ろに
2026-01-31 17:19:50
5113文字
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【ソロジャーナルログ】青い花束と白桔梗の本【良い旅路を】

文章:ソロジャーナル「良い旅路を」のリプレイを元にした、フリーキィ=カナメさんの2次創作文章です。


【プレイログ】

 ふと気が付くと、あたしは見慣れない駅の構内に立っていた。
行き交う人の多さと内装の大まかな配置等から、恐らく都市部の大規模な駅なのだろう。
ただ、それ以外の具体的な情報は分からず、直前に何をしていたのかさえ咄嗟に思い出せない。
こうして情景が切り替わる事自体は何度か経験しているが、今回は見覚えのない場所という事もあり、状況を把握するまでに時間が掛かりそうだ。
「まさか此処が『現世でない』なんて事は無いと思いますけどねぇ」
 口から零れた嫌味は誰に届くこともなく、人々の雑踏に掻き消える。
このまま分からない事ばかりを考えていても仕方がないと、私は改めて自身に関する情報を整理することにした。

 私の名前はフリーキィ=カナメ。機械として淡々と、日々誰かの替わりにタスクをこなしている。
機械である私が、意味もなく日々のルーチンから外れるような事をするとは思えない。名前も知らない駅に居る事も、何かしら理由がある筈だ。

Q.あなたはなぜ、ここにいるのでしょうか。
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3.二度と戻らぬと決めた、この地を離れるために。

 そういえば、ここ暫くの間は日々のタスクと並行して引っ越しの準備を進めていた事を思い出した。
多少の手間を掛けてでも、周辺環境を一新させた方が今後の活動に支障が出ないと判断したからである。
機械である私には、故郷への愛着だとか、そういったものとは生憎縁がない。恐らく私が活動している間は、元居た場所に戻ることはないだろう。
引っ越し先は遠方の都市部。諸々の煩雑な手続きを済ませて、いよいよこれから引っ越し先へと向かう段階まで進んでいたような気がする。
駅を乗り継いでいく途中で意識が途切れ、乗り換え先が分からずに立ち往生していたのだろうか。
だとしても、目を覚ました先が土地勘のない駅の只中というのはどうかと思う訳ですが)
……
今日はえらい静かなものですねぇ。はぁ)
 断片的にしか記憶を持たない「私」は、残りの記憶を持っているであろう存在もう一人に向けてクレームを入れる。
いつもであれば鬱陶しい位に陽気な声で弁明やら何やらが返ってきそうなものなのだが、珍しい事に今回は応答が無いようだ。
私はため息を一つついた後、手荷物を確認することにした。
外出中であれば恐らく財布や携帯電話などの貴重品は持っているだろうが、念には念を入れておいた方が良いだろう。

Q.あなたの手荷物はありますか?
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10.花束がひとつ

 手元を確認しようとすると、花束を一つ抱えている事に気付いた。空色の包装紙でラッピングされた、青いスイートピーの花束のようだ。
此処に来る前、誰かから祝いの品として貰った物だろうか。相手の顔を思い出そうとするが、やはり記憶がはっきりしない。少なくとも身内ではなさそうだ。
今からこの地を離れようという時に間が随分悪い贈り物に思えたが、送った相手を責めても仕方がない。
相手は私が引っ越す事を知らなかったのだろう。引っ越しの件は最低限の人間にしか伝えていなかったはずだ。
「持って行っても萎れてしまったら仕方ないでしょうに
 中身を検め、不審物の類では無い事は確認したものの、この花束はどうしたものだろうか。
立派な花束なので流石にその辺りに捨てておく訳にもいかないが、かといってこのまま抱えて移動するのも億劫だ。
私は花束を持ち直すために待合所を探し、椅子に座ろうとした所で、自分の懐に貴重品以外の何かが入っている事に気付いた。

Q.ポケットや懐を探ってみます。何が入っていましたか?
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3.文庫本

