憂依
2026-03-19 23:20:59
3418文字
Public さのぱち
 

秘密の逢瀬(さのぱち)

春コミで出そうと思ってたさのぱちの前半部分
2人が生前恋仲で、山崎宿での別れ際に原田が密偵であることを永倉にばらしていた世界線の話です。

マガツヒをめぐる一連の特異点は無事収束し、カルデアには新選組の三人、近藤勇、藤堂平助、そして原田左之助が新たにサーヴァントの一員として加わることとなった。
特異点では色々あったものの、最後には和解し新選組の旗のもとに集った彼らはカルデアで再び共に戦うことに喜びを感じていた。
そのため、食堂の一角を借りて新選組の再会の宴は開かれた。
問題は、それに便乗して特異点攻略お疲れ様会と称して他のサーヴァント……具体的には酒好きの以蔵や特異点で散々な目に合った信長も参加したことだ。信長が参加したことで彼女の弟や姪、家臣の森兄弟が同伴し、以蔵のお目付け役として坂本が来れば高杉も連れ立ち、彼の手綱を握るために阿国もやってきて、と、メンバーは雪だるま式にどんどん増えて行って、しまいには酒目当ての全く関係のないサーヴァント達も参加し、いつのまにか乱痴気騒ぎの大宴会となっていた。
近藤は歴史に刻まれた古今東西の英雄たちに目を輝かせて挨拶行脚を始め、藤堂は少年好きらしい神様に捕まって次から次へと酒を飲まされている。それを斎藤と山南がなんとか止めようとしている光景を眺めながら、原田左之助は食堂の壁にもたれかかりながら、一人杯を傾けていた。
最初こそは新選組のメンバーや途中参加者達と愉しく酒盛りをしていた原田であるが、流石にこうも初対面のサーヴァントが多いと落ち着いて酒も飲めやしない。
一人壁の花となっていたところに、酒瓶を抱えた男がひとり近づいてきた。

「おお~、左之助。おめえこんなとこにいたのかよ。探したじゃねえか」

原田には見慣れぬ現代風の洋装に身を包んだ白髪の青年……、かつて共に新選組の一員として駆け抜けた永倉新八は、原田の姿を見つけるやにへらと頬を緩めた。
どうやら彼もだいぶ酔っているらしい。顔を赤く染めて、足取りもどこかおぼつかない。それでも、原田の目の前まで来た彼は、原田と同じように壁に背中を預けて隣に並んだ。

「今回の宴の主役の一人だってのに、こんなところで何やってんだてめえは」
「主役っつったって、もう酒を飲みたいサーヴァント達の集まりになってんだろうが。それに、騒がしいのは好きじゃねえんだよ」
「よく言うぜ。昔は酒を飲むたびにバカ騒ぎして、腹の傷を見せびらかしてたくせによぉ」

はははっと笑いながら、抱えていた酒瓶をそのまま煽っていく。ぐびぐびと酒を流し込み、「うめえ~~! お前も飲むか!?」と吐き出した吐息は隣にいるだけで酒臭さが漂ってくるほどだった。

……そういう風に振る舞ってたんだよ。その方が、周りにも溶け込みやすくなるからな」

そんな誘いを受け流し、原田は何でもないかのように口にしたけれども、永倉は意図を察したらしい。彼が纏っていた楽しげな雰囲気が急速にしぼんで口元から笑みが消え、困ったように視線をさ迷わせる。

「あー……。わりい、嫌なことを言わせたか?」
「別に、気にしてねえよ。……それで、俺になんか用があるんじゃねえのか?」
……そりゃあ、そうだろ。特異点では、落ち着いて話す暇もなかったし」
「話? 稽古の時には何も言ってこなかったじゃねえか」
「当たり前だろ! ……あの時は、皆がいただろうが」
「なんだ、他の奴らには聞かせられねえ話でもあんのか?」

