今回は曾祖父ファルカの残留思念が、アビス汚染により悪霊になります。
曾祖父?となられた方はお手数ですがキャプションにある面影シリーズをお読みください。
闇落ちファルカ地雷の方は読まない方がいいです。
──────
どうやら、俺は死んだらしい。棺には数多くの人が集まっていた。息子も寂しそうな表情をしながらも仕切っており、成長を感じる。
…立派に育ってくれて、本当によかった。
死んでも意識が残っているのは何故だろうか。
…やはり、未練があるせいだろう。せめて、キリルがあの手紙を読んでくれたらよいのだが。
キリルは、いるのだろうか。姿を探すが、見つからない。
もう、俺のことを忘れているのだろうか。そんな考えが過るが、杞憂であった。
「
……あいして、いるんです」
墓にすがり、泣き叫ぶキリルを見て、胸が痛むも心が満たされた。
ああ、俺たちはすれ違っただけだったのだ。
妻や息子に申し訳ない気持ちが浮かぶが、今は、キリルを抱き締めたい。だが、俺は動けない。ただ、見てることしかできない。
『キリル、愛している』
俺の声は届かず、キリルは泣いていた。
──────
地脈に戻ることもなく、俺の意識が残ったままだった。
キリルは俺の命日に墓参りに来てくれる。ライトキーパーとしての役目を終え、今度は俺の子孫を守る、そう宣言していた。あまり触れあえなかった孫の話や、モンドの近況を話してくれる。
キリルが愛おしそうに墓石に触れる。俺の心も温まる。
…この時が永遠に続けばいいのに、そう願ってしまう。
…いや、俺はすでに死んだ身だ。キリルが幸せになるなら、新しい恋をした方がいい。手紙に綴った想いは本心だ。妻や子供がいる最低な俺より、もっと好い人がいるだろう。
痛む心に蓋をして、願いを込める。どうか、キリルの幸せが訪れんことを。
そう、本心だったのだ。
「曾祖父さん、あんたの蒼炎、俺が貰うぞ」
俺によく似た男が、キリルの手を引っ張る。
俺は、動けず、見ることしかできない。
次にキリルが来たとき、俺に似た男も一緒で。
「ファルカさん、手紙、ありがとうございました。僕も、愛していました」
キリルが、幸せそうな笑顔で、愛していた、と。隣には、俺によく似た男が、いて。
確かに、キリルの幸せを願っていた。本心だ。
でも、よりによって、相手は俺の子孫で、俺によく似ていて。
待ってくれ、そう叫んだが声は届かず、キリルと男は手を繋いで去っていた。
キリルは、幸せそうだった。だから、俺の未練は、なくなって。もう、地脈に戻るべき、で。
『愛していました』
なんで、なんで、隣にいるのが、俺じゃないんだ。
『曾祖父さん、あんたの蒼炎、俺が貰うぞ』
俺に似てるなら、俺でも、いいじゃないか。
「
………ふむ、残留思念だが、アビスによる干渉を起こせば戦力になるだろう。
…このままでもいいのか? 愛する者が奪われてしまうぞ」
誰かが俺に話しかけてくる。
キリルが、奪われる。でも、俺には何もできないのだ。
「簡単な方法がある。あの男に成り代わればいい。そうすれば、愛する者と一緒にいられるぞ」
キリルと、一緒に、いられる。
………ああ、そうか。
キリルはあの男が俺だと思い込んでいるのか。
俺が戻らないと、キリルは幸せにはなれない。
なら、するべきことは、決まっている。
────────
───おまえさえ、いなければ。
俺と同じ顔をした男に首を閉められる。
抵抗しようにも、身体が動かない。息ができない。
意識が薄れ、力が抜けていく。
そこで目が覚めた。
「
………ゆめ、か?」
手の感触も、息苦しさも、全てリアルだった。
だが、俺は生きている。本当に、夢、だったのだろうか。
「
………ファルキ、どうしましたか?」
キリュシャが掠れた声で呼び掛けられる。起こしてしまったか。また、声を枯らしてしまった。
…流石にがっつき過ぎかもしれない。
「
…ちょっと、変な夢を見ただけだ」
キリュシャに抱き付くと、頭を撫でてくれた。
「怖い夢でしたか?」
「
…キリュシャに甘えていれば怖くない」
「ファルキは本当に可愛いですね」
くすくすと笑うキリュシャに、抗議の意味を込めてキスをする。
