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保科
2026-02-23 13:05:51
3660文字
Public
超かぐや姫!
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あの日から予約済み
折半なら一緒に暮らしてくれる人/彩葉とヤチヨ 7年後くらい
コラボライブの終わりのかぐやのプロポーズ、あれプロポーズだったよな……とずっと考えていて、ずっと考えた
「
――
だぁから、そういうのはもう当てっていうか
……
ちゃんといるから!そのうち!それだけ!よろしく!」
勢いのままに端末の通話終了を押して。私は虚空に向けて息を切らせたまま、そのままずるずると背もたれに深く体重を預ける
――
押し寄せる倦怠感にため息をついた。やっぱあの人、嫌いじゃないけど面倒だ。
『
……
おぉーい、どうかしたの?彩葉。おっきな声が聞こえたけど、何かありましたかな〜?』
音声を聞きつけたのか、彼女用に備えているディスプレイに、ぬるっとヤチヨがやって来る。陽気な声色に反して気遣う眼差しに、疲労困憊な頭で一度は適当にごまかそうか考えて。
……
まあ、ヤチヨならいいか、と頭をかく。
「あー
……
今、お母さんとの電話だったんだけど。良い人いないのか〜って。ちょっと面倒だったから、つい
……
って感じ?」
『
……………
。いい、ひと』
うわ言みたいなヤチヨの声はそれ以上続かず、会話が途切れたことで沈黙が下りる。ニュートラルなヤチヨのフェイスにじわじわと滲む困惑を見てとって、そんなに難解なことを口にした心当たりのない私は、おずおずと補足を口にする。
「所謂、結婚相手みたいなヤツのことだけど
……
」
『
…………………………
けっこん』
だから難しいことはこれっぽっちも言ってないのだけど、この説明も難解だったのだろうか、ヤチヨは旧時代の合成音声みたいな電子超えで単語をリピートする。明らかに様子がおかしいのはどういうことか。え、急な不具合?嘘でしょ今?
どうしたの、とヒアリングモードでモニタに思わず手を伸ばしかけて、『あ、ああ!そうだよね!』と突然大声を出すヤチヨに、たまらず動きを止める。
『彩葉だってもう、大学を出て院にいる立派なオトナだもんね!彼氏の一人や二人や三人いないと不自然ってもんだ!
いやあヤチヨさんてば盲点盲点、人間が大きくなるのは早いねえ!』
「いや、二人や三人いるのは倫理的に絶対アウトだけど
……
ま、そういうこと。お母さんも気が早いと思うんだけど」
たはは〜、と笑うヤチヨは一先ず何時も通りに見えたので、椅子に腰掛け直す。放任主義に思っていたのも今は昔、改めて交流を持ってからは少々過干渉にも感じるお母さんの思いやりにはさしもに辟易する。とはいえ、昔みたいに強く突っぱねることはできないのだから困りものだ。
ため息交じりに啜った珈琲はちょっと酸味が強めで、ブレンドを間違えたかも。この前買った豆は後輩の誰に購入を頼んだんだったか。
『
……
え〜っと。因みに、だけど。因みにだけどね?
……
彩葉、って、お相手の候補とか、い
……
らっしゃらない、よね?』
「まあ、もうプロポーズされてるしね
……
」
『
―――
』
ぴしり。聞こえるはずのない、石にヒビがはいるような編集用SEが聞こえた気がして、私は散漫になってた意識を改めてヤチヨに向ける。
「
……
ん?どうかした?」
『ど、
…………
、
………………
』
視線の先。金魚みたいに口をパクパクさせるヤチヨは、心底驚いているのか目をかっぴらいていて、その顔がかつてないほどかぐやっぽいので正直驚いた。私ににべなく断られたときのかぐや。そう思わせる位に尋常じゃない彼女は珍しくて、今度こそ動揺から立ち上がる。
「ヤチヨ?ちょっ、どした?私なんか変なこと言った?」
『
………
プロポーズしてきた、婚約者が、いるの?
