バラ肉
2026-02-18 13:39:13
7887文字
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雪解けの予感 🧊☕️

地球に物資調達に来るヘイルマンは、ティーカップマンの家にまず寄るのが恒例になっており・・・

片思いからの両想いという突発的な展開です。
童話「雪iのi女i王」ネタががっつり含まれています。知らない人はすみません~。

勝手知ったるティーカップマンのアパートに訪れたヘイルマンは、部屋に着くなり早々にソファへと座り込んだ。

「あー、疲れた」

吐き出すように呟くと、その長い足を雑に投げ出す。手の中のカバンが床につくのもお構いなし。力無くグデっと背もたれに体を預ける姿は、来客者にしては些か横柄な態度であった。
そんな、来て早々にだらしなく寛ぐヘイルマンに対し、家主であるティーカップマンはぎゅっと眉間の皺を深くした。
礼儀作法には人一倍厳しい彼のこと。きっと突っ込みたい箇所は多々あるのだろう。今にも口から出そうになる文句を──しかし、グッと喉奥へと引っ込めた。
どうして目の前の男がこのようにだらしない真似をするのか。その理由は見当がついている。

「今回も、また宇宙船なしで渡って来たのか?」
……ん? ああ、まあなー」

念のため確認すると、煩わしそうな声が肯定を返した。

「つーか、そもそもうちに宇宙船がないことは知ってるだろーよ」

目を細めて睨む表情は最初から察しろと言わんばかりだ。いちいち聞くな。不満が冷気となって部屋の温度を下げる。それを間近で受けたティーカップマンは、思わず長袖の下の肌をブルッと震わせた。
否、震えたのは寒さのせいだけではない。

文字通り、己が身一つでやって来た。

その事実に、同じ戦士として鳥肌が立つ。

(──もし同じことをしろと言われて、地球の超人の中で、一体どれだけの奴ができるだろうか)

遥か遠くの星を目指して、単身で宇宙を駆ける。絵空事でも考えつかない光景は、想像しただけで軽く眩暈を覚えた。
だからこそ、そんな自分達には到底できない手段で宇宙(そら)を渡って来た相手を無下にすることは出来なくて――小言の代わりに小さく溜息を吐くと、ティーカップマンはすぐそばのローテーブルの上に置いていたアンティークの丸皿を持ち上げた。
繊細な花模様が施された面に並ぶのは、綺麗な円を描くクッキーだ。

「全く……毎度毎度、そんなになるくせによく来るな。……ほら、疲れたならこれでもどうだ?」

言いながら皿を差し出す。すると、ふわりと甘い香りが空気に漂った。

「っ!!」

途端、だらりと背凭れに沈んでいたヘイルマンの体がピクッと跳ねる。何を見るでもなかった視線が、目の前の茶菓子へ焦点を定める。その様子は、餌を前にした気まぐれな猫のようで。

……べ、別にこれくらい朝飯前だっつーの。今回はたまたま、ちょっと、ほんの少しだけ……疲れただけで、わざわざそんな、テメーに労われるようなもんじゃ……

ゴニョゴニョ悪態を吐きつつも、金色の目は分かりやすく輝いていた。
今すぐにでも食べたい。けれどそれでは自分が焼き菓子一つで機嫌を直す奴だと言っているようなものだ。クッキーとティーカップマンの顔の間を彷徨う視線は、プライドと欲望で葛藤しているのがよくわかった。
「プッ……
ティーカップマンは込み上げる笑いをこらえるのに必死だった。
オメガの民が――とりわけ、このヘイルマンという男が、甘いものに目がないのはもうとっくに把握済みなのだ。同時に、素直に好意を受け取れないことも。
つまりこれは、紳士な男なりの粗暴な男へのささやかな意趣返しというわけで。

