる。
『しょうがねぇじゃん、ミヒャのことホントに、本当に好きなんだもん
……』
くちびるを尖らせる悪魔の頬は恋人への慕情に満ちて朱に染まり、あ、きっと自分もこんな顔してカイザーに手を伸ばしていたんだろうなと、世一は鏡でも見せられたような気持ちになって苦笑した。
悪魔は図星を突かれるたび、ぎゅっと身を掻き抱いて、切なげに弁明をしたり、あるいはぷいと顔を背けて本心を隠そうとしてみたり、とにかく色々な反応をした。自分と同じ顔をした存在がだいぶ乙女チックな行動を取っていることに若干の衝撃を受けつつも、世一はどうしても、そういった姿を自分に重ねずにはいられなかったのだ。
わかる、わかるよ、好きになっちゃったんだから、それがすべてなんだよな。
だから世一だって、気付いてないだけで乙女チックな反応をしていたことが実はあったのだろう。ネスあたりに訊けば正確なところが判明する気がしたが、いややっぱり訊くのはいやだな、と、最後に思い直す。なんていうか
……どうなるかわかんなくて(或いは分かりすぎて)怖いので。
『ちっちゃい頃のミヒャはマジで可愛かったんだよ、今はもう全然面影ないけど、夜の物音ひとつで怖がって俺の背に隠れようとしたりしてさぁ』
「えー、マジ? カイザーはそーゆー感じ全然しないな、むしろ俺の方が雷の音とか未だにビビってるかも
……」
『あーそれね、神の天罰で殺されまくった影響。雷落としてドカンのケースが一番多いんだよな、記憶がなくても嫌悪が残ってるんじゃない?』
「エッ嘘、俺が五感が敏感だからってだけじゃなかったの!?」
『まぁそれも無いとは言わんけど。
……大人になって理屈が分かってても漠然と恐怖するのは、たぶんソッチが原因』
「へぇ〜
……」
とにかく、くだらない雑談で気を紛らわせながら、世一は一生懸命に歩いた。
気が遠くなるぐらいの距離を、あることないことフカす悪魔に導かれながら、がむしゃらに進み続けた。
不思議と足腰が疲れることはなかった。アスリートとして鍛えているからというの以上に、どうもこの空間では、疲労や時間の概念というものが存在しないようなのだ。だって夜がこないし、太陽はずっと同じ位置で輝き続けている。もちろん景色は変わり映えがなく、無数の花々は永遠に咲き乱れ、地平線のひとつすら見えはしない。
「お前の記憶が流れ込んでくるほどに、恋って命がけなんだなぁって思うんだけど」
『うん』
「俺の恋は悪魔的にはどうだった?」
『幼稚園児のおままごと。信じらんねぇぐらい無垢でガキ。
……でも』
「でも何?」
『そんな時間がずっと続いていく可能性があるんなら、それこそさ、大天使から堕して悪魔になり、血を吐いてでも繋いできた意味があるんじゃないかなって、
——そう思ってるよ、これは心からのホント』
悪魔の話は面白かった。
時折寂しそうな表情を挟まれるのに距離を感じたり、逆に生々しすぎて驚いたりもしたが、そのぶん、彼をもっと身近に感じられる様な気がした。だからどれだけ長い距離を歩かされていても不思議と退屈はしなかったし、もっと話していたいなとすら思った。気が合うというか、話す毎に、あ、コイツやっぱり同じ魂の持ち主なんだなぁというのが、すとんと腑に落ちていくような感触があって。
「なぁ、それでさ、今更こんなコト訊くのも変かもしれないんだけど」
……ただ流石に、そのようなことをいつまでもいつまでも続けていると、疲れはなくとも
……いつかは疑問を抱き始める。
だって花畑には果てが無い。この旅路はいったいどこへ続いているのだろう?