わたしに、内緒の?』
「は?内緒
……
?」
『
―――
彩葉、』
よすがを失ったような、泣きそうな声で私の名前を口にして。こちらの呼びかけについぞ答えず、ヤチヨはそのままモニタの明かりをパツンと消した。
モニタに程なく浮かぶNO SIGNALのテキストは、向こうとの接続が切られた証拠だ。ぎゅう、と心臓が締め付けられる恐怖の奥に、月へと旅立つかぐやの風景がフラッシュバックする。
「っ、」
のは、一瞬だ。
――
思考を回してコンマ1秒、何がどうしてそうなったのかをおおよそ理解したため、今すべきことの回答を即座に導き出した。即ち、乱雑なデスクに転がるスマコンの装着である。
「
……
いた」
「
…………
」
アバターにくっついたキツネ尻尾を揺らしながら、一先ず安堵の息を吐く。幸いにして、ヤチヨはどこか遠く
――
よもやの月などに行ってはいなかった。それは本当に良かった。本当にね。
彼女が創り出したいつもの安アパートの一室。その押し入れの中で、2メートル位あるひしゃげたエビのぬいぐるみを抱きしめたヤチヨが、盛大にグスグス泣いていた。
捜索にあたり、まるで手間がかからなかったのは彼女なりの優しさなのか、それほどに余裕がなかったのか。ツクヨミ内の心当たりその一でのヒットあった
――
ただ、ここからはちょっと面倒かもしれないけども。
出入り口を防ぐようにしゃがみ込む。そうしてヤチヨが逃げそうにないことを確かめて、つい、口から皮肉めいた言葉が出る。
「
……
ヤチヨ、急にいなくなられるとびっくりするから、やめて。
悪いけど結構なトラウマだからね」
「
…………………………
、
……
ごめんなさい」
明らか不服そうだけれど、管理者的に正論には弱いのかも。どんな態度であれ、ぼそぼそとでも謝ってくれるなら、まだ対話の余地がありそうだ。
「ごめん、すぐ、大丈夫になるから」
「大丈夫って、何が」
「い
……
彩葉が、だれと、結婚しても、大丈夫、ヤチヨは
……
大丈夫に、なるから
……
」
「
………
」
訳のわからんことを言いながら、すん、と鼻をすする顔はエビに遮られて全く見えない。いや邪魔だなこれ。視界の八割がエビだよ。
「あのさ、多分、というか、絶対勘違いしてるから。
……
取り敢えずこれどかさない?デカいよサイズが。何で再現したかな」
とん、とぬいぐるみをつつくものの、ヤチヨは何も口にしない。
「
………
」
「
………
ね、私、ヤチヨの顔、見たいな」
これに彼女がめっぽう弱いと知りながら、躊躇いなく口にする私は大概ひどい奴だ。
ふる、と肩を震わせたヤチヨは、程なくエビをこちらにつきだしたので、受けとるとそのまま適当に遠くに転がした。そうして、涙でベチョベチョの顔が現れるのに、それが長くツクヨミを席巻する歌姫の顔とは思えず、つい吹き出した。
「
………
あは、酷い顔」
「笑うなん、て、ひ
……
どい」
「違う、違う。かわいいって意味だよ」
ヤチヨの
――
かぐやのせいで、随分軽薄な女になってしまったような気がして、自分で口にしたセリフに思わず顔が赤らんだけど、そういうわけで、まあ、責任は私にはない。
何かひっかかったのか、ふぐ、と息が詰まったらしい変な声の彼女に、あのさ、と切り出す。答え合わせというか、事実の提示というか。
「私にプロポーズしたの、かぐやだよ」
「、
………
ぇ?」
「ほら、コラボライブの終わり。
……
覚えてない?
あ、もしかして、適当な冗談だった?」
「え
……
あ」
投げ出されていた手をゆるく握る。『かぐや』としては数千年を超える遠い過去の出来事でも、『ヤチヨ』としてはまだまだ
――
数年と最近のことだろう。記憶を辿るのは容易かったのか、涙で潤むヤチヨの目が丸くなる。多少不安になって確認する私に、食い気味にちがう、と返事が来る。
「
――
覚えてる。覚えてるし、
……
全然、冗談なんかじゃ、ないよ。ない。
『かぐや』から言いたくて、言い出して、でも、あれは、
……
あの時の彩葉は、一緒に住むなら、って
……
」
「うん。だから、『結婚するか』については、まだ返事、してないでしょ」
「
――
それは、」
そうだけど、と口にするヤチヨの声が、信じられないとばかりに掠れる。なんでそんな予想外みたいな反応になるんだか、私としては逆に不思議なくらいだ。
……
アピール足りてないかな、こちとら徹頭徹尾あんたと生きることに人生捧げてんのに。
「
……
口滑らせた私が悪いんだけど。今、返事したってできること無いし、
……
私も余裕ないし。
ちゃんと素体用意できたら、パンケーキ食べるときにでも話しようと思ってたの」
「
………
、
……
」
握った手のひらがひくりと震える。私の言葉が予想外で驚いたのか、でもそんなこともないだろう。
「というか、そもそもさ。
寝ても覚めても四六時中365日、あんたのことだけしか考えてない女に、恋人を作る余裕がないなんて、ヤチヨこそ一番よく知ってるでしょうが」
――
だから、なんでそんな動揺するのかな、と。耳まで赤くしながら言い聞かせるように口にすれば、ああ〜
……
と、うわずった声のヤチヨが諦めたように笑った。
「
……
はは、いやあ、それはまあ。
……
返す言葉も、ないですな〜
……
ごめんねぇ
……
」
「謝らなくていいから、責任取って」
「
…………
うん」
ヤチヨは、8000年越しのお返事だぁ、と、またポロポロ泣き出すので。こんな筈じゃなかった私は、慰めるようにその背に手を回しながら、結局まだ「Yes or No」の返事はできてないことに遅ればせながら気づく。
……
今から改めてってちょっと気まずくない?
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