「なら、要らないか?」
「はあ!? そうは言ってねえだろ!」

悪戯に皿を遠ざければ、慌てた声が飛ぶ。

「ぐぬぅ……。わーったよ! ったく、仕方ねーな。もらってやるよ」

渋々と言ったていで降参を告げるヘイルマンは、これでいいだろうと3対の目を細めた。
そしてティーカップマンが何か言う前に手を伸ばす。

「あっ」

上背の高さを利用し、ヒョイっとクッキーを一枚摘むとそのまま口へと放り込む。鋭利な歯が、薄さの割にやや硬めな生地を豪快に噛み砕く。

バリッ、バリバリッ……ゴクンッ。
味わうようにゆっくり飲み込んだ後。彼は少しばかり頭を傾げてティーカップマンに視線をやった。

……おい、これ、いつもの店のだろ? 初めて食う味だが、新作か?」

言いながら、顎を撫でる。
先程までの意地を張った態度とは一転、その瞳は好奇心に煌めいていた。
やはり、美味いものには目がない男だ。
案の定の反応にティーカップマンは自分の顔が緩むのを感じた。しかも、クッキーがティーカップマンがよく買う店の物だと当てたことが、妙にくすぐったい。

「ああ、なんでも今月出したばかりの品らしい。店員からオススメされた」
「ふーん、オレの好きな硬いサクッとしたのがいっぱい入ってて美味えじゃん」
「硬くてサクッ……? って、ああ、胡桃のことか。なんだ、ナッツ系は嫌いじゃなかったか?」
「そうそう、くるみってやつ。これは歯触りが良いから好きなんだよ。他のはオレの歯には合わねえ」

言いながら、剥き出しの歯を指差す。
確かにこの隙間にナッツが詰まったら、さぞ嫌な気分になるだろう。想像した光景に思わず吹き出しそうになる。しかし今ここで素直に笑ったら、何を言われるかわからない。

「コホンッ……! まあ、そういうものか」

必死に咳のふりをして誤魔化せば、その隙に伸びてきた手がもう一枚クッキーを攫った。

「そーいうもんなの。……しっかし、ホントに美味いな。気に入った。自分用に買うから、あとで店に連れてけ」

しみじみ呟くと、今度は丸ごと放り込まずに、端の方からゆっくり齧る。口内に広がる甘さと食感はどうやら見事に彼の好みと合致したらしい。普段の粗暴さからは想像できない丁寧な食べ方はその証拠だろう。



気付けばあっという間に空になった皿に、ティーカップマンは満足げな溜息を吐いた。

「口に合ったなら何よりだ。店に行ったら礼を言えよ」
「もちろん! なんだったらオレのブロマイドでも贈ってやろうか?」
「はあ!? ブロマイドって……おい、そんなの誰が欲しがるんだ……?」
「え? オメガの民は大概欲しがるぜ?」

返ってきた答えにティーカップマンは目を丸くした。
全く悪びれないところを見るに、きっと発言に嘘はない。実際オメガの星では需要があるのだろう。確かに、あの氷上での煌びやかな戦いぶりは外野からのウケは良い筈だ。自分が作ったリングをヘイルマンワールドと称するのも、そう考えれば頷ける。
ましてやこの男は見た目も性格も、独特の魅力がある。一度ファンになったらそれこそ沼にはまりそうだ。

「しかも、結構高レートでやりとりされてるって聞いたこともあるし……先行投資とかにならねえか?」

それは彼自身、自覚済みなのだろう。でなければ到底できない提案だ。
──とはいえ、地球でその自信を持つのは些か腑に落ちなかった。

……時期尚早だな。もう少し地球での好感度を上げてからにしろ」
「ああ? なんだよ、結構良い案だと思ったのに」

納得がいっていないのか、小さな舌打ちが聞こえる。

「なら、試しにお前へ一枚やろうか? アリステラからの評判もいいんだぜ?」
…………結構だ!」

プライドからか。しつこく話を引っ張ろうとする相手に、ティーカップマンは少し語気を強めると、そのまま背中を向けた。

「まったく……。おい、オレは皿を下げてくるついでに頼まれてた茶葉をまとめてくるから……大人しく待ってろよ」
「へーへー」

当たり障りのない理由で退室を告げれば、鋭く尖った氷の手がヒラヒラ揺れた。腹が張って満足したのか。改めてソファに埋もれる姿はすっかり気が抜けていた。このまま放っておけば今にも一眠りしそうな雰囲気だ。

