momoo
2026-02-13 22:32:43
4547文字
Public
 

エンカウンター

AC2の話:二話目
自機の自我がめちゃデカいので注意
前→ https://privatter.me/page/697370b54ec3b

画面には二機のAC。片方は白く、もう片方は紫。執拗に放たれるマシンガンをふわふわと避けながらグレネードの砲身を起こす機体は、つい先日あの『ルーキーブレイカー』を打ち破った、文字通りの初心者 ノーヴィス
(本当に、子どもとは思えない)
私室、録画されたリプレイを端末で再生しながら、私は彼について考えていた。
(わざわざ危険なミッションに出さなくても、彼ならこれだけでなんとか食べていけるんじゃないかしら)
数週間前、私のパートナーになったレイヴン。地球でもACを駆っていたという評判にそぐわない年齢の、友人を探しているらしい小さな子ども。
彼の悪癖___誰彼構わず中身 ・・を検めようとする___をなんとかするため、私は彼にアリーナへ行くことを勧めたのだ。



「アリーナってなに?」
「レイヴンが腕を競う場所よ。レイヴンになったときに登録されたはずだけど、聞いていないの?」
「うーん言ってたような、そうじゃないような
少し前、ミッションを終えて休憩用のベッドに腰掛けているところを見かけて、ちょうどいいと話を進めることにした時。
端末に表示したランキングを見せると、彼は並ぶ名簿を食い入るように見つめていた。私は画面をスクロールして続ける。
「あなたはまだ新人だから、ここ一番下からスタートします。勝っていけば、いつかはランク1『ナインブレイカー』の称号を得られる」
指先の名前。火星の神を自分に冠した彼に、私はまだ一度も見えたことがない。ほとんどミッションを受けていないのだろう。彼の担当になったオペレーターは気の毒だな、と思ったことを記憶している。
「ないんぶれいかーになるとどうなるの」
彼が画面から目を離し、私をじっと見て問う。
「あなたの名前が、火星にいるレイヴンのほとんどに知れることになるわ。あなたの探すお友達も、きっと気づく」
「ほんと!?」
答えを返せば、ぱああ、と表情を輝かせて言う。嘘ではない。アリーナに登録されていないレイヴンなどいないし、アリーナに登録されて王者 かれを知らない者などいないはず。目の前の一名を除いては。
「ええ。試合なら弾薬費や修理代もコンコード社が持ってくれるから、ミッション中に探すよりずっといいと思うの」
私の言葉にノーヴィスはこくこく頷いて、そして急に立ち上がった。どうしたのだろうと口を噤む私に、彼は嬉しそうに笑みながら手を差し伸べてくる。
?」
意図が読めないで、見つめたまま沈黙する。と、
「行こ!」
元気いっぱいの声が続けて差し出された。
………まずは、試合の申請をしてからです。準備が必要だから、すぐという訳にはいきません」
「えー!?」
「当たり前でしょう
もしかすると、なんとかするべきなのは悪癖以前に、彼の突っ走りやすい性格かもしれない。そんなあ、と落胆する小さな白い頭を見ながら思った。


「___ル。ねえ、ネルってば!」
「!……ごめんなさい。どうしたの」
我に返る。
ノーヴィスが私の顔をじっと見上げていた。時々、というか頻繁に、彼はこうして私の部屋に入り込む。ノックすることを教えはしたが、実行された覚えはない。
「次はいつアリーナに行ける?」
「そうね今日申請して、早ければ来週かしら。ここ最近は色々と不穏だから、もう少しかかるかもしれないわ」
試合を終えたばかりだというのに、彼は疲労も緊張も見せない。むしろ期待をあらわにして、きらきらした瞳で私を見つめてくる。友人に会いたいのね、と少しあたたかい気持ちになって、すぐ思い直す。
「ふおん?」
「この間、特殊部隊が火星に来たでしょう?彼らがどうも怪しい動きをしているようなの」
……??」
「他のレイヴンは忙しくてそれどころじゃない、ってこと」
アリーナの紹介文がどこまで真実かは分からないが、会ったことのあるレイヴンはそう少なくない。そしてその誰も、彼と同じような子どもではなかった。それに、まともな親なら、我が子を幼いうちにACに乗せようなんて思わないだろう。
「次の相手はこの人ね」
「かっこいい!」
緑色の四脚機体を楽しそうに眺めるノーヴィス。
きっと彼の友人は、ここにはいない。
「これ、なんてかいてあるの?」
ミサイル攻撃に注意、だそうよ」
「その下のとこ」
……さあ?私も分かりません」
それにしたって、アリーナの紹介文は、どうしてこう俗っぽいことばかり書くのだろう。もう少し品のあるものにした方がいいと思うのだけど。



