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tonami
2026-02-27 01:24:35
7354文字
Public
世にロゾ
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夏の果て
世にロゾ参加作品⑥。現パロ。
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「じゃあゾロ、おれ達帰っからな。一応病み上がりなんだからおとなしくしてろよ」
「わざわざ悪ィな」
「昼飯の残り冷蔵庫に入れてあっから、夜にでもトラ男と食えよ」
「ん、ありがとう」
玄関先で旧友二人を見送って、ゾロは自宅の中に戻る。一週間不在にしていたが特に室内は変わりなかった。若干潔癖の気がある男によって部屋の清潔さは保たれている。強いて言うなら冷蔵庫の中がローが愛飲している水くらいしか入っていなかった。だからサンジはあえて余るように作ってくれたのだろう。ローは一人でいると基本的に食事を面倒くさがる。良くて外食、下手すると食事そのものを抜いてしまう。ストレス発散なのか突然スイッチが入ったように手間のかかるものを作り始めたりするくせに、普段の食事はどうも億劫なようだった。ゾロと暮らし始めてからはそんなこともなく、むしろよく食べるようになったので単純に食べるまでの準備が面倒なのだろうな、と思っている。
片づけ、と言ってもローが毎日持ち帰ってくれていたのでゾロがやることはほとんどなかった。ざっと家の中を見て回り、異常がないことを確認する。結界に揺らぎはない。フローリングに小さな海を作る風鈴にも欠けひとつない。眠っていた間にローはまた妙なものにまとわりつかれていたが、ここに影響がなければ問題はない。たとえここを突破されても、自分達の領域への侵入者を妖刀二振りが許すはずがない。
「三代鬼徹、変わりはなかったか」
赤い鞘に指を添える。三代鬼徹は思いの外落ち着いていた。過保護のきらいがある妖刀は、出会った当初はむしろ放任のほうが強かった。鬼徹がなにかとゾロの周囲を警戒するようになったのは幼い頃に攫われかけてからだ。あれ以来、ゾロに近寄るものには有機物無機物問わず必ず三代鬼徹のチェックが入る。だから一昨年、迷っていたローをわざわざ助けにいったことに驚いたのだけれど。それからの対応を見るに何が琴線に引っかかったのかわからないが、三代鬼徹はわりあいローのことを気に入っているようだった。
次いで、白い十字が描かれた鞘に触れる。今回は大太刀に助けられてばかりだった。下緒に指を絡めれば、大太刀から柔らかな気配が伝わった。
「ありがとうな、鬼哭。いろいろと助かった」
向日葵畑から暗闇に落とされた時、最終的に異空間から救出してくれたのはローと似た男の姿をした鬼哭だった。けれど、それまでに出口へ案内してくれていた存在は別にいる。背の高い向日葵の傍にいたもの。一見ぬいぐるみに見える小さなライオンからは、光の気配がした。あれと同じ存在を、ゾロは恐らく知っている。
「ルフィとはまた違うんだよなァ
……
」
学生時代からの相棒は怪異をいっさい寄せない性質だった。兄二人もあの手の存在を弾くけれど、ルフィはさらに強い。少なくとも彼の近くに怪異なんてものが存在しているところを見たことがなかった。絶えず燃え続けて光を降り注いでいる太陽そのもの。引き寄せやすいローとは真逆で、足して二で割ったらちょうど良いのかもしれない。これから先もゾロが傍にいるので必要ないのだけれど。
かたりと自分も構えと言わんばかりに鬼徹が震えた。そちらに手を伸ばしながら、十年以上前の記憶を掘り起こした。
確か五つかそこらの話だ。三代鬼徹を受け継いで、ニ年ほど経った頃。シモツキ村にある大きな桜の樹にゾロは隠されそうになった。正確には、一度隠されている。まだ対処の仕方もろくにわからない子供だったゾロを異空間から救ってくれたのは三代鬼徹だが、必要以上に怖がらないように傍にいてくれたのは、確か羊だった。本物の動物ではなく、今回と同じようにぬいぐるみを模した存在だ。白くて、ふわふわ毛玉みたいで、まだ子供だったゾロより少しだけ背が高かった。ぬいぐるみ集めを趣味にしている従姉の好みとは少し違う、可愛らしい外見の羊。
あの羊からも光の気配がしていた。太陽みたいにぎらぎらしていない、陽だまりのような柔らかい光。どこか懐かしくて、一緒にいると心が休まる第二の家のような存在。
──遠くで、波の音が聞こえる。息を吸い込むと潮の匂いが鼻腔を満たす。遮るもののない陽光、いくつもの賑やかな声、木と芝生の匂い。それから、──それから、深い海の、
「────っ」
ガタンと大きな音に我に返った。いつの間にか思考を深いところに沈めてしまっていたらしい。音のほうを振り返ると行儀良く掛台に収まっていたはずの鬼哭が床に転がっていた。
「鬼哭? 急にどうしたんだ」
三代鬼徹を一旦置いて大太刀を手に取る。長さ相応の重さは持つだけならともかく振り回すにはずいぶん苦労した。持ち主であるローはこれを軽々と扱うのだから、筋肉で重いゾロを抱き上げる時といい、あの不摂生な体のどこにそんな力があるのか常々不思議だ。
鬼哭はゾロの膝に乗せられるなり、不満気な気配を撒き散らした。さきほどまでは普通にしていたと思うのだけれど、この数分の間に何が気に入らないのか機嫌を損ねてしまったようだ。
「
……
なんで機嫌が悪いのかわからねェが、今度の手入れはおれがするから許してくれねェか」
入院前に研ぎ出していたのと、今回の件での礼はローがすでに手入れという形で果たしている。そもそも向日葵畑はともかく、病院での件で怒り心頭に発していたようなのでローが宥めるのに時間がかかったと言っていた。そのくらい、鬼哭にとってあの地下でのことは度し難い出来事だった。
本来ならゾロも礼として手入れか刀を振るってやりたいが、手入れは昨夜ローが行ったばかりだ。かといって振るう機会もそうそうない。あっては困る。だから次の手入れでという提案をすると、鬼哭はあっさりと機嫌を直した。むしろ損ねる前よりも上向いている。回復したのならなによりだけれど、いったい何がお気に召さなかったのかはわからないまま。
首を傾げるゾロに反してご機嫌の鬼哭に、三代鬼徹が呆れたようにため息をついた気がした。
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