オレの敬一くんはね、本当に可愛くて、そしてすごく臆病で愚かで、でもオレを魅せてくれる存在なんだ。彼という人間を構成するあらゆる要素が、オレにとっては奇跡の結晶みたいに見えるんだ。だってそうだ、まずはオレという人間に認識されないといけない。でも敬一くんはいつだってオレを魅せてくれる存在だった。初めて恋に落ちたと思えたよ。これが、そうなんだって思ったときにはオレだって有頂天にものぼりたくなったさ。
うーん例えばそうだな、まずはあの指先から話そうか。投資家なんていう、常に数字と向き合って冷徹な判断を繰り返さなきゃいけない職業柄なのかもしれないけれど、彼の指はいつだって清潔で、爪の先まで一枚の曇りもなく綺麗に整えられているんだよ。でもね、そんな理知的な指先が、キッチンに立つ時だけは、驚くほど手際よく、そして繊細な動きで家庭的な料理を紡ぎ出していくんだ。あんなに大きな金額を動かして世界を相手にしている男が、たった一振りの塩の加減に眉をひそめて、「少し味が濃かったかな」なんて言いながら、不安そうにオレの顔色を窺う姿なんて、独占欲が跳ね上がってどうにかなりそうになると思わない? 二人で食卓を囲んでいる時、オレが一口食べて「美味い」って笑いかけるたびに、彼は安心したように、それでいて耳の付け根をほんのり赤く染めて視線を逸らすんだ。あれがもし計算でやっていることなら、彼は稀代の詐欺師か天才的な役者だと思うけれど、敬一くんの場合はそれが全部、無自覚な天然なんだから、本当に手に負えないよね。
デートの時だってそうだよ。普段はあんなに隙のない、体に馴染んだ上質なスーツを完璧に着こなしているのに、オフの日にオレが選んであげたカジュアルな服を着せると、まるで借りてきた猫みたいにどこか落ち着かない様子でそわそわしちゃうんだ。人混みの中で逸れないようにって、オレが「ほら」って手を差し出すと、彼は一瞬だけ戸惑ったような顔をしてから、オレの服の裾を控えめに、でも離さないようにぎゅっと掴んでくるんだよ。その時の、少しだけうつむき加減で歩く彼の頭頂部とか、ふとした瞬間にウィンドウのディスプレイを眺めて、子供みたいに純粋に目を輝かせている横顔とか、もうそのすべてがオレだけの宝物なんだ。彼が投資の仕事で見せるあの鋭い眼光を知っている人間が今の彼を見たら、きっと腰を抜かすんじゃないかな。
それに、敬一くんの何が素晴らしいかって、その心の在り方なんだよ。彼はオレに対して、いつだって真っ直ぐで、そして残酷なまでに献身的だ。オレがどんなに我儘を言っても、どんなに彼を困らせるような真似をしても、最後には必ず「……叶がそう言うなら」って、困ったように笑って許してくれるんだ。その優しさに甘えて、オレがもっと彼を自分色に染め上げたいと願うのは、きっと愛ゆえの必然だと思わないか?
夜? ああ、それはもう、言葉にするのも勿体ないくらいに極上だよ。ベッドの上での敬一くんは、昼間のあの理知的でちょっと乱暴な振る舞いが全部嘘だったみたいに、熱に浮かされて蕩けてしまうんだ。オレの腕の中で、普段の彼からは想像もつかないような甘い声を漏らして、オレのことを、何度も、何度も、まるで見捨てられるのを恐れる子供みたいに縋るように呼んでくれるんだよ。あの時の、潤んだ瞳でオレを見つめてくる表情や、シーツを握りしめる白い指、そして吐息に混じる艶っぽい呻き。オレにしか見せない、あのあまりにも無防備で、あまりにも淫らな姿を知っているのは、世界中でオレ一人だけだって、そう確信できる瞬間が、オレにとっては何よりも甘美な報酬なんだ。想像もつかないだろうけど、彼は本当に、オレに愛されるためだけに生まれてきたんじゃないかって思っちゃうよね。事実そうなんだろうけどさ。
……ねえ、どうしてそんなに黙り込んでいるの? オレがこんなに熱心に、彼がいかに愛らしく、いかに素晴らしい存在かってことを話してあげているんだから、もっと楽しそうに相槌を打ってくれてもいいんじゃないかな。アンタも、彼の魅力には抗えないだろう? だからこそ、あんなに熱心に、彼のことを見ていたんだもんね。
ああ、ごめん。アンタにはもう、声を出したり表情を作ったりする余裕なんて、残っていなかったんだっけ。そんなにガタガタと震えなくても大丈夫だよ、オレはまだ、アンタに何もしてないんだから。ただ、アンタが隠し持っていたあの膨大な量の写真や、部屋の隅に仕掛けられていたあの小さな機械の数々……あれを見つけた時、オレは少しだけ感心しちゃったんだ。アンタも、オレが知らない場所で、オレが知らない角度から、ずっと敬一くんのことを熱心に追いかけていたんだね。オレの大事な敬一くんを、オレ以外の視点から解釈しようとしていたその情熱だけは、認めてあげてもいいかなって思っているんだ。
でもね、それを見ていたのがオレだけだと思ったら大間違いだよ。アンタがレンズ越しに彼を追い回していた一週間、アンタがどんな顔をして、どんな息遣いで彼を「観ていた」のか……。
「それじゃあさ、お前が観てた敬一くんの一週間の話をしてくれよ」
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