永劫の花咲く郷里

MHRウ教とハ♀。
師弟であり家族愛寄り。

いつでも帰っておいで。



「だーーれだ!?」

元気いっぱいに鈴を転がしたような、碧天に広く澄み渡った、可愛い、愛しい声。

俺の心臓が、全身が、歓喜にぶるりと震えて、石のように硬直した。
この手の温もり、この声──気配を消していたようだけど、俺の目はごまかせない。

「んっ……ふっ、ふふふふふっ……! もう、キミって子はぁ!」

至福の温もりが俺の全身が包み込んで、撫でているようだ。

体が熱くて、むずむずする。
もう、我慢できない。

俺は俺の双眸に当てられた、すっかり成長した可愛い手もお構いなしに勢い良く振り返った。

その勢いに負けたように外れた両手の主は、不意に里中を吹き抜けた花吹雪の中──俺の目の前で悪戯っぽく、在りし日の頃のように、はにかんで笑っていた。

「あ……!」

声で確信していたものの、いざ目の前にすると、これは夢か幻かと感じてしまう。

だが、直前のキミの与えてくれた温もりが、そうではないとを告げてくれていた。

「──ああ……ッ!」

俺は思わず両手を広げ、笑顔のキミを優しく抱きしめる。

花吹雪にさらわれてしまわないように、夢でも幻でもないのだと自分自身の手でも確かに感じるために。

「──おかえり! 我が愛弟子よっ! カムラの里の『猛き炎』よ!! 無事で良かった……本当に良かったっ!! 」
「ウツシ教官! えへへ、お久しぶりです! 教官っ!」

我が『愛弟子』よ、『猛き炎』よ。

涙が出そうになる。キミを呼びキミと語らえる時間は、こんなにもかけがえのない、愛おしいものだったんだね。

頭では理解しているつもりだったのに、いざその時を迎えると、心は大きく揺さぶられた。

俺の腕の中で俺を見上げながら、花も陽も霞むほど、晴れやかな笑顔を浮かべて微笑むキミは──こんなにも、懐かしい。

「ウツシ教官! 文、読みましたよ! ありがとうございました!」
「俺の方こそ! 素敵な贈り物を、最高に美味しいチョコレートを本当に本当にありがとうっ! 」
「えへへ……良かった。頂いた文を読んだらあなたに会いたくなって、わたしが飛んで来ちゃいました」

キミの声が、キミの眼差しが、俺の心を震わせる。俺の世界を明光で満たし、鮮やかな極彩色に変えていく。

「愛弟子……! 愛弟子、本当に、本当に、久しぶりだね? 文を読んでくれて、それで会いに来てくれたなんて、俺……俺は……!」

──みっともない、感極まって言葉が出ない。

俺はキミを見つめたまま、頭が真っ白になって、どんどん目頭が熱くてなるのを感じていた。

キミが里に帰って来た時、どう迎えようか、どんな風にねぎらってどんな風に褒めようか、頭の中ではずっと考えていたはずなのに。

キミが、帰って来てくれた。久しぶりに、心から現実を歓迎した。キミの無事が本当に嬉しい、キミの存在そのものが愛おしい。

「──ウツシ、教官?」

黙ったままの俺を見つめたまま、キミは不思議そうに首をかしげる。

その仕草さえ懐かしくて、可愛くて、愛しくて、俺は自分の双眸から溢れ出そうな熱を隠すように、また、キミを抱きしめた。俺の腕の中で「わっ」と響いた驚声きょうせいも、懐かしい。

「──里に帰って来てくれてありがとう、愛弟子……! またキミの元気な顔が見られて、本当に……本当に嬉しいよ……!」
「ウツシ教官……! 大丈夫、でした? 教官は? ちゃんと元気でしたか?」
「もちろんっ! 里の平和を守るため! 俺はいつでも元気いっぱぁぁい!」
「ふふふっ……全くもう。良かった……ウツシ教官」

