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保科
2026-03-16 19:25:19
5044文字
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超かぐや姫!
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六畳一間のリサイタル
彩葉とFUSHIとヤチヨが駄弁ったりピアノ弾く話 ちょっとだけいろヤチ ヤチヨの曲は自作なのかな、というところから
「暇だね」
『ひまだぁ
……
』
電脳空間ツクヨミの、もと光る竹近く、ちょっとした外れも外れの異空間。世界観に一切そぐわない安アパートの一室で、私
――
彩葉は、FUSHIと二人
……
もとい、一人と一匹、ちゃぶ台を挟んでぼーっと暇を潰していた。ヤチヨは急な用事でツクヨミ内へ出張中。なら、一度ログアウトすればいいと分かっているのだけど、何となくヤチヨの帰りを待ってしまう自分がいる。そんな時間の心地よさは、ちょっとばかり手放しがたい
――
とはいえ、退屈だ。
留守番を任されていたFUSHIへ、私は味のしないスナック菓子をかじりながら問いかける。なんだかんだと、この姿の忠犬ともそこそこな付き合いになってきた。
「ね、FUSHI、何かある?暇つぶせることとかさ」
『うーん
……
あれだ、人生ゲーム!手作りのがある!』
「いやそれ、二人でやるにはあれかなぁ」
『むむ、駄目か。
でもよくヤチヨとやったぞ?通しでやろうとすると5年かかるから、息抜きに遊んだんだが』
「いや狂った桃鉄?極まってるなぁ8000年
……
」
その極限ゲームはいったん保留とさせていただき、腕を組んで、うーん、と唸る。同じように体をねじって悩ましげであることをアピールしていたウミウシが、不意に、あ!と体を跳ねさせた。
『彩葉、あれはどうだ?』
「
……
?あれ、って?」
『こっち!』
ぴょんぴょん、と跳ねて行くFUSHIが、押し入れの戸を器用に開ける。後を追って、その中をのぞき込む。中には雑多な、かつて配信で使ったりしたガラクタと、後
――
見覚えのある楽器が一つ。
「
……
キーボード?」
それは、実家から持ち出してきて、今も家にある戦友の姿だった。部屋丸ごとトレースすればそりゃあるか。そう!というFUSHIの言葉を受け、なんとか引っ張り出してちゃぶ台に乗せる。重さは大してないけれど、見かけだけじゃないのか、これ。
『ヤチヨもな、時々弾いてくれてたんだ』
「ヤチヨが?」
うん、と、キーボードの上を転がるFUSHIが頷いた。ちょっと意外だった、あの子、楽器も
……
まあ、やれるか。考えたら、私に楽曲プロデュースを一任してることが不思議なくらいには、万能な宇宙人だ。
ヤチヨのピアノ、どんなふうなんだろう。気になるな。
『ツクヨミで歌う為の曲の依頼をするのに、ある程度カタチにしなきゃ、って頑張ってたんだ。
あ、確か、三徹目位の時に彩葉のこと褒めてたぞ!』
「あー、それはあんまり知ってほしくなかった修羅場だ
……
」
もしかしたら、わーん!と泣きながらバーチャルエナドリとかも飲んだのかな。8000年の記憶をより精査すれば、答えが掴めるのかもしれないけど、骨は折れそうだ。
思ったより、多方面のクリエイティブなことに足突っ込んでたヤチヨの知らない側面に驚きつつ。
スイッチを入れたキーボードは、鍵盤を押せばポロン、と電子音が鳴る
――
現実のものと遜色ない。なんなら現実のモデルのほうがところどころ塗装も削れてる分、こっちのが綺麗だ。
「うん
……
全然使えそうだね。で、どうする?」
私の言葉に、ぱあ、と嬉しそうに口元を綻ばせたFUSHIが、ぴょんぴょん陽気に跳ねる。
『じゃあじゃあ、彩葉のピアノ、聴きたい!』
「ええ
……
?いや、あんたもかい
……
」
そんな所まで飼い主に似なくていいだろうに。とはいえ目を輝かせるFUSHIの期待に応えるため、私は苦笑しながらキーボードに手を乗せる。なんだかんだとヤチヨのライブに参加してる関係上、腕は鈍らないままだ。
「おっけー。リクエストはありますか〜?」
『なんでもいい!