(他人の家だというのに、いい気なもんだ)

ドアノブを掴むフリをして、ソッと視線を送った拍子に、カップの中の紅茶が小さく揺れた。


***

キッチンに向かったティーカップマンは、オメガの民に届ける用の茶葉を密閉容器にいそいそと詰めていく中。不意に、誰に言うでもない愚痴を零した。

……まだまだ、あいつとの付き合い方は難しいな」

思い返せば、こうしてあの男が地球来訪時には真っ先に自分のところに来るようになって、どれくらい経っただろう。
理由は「うちのご当主さまがお前の国の紅茶を気に入ったとよ」とのこと。
そんな理由で?と、勿論最初は相手の言い分を疑った。やはり一度倒された過去は警戒心を生む。いくら超人委員会の意向でオメガの民とは前向きな関係へ進むと決まっても、それはそれだ。
何よりあんな冷酷な倒し方をして、よく顔を見せられたものである。間にキン肉マンが入らなければ、きっと自分からは話すこともなかったに違いない。

……それが、今じゃあこのザマだ」

『お前は甘いんだよ』
辛口な友人ことカレクックに散々皮肉られても仕方ない。

お互い、星を守る使命のために戦った。
一番大切な部分に違いがないことを知れば、そこから絆されるまでに時間はかからなかった。

打ったら響く会話も、意外に理知的なものの見方も、意地っ張りで天邪鬼な性格も全て新鮮で。一度触れ合ったら最後。氷が肌に引っ付くように、ティーカップマンの心はヘイルマンに捕まってしまった。

とはいえ、彼とどうこうなりたい気持ちはない。元々性欲の薄い性質である。
友情以上愛情未満。 この関係を崩さずにいられれば良い。自分が突っ込まなければ二人の位置は永遠に変わらないだろう。
彼はそう安易に考えていた。
けれど、実際にヘイルマンと付き合っていくと、そのためには氷の上を歩くように慎重さが必要だと痛感した。
先ほどの会話一つとってもそうだ。
試しているつもりなんて全くない無邪気さで、人の心を翻弄する。
冷え切っていると思っていた心があんなに感情豊富だなんて、最早反則だ。

「これ以上ファンを増やすな……なんて、言えるか」

思い出すだけで、恥ずかしさにカップの中の紅茶が沸きそうになる。
これでは当分戻れそうにない。
ティーカップマンは熱を冷ます時間つぶしに、新しい容器をキッチン下の収納棚から取り出した。

「こっちだけ熱を上げてる状況など、認められん……

あの憎たらしい笑顔が、こんなに愛おしく感じるなんて。

「あんな冷たい男に……これじゃまるで、この前買った童話と同じじゃないか……

小さく呟いた独白は、天井に向かう湯気に紛れていった。



***


結局、ティーカップマンの顔から火照りが取れたのは、一から準備し始めた紅茶が香しい匂いを放ちだした頃だった。
水を沸騰させ、茶葉を蒸らし、カップも温め――全てトータルすると、地味に半時間は経っていたかもしれない。

……いい加減、戻らないとな」
出来ればもう少し気持ちを落ち着きたいが、これ以上はせっかく入れたセイロンティーの味が落ちる。
ティーカップマンはパンッ!と顔を叩くと、トレイに紅茶と土産用にと詰めた茶葉の容器を乗せ、キッチンから出た。

