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柩木
2026-03-14 19:00:54
4511文字
Public
崩壊:スターレイル
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丹穹|より眩く輝いて
丹穹のホワイトデー。以前書いた
バレンタインデーの話
の続きです。
ワケあって短めですが、2ページ目は入れられなかった小ネタをまとめてます。よろしければどうぞ。
26.07.07 再投稿
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2
「丹恒ってピアスつけてるじゃん。穴開けた時って痛かった?」
羅浮でも名が知られた茶屋のドリンクを飲む傍ら。短く切り揃えられた髪の隙間から耳を彩る翠色の石に視線が吸い寄せられて、なんとなく振った話題だった。
自分から積極的に装飾品の類を着けるとは思えない丹恒だが、そんな彼が常日頃から身につけているピアスとイカーカフスを細いチェーンで繋いだ耳飾りは、なかなか凝った品なのではないだろうか。特に左耳のイヤーカフスは石を削り出して作られているように見える。
そう言えば耳飾りについて話をした事はなかった。そう思ったら疑問が言葉として口から出ていたのだ。
「
……
昔のことすぎて詳しく覚えていないが、痛みはある」
答える直前、ほんの少しだけ苦い顔をした丹恒を穹は見逃さなかった。ざわ、と胸の内が騒ぎ立てる。聞くべきではなかっただろうか。
今は羅浮で受けた依頼を二人でこなし、完了報告の為に待ち合わせ場所近くの茶屋で小休止を取っている。依頼人と約束した時間まで余裕があるからと穹が提案したことだった。
そも、本来であれば丹恒は今回の依頼に付き合う必要はなかった。一つ気がかりな点があって彼の知識を頼ったが、それをきっかけに手伝ってもらう事になるなんて。
難しい依頼ではないからと一度は断ったのだが、半ば押し切られる形で丹恒は同行する事となった。結果その予想は正しく、依頼は難なく終わり今に至る。
「ふーん。やっぱ痛いんだ」
手伝ってくれたお礼も兼ねて美味しいティータイムを過ごす予定が、話題選びをミスったかもしれない。だがそれを気取られる訳にはいかず
——
こちらが振った話題で丹恒が気を遣うのは違うと思うのだ
——
穹は何でもないように答えた。
「興味があるのか?」
「うん。丹恒がつけてるから興味はあって
……
。でもなぁ、痛いのかぁ」
ドリンクを持っていない左手で思わず自分の耳を覆った。例え生命維持になんら影響を及ぼさない耳たぶであっても、身体に穴をあけると言う行為は少し怖い。
一度その身にランスを受けただろうと言われてしまえばそうなのだが、あの時は星の運命がかかった大事の最中だった。だから何が起きたとしても覚悟が出来ている状態といえる。実際、貫かれた瞬間は痛みよりも先に悔しさの方が勝っていた。畜生、もっと上手くやれた筈なのに。存護の星神と謁見する直前にはそんな事を考えていた。
だが、ピアスの穴をあけるという行為にそういった覚悟を抱くにはまだ足りない。だから怖く感じるのである。
「宝飾品はピアスだけじゃない。体に施術を施さなくても身につけられるものもある」
「それはそうなんだけど
……
。やっぱピアスがいい」
「
……
そうか?」
「うん。丹恒とお揃いでいいじゃん」
穹がピアスというアクセサリーに持つイメージは、多くの場合で丹恒に直結している。丹恒が戦う時の立ち回りでも、彼が動く度に揺れる耳飾りが良さを引き立てていると感じるのだ。それは飲月の姿でも変わらない。
勿論丹恒は元々がとても整っているから、耳飾りはあくまでも引き立て役なのだが。
「俺、アクセサリー初心者だから好みなんてないし。シンプルで使いやすくて、俺がつけたいって思えるものならいいのかも。いっそ丹恒と同じ色のピアスとか! ははっ、ちょっとあからさまかな」
初めてつけるピアスだから、見る度に丹恒の事を思い出せそうな色と形がいい
――
なんて、流石にそこまで言う勇気は穹にはなかった。
「
……
そういうものか」
「そういうものだよ」
お揃いでいいじゃんと言った瞬間、少し驚いた顔をした丹恒が気になったが、おどけた穹の様子にすぐ表情を和らげた。
/
そんな話をしたのが二週間前くらいだったような気がする。
「穹」
「ん。どうかした?」
「
……
その、バレンタインのお返しなんだが」
列車のラウンジにて。丹恒が読書。穹がゲームと、それぞれが好きなことをしつつも同じ空間に身を置いているという、よくある瞬間に何の前触れもなく丹恒が声を掛けてきた。最初は疑問符を浮かべていた穹も、バレンタインのお返しと聞いて何も思いつかない程鈍くはない。