Q.さきほど見つけたものは、主に何色ですか?
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3.青系

Q.さきほど見つけたものには、どんな意匠がありますか?
1d10
9.季節のあしらい

 懐から出てきたのは一冊の文庫本だった。青を基調とした背景に、白の桔梗があしらわれた表紙。
見覚えのない装丁をした本の表紙に書かれた表題と筆者名を確認し、私はその本を開かず懐の中に突っ込んだ。
何が書かれているか、確認するまでもない。内容は、私が小説家としてのタスクをこなす際に嫌というほど目にしている。
本当、仕事熱心なことでございますねぇ」
 引っ越しにかかる費用等を賄うため、必要に迫られ幾つかの追加の原稿を執筆していた記憶を鮮明に思い出す。短編集として十把一絡げに纏められたそれらの文章は書籍として出版される運びとなり、引っ越し間際になって編集者から先ほどの花束と共に献本されたのだったか。
編集者からの祝いの言葉に、私はこみ上げる悪感情を抑えながら、「ありがとうございます」と答えるのがやっとだった。
 自筆の本が商業的な経路で流通する事は、多くの作家にとっては名誉な事なのだろう。
ただ、私にとってはそうではなかった。世間一般がどれほど評価をしようとも、他ならぬ私自身が自身の書いた文章を認められない。
(そもそも、どうして機械あたしが文章を書かねばならないのか)
 これ以上思い出しても時間の無駄だと判断した私は、強引に次の目的地について思考を切り替え、駅の掲示板に書かれた路線図や時刻表に目を向ける。

Q.あなたが乗るのは、どんな路線ですか?
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4.過去遡行ライン線

Q.あなたが向かうホームは何番線ですか?
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6番線

Q.発車時刻
18:40

 電光掲示板に表示されていた文字列を眺めていると、不意に「過去遡行ライン線」という文字列が目に飛び込んできた。
奇妙なことに、それ以外の路線情報に関しては確認しようとしてもノイズが掛けられたかのように読む事が出来ない。この路線に乗れという事だろうか。
直近の発車時刻を確認すると、6番線から18:40発に発車する列車があるようだ。
 現在時刻を確認するためにスマホのボタンを押すが、画面は黒いまま動かない。ちょうど充電が切れてしまっているらしい。
仕方なしに壁時計を確認すると、発車予定時刻までには幾らか時間があるようだ。
スマホをしまうついでに財布の中身を確認すると、そこにはいつも使っている通貨やカード類の代わりに、見慣れない紙幣と硬貨が入っていた。過去遡行ラインというネーミングといい、いよいよ此処が現実とは違う空間なのではないかという疑いが強まっていく。人間が時折見るという明晰夢に近いのかもしれないが、機械には夢を見るという機能は備わっていない筈である。
夢なら早く覚めて欲しいものですけどねぇ」
 仮にこれが夢であるとしたら、現実の『私』は今頃どのような状態なのだろうと考え、私は何度目か分からないため息をつく。「夢を見ている間、その人間は眠っている」というのが一般的な話だというが、それは単一の人格で身体を動かしている場合の話である。一つの身体ハードに複数の人格アカウントが存在している場合、一つが夢を見ていた休止状態だったとしても、他の人格が起きていないとも限らない。未だ浮上する気配のない、私と身体を共有している別の人格に対する懸念は増すばかりであった。

