adashino-kitune
2026-03-13 00:01:49
2439文字
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【捏造ゴッホ】きつねの過去

きつねの過去

『えぇっ!?じゃ、じゃあアンタ友達の娘を引き取ったの?』
ツンとした声が携帯のマイクから響き渡り、思わず耳を離す。
「あ、あぁそうなんだよ。だから姉貴からアドバイスを聞きたくってさ
『あのさぁ、簡単に言ってるけどペットじゃないんだよ?そんな年頃の子どうやって育てるっていうの?』

ペットじゃない、という言葉に思わず目の前の光景に目をやった。
金色と桃色の髪の毛をした子供が、毛布に包まってすうすうと寝息を立てている。何も知らなければ微笑ましい光景だが、その子供には狐の耳と尻尾が生えていた。
ペットと言われればペットなのだろうか

『てかアンタそもそも結婚してないじゃない』
うっ。__痛いところを突かれた。
「とりあえずまた後で連絡するっ!ありがとな姉貴ッ!」
『あ、ちょっとッ__』
とん、と通話を切るアイコンをタップする。
腕を下ろすとどっと疲れが肩に来る、もう俺も若くないんだろうな。
数年前まで嫌味な上司と才能のある部下達に板挟みにされて、忙しくしていたつもりだった。
だけどある日、ぷつんと自分の中で何かが事切れて、その数日後には有給を取って辞めていた。
出世などもうどうでも良い。


(毎日ネクタイを締めて通勤快速に揺られてたのが嘘みたいだな)
横目で少女を見ると、騒がしい声が漏れていたのか目を擦り眠たそうな顔でこちらを見ていた。

「起こしたか?ごめんな」
「ううん、へーき。何かあったの?」
狐の耳がへなりと倒れている。
「いいや、別に。それより腹減っただろ、何か食うか?」
『食べる』という本能には抗えないのか、先程まで眠そうだった表情が見る見ると高揚していく。
耳はピンと張り、尻尾は左右に揺れる。
「やった!栗ご飯がいい!」
「それはお前さんが食い尽くしたから無い」
「え〜ケチっ」

好物の鰻を出してやると、一気に桃色の瞳に光が増す。
慣れない人間の手で小さい骨を一生懸命取り除いていた。ああそうだ、箸の使い方も教えてやらないと。
後それと……


「なぁ、学校、行ってみないか?」
「がっこう?」
「お前さんの年頃の子が通うあ〜、学び舎?みたいなもんだな」
少女がこのカフェに住み始めてから、早数週間たった頃に気づいた。日が沈み始める頃、近所の小学校に通ってる子供達が楽しげな笑い声と共に帰路へと向かう。
その声を聞きつけては、あぜ道が見える窓へ急いで寄っては静かに眺めていたのだった。
少女には友達という概念がないのか、不思議そうに、そして羨ましそうにしていたのを兵十はずっと気にしていた。

少女は勢いよく箸をテーブルに置く。
「行きたいっ!!」
「お、おう。わかったから静かに食え」
椅子に座り直すと美味そうに、上機嫌で麦ご飯を口に頬張る。

名字は適当に考えるとして問題は名前だな。
「お前さん、名前は何ていうんだ?」
「んぇ? きつね だよ」
「いやそれはお前の種族?の名前だろ?もっと個人的なやつだよ」

そこまで言うと、何を思ったのか徐に席を立ちソファの毛布に包まってしまった。何か余計なこと聞いちまったか
ポツポツと暗くて静かな雨が窓を叩いていく。
隙間から入ってきた冷気が、俺の脳の奥を冷やかしていった。