バレンタインという催しを知ったのは先月の事。感謝したい人。あるいは家族や恋人に気持ちを込めて贈り物をするのがバレンタインと聞いて、穹は先ず真っ先に丹恒の顔を思い浮かべた。勿論列車組の皆にも感謝の意は表するべきと思っているが、彼へ想うそれとは種類が違う。丹恒は穹にとって大切な恋人だ。これはしっかりとした贈り物をしなければと悩みに悩んで、結果あの品を贈ったのだ。
二人で隠れるように飲んたチョコレートミルクはとても美味しかった。
「これを」
そして丹恒が差し出したのは赤い巾着。両手の中にすっぽり包み込めてしまいそうなサイズで、金色の紐がリボン結びされてる。重さやサイズ、触った時の感触からして小さな箱が入っているのが分かる。早速明けてもいいか了承を取り、いそいそと中身を取り出した。
黒を基調とした箱に繊細な箔押しの金が目立つ、高級感あふれる箱が出て来た瞬間には思わず丹恒の顔を見てしまった。これ、本当に貰っていいやつか? バレンタインのお返しなんだよな? そう尋ねたくなって丹恒を見ると、その表情が固くなっているのが分かった。これは早く開けなければ。恐る恐る蓋を開けるとそこには緑色の小さな丸い石が二つ並んでいた。ラウンジの照明を受けて緑色の石はまぶしいくらいに輝く。
「これってもしかして、ピアス?」
「
――
に、見えるイヤリングだ。それなら穴を空けなくてもつけられる」
「あ、ほんとだ。透明のパーツがついてる」
入れ物の造形でピアスのように見えていたのだが、クッション材から取り出せば内側から円形の透明なパーツが出て来た。数ミリの切れ込みがあり、ここに耳を挟むのだろう。
「石は俺が付けているものと同じものにした。緑の猫目石だ。キャッツアイの方が聞き馴染みがあるだろうか」
「へぇキャッツアイ
……
。この石そういう名前なんだ」
光る様が猫の目に似ているから、キャッツアイと呼ばれるのだそうだ。その話を聞いて手元の箱を傾けて輝きの形を見る。
確かにピアスはつけてみたかった。そしてあの日、本人の前ではちょっと恥ずかしくて口に出来ない事も思った。その両方が同時に適うとは思っても見なくて、手元のピアス、もといイヤリングをまじまじと眺めてしまう。
「その、本人が気に入ったデザインの物を贈る方がいいとも考えたんだが、俺とお揃いがと言っていたのを思い出して
……
、その色の石に
…………
。何か言ってくれないか
……
」
「あっ、そうだよな! ごめん! びっくりしたのと嬉しさで固まっちゃってた!! ありがとう!!」
イヤリングを選んだ時の事を話してくれる丹恒の声がだんだん尻すぼみになっていくことに気付き、やっと意識を今この瞬間に戻した穹はやっとお礼を言えた。
「と、とりあえずつけてみよっかな」
「ああ。そうしてくれ」
初めてつける為におぼつかない手つきだったのを見かねて丹恒が手伝ってくれた。耳元を人に触られるのは妙に意識してしまってくすぐったい。
「どう? 似合う?」
とりあえず左耳につけることが出来たイヤリングを見せつける。だが、てっきり耳元に向ていると思っていたのに思いの外しっかり丹恒と視線が交わってたじろいだ。
おもむろに右手が伸ばされ、左耳に優しく触れる。親指の腹が耳の形をなぞるように撫でた瞬間、耳から顎を通り、首筋へピリピリと痺れるような感触が駆け抜けていった。
こ、れは。心臓がうるさいくらい脈打っている。
「とても」
あまりに優しく、柔和に微笑まれてしまっては流石の穹でも受け流せない。小さくうめき声をあげた穹はゆっくり自分の顔を覆って、その場にしゃがみこんだのだった。
/
ホワイトデーから一週間と数日が経った。贈った物を実際に身に着けてくれるのは素直に嬉しいのだが、その反面気恥ずかしいような。くすぐったい気持ちになる。穹からチョコレートを貰った日からお返しを悩んだかいがあったと、丹恒は一人幸福を嚙み締めた
――
のだが、ある日からぱたりと穹がピアスを着けなくなった。
それまでは列車の皆に自慢して回っており、三月は「もう三回は自慢されたよ!」なんて言っていたのに。だが、贈った物をどう扱うかは本人次第だ。気になりつつも気にしないよう努めていた丹恒だったが、その答えは以外にも穹本人から聞くことが出来た。
「けっこう激しい戦闘の最中に落っことしそうになって、つけるの怖くなっちゃった
……
。絶対嫌じゃんそんなの」
「
……
やはりピアスを開けるか?」
「それはまだちょっと怖い。依頼がない日とか、デートの時につけようかな」
この後、日常的に使えるもので、急な戦闘が始まっても落とさないものを考えた結果、いっそ服を贈るろうと考えたのだが、それはまた別の話である。
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