おがら
2026-03-04 01:25:26
3931文字
Public バキサム
 

You're the King!

🦾🪽 全年齢
ドラマ後、付き合ってない二人。バキからの矢印あり。
ウィルソン家でキングケーキを食べる話
月いち36の日で公開

 
 デラクロワのサラの家に行くと急遽サムに引っ掴まれてから数時間、説明を求める間もなく就任パーティーの時と同じように歓迎してくれた街の人たちと酒を飲み、子どもたちに遊ばれ、サラの手料理に舌鼓を打ちひと休憩していた時にサムに呼ばれキッチンに入るとサムはこれからみんなでキングケーキというのを食うと言うのだ。

「キングケーキ?」
「ああ、昔からこの辺でもやってる祭りで買ったり作ったりするケーキで、中に赤ん坊の人形が入ってんだ。あ、理由は聞くな」
「何で入ってるんだ?」
「お前、俺の話聞いてたか?」

 人数分の皿を用意するサムに同じく人数分のフォークを渡せば肩を竦めたサムはフォークをテーブルに並べながら黙ってしまう。恐らく理由を思い出してるんだろう。

「とにかく!今日はみんなでこれを食う。人形に当たった人は一年、王か女王になって幸せになるだとか、そういう認識でいい」

 ドン。とテーブルの真ん中に置かれたカラフルで巨大なケーキはリング状で上には白いクリームがかってて、さらにその上にパウダーみたいなのが全体にまぶされてる。緑と紫と黄色。見たことがない色合いをしていて知らず瞬きがゆっくりになる感覚がする。

「じいさんには派手すぎたか?」

 食器のセットが終わったサムはニィと笑うと立ち尽くす俺の肩を軽く叩き、ダイニングを出るとサラや子どもたちを呼ぶ声を響かせる。すぐに集まってきたウィルソン家は各々テーブルにつき、俺もサムに促されて座る。

「まさか去年はアンタが人形を引くなんて。ねぇ、この子この一年いい王様だった?」

 ケーキを切り分けるサムの手元を見ながら俺に話を振るサラに俺はすぐに返事は返せず少し考える。去年はサムとフラッグ・スマッシャーズとの戦いに力を尽くし、俺はサムから手厚い愛の鞭を受け、サムは盾を担いでキャプテン・アメリカになった。
 一緒に戦ったことが軍に知れたのかここでやった就任パーティー以降仕事として頼まれた案件に一緒に繰り出すようになったし同じ時間を過ごすことも増えた。――同居は未だに叶っていないが。
 そのサムがいい王様だったか?答えは一つだろう。

「ああ、いい王様だったよ」
「俺が偉そうにしてたか?」
「あぁ、してたね。俺にああしろこうしろって」

 ケーキの乗った皿をサムから受け取りながらフォークを持ったところでみんながいる前ならと斜め向かいのサラへ視線を投げる。

「なぁ聞いてくれよ。こいつ、まだ一緒に暮らしてくれないんだ」
「まだ落とせてないの? ブルックリンの色男もまだまだね」

 俺とサラの会話を聞いてか、がたん。とわざと音を立てて俺の隣に座り直したサムから鋭い視線が飛んでくるがお構いなしだ。ずっしりと重いケーキというかパンのようなそれにフォークを差し込んで一口放り込み咀嚼すると途端に口中甘い味に支配される。嫌いじゃない、が随分甘いな。

「おいバッキー、人形入ってるんだぞ。あんまりでかい口で食うな」
「これ、あま」
「食いながら喋んな」

 ずいっと差し出されたマグカップを受け取り口を付ければコーヒーの匂いが鼻をくすぐりすぐに飲むと甘さが緩和されふうと息を吐き出す。

「僕のに入ってない!」
「ぼくのも!!」
「そう、残念ねぇ。今年も大人の誰かが王様ね」

 ケーキを食べきる前に中を探ったキャスとAJはあからさまにつまらなそうな顔を穴だらけになったケーキをちまちまと食べ始める。だが味は好きなのかすぐに男二人でわぁわぁと騒ぎ始め、時折母親に窘められ、サムに泣きついては母親以上に窘められている。これがウィルソン家の日常だと、慣れた目で見られることが嬉しく思う。
 サラやキャス、AJと実際に会うのは去年の就任パーティー以来だが時々サムを介して電話で喋っていたからか久しぶりという気もせず三人とも気兼ねなく話してくれるのもありがたい。
 そのままみんなであれこれと喋りながらケーキを食べ進めていけば残りはすでに三分の一になり食べ終えた甥っ子二人とサラの視線が俺たち二人に注がれる。

「さぁて、どっちが一年王様になるのかしら?」

 淹れ直したコーヒーを啜りながらサラはサムによく似た笑い方で俺たちに食べるように促す。なんだか注目されてると食べづらいもんだな。ちらりと横を見ればサムも同じ気持ちなのかほんの少し眉の下がった顔が視界に入る。
 顔を合わせれば俺にああだこうだと言ってくるキャプテン様も家族の前じゃこうだ。俺にもいつかサムにこんな顔をさせられるんだろうか。
 ざくり。と残りのケーキにフォークを入れ中を覗き込むと下に何か……