そしてリビングへと向かえば、扉の向こうはやけに静かだった。
(寝てるのか?)
最後に見たヘイルマンの姿を思い出す。口では強がっていたものの、やはり相当疲れていたのだろう。思ったよりも長い待ち時間に、ついつい眠ってしまったのかもしれない。
ならば……とトレイを片手に持ち帰ると、ティーカップマンは極力音を立てないようにゆっくりとドアノブを回した。
慎重に、足音もたてないよう、こっそり室内に入った彼は、正面に置いてあるソファへと視線をやった。
あの巨体を丸めて可愛く寝ているのか。はたまた長い手足を伸ばして死んだように眠っているのか。さあ、どっちだ。
滅多に見れない寝顔をほんの少しだけ期待して見てみれば、そこは予想外にももぬけの殻で。

……ん?」

消えた相手に大きな目がパチパチ瞬く。一体どこに!慌てて室内全体へ視線を巡らす。
すると、部屋の奥──リビングと仕切りなしで隣接している寝室の脇に青い色を見つけた。

「コポッ!! おいっ、ひとのベッドで何をしてる!?」

ソファの前に置かれたローテーブルへトレイをドンッと置くと、ティーカップマンは足早にその煌めく巨体へ駆け寄った。
別に見られて恥ずかしいものは無いが、流石にそこは家の中でも最もプライベートな場所だ。知らぬうちに触れられるのは生理的に焦る。

「寝てるかと思って気を利かせてやったら……まったく!」

わざと怒った声を出せば、ようやくこちらの存在に気付いたのか。

「ああ? 人を待たせるテメェが悪いんだろ? つーか、良いもん持ってんじゃん」
「良いもの?」

悪態を吐きつつもゆっくり振り向いた男は、その手に小さな本を持っていた。

「茶の専門書ばっかでつまんねえと思ってたら、まさか童話が紛れてるとは……驚きだな」

カキカキカキッ。喉の奥で独特の笑い声が起こる。時間潰しに部屋を眺めていたら、まさかこんな意外な物が見つかるとは。ニヤニヤと細くなる目は、そんな悪戯な気持ちが見え隠れしていた。

「雪の女王、ねえ……
「っ!?」

明かされた正体に、ティーカップマンの顔は一気に渋くなる。
よりにもよってそれを見つけるか。無意識に握った拳に力が入った。ましてや、つい先ほど中身を思い返していたばかりだからこそ、妙に罰が悪い。

「別に良いだろ。たまたま本屋で見て、気になって買っただけだ」

ふいっと顔を逸らして答える姿は、『単に気になっただけ』済ますには、些か素っ気なさすぎる。

「カキッ……。本当かぁ?」

案の定、勘のいい男はその裏に何か別の思惑があったことを悟ったのだろう。グイッと上背を伸ばすと、相手を真上から覗き込む。

「本当に、それだけの理由で?」

囁く低音が、冷気と共にティーカップマンの紅茶を揺らす。下手をすれば、脅しでこのままヘイルマンブレスで再び凍らされてしまいそうな恐怖が襲う。それは流石に勘弁だ。

「なんとなく、お前を思い出して……買ってみたんだ」
「へー。オレを、ねえ」
……雪の女王は氷の心を持つ。だから、その、どんなものなのか気になって……。とはいえ、所詮はフィクションで。……特に、氷超人のあれこれが分かるわけもなかった」

そう床を見ながらポツポツ告白する。
自分は一体何を言わされているんだ。素直に白状している自分の弱さに、思わず視界が滲む。
「はー? なんだそれ……
更に追い打ちをかけるように、ヘイルマンが鼻で笑う音が聞こえた。
「カキキッ……当たり前だろ。そもそも地球の童話なんかで、誉れあるオメガの戦士を測れると思う方が間違ってるぜ」
嘲笑う声は冷たく、まるで感情が削ぎ落ちたようだ。聞いたことのないそれに、ティーカップマンの心臓がチクリと痛んだ。
(だから言いたくなかったんだ!)
声に出せない言い訳が頭の中を占める。
プルプル震える拳は彼の居た堪れなさを物語っていた。
……
その姿を頭上の金色の目がジッと見ているとも知らず。

