おがら
2026-02-05 00:17:08
4340文字
Public バキサム
 

いじわるな君に夢中!

🦾🪽 全年齢
膝枕とやきもちとちょっと意地悪な話
※サム+ホアの膝枕が含まれます(CP、矢印なし)
月いち36の日、BNW縛りにて公開

 
 その日バッキー・バーンズは久しぶりに恋人であるサム・ウィルソンに会えることを楽しみにしていた。しかも職場に赴いていいとの許可をもらって。
 キャプテン・アメリカとなり日々活躍しているサムのために用意された基地を訪れてみたいと以前言ったのだが、一応前線を退きこれから政治の道へ進もうかというバッキーをおいそれと軍の施設内に入れることは出来ないと断られていたのだ。
 厳重な警備が敷かれている施設内に真正面から足を踏み入れたバッキーはどことなく緊張する。こういう施設はいつも真夜中に潜入していたからだ。

「バッキー・バーンズだ。サム・ウィルソンに会いに来た」
「バーンズさん。キャプテンから伺っています。こちらのものが案内します」

 施設の受付らしきところに声をかければすんなりと通され、屈強な軍人にサムがいるだろう部屋の前まで案内される。
 扉には輝かしい星のマーク。――あまりにわかりやすくないか?ここにキャプテン・アメリカがいるって丸わかりだが、アメリカはそういうのが好きなのかもしれない。

「私はこれで」
「あぁ、ありがとう」

 敬礼をして下がる案内人に礼を言い、背中を見送ってから右手で軽く扉をノックする。

「開いてるぞ」

 扉の内側からサムの声が返ってくる。いいのか、開いてて。どことなく緊張感のない空気にバッキーは肩透かしを食らった気分だが気を張らなくていいのは助かる。
 扉の横にある厳重そうなロックのランプは緑色に光っているため本当に開いているのだろう。
 言われた通りドアノブに手をかけ重厚な扉を押すと広く明るい空間が目に飛び込んでくる。左手にある窓には扉と同じく星のマークが大きく入っており、ここがキャプテン・アメリカのオフィスなのだと主張していた。
 だがバッキーの目が釘付けになったのは入ってほぼ正面に位置する広いソファに座るサム。と、その膝に頭を乗せていたのはサムの同僚であるホアキン・トレスだ。
 バタン!と扉を閉めたバッキーは一歩、二歩と室内に足を踏み入れながらも動揺を隠しきれない。なぜ?

「よおバック。迷わなかったか?」
「やぁバッキー。久しぶり~」

 入室してきたバッキーを見ても体勢を変えずそのままの位置で各々声をかけてくる二人にバッキーはやはり混乱したままだ。
 サムは俺と付き合っている、よな?そうだよな、デラクロワの就任祝いパーティーから俺がアプローチして色々あったけどサムも俺と同じ気持ちだって言ってくれてそれで付き合ってキスも、それ以上もして……
 なのに今、座ってるサムの膝――正確には太ももだが!――に頭を乗せて寝転んでいるトレスが目の前にいる。サムは何も気にしていない様子で何か雑誌を見ているし、トレスは仰向けでスマートフォンを触っている。
 傍から見ると親密な二人だ。ただの同僚の距離感ではない。

「さ、サム……?」
「ホアキン、バックと飯行ってくる」
「いってらっしゃーい」

 サムが声をかけるとすんなりと起き上がったトレスはソファに座り直し一瞬サムとついでのようにバッキーに視線を向けてからすぐに逸らし、再びスマートフォンに意識を向ける。バッキーが最近街中で見かけるティーンのようだ。
 バッキーとトレスに深い接点はさほどない。サムがいなければ挨拶をされることもこうして顔を合わせることもないのだ。彼が自分たちの関係を知っているかどうかすらもバッキーは知らない。サムは自分のことをトレスに話しているのだろうか。

「待て、待て待て」
「時間もったいないから行くぞ」

 サムとトレスを交互に見て状況を理解しようとするバッキーを放ってジャケットと車のキーを掴んだサムはさっさと部屋を出て行ってしまう。

「サム!」

 声をかけるも空しく扉は閉まり、バッキーは慌ててサムを追いかけた。
 基地を出たサムは自分の車に乗り込んだためバッキーも助手席に座り、エンジンをかけてすぐに出発しようとするサムの手に左手を重ねて静止する。施設や警備の目から遠い場所に駐車されているとはいえまだ敷地内だからだろうか、サムは眉を顰めてバッキーに視線を送る。

「ちがう、サム。あれはなんだ?」

 こんなところでそういった触れ合いをしたいわけではないためバッキーはその意図はないと否定するとサムがハンドルを握る手から力を抜いたことを感じてそっと手を離す。

「何がだ?」
「トレスと!ソファでしてたあれはなんだ!」

 怒っているわけではないがつい声を張り上げるバッキーにサムは怒るわけでも窘めるわけでもなくただ平然と上質なシートに凭れかかり、それは音もなくサムの体重を預かりその広い背中を支えていた。

「あーあれか。勝手に乗ってくるんだよ。俺は良いなんて言ってない」
「けど拒否ってないだろ」
「どけって言ったら退くからな。さっきもそうだったろ」
「そういう……。そういうことじゃないだろ……

 サムとの口論で勝てたことなど一度もないがバッキーは胸のモヤモヤをどうにか伝えたく必死に言葉を紡ぐ。だが口から出てくるのは短くて納得させることなど出来ないような言葉ばかり。最後にはいつも感情で訴えるしかなく、バッキーは目に見えて肩を落とし言葉尻を窄めてしまう。
 久しぶりに会えてランチの時間を一緒に出来るというのになぜこんな話から入らなければならないのだ。二人のお気に入りの店はあと30分もするとあっという間に人で溢れてしまう。