「これ、
……どこ目指してんの?」
それでいよいよ不安を隠し切れなくなり、世一はそう訊ねた。
これは単に、死の間際、そのほんの一瞬を、心象世界によって引き延ばして痛みを誤魔化しているだけの作業なのではないかと、急にそれが怖くなったからだ。
それになんとなく、悪魔にはそういったあれこれが出来るような気がしていた。安楽死の準備というか、快い死を人間に与え、魂をせしめるために死に際の幻を見せるのがこういった手合いの常套手段だということを、世一は本質的に理解しはじめていたのだ。自分がその力を持っていれば、使わないとは言い切れない。
『大丈夫。もう着くよ』
だが悪魔は、そんな世一の疑問を分かっていたとばかりに穏やかな微笑で受け止めた。そしてくるりと翻ると、不意に指を伸ばし、ある一点を指し示す。
『あの丘の上が見える?』
その先で薄ぼんやりと瞬く
ひかりに、世一は弾かれたように走り出した。
「
——カイザー!」
奇妙なことに、それまでゆっくりと進めていた歩を疾走に変えたとたん、永遠に続くかと思われた花園はぐにゃりと曲がり、溶け、街並みへと形を変えていった。煉瓦に覆われた、産業革命期ヨーロッパの街並み。その知らないはずなのによく見知っている風景を、世一は懸命に駆け抜ける。だいぶ様相は様変わりしているが道に迷うことはない。だってついさっきこの足で訪れたばかりだ。
ここは十九世紀末、ミヒャエル青年が暮らしていた場所。
悪魔とミヒャエルが出逢ったアレクシスさんちのおうちを駆け抜け、大地を蹴った。道はめちゃくちゃに繋がっていて、すぐにミュンヘン大学敷地内にある神学部のキャンパスにゆき着いて、それも通り過ぎると、下級天使の群れに追い詰められたいつかの路地裏の景色になる。しかしそれでもなお足を止めず走っていると、やがてごみごみとした街の景色は消え、世界は辺境のあぜ道に変わり、工科大学があるガルヒングの外れ
——廃教会がある丘の上に辿り着く。
「カイザー、カイザー、
……カイザー!!」
その中に、彼の姿があった。
うらぶれたを通り越してボロボロ、屋根に穴も空いて梁が腐った薄暗い建物の奥。変色して崩れた聖母像の前に、巨大な十字架が掲げられ、そこにミヒャエル・カイザーが刺まみれの茨によって磔にされている。奇妙なことに彼もまた見慣れたユニフォーム姿をしており、そのせいで、背中から生え広がった純白の六枚羽根が恐ろしくアンバランスだ。
けれどその姿を滑稽だと笑っている暇はない。目を瞑って意識を失っているらしきカイザーの額には脂汗が滲み、顔は青ざめて、だというのにタトゥーが彫り込まれた左腕には青筋が浮かび上がるほど強くドクドクと血管が脈打っている。
『わかる? これがミヒャエルの魂。クソったれの神に囚われ、今度こそ意思持たぬ神の走狗に堕とすため、最終手段である
神自身の顕現の器にされかけてる』
悪魔が言った。
ここまで連れてくるのが自分の最後の役目だったのだと、瞳の中へ暗に示して。
「神自身の
……嘘だろ?」
『それが事実なんだよな〜。もち、本来は無理だよ、神の位相がデカすぎて現世に展開しきれないからな。そんだけ向こうも弱ってるってコトだし、なりふり構わなくなってるってコトでもある。神は恐らく今この場でミカエルとの同化
——すなわち肉体転移を完了させる気だ』
「んなことしたらカイザーの魂は、」
『消えるね。だからガブリエルはそうなる前にミヒャを殺して来世に賭けようって言ったわけ。本当あの人はいつも合理的で説明に欠けるよな、俺もそう思う。けどさぁ、
潔世一は諦めなかった。そして諦めないための手順を、奇跡的に踏んでた
——』
そして、そこまで口にすると、にやりとそれこそ悪魔じみた笑みを浮かべ、ヤツはひとさし指を口に当てると囁きかけてきたのだった。
『おめでとう、愚かで愛おしい人の子。お前は人間の感傷に従い、特に意味も無く十九世紀の舞台へと足を運び、そしてごく微かな光を取り込んだ。
——それこそが大逆転に至るための最後の
欠片だなんてことは、欠片も思わぬまま』