俺の腕の中でもぞもぞと動くキミの感触も懐かしくて、別の意味でとても擽ったくて。

「教官! わたし、またウツシ教官と一緒に狩りに行きたいです!」

俺の顔を見上げながら、キミはきらきらと瞳を輝かせていた。数多あまたの修羅場を切り抜けてきた強者ツワモノの光を帯びたその瞳で、本当に、隅々まで、俺の文を読んでくれたのだろうと思うと、ますます胸が、目頭が、炎の如く熱くなる。

俺はキミを見つめて、しっかりと頷いた。

「もちろんだよ、愛弟子っ! 俺と一緒に、また狩りに行こうね!!」
「あとあと、うさ団子も! わたし、今日まだお昼食べてないので、教官さえ良ければ今からヨモギちゃんの茶屋で一緒に、どうですか?」
「いいの?! やったあ! じゃあ──夜は一緒に、オテマエさんの茶屋でどう? 最近、夜用に新しく定食メニューも増えたんだよ!」
「そうなんですか!? 最高です! 行きましょ行きましょ!」

するりと、俺の腕の中から離れたキミは、楽しげに「早く早く!」と、俺に笑いかけて──軽やかに翔蟲を放ち、この集会所の屋根上から桜と共に空を舞う。

穏やかな春陽しゅんようと重なったキミの姿は、しなやかに凛と、そして閃々せんせんとして、まるで里の全てを照らしているかのようで。

いつの間にか、忘れてしまっていた。キミがいる里は、これほどまでに美しいのだと。

そして、キミ自身も、こんなにも──

「ウツシ教官ー! 早く早くーー! 狩りの基本は、食事と睡眠ですよーー!」

既に大地に降り立ったキミは、大きく手を振って、大声を上げている。
食事と睡眠のことも、腹からしっかり声を出そうねと教えたことも次々と、怒涛のように思い出されてまた目頭が熱くなってしまい、とうとう、視界が滲んだ。

「今行くよ、愛弟子!」

揺れる景色の中、キミに満面に微笑んで、俺も同じように翔蟲を放つ。

訪れた途端に「ひっさしぶりー!おかえりー!!」と叫んでくれたヨモギちゃんの茶屋で、いつかと同じように、キミと俺は隣に座ってうさ団子に舌鼓したつづみを打つ。

ヨモギちゃんの声、そして俺と愛弟子の声も聞きつけて、ヒノエさんとミノトさん、カゲロウさん、そして里長、ハモンさん、ゴコクさま──イオリくんやコガラシさん、コミツちゃんやセイハクくん……気付けば昼はあきないに精を出している里の家族たちはみんな、茶屋に集っていた。

キミは俺の隣で「おかえりなさい!」と迎える里の家族たちに「ただいま!」と応えながら、こっそりと俺の耳元に顔を寄せる。

「ね、ウツシ教官」
「うん? どうしたの?」
「わたし、やっぱり」
「やっぱり、何だい?」

ふくふくとお鼻もお口も震わせて、キミはとてもあどけなく、幸せいっぱいに笑ってくれた。

「わたし──やっぱり、カムラの里が大好きです。あなたが、みんながいる、この里が!」

確信を瞳に宿して迷いなく俺にそう言ったキミは、手に持っていたうさ団子をまた元気に頬張った。

小動物のように頬を膨らませ、どこか懐かしそうにもぐもぐとうさ団子を味わう、キミの横顔。ずっとずっと見守ってきた、これからも見守り続けたい、大切な人の横顔。

俺はあえて黙ったまま手を伸ばし、優しく、ゆっくりと、キミの頭を撫でた。

反射的に俺の方に顔を向け、驚いたように小さく目を見開いたキミだった、すぐにとろりと目尻を蕩けさせる。
里の家族たちの賑やかな声に囲まれながら嬉しそうに、とても無防備に、俺に撫でられ続けてくれた。

この里も、俺も、俺たちも──ずっとずっと、ずぅっと、キミのことが大好きだよ、愛弟子。

心配しないで、いつでも帰っておいで。

この里の永劫の平穏は、かけがえのない安寧は、キミが因縁の災厄を祓い、もたらしたものでもあるのだから。

キミはいつまでも、いついつまでも、この里の──俺の誇りだよ、愛弟子。



@acadine