原田が揶揄うように尋ねれば、永倉は顔を俯かせた。珍しくしおらしい様子を見せる永倉に、表情を覗き込むように身をかがめれば、伏せた彼の顔はどこか落ち着かなさげに瞳が揺れていた。

……なあ、左之助」

呼びかけは、普段の彼からは考えられないくらいあまりにも弱弱しかった。
そっと、永倉の指が原田の指先に触れる。
酷く躊躇いがちな、触れるというよりはなぞるかのようなか弱さ。指先の皮膚だけがかすめるような、あまりに頼りない触れ方。


――――それが、彼の精いっぱいのお誘いだということに、原田はすぐに気が付いた。


俯いていた永倉が、視線を上げる。原田を見上げる視線は熱で濡れ、赤く染まる目元は決して酔いだけが理由ではないことくらい、原田には容易く理解できた。

「ちょっと、一緒に抜け出さねえか?」

目元を赤く染めて、指先をそっと絡めながら、彼は伺うように囁いてきた。
その誘いに、否という答えを原田はもっていなかった。

 * * * *

大騒ぎの食堂から二人がいなくなっても、気づく者も気に留める者もいなかった。
永倉に手を引かれるまま、原田は彼の後ろをついていく。
無言のまま彼が向かった先は、永倉の自室であった。そのまま二人は部屋へと入り、空気の抜けたような音とともに扉が閉まった瞬間、永倉が原田に抱き着いてきた。

「左之助……っ、さの、んんっ」

原田の胸に顔をうずめた永倉の顔を掴んで無理矢理上を向かせると、そのまま原田は永倉の唇に噛みついた。
僅かに開いた隙間に容赦なく己の舌をねじ込んで、永倉が逃れられないように後頭部を掴み、腰を抱き寄せる。けれど、永倉は逃げる事などしなかった。むしろ受け入れるように口を開いて、自分から舌を絡めてくる。原田の背中に両腕を回してしがみつき、二人の身体を密着させるように己の身体を押し付けてきた。

「ん、んんっ……、ふ。ぁ、さのすけ、んんーーっ」
「しんぱち、んちゅ、ん、……じゅ、んんっ」

互いに互いを求めあうように深く口づけ、抱きしめる。
舌を絡めて、吐息の合間に互いの名を呼び合う。二人の口の端から唾液が溢れて喉を伝うも、気にも留めた様子もない。
そのまま長いような短いような接吻を続けているうちに、僅かに永倉の身体が震えて、彼の身体から力が抜けていった。
キスだけで腰を抜かしてしまうくらい、気持ちよくなってしまったのだ。

「は、ハァ……はぁ……。左之助、すきだ、さのすけ、さのすけぇ……

ようやく離れた二人の唇の間に銀糸の橋がかけられる。キスですっかり蕩けた永倉は熱に浮かされたように原田の名を呼んで、己の想いを口にした。
密着した身体は、互いの分身がとっくに固く張り詰めているのを伝えている。
原田は無言のまま永倉を抱きかかえると、彼の体を持ち上げて無造作にベッドの上へと放り投げた。スプリングに体を跳ねさせて、乱暴な振る舞いに永倉は原田を睨みつけようとするも、すぐにベッドのうえに押し倒されてしまう。
永倉を見下ろす原田の眼差しは長く伸びた前髪の隙間から、ぎらぎらと情欲に染まって鋭くなっているのが見て取れた。

「新八……、良いな」

原田の手のひらが、永倉の下腹部を撫でる。
ただそれだけの動作で、永倉の身体にじんわりと熱が広がっていった。
簡潔な、有無を言わさぬ物言いに、普段なら悪態の一つがついて出たかもしれないけれど。永倉はひどく嬉しそうに、小さく薄く笑った。

「いちいち聞いてくんじゃねえよ」

それを了承と受け取ったのだろう。
原田は間髪入れずに、再び彼の唇に吸い付いた。