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おがら
2026-02-03 00:00:00
3214文字
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You're my MV“H”!
サム+ホア
疲れているホアに差し入れをする話
月いち36の日、BNW縛りにて公開
それぞれの得意分野はそれぞれにしか任せられないというのは時に心苦しく思うものだ。
サムにとって同僚であるホアキンはここ数週間基地にある自分のデスクから離れられないでいた。高度なセキュリティ解除や情報解析が必要な任務で、その案件の重要さから軍の他の人間においそれと頼むことは出来ずホアキンがその解析やらをほぼ一人で担うしかなかった。
生憎サムはそういう方面にはめっぽう弱い。多少のデータ解析や分析、調べものなどは経験上出来るがダークウェブより深くまで行くとお手上げだった。そのためホアキンに無茶をしてもらっているという思いはあり、自分の引き出しからとあるものを取り出すと持ち主が留守にしているデスクへ足を踏み込む。
サムからすればごちゃついているように見えるホアキンのテリトリーは彼の好きなものや大切なもので溢れている。
家族の写真を始めとしてマイアミのスポーツチームのグッズに、サムにはさっぱりわからない何かの機械や好物のお菓子、そして日頃から愛飲しているエナジードリンクが大量に置かれている。
徹夜続きだからだろうか白いエナジードリンクの缶は側面が凹んだものが何本もデスクに放置されている。その多さに眉を顰めたサムは未開封の缶の上に引き出しから取り出したものを置き、自分の席に戻ると数分してホアキンがオフィスに戻ってくる。
先ほど30分だけ仮眠をしてくると言った雛鳥が言葉通り本当に30分で戻ってきた姿にサムは関心する。現状の案件は確かに急いでいるものだが少しばかり多めに休んでも構わないというのに。
肉体的にも精神的にも疲れが来ているだろうにその顔を抑えサムの姿を認めると軽く片手を上げ再び椅子に腰掛けるホアキンを見てからサムは必要な荷物を持って立ち上がる。
「俺は他に情報を当たってくる」
「あぁ、うん。わかった」
ホアキンはくるりと椅子を回転させて見送るため視線を送るとサムも立ち止まってそれを受け止め小さく頷き合う。お互いにしか出来ないことがあるのは重々承知だ。
バタンと扉が閉まる音を合図にホアキンは作業を再開させると先ほどまで煮詰まっていた箇所も仮眠をしてリフレッシュしたおかげかどうにか解決が出来そうだった。
そのまましばらく作業に没頭し、いつも通り買い溜めしてあるエナジードリンクに手を伸ばし画面から目を離さずにプルタブに指をかけようとして指先に何かが当たる違和感に気付き、ふと視線を下げる。
缶の上には大手チョコレートブランドの包装紙に包まれた小粒のものが一つだけ乗っていた。厳選素材と手作りにこだわるそのブランドは度々話題にあがっていてホアキンはもちろんアメリカ全土でも知る人が多いところだ。
日頃からよく菓子を食べているとはいえブランドものにはあまり縁がない。というよりさほど興味の湧かない質のホアキンが用意したものではない。
そもそもこんな有名なものなら一人で食べるわけはない。何かの経緯で手に入れたのなら必ずサムに報告をするだろうし、彼があまり好かないとしても分け合うだろう。
ということはこれはホアキン以外の人物からの贈り物。となれば残りはサム・ウィルソンただ一人。何せこの部屋はサムとホアキン以外は滅多なことがないと人を入れないからだ。
見た瞬間からほとんどわかっていたが、送り主がサムと判明するとホアキンは知らず張り詰めていた空気を緩ませエナジードリンクの缶を定位置に戻すとその場で両手を組んで頭上に掲げ、ぐぐぐ。と座ったまま身体を伸ばす。
時計を見ると仮眠を終え戻ってきてからすでに二時間近くは経過していた。
「休憩!」
