万丈
2026-02-16 17:50:17
1140文字
Public 小説
 

気まぐれな神と、雷帝の献立

【AI生成】【二次創作】【天空戦記シュラト】
大戦前、カーンダヴァの平和な時代、インドラ様の料理スキルが上がったきっかけ。

前の話→誕生日にまつわる話
次の話→いつか来る別離(わかれ)の日に
関連の話→夜更けの厨房にて

カーンダヴァの高い塔での日々は静かで、そして単調だった。
私の役目は破壊神シヴァ様の身の回りのお世話。
その中でも最も神経を使ったのが、日々の食事の用意だった。

我々は基本的に菜食だ。
温暖な気候に恵まれた大地がもたらす瑞々しい果物や野菜、木の実だけで我々の身体は満たされる。
調理方法も、素材を活かした簡素なものがほとんどで、食事に手間をかけることは少ない。
だがシヴァ様は違った。
彼は神として生まれながら、その味覚は驚くほどに繊細で、そして気まぐれだった。

……インドラ」

「はっ」

……飽きた」

侍従が運んできた完璧に熟した果実の盛り合わせを前に、シヴァ様はただ一言そう宣うた。
その瞳は退屈した猫のように、つまらなそうに細められている。

「では、本日は南方の珍しい芋を蒸したものをご用意いたしましょうか」

……昨日も食べた」

「では、木の実をすり潰した温かい粥を……

……甘いものは気分ではない」

そのやり取りが毎日毎日繰り返された。
私は来る日も来る日も厨房に立ち続けた。
雷帝として戦場で剣を振るうよりも、ずっと難しい戦いだった。

文献を読み漁り、香辛料の配合を研究し、野菜の切り方一つにも神経を注いだ。
全てはあの気まぐれな主君の、「美味い」というただ一言のためだけに。

ある日のことだった。
私は故郷カーンダヴァの厳しい冬を思い出しながら、一つの料理を試作していた。

数種類の根菜をことことと長時間煮込む。味付けは岩塩と、ほんの少しの香草だけ。
それはかつて私が幼い頃、養父が作ってくれた素朴なスープだった。

……なんだ、それは」

いつの間にか厨房の入り口にシヴァ様が立っておられた。
その赤い瞳は、鍋の中で湯気を立てる見慣れない料理に興味津々といった様子で注がれている。

「故郷の料理にございます。お口に合うかはわかりませんが……

私は恐る恐るそのスープを器によそい、差し出した。
シヴァ様は訝しげにその匂いを嗅ぐと、一口、また一口と静かにスプーンを口に運ばれた。

長い、息の詰まるような沈黙。
やがてシヴァ様は器を空にすると、ぽつりと呟いた。

……悪くない」

ただ純粋な、子供のような感想。
そして彼は続けた。

……インドラ。明日もこれを作れ」

それは私が初めて主君から明確な「おかわり」を要求された、記念すべき日だった。
その日から塔の厨房には、毎日野菜スープの穏やかな香りが漂うようになったという。

あの穏やかだった日々。
シヴァ様の、ほんの少しだけ満足げな横顔。

それは血塗られた記憶の中にあって、今もなお私の胸の奥で温かい光を放ち続ける、数少ない大切な思い出の一つなのである。