FUSHIはね、彩葉の曲ならなんでも好きだ!』
「
――
はは、言うじゃん」
演奏家冥利に尽きる。いいだろう、なら
――
弾けるだけなんだって弾いてやる。
流行りのJ-POPから、古めのアイドルソング、正統なクラシックからはたまたツクヨミ内のBGM音と、しっちゃかめっちゃかなジャンル遷移を繰り返して。さて、
――
顔を上げる。数分位前から、この部屋の主が密かに戻ってきていたことには気付いていた。
『彩葉、すごいすごい!』
「どーも、満足いただけたなら何よりでございます。
……
で?ヤチヨはいかが?」
「
……
、どーーーして、私不在の時に限って、とぉっても素敵なリサイタルをしてるのかなぁ〜
……
?」
『わ、わあっ!なんっ、ヤチヨ、潰すなぁ!』
もちもちもち、と、背後から忍び寄ったヤチヨによって潰されたFUSHIが、半泣きで私のもとに飛び込んでくる。するする、と肩上まで登りつめて、ふしゃーっと威嚇したFUSHIと、身を乗り出したヤチヨがにらめっこする。いや、その、顔が近いって
……
。
「あ!こら、ずるい!もう、FUSHIばっか!」
『ずるくなーい!』
「ちょっとちょっと、ここで喧嘩やめてよ。
……
別にいつでも弾くって、言ってくれればさ」
なんとなく駄々をこねる予感はしていたけれど、案の定だ。私の取り成しに口をとがらせるヤチヨは、
「
……
でも演奏会は一期一会だもん
……
」
と未練がましく呟いた。いや、そんな大袈裟なものでもないでしょうに。豪奢なホールで大きいクラシックピアノで弾くようなものじゃなくて、ちゃぶ台の上の電子ピアノだよ?
こだわりの強さに半ば呆れつつ、ふと、さっきまでの会話を思い出す。このキーボードを使っていた、本来の人。
「ね、それよりさ。
ヤチヨもピアノ、弾けるんだって?聴きたいな」
「
――
え゛」
キーボードをくるりと回して、鍵盤をヤチヨへと向ける。その言葉がよほど不意打ちだったのか。半濁点剥き出しの声で呻いたヤチヨが、ぎぎぎ、と錆びたブリキ人形の様にFUSHIを見る。
「
……………………………
言っ、たの?」
『う、うん。
……
良くなかったのか?』
「
――
いーわけないじゃんかぁ!彩葉に!?私が!?そんな烏滸がましいにも程があるよ!?」
「いやいや、別にこっちもプロじゃないんだから、そんなに気にすることないでしょ
……
?」
烏滸がましいって大袈裟な。半眼の私を誤魔化すように、ヤチヨはあたふたと手を振りながら、斜め下へと視線を逸らす。
「え、えっとね?ヤッチョはあくまで興味本位?というか、彩葉みたいにできるのかな〜って、お試し?だから、全然!人に聞かせられるレベルじゃなくて」
「そう?でも聴きたいな、ヤチヨのピアノ」
「
――
えと。だから、あのね?彩葉」
「一曲お願いできませんかね、先生?」
「
………
」
ぎゅ、と顔を顰めたヤチヨが、
……
かぐやのあほ、と小さく呟いた。こら、過去の自分を罵るのは感心しないよ。
「
……
でも、だって。彩葉みたいに、弾けるの、あんまりないけど
……
」
「そっかそっか。
なら弾ける曲が一曲はあるってことだね」
「
………
」
「ヤチヨ、お願い」
「
………………
はい」
躱そうとした所を言質を取られ、うう、と項垂れたヤチヨが肩を落とす。勝利である。やった、と口角を上げる私に、机に降りたFUSHIが不思議そうにこちらを見上げる。
『なんだか、いつもの二人と逆だな?
彩葉、なんだかヤチヨみたいだ』
「あはは、そうかも。
――
ま、好きな人にはどうしたって似ちゃうものだからさ。FUSHIと一緒だよ」
『おー、なるほどな!』
どさり、突然倒れ込む音。何事かと顔を向ければ、ヤチヨが床で丸まって動かなくなっている。ウワァ!とFUSHIが動揺に飛び跳ねた。
『や、ヤチヨ!?どうしたんだ!?』
「ちょ、大丈夫?
……
私のおねだりを断れないヤチヨさん?」
「
……
っ、い、いろはの、いじわる
……
!」
「ははは」
意趣返しだ何とでもおっしゃい。
それでも尚、思い出したようにでもでもだって、とゴネるヤチヨを、お願いします聴きたいですと拝み倒してなんとか座らせて。うーだのあーだの散々唸った後、顔を真っ赤にしたヤチヨがボソボソと呟いた。
「
……
じゃあ、その、ひ、弾きまーす
……
」
「やった」
『わーい!』
「うう、FUSHI以外の前で生で弾くのも初めてなのに、よりによって彩葉に
……
ヨヨヨ、心が折れそうなのです
……
」
「ええ
……
?