誰が聞くわけでもなく呟いたホアキンは立ち上がってコーヒーメーカーに近付き、数セットだけ用意されているカップにコーヒーを注ぐと一口飲んでからソーサーに乗せてデスクに戻る。
重要な情報は視界に入れつつも一時的に画面から意識を離してチョコレートを手に取ると丁寧に包装紙を開き、きらりと光って見えるそれを暫し眺める。
わずか数センチの長方形の形をしたチョコレートは中心に白い結晶がまぶされており、もちろん怪しいものなんかではなくホアキンの記憶が正しければ海塩だったはず。このブランドの看板商品であるソフトキャラメルとやらはその名の通りキャラメルをチョコレートで包み、さらに海塩をまぶした代物だ。
好奇心で裏側を見ようとチョコレートを指先で摘まむと体温でチョコレートが溶けだしホアキンは慌ててそれを口に放り込む。そうしてから折角の一粒だったのだから何も一口で食べることはなかったかと後悔した。
しかしチョコレートとまぶされた海塩、そしてメインの濃厚なキャラメルが口の中に溶けだし全てが合わさるとホアキンは椅子の背もたれに身体を預けその甘さと塩味を全身で感じる。
強烈に感じるそれらをじっくりと味わいながら思っていた以上に疲れていたのだと自覚し、ホアキンは長い長い溜め息を吐き出す。
サムがこれを差し入れしてくれたということは彼にもわかるほど疲れた表情をしていたのだろうか。そう思うと少し自分が情けなく思え、そして憧れのヒーローへ対し申し訳ない気持ちさえ湧き上がってくる。
それでも辛いとか苦しいなどと言ってられない。サムに信頼され任された、自分にしか出来ない仕事だ。
存分に糖分を吸収するとリセットするためにコーヒーを飲み、再び画面に向き合うとホアキンの表情は力強さを取り戻していた。そのままトップスピードで情報を仕入れ、処理し、セキュリティを次々と突破していく。
解決への目途がつくと作業はしたままサムへ連絡を飛ばし、そのままの状態で案件の解決へ二人で取り組んでいく。ホアキンとしてはサムと空を飛びたいのは山々だが現状のホアキンの戦場はこのデスクとインターネットの海。ここでサムを支えるのだ。
「サム!10㎞先の施設に標的がいる。場所送った!」
『了解。レッドウィング、先に見に行ってくれ』
インカムから流れる声はいつも通りのサム・ウィルソンだ。完璧でスマートで、何事にも対応出来る力強い声。この人のために仕事ができることがどれほど嬉しいか、その想い全てをサムに伝えることは今後もきっとないだろう。それがホアキンのプライドだ。
「あー
……
サム?」
サムの翼の速度ならとっくに現場に到着したはずだがインカムからは報告が流れてこない。レッドウィングに繋げているカメラを見ると施設の外にはすでに軍の応援が来ており、重要人物の確保に乗り出しているはずだ。そこまで戦闘が激しくなるような案件ではないはずだが、何かあったのか。
『
――
重要参考人確保』
「イエス!!」
数分の沈黙の後に聞こえたサムの短い報告にホアキンは椅子から飛び上がってガッツポーズをし、立ち上がった体勢のままデスクに手をついてパソコンに向き合い手早く残りの処理を始める。
レッドウィングのカメラを横目で確認すると翼を折りたたんだヒーローの後ろ姿が映っており、サムが手元を触るとレッドウィングが背中に戻ったところで映像が途切れた。
今日も完璧に仕事をやり遂げた。流石サム・ウィルソン。憧れのヒーローのスマートな仕事ぶりにホアキンは笑みを浮かべながら軽やかにキーボードを叩き全ての処理を終わらせる。
これで一件落着。椅子に座り直したホアキンは引き出しから小さな額縁を取り出すとなるべくシワを伸ばして先ほどのチョコレートの包装紙を閉じ込め、デスクの目に入るところにそれを飾る。
「MVPはキミだね。
――
でもサムがくれたしやっぱりサムがMVP? いや、MVHかな?」
ぶつぶつと呟く姿は誰にも見られていない
――
がインカムを繋いだままだったことをホアキンが気付くのはサムが悪戯顔を携えて「MVHのお帰りだ」と言った時だった。
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