それから数週間後。
私は、試合を行うノーヴィスに付き添って、ガレージの廊下で彼が呼ばれるのを待っていた。彼は対戦場所によくドームを選ぶ。他の場所なら拠点のガレージから直接向かえるのに、と思わないでもないが、私の決めることではない。
「お友だちだといいなあ」
パイロットスーツに包まれたつま先で床をつつきながら、期待に溢れた声で彼が呟く。内心を悟られないように目を伏せ、そうですね、と相槌を返して、
(……?)
ふと。
廊下の反対側から、足音が近づいてくることに気づく。
このガレージは今私たちが借りている。他のレイヴンではないはずだ。整備士も、今はACの調整をしているはず。遅刻することがあるのか、と思い過ごそうとしたときだった。

「おい」

聞き覚えのない声。
私の目の前から、ではなく、少し隣から。
「お前、レイヴンか」
視線をやれば、___見知らぬ男がノーヴィスに話しかけている。
「たぶん?」
「ACに乗るのか、と聞いている」
「あ!うん、のるよ!」
そしてノーヴィスも、疑いもせず答えを返してしまっていた。
何か、危険な予感がする。
「ちょっとあなた、急に
「そうか。ならちょうどいい」
制止しようとした私を無視して、男はそう言うなり___
「私の対戦相手が死んだ。代わりに来い」
「わっ」
「は!?」
___ノーヴィスの首根っこを引っ掴んで、まるで袋でもぶら下げるようにして踵を返した。
「ちょっ___やめなさい!!何するのよ!!」
咄嗟に、既に歩き出している男のもう片手を掴む。___重い。壁を動かそうとするみたいにびくともしない。ただ単に力が強いんじゃない、これは。
(強化人間ッ)
止めようとする私が、逆に引っ張られる。
「やめっ、誘拐、!犯罪者!!あなたレイヴンなんでしょう!?こんな事して恥ずかしくないんですか!!」
必死になって声を張り上げる。が、ガレージの中には届いていないらしい。整備に使われる機械の音で掻き消されているのかもしれない。ノーヴィスは宙ぶらりんのまま目をまん丸くして硬直している。

「___もうACの準備はできています!!連れていくなら機体に乗り込んでからにしてください!!」


苦し紛れにそう叫んだ私に、ようやく男が足を止めた。振り向いた顔は、この上なく不愉快そうにこちらを睨んでいる。
対戦場所は?」
……コンコード社所有の、模擬戦闘用ドームです……もういいでしょう!彼を離して!」
洗いざらい話してしまった。それでも彼を、小さな子どもを、こんな得体の知れない不審者に渡す訳にはいかない。私が腕を掴んだままでいると、ちっ、と舌打ちが聞こえた。
「___わあっ」
それから、まるでぬいぐるみでも投げるみたいに、ポイ、とノーヴィスが私へ投げ渡された。なんとか受け止める。
「三十分で向かう。もしそいつが遅れたら殺す」
言い終わらないうちに、男は私たちへ背を向けてさっさと歩き出してしまった。私が声をかけようとするのも構わずに。

「ねー、あの人だれ?」
言葉を失う私と、大してダメージを負っていない彼だけが、静かな廊下に取り残された。