これは俺もミヒャも、ガブリエルも神も全然気付いてなかったことなんだけどさ。ぺらぺらと喋くりながら、悪魔が世一の耳元にふよふよ移動してきて、耳元に声を流し込んでくる。自分の耳から自分の声がするってなんかくすぐったいななんて思うも言えるはずもなく、押し黙って耳を傾けていると、悪魔はチラリと十字架に目を遣って
——それから、最後に愛おしげに目を細めて手のひらを握り締める。
『〝ホワイトチャペルの天使事件〟で集められた魂エネルギーの残滓は
——殆ど天使になりかけてたミヒャと悪魔である俺の身体に一瞬でまわり、巣食って、流血のかたちで土地へ流れ滲んだ。とはいってもごく微かなモノだ。普通なら、ほっといても何にもならない。何も為せるはずがない
……けど土壇場でや〜〜〜っと覚悟を決めた今のお前にとってだけは話が別でさ』
ゆっくりと手のひらを開き、悪魔が、その指先を高く天へと掲げた。
瞬間、厚く雲が垂れ込めて薄暗いボロボロの教会の屋根に、ぴかりとまばゆい光が差し込む。あまりのまぶしさに思わず一度目を閉じて、そして世一は驚愕と共にふたたびそれを見開く。
悪魔の手の上に、輝く光の短剣が浮かび上がっていた。そして世一はこれが何かを知っている。
『理屈は省くけど、これが最後のチャンスだ』
これこそが、十九世紀の終わりに、人ならざるものたちが人間へ生まれ変わるために創り出した、奇跡の剣そのもの。
『条件はすべて揃った。人の身でありながら悪魔に魂を売ったお前の覚悟を、俺は認め、受け入れる』
「
……まさかと思うんだけど、俺がカイザーほど前世の記憶を自分事に感じられてなかったのって
……」
『悪いな、俺は慎重派なの。
——何しろミヒャと違って人間になったのがハジメテだったもんでね』
これでやっと結末を選ぶことが出来る、と、悪魔が肩を竦める。ハッピー・エンドに至るための最後の鍵は今ようやく揃った。人間の潔世一が抱いた愛が、どれほど深く重く、呪わしく、そして奇跡に満ちているのかを、幾万年の歳月を焦がれ続けてきた悪魔が見届け
——ここに証明は為された。
『今度こそ、俺のすべてをお前に委ねるよ』
悪魔の指先が、世一の手のひらへと、光の短剣を受け渡した。
黒手袋に覆われた指先が僅かに手の甲の表皮を掠めてつきりと刺す。その痛みにすら感じ入るものがあり、短剣をぎゅうと握り締めると世一はおもむろに顔を上げる。
「ああ、分かった、全部理解ったよ。
——来いよ
俺、何もかもみんなぶっ壊してやろうぜ」
世一がニッと唇の端を釣り上げると悪魔はケラケラと笑った。
『そうこなくっちゃ! 行こうぜ
俺、しみったれた運命なんかとはこれでおさらばだ!』
短剣を左手に握り込み、空いた右手で悪魔とハイタッチをする。悪魔はぱしんと世一の手を叩くと、そのままがしりと握り締めてきて、最後に『ありがとな』とだけ耳元で囁き目を閉じた。
それがすべての合図だった。
悪魔の身体が光の砂になって解けていく。カイザーに滅ぼされた下級天使たちのように、でもべつに悪魔は消えてしまうわけではない
——ただ、すべてを託されただけだ。
砂は、さらさらと世一の心臓に流れ込み、そしてどこにも見えなくなった。世一は目を見開く。そしてふっと鼻を鳴らすと、どこか、ユニフォーム姿には不釣り合いなほどコケティッシュな微笑みを浮かべ、世一は静かに磔にされたカイザーのもとへ歩み寄っていく。
「百二十年前は先に逝っちゃってごめんな。今度は一緒にいこう」
それから彼は背伸びをしてちいさな囁きを落とし、愛した男のうつくしい横顔にキスを落とした。
——白昼夢が、終わる。
◇ ◇ ◇
「
——ッ、は、ァッ
…………!」
ばちん、と勢いよく目を見開き、世一はやにわに自分の胸元へと手を伸ばした。世界がぐるんと引っ繰り返る。いったいどのくらい白昼夢を見ていたのだろう、わからないが、状況は夢を見る直前からコンマ一秒と変わっておらず、ノアによる
保護膜は跡形もなく消え、目と鼻の先にまでミカエルの攻撃が迫ってきている。
「あぁあああああ
……!」
世一は翼を翻し、必死に息を詰めると、思いっきり心臓の内側へ手のひらを突き入れた。