何時もなら子供扱いするなと身体に教えているのだが、素直に甘える。
…嫌な予感がするのだ。もし、夢じゃなければ、あれは
…。
「
…渡さない、からな」
「何をですか?」
「
………なんでもない」
今はただ、キリュシャと抱き合いたい。離したく、ない。
杞憂であれば、いい。キリュシャの熱を感じながら、祈った。
───────
嫌な予感ほど当たるのは何故だろうか。
「風龍廃墟に、アビス汚染が?」
「千風の神殿でアビス汚染があっただろ。関連性は調査中だ。念のため同行してくれないか?」
「もちろんです」
キリュシャの了承も得て、風龍廃墟に向かう準備をする。
…できれば、連れていきたくない気持ちも、ある。
だが、待機を命じれば、無理やりついて来そうだ。それなら、モンドに魔物が向かわぬよう、防衛ラインで対象して貰った方がいい。
出発直前に、キリュシャに呼び止められる。
「どうかしたか?」
「ファルキ。無事に、帰ってきてください、ね」
キリュシャの不安な姿に、心配されていることに愛しさを感じる。抱き締めたいが、外なので諦める。
「ああ、必ず」
俺の顔を見て少しは安心したのだろうか。キリュシャは持ち場に戻っていった。
風龍廃墟に向かうと、アビス汚染の影響か魔物が活性化していた。防衛ラインでキリュシャの部隊と離れる。
アビス汚染が報告された場所に向かう。霧が濃くなり、視界が悪い。離れすぎないように指示を送る。
…やけに霧が濃すぎないか?
隣にいる騎士の姿も確認できないくらい、濃い。
「
………なっ!!」
腕を、掴まれる。振り向くと、俺がいた。
瞳の色は、サファイアを彷彿とさせる、青で。
振りほどくことのできないまま、地面に引きずりこまれる。
霧が晴れると、ファルカ大団長は姿を消していた。
──────
距離を取らなければ。相手に蹴りを入れ、腕の拘束を無理やりとく。大剣を構え、相手を見据える。
「曾祖父さん、あんた、堕ちたのか」
「
………………おまえさえ、いなければ」
顔だけでなく声まで似てたのか。確かにこれは生き写しだ。
曾祖父さんも大剣と長剣を構える。
相手は伝説に残る大団長。でも、俺は負けるわけにいかない。キリュシャが俺を待っているのだ。
俺は地を蹴り、大剣を一文字に振るう。
曾祖父さんはそれを己の大剣で受け、流れるような動作で逸らした。
曾祖父さんは長剣を振るい、追撃をしてきた。
追撃を許せば終わる。俺は大剣を盾に死に物狂いで踏み込み、空いた拳をその顎へ叩きつけた。だが、手応えはない。 曾祖父さんは首を僅かに傾け、俺の拳を紙一重でかわしていた。
背筋に、殺気が走る。咄嗟に距離を取るが、それよりも曾祖父さんの長剣の方が速かった。腹部を、曾祖父さんの長剣が裂いた。
…やはり、強い。流れる血は気にせず、大剣を構える。
曾祖父さんは頭を抱えながら、アビスを撒き散らしていた。
「
………おまえさえいなければ。おまえさえいなければ! おまえさえいなければ!!」
「おいおい、フラれた腹いせかよ」
「キリルと俺は愛し合っている!!」
「男の嫉妬は見苦しいぞ。
…俺も人のことは言えんが」
顔立ちが似ているせいで、曾祖父さんと同じ道を歩むのかと期待され、弄られた。好きな人からは面影を重ねられ、どれだけ嫉妬したか。俺のことを好きになって貰うのにどれだけ苦労したか。恨みたくもなる。
でも、それでも。
「キリュシャと会えたのは曾祖父さんのお陰だからな、感謝している」
挑発にはのってくれたようだ。アビスの瘴気がさらに濃くなる。
真向勝負で勝てる相手ではない。なら、冷静さをかいて貰った方が、勝算がある。
怒り狂った曾祖父さんが、暴風のような重い一撃を叩き込んでくる。片手で、この威力なのか
…冗談じゃない。
なんとか大剣で流し、長剣の攻撃をかわす。避けるので精一杯だ。
「おまえさえいなければ、俺が隣にいれたのに!!」
「モンドを選んだのは曾祖父さんだろ!」
「お前もあの時なら同じ選択をしたはずだ! キリルがライトキーパーの使命を終えていたら、一緒にモンドに来てくれたはずだ!!」
さっきから黙って聞いていれば、好き勝手に言いやがって!