相手としては一番チュートリアルでしょ、私とか」
なんでよ、とジト目で見ていれば、複雑怪奇ラビリンスな乙女心は彩葉にはわからないのですぅー!と、心外なことを言われた。全て分かろうと善処中なんですけどこちとら。
すんすん、と、尚も不満げに鼻を鳴らしながら。ぎこちない仕草でヤチヨがキーボードに手をかける。
――
瞬間、戸惑っていた瞳が真剣なまなざしに切り替わる。
その仕草が、ああ、ライブの時、MCから演奏に移る時と同じだ、と思って、
鍵盤が鳴る。
「
………
えっ」
――
知っているイントロに瞬く。
……
嘘。
「♪埃をかぶったノート、中身なんて
――
」
Remember。Rememberだ、
……
あれだけ強請っても、ずっとライブで披露してくれなかったのに。どうして。
困惑に目を見開く私に、一瞬、してやったり、という視線を向けた後。直ぐにキーボードに視線を戻したヤチヨは、続けてフレーズを柔らかに口ずさむ。お手本のような演奏だ。迷いもなく、滑らかな、覚えのある演奏。
……
もしかして。私の意地悪に対する仕返し、なんだろうか。いやそんな贅沢ある?仕返しってかご褒美だよ。心の中にいるオタクの私が泣いて喜んでるよ。
というか、覚えがある。メロディが、とかじゃなくて。弾き方の癖とか、音の跳ねさせ方とか、強弱のつけ方とか。そういうのがすごく、妙な既視感を抱かせるのは何なんだ。これ、確かに、どこかで
――
―――
、いやこれ、私の弾き方そのものじゃん。
「
………
ええ
……
」
…………
。私のこと大好きかよ、ヤチヨさん。
頬が熱いのに冷たくて、口の中が妙に塩辛くて。やっと、心の中じゃなくて、現実の頬が濡れていることに気がついた。ひぐ、と、喉が引きつるのを必死に抑える。この曲を邪魔したくない。邪魔できない。
「♪大人になってく今日に いるんだって
――
」
――
あ、やばい。たぶん、コレ、涙止まんないやつ。
「い、彩葉?彩葉!大丈夫
……
!?」
「だっ、だいじょ
……
いや、あんま、大丈夫じゃ、ない
……
」
「じゃないの!?」
およそ3分間、FUSHIに心配そうに見守られながら静かに泣き続けた私の異常にヤチヨが気づいたのは、演奏が終わってからだった。
余韻を残した深いため息のあと、「ど、どうだった?いろ
――
」と、上げられた褒められ待ちの顔に一瞬でヒビが入ったのは見ていてちょっと面白かった。でも涙は止まらないままで申し訳ない。
思えば、かぐやが帰った時だって、ここまで泣いてない気もする。あの時は、どちらかといえば茫然自失だったから
――
時間を空けて、感情を咀嚼できていたから、なのかな。それとも、ライブの臨場感?ピアノアレンジの賜物?歌詞も歌声も刺さること刺さること。バイトの帰り道より刺さって抜けない。もうからかいとか好奇心とか、演奏前の自分の考えてることが何一つ思い出せなかった。
最高だった。本当に、素敵な演奏と歌だった。
「ご、ごめんね。その、そんな風に泣かせるつもりじゃなくて
……
ちょっと、びっくりさせたかっただけなの」
ええと、と、焦りながら背中を撫でてくれるヤチヨに、私は鼻を啜りながら、知ってるよ、と掠れた声で返した。知ってる。だからこそ、こんなに涙が止まらない。曲も演奏も全部、何もかもが良かったけど、何より。
「
……
ピアノ、上手だね、ヤチヨ。
頑張ったんだ」
――
メロディの中に、私を、忘れないでいてくれたこと。そのことが無性に嬉しくて。
たまらず、正面の体を抱きしめた。彼女の過ごした長い時間の一端に、また、ほんの少しでも触れられた気がしたのだ。ツクヨミの中ではまだ感触はなくて、でも、ずっと近くの距離にあるヤチヨの背中が、かすかに震えていることは伺える。
「
――
い、いろは?」
「うん」
「そ、の、そう、いうこと、言われると、
……
ヤッチョも、泣いちゃう
……
」
「
……
、うん」
「
……
もう、今日の彩葉、いじわるばっかり
……
!」
「ふふ、ごめんごめん
……
」
ぜんぜんあやまるきないし、と呻くヤチヨの声がどこまでも優しいものだから。また私の頬を涙が伝う。ずっと黙っていたFUSHIが満足そうにふんふんと鼻を鳴らして、私の耳元でよかったな、と囁いた。どーもね、ナイスアシスト。
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