永劫の花咲く郷里

MHRウ教とハ♀。
師弟であり家族愛寄り。

いつでも帰っておいで。


 数晩前、便箋に筆を走らせる手は、俺自身も驚くほどに止まらなかった。書けば書くほど胸は高鳴り、願わくば一日も早く会いたいと──キミへの恋しさが募って。

「そろそろ、ふみが届いた頃かなあ……

手に持った粒状のチョコレートを、腰に着けた革鞄かばんの中から1粒取り出して、口元を覆う鎖帷子くさりかたびらを下ろし、ぱくんと頬張る。

たちまち甘く蕩けるこの味は、愛弟子、キミからの想いがいっぱいに込められた極上の味。武者修行に旅立って行った、大切なキミからの贈り物。

郵便屋さんを勤めるアイルー、センリさんがキミからの贈り物を持って俺の元に来てくれた時の、筆舌に尽くし難い喜びを、俺は生涯忘れないだろう。

「ちゃんと──元気かなあ、愛弟子」

いつもと同じ場所、カムラの里の集会所の屋根の上。

そこから見慣れた船着き場を、果てなく広がる風光明媚な山海の景色を見つめながら、想いを募らせる。

──修行時代からずっと伝え続けているけれど、ちゃんとご飯を食べてるかい? ちゃんとよく眠れているかい?

共にカムラを襲った最後の災厄を鎮めた『あの時』も伝えたし、文にも書いたばかりだが、キミは俺の誇りだよ、愛弟子。

どこにいたとしても里と王国の英雄『猛き炎』の名にふさわしい活躍を見せているのだろうと、確信している。

けれど、そのたびに現実を思い出し、恋しさに胸が切なく締めつけられる。

(──愛弟子……わがままは承知だけれど、やっぱり俺は、キミに……)

口の中のチョコレートはすっかり溶けて、もう甘みは感じられなくて。

(キミに……会いたい。会いたいよ、愛弟子。キミの元気な顔が見たい……! そしてもしも叶うなら、また、キミと一緒に……)

昨日のことのように思い出せる、キミと
の日々。里で、王国で、狩場で──俺はキミの成長を見守り続けてきた。

そしてキミは、更なる成長を求めて里を出て、新天地へ向かった。

あの日の背中を思い出すと、違う意味でまた胸が締めつけられて、目頭が熱くなりそうになる。

どんなに遠くに行っても、俺はキミに何かあったなら、どこまでだって飛んで行く。

ああ、これも文に書いたっけね。

俺はキミの帰る場所であるこの里を、そしてキミを、キミの心を、必ず守り抜くと誓った。

これは、キミがこの里で産声うぶごえを上げてくれた時からの不変の誓い。

俺は今日もこの場所で、片時も忘れたことのないキミを、想い続けている。

……ああ……文に、ほとんど書いちゃったんだな……

思わずぽつりと碧天へきてんの虚空に呟いた俺は、露わになったままの口元に思わず笑みを浮かべてしまった。

最愛のキミへの超大作の文に何を書いたのか、自分でも驚くほど細かく思い出せる。

あれを読んだキミは、どんな顔をしてくれるだろう──想像すると、切なく痛んで胸が、和やかにくすぐったくなる。

「はあ……。愛弟子……顔、見たいな……

いつの間にか、俺の中は溢れんばかりのキミへの想いでいっぱいになっていた。胸はぽかぽかと温かいのに、不思議なほど苦しくもあって、俺は思わず鎖帷子を口元に戻して唇を噛みしめた。

視界の中の、見慣れた里の景色。この中にキミが来てくれないものかと、淡すぎる願いが揺蕩たゆたう。

……はあー……

深く、深く、鎖帷子の中に息を吐き出した。

その直後、俺の後ろで、微かに、空気が揺れる。

……ん?」

あからさまに『気配を消している気配』がして、俺が振り返ろうとした刹那──また、風が揺れた。

俺の双眸そうぼうに、手の形をした柔らかな感触が押し当てられ、視界が真っ暗になって──今や、とても懐かしい匂いが鼻をくすぐった。

@acadine