「まあいいや。ようは、オレを知りたかってことだよな。へっ。その殊勝な心意気に免じて……今回は見逃してやるか」
ポンッと肩を叩かれるのに反応して顔を上げれば、大きな口が更に吊り上がっているのが見えた。
「それに、こんな本で氷超人を理解しようとか、てめえが案外ロマンチストだってことも分かったしな」
小馬鹿にしたようにニヤニヤ笑うヘイルマンにティーカップマンは「はあ!?」とカッとなる。
コロコロ変わるヘイルマンの態度につられて、普段は滅多に揺れない感情の湖面が大きく揺れる。
人の気も知らないで!と熱くなる姿を鼻で笑うヘイルマン。

「でもまあ、オレとしては良い教訓になったな」
「コポッ……?」

「誰かのお膳立てで手に入れたモノは、どんなに可愛がっても簡単に去っていく。だから、ちゃんと、自分の手で……その心を振り向かさないといけねえ、ってな」

目線を合わせるように腰を落とすと、彼はティーカップマンの胸を指で押した。鋭利な爪先がグッと刺さる。
「っつ!」
その鋭い痛みは、物語の少年の心に刺さった破片の痛みに似ていたのかもしれない。
呆然とするティーカップマンを真正面から見つめたヘイルマンは、そこでカキカキッと楽しそうに笑うと、今度は相手の手を掴んで自分の胸のチャームに触れさせる。

「まあ、今は御託はいい」

グッと押しつけられた掌の中で、緑色の石がまるで心臓のようにどくどく鼓動を打っている。やかましいぐらいのそれに、自分の心臓まで大きく跳ねる。
早く突き放さないと。深追いはいけない。
でないとまた、この男に浸食されてしまう──今度は体だけでなく、心まで。

警戒音が、頭の中でけたたましく鳴り響く。

なのに、

「オレの心を知りたい? 上等だ。じゃあお前も見せてくれよ……紅茶野郎」

そう相手が囁いた瞬間、目の前の氷面がライトに反射した。ティーカップマンの視界に、可哀想なほど真っ赤な顔の自分が映る。



ああ――何もかも、バレていたのか。



理解したと同時に、カップの中の紅茶が大きく揺れる。

それが彼にきつく抱きしめられたせいだと気付いたのは、一呼吸遅れてからだった。



*****



……ったく、器用に寝てやがる」

ヘイルマンは、隣で失神したように眠るティーカップマンに呆れたように鼻を鳴らした。中身が零れないように首を垂直にして眠る姿は、本当にこれで安眠できるのか甚だ疑問だ。しかし、スゥースゥー穏やかな寝息を聞くに、本人としては問題がないのだろう。
何より、散々弄ばれた後だ。普段しないことによる疲労も加味している筈だ。

「これだから脆弱超人は」

そう辛辣な感想を吐きつつも、しかしヘイルマンの眼差しは穏やかだった。
気まぐれに男の顔に手の甲を押し付ければ、嫌そうに眉が寄った。もし起きていれば「冷たい!」と文句が飛んでいたに違いない。
想像した途端、笑いが込み上げてきたのか。
「カキカキッ」
悪戯に肩を揺らす姿は、先ほどまでティーカップマンを翻弄していたとは思えない幼さだ。

氷の体は、直接誰かの肌に触れることは出来ない。それが無機質で出来た超人ならいざ知らず、この男のように生身の体をもつ相手はまず無理だ。
だから、意地悪な言葉とシーツ越しの愛撫で可愛がってやったのだが、それでも性的な事に慣れない男を泣かすには十分過ぎて。
折角の流れだから——と性急にすぐそばのベッドへ押し倒したのは流石に軽率だったが、後悔はしていない。

顔を歪めつつも未だ眠ったままのティーカップマンに、ヘイルマンは目を細めた。


「オレが“甘いもの”が好きなのは、お前もとっくに知ってるくせに……

穏やかな金色は、氷の体に合わない暖かさが灯っていて。

「“甘ちゃん”のお前も、その範疇に入ってるって思わないもんかねぇ」

肩を竦めた彼は、隣から香る茶葉の甘さを楽しそうに嗅いだ。