まるで太陽のような『大きな光』。海中にあるそれに照らされてキラキラと輝くタイダルガはそれはそれは美味しそうで、使い慣れない手で一生懸命かき集めていた、のを、人間に見つかって。
よく分からないまま、視界にちらちらと映っていた鉄の塊の中に連れて行かれた。
パシーフはヴィシャップだ。本気を出せば水の中の人間達なんて簡単に振り切れるけれど、王様に言われた言葉を思い出して一旦大人しくしていることにした。理由はどうあれ、もし人間を傷つけてしまったら王様でもパシーフを助けられないかもしれない、らしい。王様はこの世界の誰よりも強い“龍”なのに変だなぁ、とは思ったけれど、王様を困らせたくはないし、パシーフには人間の友達もいる。人間が怪我をするところは見たくない。
そうしてやってきた鉄の塊の中でパシーフを迎えてくれた人間を見て、パシーフは思った
――この人間は大丈夫だ。
本能がそう言うのだから間違いない。王様は「困ったら呼びなさい」と言っていたけれど、そうしなくてもよさそうだ。
人間は『リオセスリ』と言うらしい。聞き取れたが発音はうまく出来なくて、なんとか音になったたった一音にリオセスリは可笑しげに笑った。「わかるから問題ないよ」と。
わざわざ膝をつきパシーフと目線を合わせてくれたリオセスリが、どうしてあそこにいたのか、何をしていたのか、そんなようなことを聞いてくるのに一生懸命人間と同じ言葉で答える。人間の言葉は本当に難しい。けれども同じ言葉で説明しないと何も伝えられないことをパシーフは知っている。『悪いこと』をしていたわけではない事だけでも伝えたい。パシーフの努力はある程度実ったようで、なるほどなぁ、なんてうなずいたリオセスリは、それなら誤認逮捕の責任を取らないと、と口にしてその場を離れ、大量のタイダルガを採ってきてくれたのだった。
「
…んふふ」
「機嫌が良さそうだな」
そうして、タイダルガを食べている間にリオセスリが呼んでくれた王様と共に、パシーフは今棲家へと向かっている。ぽてぽてと鳴る足音の合間に漏れた声が耳に入ったのか、王様が首を傾げた。
「リ、いいもの! パシーフ、タイダルガ!」
鉄の巣に棲む不思議な人間はいい人間だった
――頼りない人間の語彙で語ると、王様がふわりと笑う。
「そうか。パシーフはリオセスリ殿が好きか。良かった。私も嬉しい」
「
……塗り絵ヒト、嬉しい?」
パシーフがリオセスリを“好き”だと、何故王様が嬉しいのだろうか。ぱちりと瞬き首を傾げて、あ、と気づいた。
匂いがする。王様から、リオセスリの。
そういえばリオセスリを『大丈夫』だと思ったのは、今にしてみれば彼から王様の匂いがしたからではなかったか。
お互いからお互いの匂いがする。ヴィシャップにとって、そうなる理由はひとつだけだ。
確信して、その場で足踏みをする。『嬉しい』ときのメリュジーヌ達がそうしていたのを覚えていたからだ。
「つ、がい! いいもの!」
「んん
…ありがとう。
…大切な人なのだ」
そうか、王様の番様は、眷属である自分にも優しくしてくれるのか。種族が違うだけでいじめられるなんて話も聞くが、どうやら番様はそうではないらしい。なんていい人間なんだろう。やっぱり王様が選んだ人間だけある
――にこにことはしゃぐパシーフに、王様は少しだけ照れくさそうに笑った。
「リ、パシーフ、ぶるぶる?」
そうとなれば挨拶とお礼を兼ねて贈り物をせねばなるまい。たくさん贈りたいから、メリュジーヌの姿では心許ない。けれどほとんどの人間はヴィシャップを怖がる。番様を怖がらせるのは本意ではないし、何より怖がられたら悲しい。パシーフの問いかけに、王様は傾げた首を振った。
「ヴィシャップの姿で会いに行っても怖がらせないか?
…問題ない。リオセスリ殿にはヴィシャップの友人もいるからな」
君より年下の、幼いヴィシャップだ。
王様の声がくすくすと弾む。王様のこんな様子は珍しい。いつもメリュジーヌ達を優しい笑みで見守っている王様は、こんな笑い方もするのか。見ているパシーフも嬉しい気持ちになるのが不思議で、とても“いいもの”な笑顔だと思う。
「リ、タイダルガ、好き?」
「ふむ。贈り物をしたいのか。人間はタイダルガを食べる生活はしていないから
…魚の方が良いかと思う」
「パシーフ!」
もちろんタイダルガも喜んでくれるだろうけれど、魚ならもっともっと喜んでくれるはずだ
――王様の授けてくれた知恵に、パシーフはうなずく。魚。船に乗った人間達が集めているのを見たことがある。食べるため、でなくても何かに使うために集めているのだろうから、同じ魚を集めればきっとリオセスリも喜んでくれるに違いない。今すぐにでも狩りに行こう
――そわついていたら、危険なことはしないようにな、と王様にそっと釘を刺されてしまった。
結果として贈り物を渡すことには成功したものの、「サーチライトにヴィシャップが引っかかって対応に出たらキラキラした眼差しで待ってたパシーフさんに魚をプレゼントされたよ」と笑み交じりにリオセスリから報告を受けた
――よくよく考えたらどうやって番様に会えばよいのか分からなかったので最初と同じ方法を取ったのだ
――王様にそっと顔を覆わせてしまったパシーフが、シグウィンという名のメリュジーヌから『メリュジーヌしか通れない秘密の抜け道』を教えてもらうことになるのはまた後日の話だ。
※『友人のヴィシャップ』は
これに出てきた子です。公式ではない
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