「これ、」

 明らかに色味の違うものをフォークで掻きだすと姿を現したのは肌色の赤ん坊の姿をした小さな人形。これか。

「今年はバッキーだ!」

 キャスが高らかに叫び、続いてAJもわぁー!と大きな声を上げてから手を叩く。そしてサラに目を向ければマグカップを掲げながらウインクを一つくれて、おめでとう。と言ってくれる。

「サム」

 隣のサムに顔を向けるとふっと柔らかく微笑んだ顔で俺を見つめていてうっかり人形を落としそうになる。そんな穏やかな顔は見たことがない、と思う。

「おめでとうバッキー。――来年の用意、頼むな」

 優し気に微笑んでいた顔から一転、口の端を片方上げてにやりと笑みを浮かべたサムは俺の右肩を力強く掴んで緩く揺する。なんだって?

「やだ、バッキー知らないの? それが当たった人は一年王様になるのと同時に来年のケーキを用意しなきゃいけないのよ」

 サラはさっきまでの和やかな雰囲気は何処へやら、カップを置くと空いた皿を次々と重ねていき、俺の皿に手を伸ばすと目線だけで渡すように促してくる。俺は慌てて残ったケーキを口に放り込み、食器を渡す。
 手の中の人形は軽やかだと思っていたのに途端にずしりと重く感じ、指先ではなく手のひらの中にしまい込む。俺が用意すんのか?このケーキ自体今日知ったっていうのに。

「ほら子どもたち、ママの手伝いをしてこい」

 まとめたフォークやカップを甥っ子二人に渡したサムはコーヒーを飲みながら未だ口の中のものを咀嚼する俺に視線を寄こす。待てまだ喋れん。

「騙したみたいで悪かったな?」

 そうは思ってない。首を振るとサムは喉を鳴らして笑いテーブルに頬杖をついたまままだ視線は外さない。数か月前の任務で頬に切り傷が出来たサムは絆創膏は外れたみたいだがまだ治りきらず僅かに痕になっていた。半分以下まで減っていたコーヒーで甘いものを全て流し込めばようやく口を開ける。

「用意ってどうすりゃいいんだ?」

 手のひらを開き、テーブルに人形を置くとバランスが取れないのか赤ん坊はことりとサムの方へ倒れる。それを見て人形を摘まみ上げたサムは親指と人差し指でころころと転がす。

「別にその辺の店で買ってきてもいいさ。……お前が作るってんならちょっとは教えてやらんでもないが」
「ねぇそれいいんじゃない? 久しぶりにおばあちゃんのレシピのが食べたいわ」

 テーブルを片付けてくれるサラにお礼を言うと当たらなかった人は片付け担当よ。と軽やかに教えてくれる。なるほど。俺は何もしてないなと自分の行動を振り返るとサムはお見通しなのかお前は用意したからいい、客人だし。と付け加えてくれる。

「ありがとう。それで、お前が一緒に作ってくれるのか?」
「やけに素直にお礼を言うと思ったらそれが目当てか?」
「おばあちゃんのレシピは時間がかかるから一緒に過ごす時間も長くなるわねー!」

 質問に質問で返すサムに曖昧に笑えばキッチンからサラが声を張り上げてくるので俺は手を上げて応える。彼女は俺のサムへの諸々はわかっているのだろうか。多分きっとそうだろうな。

「サム、来年のスケジュールは前日と、そうだな、その前の日から空けておいてくれよ」

 俺の提案にサムは目を細め訝しげな顔を隠そうともしない。お前だって気付いてるくせに。サムの手から人形を取り上げ、そのまま指先をごくわずかな力で掴んで引き寄せる。

「俺がレシピを理解するまでにも時間がかかるだろ? たっぷり教えてくれよ」

 耳元で囁けば表情を確認する間もなくガン!とつま先を踏みつけられ、ばっさりと生えた睫毛が揃うブラウンの瞳が睨んでくる。

「ここで、二度と、するな」

 立ち上がったサムは痛みに悶える俺の脳天にそうゆっくりと吐き出すと甥っ子を呼んで外へ飛び出していく音がして、俺は身を屈めてつま先を撫でサムが出ていったであろう玄関へ目を向ける。

「容赦ないな……
「あの子付き合った子は連れてこない質だからねー。ここで手出したらそりゃあヘソ曲げるよ」

 誰にも聞こえていないと思って呟いた言葉はサラに拾われ、淹れ直してくれたコーヒーを渡される。上体を戻し、サンクスと言いながら温かいコーヒーを口に運び自分の行動を振り返る。

「いや。サラ、俺は、」
「“ここ”では止めといいた方がいいわよ?」

 決してキスだとかそういうことをしたわけではないと弁解しようと思ったが強調された言い方にサムの言葉を思い出す。同じようにここというのを強調していた。ということは……

「来年まで待たずにいい報告が出来るかもしれない」
「気長に待ってるわ」

 俺たちがかつん。とマグカップを合わせたことなど知りもしないだろうサムはいまどんな気持ちなんだろうか。僅かに揺れていたあのブラウンの瞳を今度はもっと間近で見られるのだろうか。