も茶
2026-03-15 09:07:18
2587文字
Public 父水
 

月が綺麗アンソロ進捗

こんな感じで書いてますよという進捗です。
少しでも興味を持って頂ければ幸いです。
実際に寄稿した際には多少変わっている可能性がありますがご了承ください。
夏の話です。当社比、ヒジョーーーに甘いです!

※水木は記憶ありで長生きおじさん

 
『ゲゲ郎、遠出するか』
 それはとある夏の華金だった。仕事から帰った水木が玄関に出迎えたゲゲ郎へと唐突に告げたのだ。なんの脈略も無く言われた言葉にゲゲ郎はその丸い目をぱちくりと瞬かせた。

「珍しいのう。お主が遠出をしようなど……このカブとやらを買った時以来ではないか?」
 次の日には奮発して買ったカブに乗って二人は道路を走っていた。以前は秋だったが今回は夏ということもあり風を切るのが心地良い。突然決まった遠出に以前のような服を用意出来る訳も無く、ゲゲ郎はいつもの着流しに水木は縦ボーダーのシャツと七分丈くらいのズボンに草履という格好だった。
 金が掛かるから、という理由からあまり遠出をしたがらない水木が何故遠出をしようと言い出したのか不思議で仕事で何か嫌な事でもあったのか?とゲゲ郎は訊いた。
「別にそんなんじゃねぇけど、まぁなんていうか気分だ」
「ほーう?」
 カブを運転する水木は前を向いたまま答え、怪訝そうにゲゲ郎は水木の旋毛つむじを見つめた。今までそんな気まぐれを起こす事など無いに等しいというのに何も無かったとは思えない。

 水木は子育てに四苦八苦しながらも鬼太郎を立派に育て上げ、鬼太郎は独り立ちの為にゲゲゲの森へと移り住んでしまった。目玉おやじも当然付いて行ったが数年を掛けて身体を取り戻し、ゲゲ郎として水木の元へと帰って来たのだ。
 扉を開けた先にもう見る事は叶わないと思っていた相棒が居た事に驚きのあまり水木は扉を閉めてしまい、何故じゃあ!儂じゃよみじゅきぃ!とゲゲ郎が半泣きになって扉を叩くなんて一幕もあった。
 それからは二人で再び暮らす事になった。偶にゲゲゲの森へと鬼太郎の様子を見に行く事はあるが基本的には家で家事をして今まで世話になった分、水木を支えてゲゲ郎は過ごした。そうして過ごす内に二人は恋仲へと進展したのだ。

 だからこそ、愛しい者の変化は放っては置けなかった。しかし、今訊いた所で話してくれるとも思わなかった。この先、水木が向かおうとする場所で何か解るかもしれない。そう思いゲゲ郎は仕方なく追及する事をしなかった。
「所で水木や、何処に向かっておるのじゃ?」
 全て水木に任せて付いて来ていたゲゲ郎は疑問に思って訊いた。以前は地図を見ながら行き当たりばったりで目的地に向かっていたが今回は何処か目的地があって走っているようだったからだ。
 家からは随分と走ったし途中で昼餉も食べ、今は海岸沿いを走っている。流石に目的地くらいは訊いても良いだろうとその灰白の後頭部に投げ掛けた。
「海だ。もうすぐ着く」
 短く簡潔に答えた水木はちらりと横目で海の方を見た。ゲゲ郎も釣られて海へ顔を向ける。そこには広大な紺碧が広がっていた。夏の陽射しを受けてキラキラと輝く海面は宝石のようでそういった類に興味がないゲゲ郎でもその美しさに年甲斐もなく心が躍った。



◇◇◇



 カブを置いて砂浜へ降り立った二人はさくさくと音を立てる砂浜を歩き、海辺へと近づく。そして、どれどれと裾を折り上げた水木が海に足を付け、冷めてッと小さく声を上げた。
「ゲゲ郎も足付けて見ろよ。冷たくて気持ちいいぜ。あ、流石に下駄は脱いだ方がいいぞ」
 水木の様子を見ながら突っ立っているゲゲ郎に声を掛けて水木はざばざばと音を立てて歩く。その音に混じってザー、ザー、と寄せては引いて行く波の音が聞こえた。
「ゲゲ郎?」
 突っ立ったまま動こうとしないゲゲ郎にどうした?大丈夫か?と心配げに戻って近づけばハッとした顔になった。
「す、すまぬ。少し音を聞いていた」
「音?」
「波音を……あまり聞かぬ音故……
「そうか。海が怖いとかじゃなけりゃ別にいい」
 ゲゲ郎の言葉に安堵した様子を見せ、再び海に足を浸け、ほら、と声を掛ける。ゲゲ郎は下駄を脱いで屈み、鼻緒を指で挟み持ち上げ立ち上がると歩を進めた。
 濡れる砂の上に足が乗る。引いていた波が寄せてゲゲ郎の足を覆い、ゲゲ郎はビクッと驚くと足元を凝視した。
……海初めてか?」
「見た事はあるが、ここまで近付いた事はない。入る理由もなかったからのう」
「そうか。まっお前は山で温泉入ってる方が似合うしな」
 カラカラと笑う水木にうむ、と短く答える。先程カブから見た景色はキラキラと輝いていて浮かれていたのにいざ入ってみると未知の事に少し落ち着かなくなる。
「足元ばっか見てんなよ」
 そう言われてゲゲ郎は顔を上げる。目の前に輝く広大な紺碧を背に水木が優しく笑いかけてくる姿が瞳に映った。
「みずき」
「ん?」
「海は……お主の瞳と同じ色じゃな」
「は……
「好きじゃ」
 一歩、前に進み水木に近付く。手を伸ばし頬に手を添え親指で涙袋を辿った。愛おしげに目を細め微笑めば水木の頬がかぁっと紅潮する。
「バッカ……!何言ってんだ!!」
 照れ隠しに吠えれば手を押し退けふいっと顔を背ける。愛い奴じゃ、とゲゲ郎は上機嫌になって水木の瞼に口付けた。
「っ、おい!」
「誰も居らんじゃろう。良いではないか」
「そういう問題じゃ……んぅ!?」
 顎を掴み上げ口を塞ぐように重ねる。驚いた水木が目を見開きザパッと足元で波を立たせる。そんな水木を目を細め満足げに見るゲゲ郎はそのままちゅっちゅっと啄むような接吻せっぷんを続ける。
「んんっ!」
 接吻から逃げようとする水木の腰に下駄を持つ腕を回し引き寄せれば抗議の目線が向けられる。それでも止めないゲゲ郎の戯れるような柔らかな口付けに少しもどかしく感じながらもとろりと表情を蕩けさせ縋るようにゲゲ郎の袖をくしゃりと掴んだ。
「んっ……んむ……ふ、んん……ぁっ」
 ちぅ、と音を立てて唇が離れる。やっと終わった接吻にぽやぽやとした表情で浅く呼吸をする水木にゲゲ郎は額に口付けて抱きしめた。
「お主はほんに愛いのう」
……ぅ、るせ」
 真っ赤になった顔を隠すように水木はゲゲ郎の胸へ顔を埋めて凭れかかった。
「何にスイッチ入ったんだよ……
「お主の海をもっと近くで見とうなったんじゃ」
「ぐっ……お前、本当に恥ずかしい奴だな」
 ドッドッと胸にときめきを抱えてゲゲ郎の背中を拳で軽く叩く。ゲゲ郎はヒヒヒッと嬉しげに笑って水木の後頭部を撫でながら髪に口付けた。


続く


 
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