2026-03-15 17:20:11
1761文字
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その件は持ち帰りで


お題ガチャで出た「『好き』と伝えるのが恥ずかしくて何も言えなくなってしまう🦇と、それを言ってくれるときを辛抱強く待つ🐺」です。
https://odaibako.net/gacha/963

デキてるガラハイ。
フレ~ヤ先生が宴会ゲームを持ち込んだ、ある日のCT。
深く考えずに読むやつです。

「ううん、あたしのほうが愛して……」フレイヤは、そこまでは調子を変えずに喋っていたのだが、「……わはーっ、ダメダメ! ああ、あたしの負けぇ」突然ばたんとカウンターに突っ伏した。彼女の持ち込み企画(照れ耐久ゲームとか言う)は、彼女自身の負けで終わったらしい。勝者たるガラさんは、ルアさんと一緒に楽しげに笑っている。
「ああ、なんだ、これで勝ったことになるのか?」
「ひゃー……暑っつい。ガラってば、ちっとも照れないんだもん。一人芝居してる気分になっちゃう。そのいつもの目で見ないでぇ」
 フレイヤが呻きながらぼくへ手を伸ばす。ガラさんの分の伝票を寄越せというのだ。ぼくが一応ガラさんを見ると、彼は微笑んだまま僅かに首を振った。すかさずフレイヤが目を剥く。
「ちょっとお! 情け無用よ、これはあたしが吹っかけた勝負なんだから! うう、こないだ友達とやったときは結構勝ててたのになあ」
「フン、相手が悪かったな」それまで沈黙していた観客の一人から、楽しげな横やり、もとい感想が上がった。ハイドさんだ。「こいつは見ての通りお堅い奴なんでな。こいつを照れさせたいなら、もっと工夫した口説き文句が必要なのさ」
「ハイド」ガラさんが窘めるように言い、
「ハイド……」フレイヤが恨めしげに言った。「あなたってホント、ぜんっぜん遠慮ってものが無いわよねえ。高みの見物ってわけえ?」
「実際そうだ。私はそちらの二人(と、ハイドさんはルアさんとぼくを見た)と同じく、ただの観客だったからな。そのうえで君を、残念だったな、と慰めてやっているわけだ」
「今ので慰めてるつもりなら、やり直してほしいところだけど」
「その元気があるうちに、ガラと再戦してみたらどうだ。私のアドバイスを存分に活かしてくれ」
……」フレイヤの“苦虫噛み潰し顔”はしばらく続いたが、急に笑顔へ切り替わった。「じゃあお言葉に甘えて、あなたがお手本を見せてくださる? ハイドさん」
「はっ? ……
「よくよく考えてみたら、あなたはガラのパートナーでしょ。深い付き合いなわけ。あたしがガラと知り合ったのって、この店ができてからだから、せいぜい10年ってとこ。あなたたちの十分の一。そりゃあアドバイスのひとつやふたつ、簡単に出てくるに決まってるわ。あたしにくれたアドバイスを存分に発揮して、お手本見せてよ」
 彼女は一度堰が切れるとまあ早い。ハイドさんは完全に圧倒されてしまったようで、硬直している。さすがに看過できず、ぼくは口を挟んだ。
「フレイヤ、それは八つ当たりだ。ガラさんを巻き込んで失礼だよ」
「だってえ!」まるで五歳児みたいに頬を膨らませるフレイヤへ、
「何事も強要は良くないわ。勿論あなただって分かってると思うけど、フレイヤ」ルアさんが巧みに、かつ穏やかに、釘を刺してくれた。「ね、今ガラにいっぱいぶつけたロマンスの言葉って、どうやって思いつくの? 実体験、それともアドリブ? 実際、あなたの言葉の発想力に興味があるの」
「ううー……大体アドリブだけど、映画とか本で見たのを色々思い出して……
 フレイヤのしなびた表情がルアさんに向き、あれこれ喋っているあいだに少しずつ潤いを取り戻していく。ひとまずハイドさんへの矛先は引っ込んだようだ。
 ぼくはフレイヤが再噴火しないかどうか、注意深く見守りながら、ハイドさんの様子を窺った。手を組んでそっぽを向いてしまっている。見物していたはずが、思いがけずステージまで引き上げられかけたのだ。ハイドさんの伝票こそ、フレイヤに握らせるべきかもしれない。
 そのハイドさんを、ガラさんが覗き込むようにした。ハイドさんがようやく、瞳だけをじろりとガラさんへ投げる。フレイヤの無茶ぶりが立ち消えになった今、緊張は少し和らいだらしい。ガラさんもそれを感じ取ったようで、静かに微笑んだ。
 ――女性陣は「恋愛映画のときめきセリフランキング」の格付けに大盛り上がりだった。だから、ようやっと照れ耐久ゲームから解放された二人が、ぼそぼそと何を言い合っていたのか、彼女たちの耳には入っていなかったはずだ。

「やるか? なんていったか、“愛してるゲーム”?」
「や……らない。こんなところでおまえを照れさせても面白くない。もう帰るぞ」