身に付けた衣服や皮膚や肉を無視して、指先が心臓部へ潜り込む。そうして今度は勢いよく手を引き抜き、光の短剣を取り出し、構えもへったくれもないままに振りかぶる。視界の片隅でノアが目を見開くのが微かに見えたが無視した。説明なんかしてる場合じゃない。だから言葉を尽くす代わりに行動で示すべく、短剣を振り下ろす。
「カイザー、
……ううん、」
託されたすべてを現実にするために。
「ミヒャ、エル
……!」
そういえば、この身体に生まれてから、名前で彼を呼んだのは初めてのことだった。
「
——ガァアアアアアッ!!」
カイザーの身体を乗っ取った神が吠える。短剣は歪な軌跡を描いてミカエルの攻撃をはじき返し、そのまま、神々しくも忌々しく輝く円環と羽根を広げた天使の胸元を一直線に刺し貫いた。直撃だった。カイザーの口からごぷりと血がこぼれる。その余波か、あれほど攻撃的だったミカエルの動きが
——僅かに止まる。
「覚悟を決めたか
——」
その光景にノアがちいさく独りごちるのが分かった。突然短剣が現れたのはともかく、とにかく世一はカイザーの心臓を刺したのだから、殺して来世に賭ける方針に決めたと解釈したのだろう。だがすぐにそうではないと気がつき、ぴくりと眉根を動かし、今度こそサイボーグ並の合理性を誇るノエル・ノアらしくもなく、大仰に目を見開いて見せる。
「
……まさか、」
そのまさかですよノア、と、親切に言ってあげる余裕はなかった。
「
——ウ、ァ、ァア、
……ぐぁああああああああっ
……!!」
短剣が突き刺さったその場所から、とてつもない密度の光の柱が立ち上り、迸り、黄金色の奔流となって、短剣へと流れ込みはじめた。
術式を通じて
ミヒャエル・カイザーの肉体へ流れ込んだはずの高純度エネルギーが、ダムが決壊するように逆流し、短剣に吸い上げられていく。それと同時に異形化していた天使の翼が荒ぶるように猛り、天使は両手のひらで顔を覆い、雄叫びを上げた。だがそれでも逆流は止まらない。ひかりは怒濤のように膨れあがり、一所に吸い固められ、最後に彼のすべてをふっと包み込んで散逸し、やがて
——見慣れた三対六枚の純白の姿を取り戻して彼が両目を見開く。
「カイザー!」
その空のように澄んで美しい双眸に感極まったように名を叫んで、世一は悪魔の翼をはためかせむぎゅりと好きな男の胸に飛び込みハグをした。
「
——世一」
抱きついた頭の上から、ぽかんとしたようなカイザーの声が降ってくる。「どうして、俺は、」彼はすこしの間、戸惑うように自分の顔を突き、それから世一の頭をわしわしと撫でた。指先が悪魔のツノに引っかかり、「クソ痛、」としょうもない感想が漏れる。それが多分、彼がすべてを了承したサインだった。
「は、そーゆーコト、お前のイカれぶりには毎度毎度開いた口が塞がらねぇよ世一くん」
憎まれ口を叩くように、けれど隠しきれない愛おしさを滲ませて、カイザーが嘯いた。
「なんとでも言えよ、俺は今クッソ気分がいーの」
世一はそれに一ミリも隠す気のない喜びを全部のせて応え、すりすりと暖かい左胸に頬を擦り寄せる。
するとその仕草に心臓をばくんと大きく跳ねさせ、カイザーは慌てたように首を横へ振った。
「おい
……やめろ、んなことしてる場合か。まだ一度支配を退けたってだけで何も終わっちゃいないんだぞ。俺に干渉出来なくなった以上、早晩神は下級共を総動員して儀式をやり直すハズだ」
尤もらしいことを並べ立て、カイザーが世一の顔を自分の胸元から引き剥がす。前世ではやることキッチリやってから死んだ男とは思えない狼狽ぶりだが、「ノアも見てるんだよ」と小声で口走られてあぁ、と理解した。確かにそれはちょっと気まずいよな、あの人何万年と親戚のおじさん(概念)やってた上に百二十年前は担当教授だったし。
「
——ほらな」
などと考え事をしているあいだに、地響きが起こって教会中がぐらりと揺れる。同時に、電池のなくなったロボットみたいに床へ転がっていた下級天使たちが、ガタガタと不快な音を立てて動き始めた。
——空気がたわむ。聖杖まで使って張った、ノアの
——ガブリエルによる最大出力の結界が、音を立てて、崩壊していく。
「どーする、世一?」