キリュシャがライトキーパーの使命を終えたら、なんて。
「俺はな、曾祖父さんと同じ事が起こっても、キリュシャの側を選ぶ!!」
「!!!」
「キリュシャの側にいれないなら、騎士の身分を捨てる!」
俺の叫んだ言葉に、曾祖父さんの動きが止まった。
大剣で曾祖父さんを切りつける。鈍い音が響いた。
曾祖父さんは、膝をついている。殺気は、ない。
「おまえは
………なんで、大団長に、なった
……?」
「好きになった人が、“貴方は勇敢な騎士ですよ”と言ってくれた。だから、大団長を目指した」
本当にただ、それだけだ。
…初恋を拗らせ過ぎている自覚は、ある。
「
………おまえは、大団長に、向いてない」
「だろうな」
「でも、おまえなら、キリルを、まかせられる」
曾祖父さんは、憑き物が落ちたような、表情をしていた。
「キリルを、幸せに、してくれ」
「言われなくても」
道が開かれる。早くここから出なければ。
「
…キリュシャに、伝えたいことは、あるか?」
そう言うと、曾祖父さんは首を振る。
「
………手紙、渡してくれたんだろ。なら、いいんだ。ありがとうな」
曾祖父さんを残し、道を進んでいく。
早く、キリュシャに、会いたい。
────────
顔立ちは、確かに似ている。だけど、中身は全然似ていなかった。
…勝てるわけが、ない。
青い。大団長に向いていない。でも、その青さが、眩しい。
俺はただ、フラれただけだった。
「キリル
………」
あいつなら、キリルを決して手放さない。幸せに、してくれる。
………もう、未練は、ない。
身体も意識も、溶けてなくなった。
────────
道の先は暗闇だった。
…何も見えない。
それでも俺は進む。キリュシャに、会いたい。
遠くに蒼い灯が照らされていた。
『ファルキ、こっちです!』
キリュシャが、道を照らしてくれている。灯を目指して走る。
綺麗な、蒼炎だ。こんな状況でなければ、見惚れていた。
蒼炎に触れると、視界が反転し、青空が広がっていた。
「ファルキ!!」
キリュシャが、抱き付いてくる。
ああ、生きて、帰ってこれたのだ。
「キリュシャ、会いたかった」
震えるキリュシャの身体を抱き締める。離れないように。
───────
キリュシャが落ち着き、状況を確認する。
俺が消えて、部隊は混乱したが、キリュシャが代わりに取り纏めを行い、アビス汚染は封じた後だった。
…曾祖父さんのことは、話さないでおくことにした。曾祖父さんからの伝言はなかったし、僅かな間でもアビスに堕ちたことをキリュシャに知られたくないだろうから。
キリュシャからの手当てを受けながら、話しかけられる
「
………ファルキ、お願いがあります」
キリュシャが、俺を抱き締める。頭を撫でていると、言葉を続けた。
「ファルキが死ぬときは、僕もお供させてください」
もう、独り墓の前で、泣きたくない。そう言った。
それは、つまり、
「一緒に、死んでくれる、のか?」
「
………嫌では、ないのですか?」
「嬉しいに決まってる!」
天にも昇りたくなる気持ちだ。
死んでもキリュシャが一緒なんだ。何も恐れることはない。
…俺が独り死んだら、曾祖父さんにキリュシャを奪われそうだし。
ぽかんとしているキリュシャにキスをする。
「キリュシャ、騎士団の引き継ぎが終わったら、冒険者にならないか?」
ずっと考えていた。キリュシャをモンドに縛り付けているのではないかと。
あと、曾祖父さんが言った通り、俺は大団長に向いていない。正直、大団長に就任できたのも、実力もあるが、名前と家系によるものも大きい。
後任については目星がついてる。少し時間はかかるが、なんとかなるだろう。
「一緒に世界を見て回ろう」
そういうと、キリュシャは嬉しそうに笑った。
「
…悪くないですね」
手を取り合う。一緒に、隣を歩きたい。それだけなんだ。
帰ったら忙しくなる。でも、未来を想うとやる気が出る。
あと、キリュシャにたくさん甘やかして貰おう。また甘えたい気分だ。
…それと、曾祖父さんの好きな蒲公英酒を供えておくか。
空を見上げる。曾祖父さんと同じ瞳の色。
「ファルキ、どうかしましたか?」
「
…なんでもない」
どうか、安らかに眠ってくれ。願いは空に溶けて消えた。
続き
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