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つきりま
2019-06-12 21:22:45
2367文字
Public
ジクグラ
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渇きの底
疲れて帰ってきたグランくんがジークフリートさんの膝で寝落ちる話。ゲストはパー様。
「なんだ、それは」
パーシヴァルは言いようのない既視感の内から声を発した。寝静まる皆を起こさないようにとの配慮を感じる低い声。談話室は意外と音が響くから、本当に、そうっと、ひそめるように。けれど苛立ちは隠さない。眉間の皺はその美麗な顔に深々と刻まれて、そのまま固着しかねない勢いだ。
見慣れた顔だった。とはいえグランサイファーに乗ってからは、随分とやわらかくなったようにも感じられる。感覚の話だ。たぶん、きっと、他の誰に言っても違いが分からないと言われてしまうのだろう。
ジークフリートは頬笑んで応えた。
「グランだな」
事も無げである。それすらパーシヴァルには既視感であった。
「そうではない」
「知っている」
「ちゃんと答えろ」
「一からか?」
――
、睨まれる。眼光の鋭さが増してちくちくと頬に刺さっても、ジークフリートは笑んだままだった。いっそパステルカラーのオーラを背負って、ふわふわと花を飛ばしてさえいるようで、対するパーシヴァルは眩暈がする心地だった。
「待っていたんだ。今日は依頼で遅くなると言っていたからな。そうしたらよっぽど疲れていたんだろう、帰ってきて早々俺に気づかずに倒れ込んできてそのままだ」
「
…………
。ならば起こして風呂に押し込むなり、寝かせておくにしても部屋に運んでやるなりしてやればよかっただろう。いつからそうしている」
「さすがに防具の類は外してやったさ。いやなに、すぐに起きて風呂に行くかと思っていたんだが
……
、ふむ。いささか時が経ち過ぎたか」
鍛え上げられた男の膝はさぞ硬かろうに。枕にして顔を埋める少年の呼吸は穏やかだ。
乱れた髪を、そっと梳いてやる。その指先は、ひたすらにやさしい。
触れるのを躊躇っていたのはいつの頃だったか。今ではすっかり慣れてしまった。こわれものを扱うように慎重にならずとも、この子が壊れることはないのだと、遅すぎる実感は、けれどいらぬ欲に火をつける。
すべて見透かしたように、パーシヴァルはさらに機嫌を悪くした。いやはや、肩を竦めてみせながらも、ジークフリートのその顔に反省、の類は見当たらない。
「腑抜けた顔をするな」
視線を泳がせる。最終的に少年のつむじを見つめてみた。
「そんなに腑抜けているだろうか」
「騎士団時代の部下が見たら目を剥いて卒倒するだろうな」
「そこまでか」
「半分は冗談だ」
では半分は本気なのか。ジークフリートはあえて問わず、少年の髪を指先に絡ませた。埃でも浴びたか、砂がざらつく。
さて、どうしたものか。起こして風呂に入れてやりたい気もするが、このまま寝かせてやったほうがいいような気もする。明日の予定を訊いておけばよかったと後悔は先に立たない。
眼前の男ならば知っているだろうか。知っていそうだな。確信をもってジークフリートは尋ねた。
「団長は、明日は何と?」
「久々に休暇にしたと言っていた。このところあちこち依頼に走り回っていたからな。明日の依頼は団員に止められたらしい」
「そうか」
それならばいいだろう、このままで。否、このまま、というわけにはいかないか。きちんとベッドで寝かせてやらなければ、いつまでも硬い男の膝を枕にさせるのも酷である。これでは休まるものも休まりはしない。疲労を溜めさせてはいけない。いい加減、そう、いい加減にしなければ。
「弱ったな
……
」
「
……
、何がだ」
いやな顔をしながらも、律義に聞いてくれようとするところが、この男の長所なのだろうな、と。ジークフリートはようやくほのりと、罪悪感を目の端に乗せた。
「無性に、離れがたくてな」
口に出すとなんとも、子どもの駄々のようだった。
分かっている。先ほどから、十分に分かっている。いつまでもこんな場所では体を痛めてしまうだろう、と。もしかしたら、風邪を引かせてしまうこともあるやもしれない、と。
一応しっかりうたた寝用の毛布はかけてやっているが、万が一ということもある。彼はこの騎空団を率いる団長で、皆に慕われていて、そんな彼が弱ると、団員たちにいらぬ心労をかけることになる、こと、くらい。分かって、いる。
そう、この子は、愛されているのだ。現にこうしてパーシヴァルが苛立っているだって、この子の身を案じてのことなのだから。
――
グランは決して、己だけの〝大事〟ではない。
「お前にも、そういう欲があったのか。ジークフリート」
「随分な言われようだな
……
。いや、しかたないか。まあそういうことだ」
「鋼の理性で堪えておけ。午睡ではないんだ。しっかり休ませてやるべきだ」
「おとなの義務か」
「当然だ」
言い切られて、仕方なく。仕方なく、諦めた。ジークフリートは慎重に少年の頭を支えながら立ち上がると、そのまま抱え上げる。ふわりと、汗がにおった。額に、前髪が張り付いていた。不快そうだ。起きたらすぐに熱い風呂に入れるように、うまく調整してやろう。
「そういえば、何か用があって起きてきたんじゃなかったのか」
「ああ
……
。別に何ということはない。気にするな。それよりも、わかっているな」
「わかっているとも」
念を押されて苦笑する。苦笑しながら、歩き出す。パーシヴァルの疑る視線は通路の角を折れるぎりぎりまで背に刺さっていた。
「信用がないな、俺も」
別段、悪い心地ではなかった。ああして監視されていると、まだうまく保っていられる。一つずつ、慎重になれる。
たとえどれだけ頼もしかろうと、どれだけその背が強く見えようと、この子がまだ子どもであることは、紛れもない事実なのだと、忘れないでいられる。
「まあ、これくらいなら
――
」
無事部屋に送り届けた少年の額にそっと落とした口づけは、月光だけが見下ろしていた。
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