ガラスが割れるような音を立てて粉々に崩れていく結界のなか、赤黒く円環を明滅させて起き上がる下級天使たちの群れを見回して、カイザーが悪巧みでもするみたいな調子でささやいた。
「理解ってるくせに聞くなよ、もっかい心臓刺してやろーか?」
世一はそれに軽口を叩いて顔を上げ、腰を払い、今一度大きく翼をはためかせる。「ノア! 手出し不要なんで、大丈夫です!」ついでに、結界を破壊されてダメージを受けているであろうノアに向き直ってそれだけ言い放つと、ふたり揃って顔を見合わせ、頷き合う。
「奇跡でもなんでも、この手で掴んでやろーじゃん!」
それから世一は、ふっと居ずまいを正し、カイザーの胸元に突き立てられたままだった光の短剣をスポンと引き抜いた。
血は、流れなかった。そもそも、傷のひとつも、カイザーの胸にも、身に付けた衣服にも、ありはしない。この剣が切り裂くのは物質ではなく
本質であり、切り分けるべきモノと残すべきモノの選別は既に済んでいる。
莫大なエネルギーをその身に宿し、文字通り神々しく輝いて、今か今かとその刻を待ちわびながら。
「手ぇ貸して、俺の
天使」
だから世一は、気分上々、絶好調とばかりに破顔して短剣を握り直し、
カイザーの瞳を覗き込む。
「どこまでも、俺の
悪魔」
もちろんカイザーも、愛おしくてたまらないとばかりに頬を緩め、
世一の瞳を見つめ返すと世一の手のひらごと強く短剣を握り締め
——キンキンと耳障りな機械音を奏でる下級天使たちへ、大天使として最後の命令を宣告するのだ。
「
——クソ跪け、雑魚モブ共」
それからの出来事は、ほんの瞬きほどのことだった。
夥しい数の下級天使たちが、怒りもあらわに飛び上がり、カイザーと世一目がけて襲いかかってくる。ノアも応戦しようと動くがいかんせん数が多く消耗している。ノアが聖杖を振るより早く下級天使たちは忌むべき恋人たちの前に立ち塞がり、神の怒りの捌け口となって、その権能を大きく超えた悪魔殺しの攻撃を、十重二十重に紡ごうと円環をまたたかせる。
「バーカ、今更喰らうかよ! 俺たちの初めての共同作業の邪魔すんな!」
だがそれを、ご機嫌な一声と共に世一の翼が薙ぎ飛ばした。世一の死角にあたるぶぶんはもちろんカイザーの翼が薙ぎ払う。そうして生まれた隙をぬって、教会じゅうに響きわたるよう声を張り上げ、烏滸がましくも神の御前でこう宣誓するのだ。
「「ざまぁ見ろクソ神! もう二度とテメェの思い通りにはならねぇよ!」」
そうしてふたりは、強く、強く握り締めた光の短剣を、思いっきり教会の床へと突き立てた。
≪
————!?≫
短剣が突き当てられた場所から、夥しい数の光の線が走り、教会全体を這いずり回って広がっていく。それは一目散に地下室を目指し、魔法陣の起動地点へ到達すると、霊脈を励起するように脈打って熱を孕み、神が刻んだミカエルの術式をまったくべつの形へと書き換えていく。
「
……正気かこのクソガキ共」
その意図を汲み取り、思わずノアがぼやいた。だがそれも無理からぬというものだ。だってこんな最悪のケーキ入刀、大天使として何万年も地上を見守って来たノアですら見たことがない。
畏れ多くも神からネコババしたエネルギーで神の術式を自分たちの独自術式に書き換え、その力で人ならざる権能を人間の身体から完全に剥離させる。
それがカイザーと世一がこの一瞬で合意し実行に移した計画のすべてだと、ノアは正確に見抜いていた。それは通常、誰にも
——神にすら成し得ぬ奇跡であり(だってそれが出来るならミカエルの権能だけ引っこ抜いて余分な人格は遺棄すればいいわけで)、神だってそんなイチかバチかの大賭けに乗る意味はないので全力で抵抗しているのがにわかに伝わってくるが、しかし今のふたりからは、それすらものともしない何かを感じるのだ。
それは疑うまでもなく、幾星霜、何万年にもわたる、愛の結晶であり
——そして
狂気。
『大丈夫だよ』
短剣を握り締めるふたりを、悪魔のかたちをした幻が、ふわりと包み込んで背を押した。
『これで全部終わらせる』
その幻を掻き抱くようにして、天使のかたちをした幻が、最後にひときわ強く、短剣を押し込んだ。
