ボツネタ

シナリオネタバレなし

ソウカン+α
※ま/どマ/ギパロ



 ソウゲツは今、祭壇の上で横たわり目を伏せていた。傍らに立つのは、彼のソウルジェムを手のひらに乗せた魔法戦士レグルス。背後の離れた場所に、アサヒが立っている。

 彼らは皆、魔法戦士である。原初の願いを元に因果を絡め、人々を襲う魔獣と戦う正義の味方。今の宇宙では、それが定理とされているのだ。


 では、前の宇宙では?

 ────かつて。魔法戦士は、必ず魔人に成る存在だった。


……レグルスさん」


 小さく名を呼ばれ、レグルスはアサヒを振り返る。俯きながら槍を抱えた彼は、唇を一度噛んでから言葉を続けた。晒された瞳の中で、鮮やかな哀しみが揺れる。


「ヒロは、もう、いってしまったんですか」


 “救済された”友人の名を告げれば、レグルスは困ったように微笑んだ。小さく首を横に振り、持っていたソウルジェムをソウゲツの胸元へ置く。淀み穢れたその宝石は、本来ならとっくに崩れているものだ。

 ここは、一人の魔法戦士が魔人に成り果て、その末に創りあげた領域。インキュベータと呼称される宇宙概念により閉ざされた、孤独な魔人の深く小さな結界。その魔法戦士の名は……ソウゲツ。愛しい人との再会を望み、その誓いのために多くを破却した青年。


「いいや。今、手を引かれるところだよ」


 天を仰いだレグルスに倣い、アサヒは空を見やる。曇天の向こう、超常的で聖なる光が漏れ出ていた。太陽よりも鮮やかで、月よりもあたたかい。それは間違いなく、“円環の理”の気配だった。

 穢れに蝕まれた魔法戦士は、“円環の理”により救済される。
 “それ”は魔法戦士たちの希望であり、最期に迎える穏やかな終着点だ。だがインキュベータに封じられた結界内では“円環の理”が上手く影響できず、ソウゲツの救済にはかなりの遠回りをする事となった。


 ソウゲツを迎えに訪れた、概念装置が姿を表す。雲は晴れ、暗闇は割れ、輝かしい祝福が世界を照らした。黄金の髪を揺らす青年の形をした“円環の理”が笑い、ゆっくりとその身を降ろす。


「あれが、“円環の理”……


 宇宙を支える概念の神々しさに、アサヒは目を奪われた。その光に当てられ、ソウゲツの瞳が僅かに晒される。青く、どこまでも蒼い双眸が、黄金を反射し瞬いた。


……カンジ」

「うん、オレやで」


 弱々しいソウゲツの呟きを掬い、“円環の理”は優しく笑う。結界を穏やかに分解しながら、ソウゲツの元へ向かい言葉を零した。


「せやった。オレは、ソージのために……
 こないに大事なこと、忘れてたなんてなぁ」

「余計なヤツのせいで遠回りしちゃったからだろ。ま、上手くいって良かったけど!」

「一時はどうなるかと思ったがな」


 “円環の理”が振りまく祝福、その列から二人の青年が現れる。片割れはヒロ、もう片割れはシュウという魔法戦士だった存在だ。彼ら二人は既に“円環の理”に導かれ、救済を施されている。その後は元魔法戦士として、また“円環の理”の一部として、宇宙を支えているのだ。

 違う場所へ辿り着いてしまった友人に、アサヒは複雑な表情を向けた。一方レグルスも、兄であるシュウをじっと食い入るように見つめる。そんな二人の視線を、“円環の理”が伸ばした手が遮った。その先には、弱り脆くなったソウゲツ。


「たくさん頑張ったな、お疲れさまやで。
 さぁ、いこう? これからはずっと一緒やで」


……ああ。そうだ。




 これからは、ずっと一緒だ」



 ガッッ。刹那の間に、ソウゲツの両手が“円環の理”の手を掴んだ。想定外の行動に、“円環の理”は驚き戸惑う。周囲もその異変に気付くが、手を出すには何もかもが遠すぎた。


「ソー、ジ……!?」

「────やっと」


 強く、強く、軋むほどに強く。ソウゲツは“円環の理”を握り、笑顔らしきモノを顔に浮かべた。口元が三日月を描き、瞳に極彩が散り始める。


「つかまえた」


 彼の魂が宿るソウルジェム、そこからナニカがじわりと漏れた。それは徐々に質量を増し、世界に漂い吹き荒れる。唐突な未知の現象に、四人は耐え忍ぶことしかできなかった。


「な、なにこれ!? ソウゲツくん!?」


 腕で視界を庇いながら、何とかアサヒは近付こうとする。だが噴出するナニカは勢いを増すばかりで、付近のレグルスですら一歩も距離を詰められなかった。歪曲する空間、そして混沌の色彩でシュウは目を見開く。


「ソウルジェムがおぞましい色に……!」

「これは呪い…… いや、違う。これは穢れでもない!」

「ソウゲツ、オマエは一体、何に成ろうとしてるんだ!」


 動揺するヒロが絶叫すれば、ソウゲツの声が世界に響いた。それは彼の真髄であり、根幹であり、全てである。つまりは、そう、何もかも彼の望むがままになるのだ。


「理解できなくて良い。ああ、いいや、そうだな。誰にも理解できるわけがない。この想いはオレだけのもの。カンジのためだけのモノ!」


 やがて領域は尽くがナニカに満ち、“円環の理”を強引に呑み込もうとする。対極する要素は反発し、当然“円環の理”は逃れようと身を引く。彼は離れない、彼は離さない。


「あかん、ソージ……
 ────オレが、裂けてまう!」


 パリンッ! 水晶が壊れる音を鳴らし、“円環の理”は真っ二つに割れた。ソウゲツは青年を抱え、頭を撫で、腰に手を回す。


「オマエをもう、はなさない」


 ぐしゃり。世界に、深く熱い蒼が溢れ出した。