Q.どうしますか?
1d10
7.駅構内を探索してみる。

 このままじっとしていても余計なことを考えるばかりだと判断した私は、とりあえず手に抱えている花束を預けに、駅構内図からコインロッカーらしき設備を探す。
ロッカーに書かれたコイン投入口に先程見つけた硬貨を入れれば、現実と同じように使う事が出来た。私はそこに花束と文庫本を入れ、備え付けの鍵を掛けてその場を離れる。出発間際に取りに戻る必要があるが、散策するなら身軽な方が良いだろう。
この辺りを一周すれば、時間的にも丁度良さそうですね」
 駅構内図のある場所へと戻り、改めて現在地を確認した私は、発車時刻が迫るまでは売店が並ぶ通りを中心に散策を行う事にした。
駅構内や併設されている売店などの造りはレトロとも近未来的とも言い難いような、私にとって見覚えのないものばかりだった。散策の最中、私は比較的人が居ない売店に立ち寄り、車内用の軽食と飲料などを手に取ってレジへ向かう。取り扱っている品物に関しては、普段利用する駅と相違ないようだ。
 幸い立ち寄った売店のレジは機械化されていたため、(例えば会計時にキリの悪い金額を店員に渡して怪訝な顔をされるというような)最適化されていない行動で顰蹙を買う心配もなく、無事に買い物を済ます事が出来た。私は散策を終えた後コインロッカーに戻り、自分の手荷物を預けていた場所のカギを開ける。見ただけで自分にとって嫌な記憶を思い起こさせるそれらはロッカーに放置したまま電車に乗ってしまいたい所だったが、それでは他の利用者に迷惑が掛かってしまう。逡巡したのち、ロッカーから荷物を取り出した私は、周辺に設置されている時計を確認する。
 時計は、18時25分を示していた。そろそろ乗車する列車に向かうべきだと判断した私は、荷物を手に6番線のホームへと向かう。

Q.どんな見た目の列車でしょうか。
1d10
7.設備の整った個室を有する上等な客車

 案内板に従い6番線のホームに到着したところで、丁度これから乗車する列車がホームへと停車する。
見るからに豪華な造りをした、今時珍しい客車のドアから、車掌らしき人物が切符を切るハサミを片手にホームへと降りてきた。
先んじてホームで列車を待っていた先客達は、車掌へ切符らしきものを提示してから乗車している様子だ。
「それでは、切符を拝見致します」
すみません。券売機ってどちらにありますでしょうか」
 先ほど開いた財布の中にも切符らしき物が入っていなかった事を思い出した私は、目の前にやってきた車掌に対し引きつった笑みを浮かべる他無かった。
構内を散策したが構内に券売機らしき物は見当たらなかった気がする。まさか『私』は、切符を持たずにこの駅を訪れていたのだろうか。
とにかく、何処かで見落としていた券売機を探して急いで切符を買いに戻らなければ。そんな事を考えていた私に対し、車掌は「大丈夫ですよ」とゆったりとした様子で答え、言葉を続けた。
「失礼、確認のため少し手を見せていただけますか。今回はどちらまで行かれますか?」
「ええと多分、遠方のほうになると思うのですけれども?」
 車掌に言われるがまま片手を差し出し、具体的な最寄り駅も思い出せずに曖昧な返答をした私は、差し出した掌の上に浮かび上がった切符に目を丸くする。車掌は驚いた様子もなく、現れた切符にハサミを入れ終えるとその切符を返し、「では、良い旅路を」と一礼をして車両の先頭へと去っていった。
良い旅路を、ですか」
 車掌が去った後、私は列車内へと移動しながらこの路線の先について考え、自嘲気味に独り言ちる。
 恐らく仕事上の定型句と思われるその言葉を発した車掌に悪気はない。ただ、機械である私には、その旅路が良い物か否かという事は二の次というだけである。機械は淡々と、目的地に辿り着く事だけを考えるべきだろう。
 乗り込んだ車両には個室があったため、私は中に先客が居ない事を確認して個室へと入る。
『この列車は、まもなく発射します
 席に備え付けられた雰囲気のある机の上に荷物を広げている所で、車内のアナウンスが始まった。途中の停車駅や停車時刻を聴きながら、私は机に置いた青い花束と自筆の文庫本に目をやる。皮肉なことに、それらは至る所に豪勢な装飾が施されたこの車両の背景に馴染んでいるように見えた。
それでは、良い旅路を』
 そうこうしている内に車内アナウンスは終わったようで、次いで大きな揺れを伴い列車が発車する。
慣れない場所での出来事が連続したせいだろうか。荷物を広げ終え、窓辺の席に深く腰掛けると同時に、とてつもない疲労感と眠気が押し寄せてきた。
まあ、暫くする事も無いですし。少し休憩を挟んでも良いでしょう)
 私はそのままゆっくりと瞼を下ろし、意識を手放した。