「
——あ、」
斯くして終幕のときは、呆気なく訪れた。
ぱきん、と何かが割れるようなとうめいな音が響いて、教会じゅうに張り巡らされていた光の陣が勢いよく弾け、発動する。魔法陣から放たれた術式はカイザーと世一の身体を
——そして彼らの背を押す天使と悪魔の幻を包み込んで、それから
超新星爆発かと見紛うほどまばゆい閃光を放ち、下級天使たちを諸共に灼き尽くして役目を全うする。
それがすべての終わりの合図だった。
つぎの瞬間、光の短剣が、しゅうと音を立てて蒸発した。同時にカイザーの背と世一の背から生えた翼が、キラキラと舞い散る光に溶けて喪われていく。そうして天使の幻と悪魔の幻は、それを満足そうに見届けると顔を見合わせあい、ちいさく微笑んではそれぞれのあるべき場所へと戻っていくのだ。
『じゃ、行こっか! 俺たちの未来へ!』
悪魔が、可愛らしく手を振って、世一の身体の中に吸い込まれて消えた。
『せっかく得た自由だ、精々クソ大往生しろよ』
天使が、シニカルに口端を歪めて、けれど抑えきれない喜びをたてながら、カイザーの身体の中に吸い込まれて消えた。
「終わった、のか
……?」
それを確かめて、世一が、ぽかんとしたように間の抜けた声を漏らす。しかしその言葉に応えたのは、世一とおなじぐらいぽかんとしているカイザーではなかった。代わりに、どこかから
——大きな鐘の音が鳴りはじめ、聖堂じゅうに響きわたる。
「
——降誕祭を告げる鐘だ」
その音の意味するところをいち早く理解して、カイザーが呟いた。
「イヴが終わって、クリスマスの夜がやって来た。
……この教会にいる人間達はまだ昏睡しているから、誰も鳴らすことはできないはずだが
……」
「でも、ちゃんと鳴ってる。奇跡みたいにさ、
……それって素敵なコトだと思わない?」
そんなカイザーの言葉に思うところがあったのか、世一がぱっと頬を染め、カイザーの身体に抱きついてくる。「世一?」カイザーが驚いて顔を覗き込むと、世一は悪戯っぽく笑みを浮かべ、カイザーの背中を撫でさすった。それから愛らしく相好を崩して、最後に、右手の薬指でつう、とカイザーの唇をなぞりあげる。
「まるで祝福してくれてるみたい。俺たちの
また明日を、
——それからたった今訪れたばっかりの、
今日を」
「あ
……」
はたと、動きが止まる。カイザーのくちびるから間の抜けた声ばかりが転がり落ちていった。そうか。言われてみればそうだ。クリスマス・イヴが終わって、降誕祭の日がやって来たということは、つまり。
「だからさ、今ここで、俺からもこれ、伝えさせてもらっていい?」
そのせいだろうか。世一のささやき声には、言葉にならないほどの万感の想いが篭もっていて。
「
——お誕生日おめでとう、ミヒャエル!」
それはまるで幾万年の願いを煮詰めたシロップみたいに重くて、だけど甘くて、温かくて、そして優しかった。
「
……言ったコトなかったか? プレゼントはクソ要らない性格だって」
咄嗟に口をついて出た悪態も、感極まったように語尾が震えていて、全然格好がついていない。そんなカイザーを見て、世一は微笑んだまま「知ってるよ」とだけ頷く。「知ってて、それでも、お前に渡して伝えたいんだよ。俺のわがままなの」あまりにも真っ直ぐな愛をその両腕に抱え込んで、カイザーの
——いつの間にか真っ赤に頬を染めて困り眉を下げている男の背を、慈しむように撫でまわす。
「生まれてきてくれてありがとう、幾万年前のあの日も
——それから、今日、まさにこの日も」
これからふたつの意味で訪れることになる生誕の日を言祝いで。
潔世一は、どうしようもなく幸せな気持ちになって、カイザーの唇に可愛らしくキスを落とす。
「
……ああ。俺も、
——生まれてきてよかった」
だからミヒャエル・カイザーは、どうしようもなく誇らしい気持ちになって、それを甘んじて受け入れるとくちびるを啄み返した。
聖夜の鐘が鳴り終わるその時までずっと。
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