「サム……俺は、」
「なんだ、お前とはもっとすごいことしてるだろ」
「!!」

 俯いていたバッキーの頭に振ってきた言葉の威力とその甘さに勢いよく顔を上げると窓の縁に肘をかけ、頬杖をついたサムが挑発するような笑みを浮かべながら年上の男を見下ろしていた。その仕草は見ようによっては生意気に捉えられそうだが恋人となれば話は別だ。
 すごいこと。に言外の意味を含めて何の恥ずかしげもなく言うサムにバッキーの方がなぜか恥じらいが生まれそうになる。二人っきりの空間でその話をするなんて、なかなかサムと会えず禁欲しているバッキーにとっては少々毒だ。すぐにサムとのあれこれを思い出してしまうではないか!

「それともお前もああいうのしたいのか?ホアキンに知れたら一生ネタにされるだろうけどな」

 顔を上げた体勢で固まっている男へ追撃したサムの言葉にバッキーは奥歯をぐっと噛み締め、周囲へ視線を彷徨わせてから自身の膝へ乗っていたサムの手に右手を絡ませる。ぴくりと反応しただけで振りほどかなかったのはこの位置なら外からは見えないからだろうか。

――してほしい……

 スーパーソルジャーの声帯とは思えないほどか細く小さな呟きを耳に拾ったサムは数秒の沈黙の後ぶは!と勢いよく吹き出す。
 バッキーは今度こそ頬に熱を集め、耐えきれずそのまま身を屈めて絡んでいる二人の手に額を押し付ける。頭上にはサムの溌溂とした笑い声が降り注いでいる。
 サムのオフィスで見たあの一瞬の光景だけで恐らく70歳は下だろう青年に、キャプテン・アメリカの相棒に嫉妬してしまったことなど恥ずかしくて口に出せるわけがなかった。それを行為自体を窘めてるように説得したかったのだが結局はそれも上手くいかず、こうしてバッキーは一人恥をさらしている。

「バッキー、顔を上げろ。ここでその体勢の方がよっぽどまずい」
「ぁ?……あ!?」

 一通り笑ったのか咳ばらいを一つしてから肩を叩かれ、バッキーは視界全部に映るサムの大腿四頭筋とそこから視線を少し上にずらすと現れる下腹部に一瞬息を詰めてからのろのろと頭を上げる。ち、ちがうこれは決して。

「帰ってからなんか言われたお前のせいだからな」

 フン。と鼻を鳴らしたサムが少しピリついた空気を醸し出したためバッキーは絡めたままの手をぎゅっと握りその艶やかな肌に親指を滑らせ、頭を数回振る。

「これはそんなつもりじゃ、」
――ふ、わかってるよ。こんなとこ誰も見に来やしない」

 瞬時に空気を解いたサムから手を握り返され、シートから背を離し窓についていた方の手が伸びてきてバッキーの髭をさらりと撫でる。口角の片方が上がり、目元が緩やかに細められているその顔は悪戯が成功した時の顔だ。

「サムって意地悪だよな」

 今日はサムにしてやられてばかりのバッキーはついにむっと口を尖らせ、髭を撫でていた左手を義手で捕まえると身を乗り出して顔を近付ける。唇まであと数センチというところで止まり、反応を伺う。

「おー褒めるな褒めるな」

 せめてもの意趣返しのつもりだったバッキーだが、サムは顔色ひとつ変えることなく繋がれていた両手を解いてしまうとバッキーの肩を軽く押しシートベルトを締めてシフトレバーに手を置く。

「シートベルト」
「わかってる」

 肩を押されてすんなりとシートに納まったのはこれ以上時間が長引けば本当にランチをする時間が無くなるためだ。バッキーがその気になればサムをシートに抑えるつけることもその厚い唇を奪うことも簡単に出来る。
 それをしないのは単純に嫌われたくないという思いと、サムの気持ちを無視した行動はしたくないという思い。ただそれだけだ。感情に身を任せて行動し、サムに叱責されたことはもう思い出したくはない。
 バッキーはひとつ息を吐いてからシートベルトを締め、時間を確認するために腕時計を見る。店が混雑するまであと20分程。ここから店までは15分程度のため混む前には席に着けそうだ。

「バック」
「ん?――っ」

 腕時計から目を離し声のした方へ顔を向けた途端、唇に一瞬だけ触れたあたたかい質感を確認するまでもなく焦がれた相手の唇だとわかり、再び身を乗り出そうとするバッキーを押しとどめたのはサムからのStopの声。

「お前が今日帰って来れるんならしてやってもいいぞ」

 ぽん。と自身の膝を叩いたサムはそのまま滑らかにシフトレバーを握ってドライブに入れ、ブレーキから足を離して緩やかに発進する。その横顔はやはり平然としていて、バッキーは悔しくなるどころかサムの言動への嬉しさの方が上回り表情を緩める。
 しかし今日バッキーがサムの家へ帰るのは難しいのを知った上で言ってくるのだ。だから今日はランチを共にしようという話になったのに。やはりサムは。

「いじわるだな」

 窓枠に肘をつき頬杖をついて呟くと好きなくせにな。と正面を向いたままの声で返され、反論も出来ず押し黙るバッキーにやはりおかしそうに笑うサムの声が車内に響いたのだった。